クレームが麻雀界を変える日は来るか
【クレーマーによる悪影響】
かなり前の話だが、タクシーに乗って「だいたい何分ぐらいで到着しそうですかね?」と聞いたら、運転手さんから「それだけは勘弁してください」と、申し訳なさそうに言われた。
ああ、これは嫌な過去があったのだろうと思い「大丈夫ですよ、もしその時間通りに着かなくても文句は言いません。相手にだいたいの到着時間を伝えたいので参考までに聞きたいだけなんですよ」と言ったが「以前にも同じようにおっしゃるお客様がいまして。でも、最終的にはものすごく怖い思いをしたんです。ですから、本当に申し訳ないのですが、ご容赦ください」と、絶対に教えてくれない。運転しながら頭をぺこぺこ下げているし、ハンドルの握り方も変わってしまった。汗もかいているようだったし、これは相当な目に遭ったのだと思い、諦めた。
「そんな酷い目に遭ったんですね」と、その人に寄り添ったつもりだったが、私が言えば言うほど、その時の恐ろしさを思い出してしまうのだろう。「本当に、本当に怖かったんです」と何度も拒絶するように言うので話題を変えた。
今なら目的地さえ入力すればgoogleが時間の目安を教えてくれる。だが、当時はそれがなかったから、運転手さんに聞くしかなかったのだ。
でも「1人の怖い人による過剰な追求」によって、その運転手さんは「以後、絶対に到着時間のことは言わない」と心に決めてしまった。
こうなると、その人に当たった客はサービスの1つを失うことになる。もし、同じような事象が複数あった場合は、タクシー業界全体で「到着時間については答えてはならない」というマニュアルができてしまうかもしれない。
こうやって、世の中がちょっとずつ窮屈になっていく。だから私は、過剰な要求や苦情は社会にとって「悪」だと思う。
【私も同じ穴のムジナだった】
と言いつつ、逆に私がクレーマー的になったこともあった。
当時、週に1度は行っていた学生街のつけ麺屋さんに2人で入ったところ「麺が1人前しか残っていない」とのことだった。それでも食べたかったので「2人でその1つを食べていいですか?」と聞いたら、答えはNOだった。
店内に貼り紙がしてあり「必ず1人1つは注文してください」と書いてある。そんなのは言うまでもない「常識」なのだが、そういうことをした人がいるからわざわざ書いてあるのだろう。
でも、今回は2つ食べたくても1つしかないのである。だからしょうがないと思うのだが、店が提供するのは食品だけでなく空間にも金がかかっている。私は「2人分の料金は支払います。麺は1人前で結構です。これで2人ともお店に入れてもらえませんか?」と聞いた。さすがにOKが出るだろう。
ところが、答えはNOだったのである。
ちなみに、私たち以外に客はいない。
なのになぜ、NOなのか。
店としては、食べ物を出さないのに金だけもらうわけにはいかないのだろう。それは分かるのだが、じゃあ、1人前だけ出してくれてもいいではないか。
私はちょっと面白くなってしまって「では、この人が食べている間、僕は外で待ってるから、半分食べたところで入れ替わってもいいですか」と聞いた。
だいたい想像していたが、店員さんは「それもダメです」と言った。
「それなら」と私が続けようとしたところで、連れが「もういいです」と言って私の手を引き店外に連れ出した。
「そんな議論みたいなことしても意味ないでしょ。時間の無駄じゃん」と説教されたが、まさにその通りだ。
店が「売らない」と言っているのに対し「客が売ってほしい」と頼んだ。客は条件をいくつか出したが、それでも店は「売らない」と言う。
この時点で話は終わりなのである。ここから先の議論は、客による「説得」でしかなく、店がそれに応じる「義務」も「意味」もない。
客による説得は、店の「時間」と「自由」を奪おうとする行為だ。
私目線では「こうした方が合理的なのに」と思う事柄でも、店には店にしか分からない事情があるケースも存在する。それを客に説明したくてもできない可能性もある。
だからやっぱり、客がこうやって粘ったりゴネたりするのは社会にとって「悪」なのだ。
おそらくだが、このお店も開店当時なら、私と連れに1つのつけ麺を食べさせただろう。実害は全然ないからだ。
だが、店の迷惑を顧みない客たちが、混雑している時間にそれをやった。この「悪」に対して店が対応するために「ルール」を作った。そのルールに対して「正論」を持ち出して曲げさせようとするのは、まぎれもなく悪いことなのだ。
【麻雀界に存在するクレーマー】
と、偉そうに言っているが、実は私は最近まで、この「つけ麺屋事件」について納得はしていなかった。
だが、ある麻雀大会の遅刻者に要求された件について考えている内に、あの時の私と同じであることに気づいたのだ。
個人攻撃をするつもりは毛頭ないので、具体的な情報は極力出さないが、私が所属する「麻雀企画集団バビロン」が運営する麻雀大会の予選会で、主催者はAというメディアだ。この大会を勝ち抜けば、そのメディアが制作する麻雀大会の番組に出ることができる。
その予選会の会場に、プロ雀士Bが遅刻しますという連絡を入れてきた。
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