【ショート・ショート】笑えない冗談
大きいけど地味な魚が2匹、水槽の端に並んでいる。
人気のない水族館の中に、タツキの声が響いた。
「これ2匹ともオスなんだって。付き合ってんのかな?」
いかにも面白いことを言ったといわんばかりに、タツキはメグの顔を見て破顔した。
タツキは相も変わらずニヤニヤ笑いながら、水槽の壁を指でつつく。隅で黙ったままの2匹は、その指を追うこともせず、ただじっとしていた。
「夜行性の魚なのかも? それなら、夜の街でくっついたんだ。メグ、そういうの好きでしょ」
タツキは赤いインナーカラーを入れた髪を、指でくるくるとねじる。
ずっと考えていたことを、メグは今こそいうべきだと直感する。
「ねぇタツキ。タツキって、男の子になりたいの?」
「……は?」
ぽかん、とした表情の彼女……タツキに、メグは続けざまに言い放つ。
「ずっと思ってたんだけどさ。タツキってよく、そういう言い方するよね。笑えない冗談って感じのさ。
男子ってこういうのが好きなんだってー、とか。男同士の恋愛ってさー、みたいな。
女って損で楽な生き物だよね、とか。
色は赤がいいって言うし、服はシックでかっこいいの選ぶし、あたしの隣で歩くときは絶対絶対、車道側だし」
魚が泳いでいる水槽の前。メグは一息に言い切ったせいで、フレーク状の餌の臭いを強く吸い込んでしまう。
彼女は口に出した言葉に興奮したのか、顔がどんどん赤くなる。
「……それこそ笑えない冗談だよ。あたし、女の子のままがいいんだもん」
顔を伏せてタツキは笑った。メグはただそれを見ているだけで、急にふと気が付いてしまった。
たとえば。
タツキは私を好きで、女の子だから好きで、自分も女の子だから恋愛をしたいんだったらどうだろう。
ただ単に、発言も、好みも、タツキの『好き』でしかなかったら?
メグの言い放った言葉は、まっすぐにメグに突撃してくる。
冗談なんて、笑って済ませられることじゃないと思った。