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若手プロに知ってもらいたいこと 自分の本を出す時のお金の話


【印税生活も楽ではない】

 プロ雀士の中には「自分の本を出したい」と夢見ている人がいるかもしれない。
 本を出せば「何かを成し遂げた感」があるし、世間に認められたような気持ちにもなりそうだし、印税がもらえると聞けば「不労所得」つまり「何もしていなくても自動的に銀行口座にお金が入る」ことを期待してしまうのだろう。
 だが、世の中はそんなに甘くない。
 私はこれまで、結構な数の本を出してきた。
 自分の名前が著者名としてクレジットされていないので、ネットの情報などには載っていないが、私が著作権を持っている本は、少なく見積もっても30冊以上ある。
 が、そのどれも「まあまあしんどい労働」だった。で、対価は「普通の労働よりはかなりマシ」なものもあれば「やらなきゃ良かった」というものまで様々であるが「これ一冊でしばらく安泰」みたいに儲かったことはない。
 タイトルを獲ったりMリーガーになったりして、有名になると「本を出しませんか」と言ってもらえる時代にはなった。
 興味があれば打ち合わせをして、どんな本を出したいのかが、出版社側から提示される。
 超人気者になれば「フォトエッセイを出しましょう」みたいなケースもあるが、だいたいは麻雀入門書か麻雀戦術書だ。
 入門書ならかなり労力が少なく、発行部数も多くなるのだが、これも、かなり有名にならないとオファーはないので、戦術書の話をしよう。
 「あなたのこういう部分が凄いと思うので、こういうテーマで戦術書を出したい」と編集者から言われて、方向性として同意できれば、本作りが始まる。
 短ければ、話をもらってから2か月後ぐらいが締切で、発売は3か月後とかだ。
 長ければ半年後とかもあるが、通常、1年もかけるようなことはない。その間に、著者であるプロ雀士の株が急降下したり、もっと魅力的な人が出現して「その人の本を作った方が良さそう」となることもあるからだ。
 戦術論を180ページぐらい、2か月以内に書き下ろせる自信があればOKしても良いが、初めて出すのであれば危険だ。やってみると意外と難しいので、3ヵ月から4か月ぐらいはもらっておいた方が良い。
 ただ「それなら出すのをやめます」と言われることもあり得るので、要望の出し方には気をつけねばならない。
 とはいえ、安請け合いして締め切りを守れなかった場合、めちゃくちゃ迷惑がかかる。
 昔と違って、今は締切オーバーに対するペナルティがシビアだ。
 馬場裕一さんみたいに「いい加減にしてください!」と怒られながらも使い続けてもらったライターも昔はいたが、今は結構すぐに切られてしまう。
 誰だって遅いライターと仕事はしたくない。働き方改革もあって休日出勤とか深夜の残業とかがなくなって、編集者が待てない時代になっているのだ。

【ゴーストライター?】

 中には、自分で書けない、あるいは自分では書きたくないという人もいる。
 だいたいは後者で、おっくうだから書きたくないとか、時間がないからという人が多い。
 壊滅的に日本語がおかしくて、文法を無視してめちゃくちゃに書いてしまう人もたまにいるが、ほとんどの人はある程度は書ける。「てにをは(助詞のこと)」を多少間違えたりとか、漢字や慣用句の誤用などは誰でもやってしまうのだが、そういうのは出版社側が直してくれる。
 だから、書くことが嫌いじゃなければ、自分で書いた方が良い。
 文章にもクセがあって、自分で書いた方が人間味が出て良い。多少は下手でも、それがかえって良くて、読者が文体を好きになる可能性だってある。
 クセが強すぎると読みづらいが、普通に喋っているように書けば、だいたいは大丈夫だ。
 書かない人にはライターがついて、口述筆記のような形を取るケースが多い。

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