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プロ雀士の通り名はどうやってつけられるのか(文・黒木真生)

イイネ稼いでなんぼ?

 私はあまり裏側を見せるのは好きじゃない。たとえば最強戦の入場のセリフを私が考えていることをバラされると、それを聞いた人が「黒木かよ」と思って興ざめするのではないかと心配になる。

 が、カネポン(金本晃最強戦実行委員長)によると「もうそういう時代じゃない」らしい。何でもかんでも動画撮影ですぐにアップ。イイネ稼いでナンボなのだから、古臭いこと言っていると老害扱いされてしまうとのこと。

 私は古臭い人間になりたくない。絶対に昔の機械より簡単で便利になっているツールを「使えない」と思い込み、PCR検査の窓口で「メールが届いてない」とゴネて、炎天下に行列を作っていることにすら気づかないような人間になりたくないのである。

 だから考え方も古臭くしたくない。連盟に入ってきたばかりの20歳の岡崎君に、対局の合間に「ポン」と肩を叩かれても怒らない。

「こいつしばき回したろか」と思っても笑顔を作って「あのなあ君、バクチ場で人の体に触れたらあかんのよ。あとライター借りるのもあかん。あ、対局場はバクチ場ではないけど、勝負の場だから同じなんだよ」と優しく返す。いや、それすらも現在はパワハラ扱いされるかもしれない。たぶん今の若者たちの正解は「お、おはよう」と爽やかに応えることなのだろう。

 イラっとするけどしょうがない。これが時代の流れなのだ。古代エジプトの石碑にも「最近の若者はなっとらん」と刻まれていたというから、そういうものなのだろう。私たちだって、おじいちゃんたちの世代からしたら「なっとらん」はずなのだ。

 だから寛容になろう。そしてうっとうしいじじいやなーと思われないよう、若者に媚を売っていこう。そうしないと、老後がしんどい。今は喧嘩してかろうじて勝てたとしても、そのうちヨボヨボになってくると、逆にしばき回されるようになる。

 そんな風に思っているから、人様に迷惑のかからない範囲で、色々なことの裏側を話すことを解禁する。

初めて付けたのが「セメントクイーン」

 20年ぐらい前、萩原聖人さん、片山まさゆきさんと若手プロ6名が出場した「New Wave CUP」という名称の対局番組があった。それに私、清水香織、長村大らが出ていたのだが、全員が無名なので何か気の利いた「通り名」をつけようということになった。

 長村大は「デジタルの申し子」というめちゃくちゃ良いのをつけてもらった。名付け親はフジテレビアナウンサーの野島卓さんである。友人の萩原さんがお願いしてくださって「New Wave CUP」の実況を務められた。さすがは「われめDEポン」で数々の名フレーズを生み出した野島さんである。

 他の5人は私がつけた。斉藤勝久さんという体力バカみたいな人がいて、本当に少しバカだったので「麻雀バカ一代」と付けた。

もちろん「空手バカ一代」のオマージュである。そしたら自分では「麻雀ばか一代」と色紙に書いていて、ひらがなだとさらにバカっぽくなるなーと感心した。

 その前に、最初につけたのが清水香織の「セメントクイーン」だった。

 セメントというのはプロレス用語で「ガチ」とか「シュート」と同じような意味を持つ。要は手加減なしで殺すかもしれないぐらいガチでやっちゃうよってことである。

 清水のイケイケな雰囲気と合っているかなと思ってつけた。格闘技ファン以外には、セメントと言ってもあの建築のセメントが頭に浮かぶようで「どういう意味?」と担当者に聞かれたのだが、本来の意味を説明した上で「清水はかなり厚化粧で、左官屋みたいに手際が良いらしいんですよ」とふざけていったら「それ採用」と言われた。

 世の中そんなものである。

キャラ立ってないやつって嫌だなー

 ちなみに、自分の通り名に一番苦しんだ。キャラが立ってないと難しいのである。

 私はこの時、キャラ立ってないやつって嫌だなーと思った。自分は表に出るよりも裏方の方が向いてるかなと思うようにもなった。

 萩原さんの提案で、出演者全員にスタイリストをつけることになった。衣装合わせの時、スタイリストのお姉さんから「ん-、この人むずかしー」と言われた。そうなのである。いろいろフツーだと難しいのだ。この時も私は、やっぱ自分は裏方かなーと思った。

 たぶん清水に「左官屋」の話をしたらぶっとばされると思うが、本人は「セメントクイーン」を気に入ってくれたようで嬉しかった。

 「麻雀バカ一代」の斉藤さんも「バカ」扱いされているにもかかわらず、喜んでくれていた。

 それからしばらくは「通り名」を付ける仕事はなかったが「麻雀最強戦」が今の形になってからはたくさん付けることになった。ただし私が付けた人ではないプロもたくさんいる。

卓上の暴君・瀬戸熊直樹(命名:多井隆晴)

麻雀忍者・藤崎智(命名:萩原聖人)

最速最強・多井隆晴(命名:本人)

強気のヴィーナス・黒沢咲(命名:宮内こずえ)

アイスドール・和泉由希子(命名:池袋の雀荘の人テニスの選手から

卓上の舞姫・二階堂亜樹(命名:日髙トモキチ)

メヒコの蒼い風・エル・インコ(命名:日髙トモキチ)

マムシの沢崎・沢崎誠(命名:森山茂和)

最強戦の前から通り名がついていたような人たちばかりであった。

今は手ごたえがある

 私が付けた中で特にハマったのは、和久津、魚谷、仲田、勝又、茅森だ。

和久津はこの通り名がついて以来、必ず日焼けサロンで真っ黒に仕上げて、露出多めの衣裳で出てくれるようになった。

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