自然への敬意あふれる木造建築のプロフェッショナル➖➖澤野眞一
木の家だいすきの会のメンバーの、人となりを紹介していくこの企画。第10弾は、澤野建築研究所代表の澤野眞一さん。東京都狛江市に事務所を構え、まちづくりにも参画する澤野さんは、木に精通したプロフェッショナル。知られていない木の魅力について、たくさん伺いました。
耐火にも調湿にも…木材の知られざる魅力
――澤野建築研究所は、「ずっと住みたい木の家」をミッションに掲げていますが、木の家はどのような魅力があるのでしょうか?
澤野 まず、建築素材としての木は、非常に性能が良いんです。たとえば、太い木は、鉄より燃えづらいんですよ。
――鉄よりですか!? それは意外です!
澤野 鉄やアルミは850℃以下で強度がなくなってしまうのですが、木は燃えると表面が炭化され木の表面をコーティングするかたちになり、消化につながる仕組みがあります。だから、火事があっても太い木を使った古民家では梁や柱の骨組みは残っていたりします。
――そんな耐火性能の高い素材ならば、もっと現代でも広まってもいいですよね。
澤野 近年まで、防火地域において一定の大きさ以上の木造建築をつくることはできませんでした。耐火の観点から法律で規制されていたんです。ただ、阪神大震災後、木の耐火性能が数々の実験によって確認されるようになり、また構造強度にまつわるエビデンスも確立されてきました。今では所定の条件をクリアすれば木造で高層ビルも建てられるようになりました。これからはより木の性能も見直され、木の家やビルが増えていくと思いますよ。
――耐火以外で、素材としての木の強みは何でしょうか?
澤野 木が空気と上手に触れるようなつくりであれば、湿度のコントロールもしてくれますね。また、熱の伝わり方が比較的遅いので、温度の調節もしてくれます。居心地の良い空間を創ってくれる素材ですね。
木材の課題と建築家ができること
――木はすべてにおいて素晴らしい性能を持っているんですね……。
澤野 ただ、課題もあります。たとえば、木材の値段が高いということ。これは、木自体の価格というよりは、流通の仕組みに由来します。木材が山から大工さんのところに届くまで、さまざまな方々が関わっているため、それぞれでコストがかかってしまうのです。澤野建築研究所では、直接木材を入手できるルートを確保して、そうした経費の削減に努めています。
――流通ルートを把握しておくと、産地もわかって安心ですね!
澤野 はい。ただ木の家をつくるのではなく、産地や乾燥方法、強度までしっかり理解した上で、木を使うようにしています。
――乾燥という観点ではどのようなポイントがあるんですか?
澤野 乾燥のやり方によって、木の性能は大きく変わるんです。通常の高温乾燥では、だいたい120℃で24時間乾燥します。高温乾燥は表面の見た目はきれいなのですが、急激な乾燥により内部が割れることがあるのです。また、木の持つ油成分がなくなり良い香りも減ってしまいます。そのため、私たちは構造材では高温乾燥のものは使わないようにしています。
――まさに木の家づくりのプロフェッショナルですね。もともと木材に取り組んでいたんですか?
澤野 いえ、独立前の設計事務所ではほとんど木の家づくりは行っていませんでした。ただ、独立してから自然と和する建築を志向するようになり、自ずと木や自然素材に着目するようになりました。
――木の家だいすきの会に参加したのもそんな経緯からですか?
澤野 はい、ただ木造建築だけをつくるのではなく、森の環境まで見据えた家づくりを掲げた点に共感して、自分から手を挙げて参加させてもらいました。
自然環境とライフスタイルをかけ合わせる
――澤野さんの建築において、心がけていることはなんでしょうか。
澤野 土地の環境を読み取って活かすこと。地形はもちろん、光や風の入り方なども含まれます。その上で、住まわれる方々のライフスタイルや将来に配慮しながら家づくりを行っています。その結果、つくる家は千差万別、それぞれが個性ある空間になっていると自負しています。ただ、共通して目指しているのはシンプルで合理的、機能的で強く美しい住まいです。
――お話を聞いていると、住宅は自由だ、と改めて思います。
澤野 間取りや面積などさまざまな数字にとらわれすぎず、ご自身の趣味嗜好をどう表現できるかという点が大事ですし、そのために結構プライベートな質問もさせていただきます(笑)。でも、その結果深い信頼関係を築け、チームとして家づくりを行っていけるんです。
――いまでは事務所のある狛江市のまちづくりにも関わっていると聞きました。
澤野 はい、狛江市のまちづくり委員として、都市計画法の策定や民家保存などの活動を行っています。
――環境や暮らしを深く捉え表現する澤野さんだからこそできる、まちづくりのかたちがありそうですね。ありがとうございました!
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