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ブータン旅行記 第1章 ここはどこだ

ブータンに着いてまず思ったのは、意外と普通だ、ということ。
山に囲まれた緑の大地は、日本の田舎を彷彿とさせる。
青い空、緑の田んぼ、豊かな水の流れる川、それらはとても肌に馴染んで、外国にいるという気がまるでしない。
田んぼの中にぽつぽつと見えるブータン様式の建物と道行く人々の服装で、かろうじてブータンだとわかる程である。
人々の顔はやはり日本人に似ていた。
実際、予想以上に似ている。
旅の間、私は日本での友人知人に似た顔のブータン人を山ほど見た。
初めて来た国なのにほとんど違和感がなかった。
そんなことは初めてで、不思議な感じがした。

空港に着いた時は雨がぱらついていたが、徐々に止んできた。
車はブータンの首都、ティンプーに向かっている。
国内を東西に横断する舗装道路を東へ走り、1時間強の行程だ。
やがて道の左手に、茶色く濁った川と橋が見えてきた。
車を降りて橋のそばまで行ってみる。
雨季だからなのか川はものすごい急流だ。
橋は極太の針金を無数に編み合わせただけのような、なんとも心もとない造り。
びびりな私がすっかり怖じ気づいていると、サンゲが
「ダイジョブデス。ワタシが手を引きますカラ。」と
仏のような笑顔で言った。

そのときの感じは私にとって初めてのもので、少し驚いた。
優しい…のだけれど、でも、私が知っている優しさの種類とは何か違う気がする。
優しさの出所が、もっと上の次元の方というか、神様的というか。うまく説明できないのだけれど、これがブータン人か、と私はひそかに衝撃を受けた。
素直にサンゲに手を引かれておそるおそる渡ってみた。
この橋は、その昔チベットからきた僧侶が、夢で神様からのお告げを受けて造ったものらしい。
さっそくチベット仏教的なエピソードが出てきたぞ、とワクワクする。
チベット仏教のお話には夢と現の境目がない。
この世もあの世も、前世も今世も来世も。
全てが同時にここに存在している。
その世界観に私は強く惹かれた。

こともなげに橋を渡るサンゲと、膝をカクカクさせながら彼を撮る私。



さらに車を走らせると、2つの川が合流している地点に出た。
東から流れるのはティンプー川、西からはパロ川。
日本で、窪んだ地形の場所には悪い気が溜まると言われているように、この国でも、2つの川が流れ込んでいる地点は他よりも一段低い位置にあるため、悪魔がいると考えられているそうだ。
合流地点には3つの仏塔(チョルテン)と共に、悪魔払いのための小さなお社が建っている。
仏塔は左から、ネパール式、チベット式、そしてブータン式の造りになっており、それぞれの神様を祀っている。
ブータンの国教はチベット仏教であるが、その中にもいろいろな流派があり、お寺や仏塔の造りも流派によって違っている。
ざっくりいうと、ブータン式は四角い形で、ネパール式は丸みを帯びた形で目が描いてある。
そしてチベット式は三角にとんがった感じだ。

左から、ネパール式、チベット式、ブータン式、らしい。


特徴がわかってくると、お寺に行くたびに、ここはネパール式なんだな、とかわかるので面白い。
川のほとりにあるゴージャスなブータン様式のゲートを通りぬけてしばらく走ると、大きな建物がぽつぽつと見え始めた。
ブータンの首都、ティンプーだ。


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