運と実力の椎名唯華、にじさんじ麻雀杯2025
印象深い2022年以来の決勝トーナメント進出、そして優勝。今年の麻雀杯の軌跡は運と実力を兼ね備える雀士としてこの上ない物語だった。
練習配信
予選当日に練習という行き当りばったりさを発揮しつつ始まった配信では「思い出しつつやろうかな」「裏でも全くしてないんだよね」とブランクに言及。ただ実際に打ってみると迷うのは押し引きのような大局的部分が主で、歌衣メイカに教わった筋もちゃんと活かしている。
何よりもメンツの理解が圧倒的に速くなっており、コメントの時間切れ危惧は全くの杞憂に終わったほどだった。例えば59:02の2333m、2メンツで扱うと最終的にトイツ過多になるのを見越しての2m切りも時間内に結論を出していた。また1:01:15〜の5pポンを見て246pのリャンカンを崩し、3鳴きを見て完全にオリる選択、と状況判断も機敏であった。
昨年の配信から衰えないどころか、更に一段の高みへ到っているのではないか。そんな予感を漂わせながら練習配信は幕を閉じる。
予選
(喋りもさることながらマウスカーソルがメンツの把握や捨てたい牌など雄弁に語っているので本人視点を是非見て頂きたい。)
さて予選R卓、ここで注目された打牌は東3局0本場、親・東堂コハクのリーチに対する1sビタ止めか。ただここまで見ていれば、椎名唯華が根拠の無い牌でオリるような打ち手でないことは明らかだ。元々生牌警戒の意識も高く、端だろうがこの1sはなかなか出なかっただろう。
それよりも個人的に注目したいのはオーラスだ。まず0本場、上家・轟京子の打5mリーチに筋の8mで迷わず回していく。更に2mも押してラスズモ手前で聴牌するも、海底は5mの裏筋かつ跨ぎ筋の6m。この超危険牌は切れないと即断してオリ終了とした。驚くまでの淀み無い押し引きである。
そして1本場、123455m246p22sとあり椎名唯華は5m捨てのリャンカン受けを選択する。「ミスったかな〜」と言っており、ポンテンを見たいコメントもあったようだが、まずポンテンの受け入れ3枚を4人で引くよりリャンカンの8枚を2人で引く方が強く、また最終形でもリャンカンに入ると45mで待つ好形になる優れた択だったように思われる。(私もこの領域になると齧った程度で自信が無いが…)椎名唯華が迷う選択とはもうそのレベルに達している! 愛園愛美の劇的な海底撈月に逆転を被ったものの、何の因果かスケジュール都合により繰り上げ進出となった。
準々決勝
寝起きと言っていた通り結果としてここが一番コンディションに難ありだったのかもしれない。しかしオーラスの鳴きミスが一発消しになるだけではなく、次のチー、そしてツモをも引き起こしたのは数奇な偶然だった。獅子堂あかりに次いで2位通過となる。
準決勝
親ッパネ2連続という鮮烈なスタートを切った準決勝。特に1度目はドラドラ程度しか手に無く、獅子堂あかりのリーチに対して退く場面にも見えたが、ノーヒント過ぎるためか押して行き追っ掛けリーチからの海底撈月となった。実は獅子堂の8mカンが裏ドラモロ乗りとなっており、ここがある種の分水嶺であったかもしれない。(天開司、多井隆晴といった観戦のファン? は海底でのツモを確信していたのが面白い。)
その後は試合の畳み方が分からないと言い、また攻める宣言など2022年決勝を思い出す流れで逆転も危惧された。これは運がアグロ型というオカルト過ぎる話の他、エンタメ精神が顔を出してしまう部分もありそうに思われる。しかし最終的にジョー・力一の段位戦で染み付いた自動和了が渋谷ハジメを飛ばして2位確してしまい、椎名唯華は決勝進出となった。(なお昨年の花鳥風月戦で椎名も同じミスをしている。)
決勝
繰り上げ、奇跡のチー、親ッパネ×2から力一の事故といった天佑神助も受けたような形で登って来た椎名唯華。しかし決勝こそは正に、テクニックによって勝ち切った戦いと誇って良いのではないだろうか。
相手は口プのグウェル・オス・ガール、鳴きのオ ジユ、因縁のでびでび・でびる。まず綺麗な三面張で8000点をツモり、「挨拶かな」「こんにちは〜」とこれまた2022年の通しを思い出すようなやり取り。
「攻めろっ!(ベタオリ)」「(でびるの九種九牌に)本気すぎー!」など軽口を入れつつ固く打つ一方、オーラスでは頭無しでも鳴いて行き試合を畳みに掛かった。ここではグウェルの速度に負けるが、椎名唯華の打ち筋は揺るがない。
2着グウェルに対し4000点リードで迎えた第2試合の東1局、ジユのリーチに対して無筋の9s3sを勝負して三面張で聴牌。これをツモりこの試合でもリードを得る。しかしグウェルが猛追して一時は10200点差に離されるものの、デスゲームの主人公などやりつつ東4局流れ3本場供託1本で満貫8000点を和了し+9900点、僅か300点差でグウェルを追う。一方放銃したジユは900点に凹み、グウェル・椎名どちらもジユを飛ばせば優勝という状況になる。
南1局0本場、椎名唯華は迷いながらも67pの両面から8pを鳴きに動く。これで手は二向聴、まだ頭は無い状態。第1試合のオーラスを思い出す前のめりの仕掛けだが、更にチーして89m34p678sから8mの縦引きに成功して聴牌、ジユの5pを討ち取って優勝となった。
結び
決勝では特に押し引きの判断が鋭く、攻めるべきを攻め守るべきを守るという基本にして極意を体現するような麻雀だったと思う。いや、最早私の技量では量れない領域にいるのはほぼ確実だ。余裕が出来たためか点差の考慮もまったく問題が無くなっている。
豪運と言われ運ゲーを好みもする(ポケポケではコイントス系を愛用した)椎名唯華だが、腰を据えてやるとなると堅実派でカンも好まず、予選では九蓮宝燈を知らない側面さえ見せた。派手さではなく最終的な勝利を目指し、極めて効率に忠実で一貫した打ち筋は去年から更に磨き上がっている。
雀豪に上がるまで打ちまくり、歌衣メイカに教えも受けていた研鑽の日々をあるいは努力と呼ぶのかもしれない。ただ椎名唯華は感想で述べた通りそれを楽しんでいた。楽しんで上達し、こうして結果を得るならば、それ以上に幸福なことなど無いだろう。成功体験として、物語として心の中に永遠に刻まれるはずだ。ファンとしてもまた、これほど嬉しいことはない。