フリーランスとして仕事をするなら気をつけたい価格交渉のお話
最初に
先日とあるポストが流れてきてそれを引用したらたまたまバズってしまい、その盛り上がりの中でちらっと見た話でこれは絶対トラブル起きるなと思ったのでちょっとだけ書きます。
別に法学者でもなければ弁護士でも裁判官でもないただの大学で法学部だっただけの人間の記事なので、間違い等もあると思いますので参考程度にしておいてください。
これは本当に今の絵師の人達が悪いんじゃなくて、これまで見積もり相談して値段提示無しだから金額提示したらそのまま失礼なやつ!って感じでブロックしてIDごとDM晒すみたいなヤバが「気軽に相談」の信頼を削ってきた結果なのやるせないと思う https://t.co/fZ4PFNIEIg
— キノ (@kino0551) February 7, 2025
↑例のちょっとバズったポスト
どういうポストが目についたの?
価格表を出してしまうと、自分で想定していたより好条件(=高額、知名度向上につながる)での依頼が来なくなってしまう。
というニュアンスのもの。
言わんとしている事はわかるのですが、実はちょっと危うい部分があるので、どういう面で危ういかを以下に記載します。
発生しうる法律上のトラブルの例
公序良俗違反とされる場合
公序良俗違反の中には暴利行為というものが含まれています。
暴利行為の定義は、「他人の無思慮窮迫に乗じて不当の利を博すること」とされており、よりわかりやすく言えば「その契約について正しい判断ができない状況を利用して本来より異常に高く利益を得ること」ぐらいのニュアンスになります。
過去の判例からすると、個別の事情を考慮すると前後しますが、買う側であれば正当な価格の3割程度で買い叩く場合や、売る側であれば、正当な価格の5倍で売りつけた場合などで訴えが認められています。
この場合、訴えが認められると契約そのものが無効とされます。
信義則違反とされる場合
信義則と言われるとなんだと思われるかもしれませんが、実は民法の根幹にあるもので、1条2項という最序盤に登場する「信義誠実の原則」のことです。
条文上では「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」となっていてわかりにくいですが、例えば、コンビニでレジ打ちをしていて、お客さんが商品を持ってくるたびに「もしかしたらこいつ商品を抱えて走り出すかもしれない」なんて疑っていたら商取引なんてまともに行えません。それでは良くないですから、お互いの信頼を裏切るようなことはするなよという意図のものです。
条文自体はこれで終わりなのですが、基本原則だけあってこの短い文章だけでたくさんの条文には明記されていない義務が生じています。
その中の1つに「説明義務・情報提供義務」があります。
例えば、最高裁判決の中には、以下のように記載されているものもあります。
契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反し て,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提 供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことによ り被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがある(以下略)
ですので、相場について無知な依頼者が相場から非常にかけ離れた高額な金額でもって依頼してきたときに、それが相場から非常にかけ離れたものであると説明があるかないかでその契約を締結するか否かの判断に影響は当然ありますから、気をつけなければなりません。
同様に、相手が無知だからと存在しない工数をでっち上げたり、不当に高く見積もって値段をふっかけるのも危険ですので気をつけましょう。
受けたくない依頼だったとしてもそこで高くふっかけるのではなく、事情を述べて断るのが望ましいです。
最後に
もともとのお話も契約前のやり取りが晒されて炎上するのが怖い、無理な値切りをされるのが嫌なども、結局のところはお互いに信頼してやり取りできない土壌ができてしまったことが要因のひとつです。
特にネットで活動するクリエイターに関しては、絵に限らず一般の個人事業主と異なり趣味の延長の感覚でやっている方も多いという背景もあるわけですが、それでもなお、お互いに信義則に則ったやりとりができる世界になるといいなと思います。
正直民法は学生当時も苦手だったんですが、今回も久々にあちこち調べ回って疲れました。多分これでもトラブルの例は全然網羅できてないと思うので、実際にトラブルが起きたとき上記以外の流れになっても何も保証はできません。
以上、ちょっとした記事でした。
余談
暴利行為について、流石に限定しすぎで改正に積極的な派閥からも柔軟性がなくなると廃案になりましたが、改正案のときには、「相手方の困窮、経験の不足、知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して、著しく過大な利益を得、又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は、無効とするものとする。」という案が出された話もあります。一例でしかない事案を条文に明記するのはよくないというよくあるやつですが、逆を言えばこれは暴利行為の代表例であるとも考えられます。
ちなみに、説明義務に関しては金融商品取引法などでは信義則とは別にちゃんと説明義務が明文化されていたりします。
法律って面白。