なぜ最近「麻雀の本」が多数出版されているのか
【毎コミ一強時代】
私が大学生だった頃、麻雀戦術書は数冊しか出ていなかった。
私は金子正輝プロの「最強プロが教える常勝の麻雀」しか知らず、何回も読み返した記憶がある。
野球サークルの先輩からは、小島武夫プロの「絶対負けない麻雀 読むだけで強くなる驚異の麻雀戦術」を貸してもらったが、個人的には金子さんの本の方が好きだった。
この2冊は日本文芸社が出していたのだが、この出版社は麻雀と非常に縁が深い。
小島さんが福岡から東京に出てきて働いていた神田の雀荘「アイウエオ」は、日本文芸社の社長が経営するお店だった。
竹書房が「麻雀最高位戦」を手放し、選手たちの自主運営になった際、スポンサーになったのも日本文芸社だった。
だから、竹書房すら麻雀の本を出さなかった「麻雀戦術書氷河期」とも言える1990年代に、日本文芸社だけが麻雀本を2冊も出していたというのも不思議ではない。
大学を4年で中退し、日本プロ麻雀連盟に入った後に安藤満プロの「安藤満の麻雀亜空間でポン」(白夜書房)を買った。正確に言うと、連盟の研修の際に買わされた。
大学時代は、教授の書いた本を強制的に買わされていたので抵抗はなかった。教授の本は5,000円以上したが、安藤さんの本は1,000円ぐらいだった。
アガリに向かわない鳴きを駆使する戦術「亜空間殺法」の本なのだが、ちゃんと基本的なことも書いてあったし、西原理恵子さんの漫画が面白かった。
次に読んだのは、天野晴夫氏の「リーチ麻雀論改革派」だった。
これは、バイトしていた上石神井のピザ屋の社長がくれた。
私が麻雀のプロとかいう、わけわからんものをやっていると聞いて「高校の同級生が本を出したから」と言ってプレゼントしてくださった。
内容はプロ雀士やその戦術をこき下ろすようなもので、社長につっこみそうになったが、失礼だと思ってやめた。
別にプロ雀士のことを悪く書かなくても良いのに、と思うぐらい内容は良かった。
私が麻雀の修業時代に読んだのは以上の4冊だけである。というか、世の中にあまり麻雀の本がなかったのだ。
その後は「麻雀企画集団バビロン」の一員として、麻雀の本を作る側になった。
と言っても「麻雀なんでも百科」とか「バカヅキタイフーン」(いずれも竹書房)など、いわゆるバラエティ本や麻雀入門書ばかりで、戦術書は出せなかった。
2002年ごろから「毎日コミュニケーションズ」という出版社とお付き合いができて、定期的に戦術書が出せるようになった。今は社名が「マイナビ出版」と変わったが、ずっとお付き合いを続けていただいている。
荒正義プロの「プロの条件」、森山茂和プロの「君も勝ち組になれる」、長村大プロの「真・デジタル」など、毎年1冊か2冊のペースで本を出してもらうことができた。
なぜこの当時、毎日コミュニケーションズだけが麻雀本を出してくれたか。それには理由がいくつかあった。
最も大きな理由は、将棋の戦術書を恒常的に発行している編集部があり、その部長さんが麻雀好きであったことだ。
だいたいにおいて、社内で「麻雀本を作ろう」というのは、麻雀好きの社員がいるからで、そうでなければ麻雀本など永遠に出版されない。それぐらい儲からなさそうなジャンルなのである。
もう一つは、安価で請け負う麻雀専門の編集プロダクションがあったからだ。弊社(株式会社バビロン)と、土井泰昭プロのエルマガジンが飯田橋にあった。つまり馬場さんと土井さんが「飯田橋安請け合い合戦」をしたから成立していたのである。
今もお付き合いがある会社なので詳細は伏せるが、ただ原稿を書くだけでなく、表紙カバー以外のすべてのデザインをして原稿を流し込み、牌は牌フォントに変換し、立体牌図や牌譜があればそれらも作成し、印刷所にデータを送ればOKという、いわゆる「完パケ」状態で納品しても100万円いかないという、他社では真似のできない安さだった。
バビロンも、デザインを外注する余裕などなかったので、まだまだ性能の低いMac(それでも40万円以上した)でクオークやインデザインを動かし、しょっちゅうフリーズさせながら、何とか悪戦苦闘して本を作っていた。
部数は少なくても低コストだから、低リスクで本が出せる。
その作戦で徐々に多くの本が出せるようになり、中には1万部を超える本もあった。佐々木寿人プロ、滝沢和典プロ、渋川難波プロ、ASAPINさん(朝倉康心プロ)らの本はだいたい売れた。
【カネポン時代】
毎コミの麻雀書籍が徐々に売れ始めた頃、私は当然、竹書房の編集者たちにも「出しませんか」と言ってみたのだが、良い返事はなかった。
売れているといっても、せいぜい1万とか2万である。
当時すでに出版不況は始まっていたが、それでも漫画はもっと売れていた。
ちまちまと文字を書いたものを数千部とか刷って、めちゃくちゃ売れてもしょぼい利益しか出ない。売れなければ自分の失点として会社に認識される。
それだったら、せっせと普通に漫画本を売ることを考えた方が良い。唯一の例外は桜井章一さんで、かなり売れて利益が出ていたが、プロ雀士の戦術書を出してもしんどいだけ。
そういう考えが常識的だった頃、竹書房に異端児が入ってきた。
2003年に東京大学法学部を卒業して、わざわざ竹書房の試験を受けて入社してきた、カネポンこと金本晃である。
ここから先は
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?