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さよならの傷跡

絶対嘘だと思った。そんな表情は微塵も見せなかった。私には関係ない事だと思ったからだ。それ以上に自分が傷付いていることを認めたく無かった。全てが終わる音が耳元に響いた。「さようなら」とそっと心の中で呟いた。

ある晴れた日、確か初夏だったと思う。数日前に届いた「今度取引先のパーティーに行きませんか?」というメール。いつもならスルーする内容なのに、興味がそそられた私はその場で「ぜひ、私も連れて行ってください」と返信した。そのメールを送ったのが彼だった。

パーティーへ向かう電車では、彼となにを話したか覚えていない。恐らく、最近読んだ本とか、彼の上司の話など他愛もないものだった気がする。

その瞬間、私の世界の中心がグラッと変わった。

少しでも私の存在を気に掛けてほしい。
心拍数が上がる。
姿を見つけるたび、体温が上がる。

絶対嘘だ。新宿から渋谷まで歩いて帰るなんて嘘だと分かっている。でも、私には問いただす資格なんて無いのだ。えぐれた心がじわりじわりと熱を持って痛み出す。どうせなら張り裂けそうな心が張り裂けて消えてしまえばいいんだ。この想いを言葉に置き換えたら、全てが壊れてしまうことなど分かっていた。

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