歌舞伎町の東風戦できたえた麻雀。現在は御徒町三人麻雀ぱぱ店長まるさんは2号店出店を目指す!
店の宣伝のために取材を受けます!
麻雀の世界で、「王道」とは言えないかもしれないが自分の道をひたすら歩んで頑張っている人たちがいる。このnote「近代麻雀ルポ」では、そういう人たちにスポットライトを当てて紹介したい。
月刊誌「近代麻雀」に「ドキュメントM」というコーナーを連載していた頃から、私達はまるさんに幾度となく取材を申し込んでいた。それは、歌舞伎町四天王と呼ばれた保坂さんが「まるさんは昔は弱かったけど強くなりましたね。歌舞伎町にずっといると強くなります。」と言っていたからだ。
初めはぱっとしなくても、歌舞伎町にいて打ち続ければ本当に強くなれるのか? そこのところを聞いてみたいと思って取材を申し込んだのだが、何度も断られた。
ところがこのたび、まるさんが「取材を受けます」と言ってくれた。言ってくれたのは嬉しいが、ちょっとタイミングが悪いなというのが正直な気持ちだった。もっと早く取材させてくれたら、11月初めに竹書房から出る『ルポ 麻雀に狂った人たち』に掲載できたかもしれないのに、間に合わないじゃないか……。
そう思いながら、まるさんに会いに行った。第一印象は、おとなしそうな普通の人。身長は高くて、とても真面目そうだ。
なぜ今、取材をOKしてくれたのかと聞くと、
「店長をしている雀荘『ぱぱ』の宣伝になればと思って」
とのことだった。
三人打ち専門店「ぱぱ」は、JR山手線御徒町のすぐ近くにある。
エレベーターを降りて左側のドアを開けると、店内は明るくて清潔な雰囲気。ビル自体は古いのだが、掃除が行き届いているし、あるべきものがあるべきところに整頓されて置かれているのがわかる。アットホームな雰囲気で、常連さんたちでにぎわっている。
そして、店長のまるさんがおずおずと接客してくれる。
この「おずおずと」というのが、まるさんを表現するのにちょうどいい。決して高飛車なところはなく、威圧的なオーラはまったく見せない。ドリンクを聞いて、ルール説明をして、卓状況を伝えて、「お待ちください」と言う。どこの雀荘でも日常的に行われていることなのだが、すべてが「おずおずと」進行していく。
四天王の保坂さんが「強い」というのは本当にこの人なのか? なぜこの腰の低い男性がずっと歌舞伎町で打ち続けることができ、御徒町で店長をつとめるようになったのか? お話を聞いていこう。
20代で天鳳高段者になり愛媛から上京
まるさんは愛媛県出身。県下随一の進学校である私立愛光高校の出身だ。お父さんは愛光高校から東大に進み、お母さんも高学歴。しかしまるさん本人は高校卒業後は大学受験に失敗しドロップアウト、まず身一つで働きに出れる愛知県のトヨタ自動車の期間工として働いた。
麻雀に出会ったのは小学6年生の時、
「父が漫画が好きで、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、スピリッツなどたくさん漫画があったのですが、ちょうどマガジンで『哲也』の連載が始まりました。家に麻雀牌があって初めて触った時には衝撃が走りました」
中学時代は家族や同級生とたまに麻雀したり、ゲームセンターで「麻雀格闘倶楽部」で打ったりしていた。
トヨタの期間工は8時間労働の3交替制でキツい。
「ひたすら肉体労働で、夏場は2リットルのペットボトルを1日2本は飲みましたね。きついので仕事のメンタルは鍛えられたかもしれません。休みの日にちょくちょくフリー雀荘に麻雀を打ちに豊橋や名古屋まで行ってました。
10日間の長期休暇をもらった際には、東京に旅行に行って新宿のピン東雀荘で打ってました。その時ついてて30万円くらいすぐに勝っちゃって、自分は強いんだと勘違いしちゃいましたね。あの時勝ってなかったら今雀荘で働いてないかもしれません。ちなみにこの旅行の時に通った新宿のお店の店長さんは5年経って新宿で再会したときに自分のことを覚えててびっくりしました。今の自分にはとても真似できません。」
トヨタの期間工の任期は最長2年11ヶ月と決まっている。トヨタをやめた後は愛媛に一旦帰省した。とりあえず失業保険を貰い始め、今後の人生をどうするか真面目に考えるべき身の上なのだが、あろうことかネット麻雀の「オンライン麻雀天鳳」にはまってしまう。
「麻雀って基本人生からの逃避でハマる人が多いかなと思うんですが、ちょうど自分が天鳳始めて3ヶ月後に天鳳の鳳凰卓(七段以上の人のみ参加資格のある卓)ができたんですよ。鳳凰卓ができた直前くらいに七段に昇段して完全にはまっちゃいましたね。当時『livetube(らいぶちゅーぶ)』っていう配信サイトがあって、高段の人が鳳凰卓の配信とかしてて色んな人がコミュニティを作ってたんです、似たような環境の人が配信に一杯いるし逃避のための環境が整いまくってたんですね(笑)保坂さんも当時山梨から配信してて、初めて名前を知ったのはそこでです。両親からしたら、20代前半の息子が働きもせずひたすらネット麻雀をやるだけの状態はまさに地獄絵図だったかなと思います。ただ自分自身強い人の牌譜を何戦試合と研究して、降段と昇段を繰り返してやっと九段になったときに『ネットで高段者になっても何も変わらない』という現実に気づいちゃったんですよね。いやもっと早く気づけよ!って感じだと思うんですけど(笑)地元で働こうと思ってバイトの面接を受けたんですけど見事に全部落ちて、コネで市役所の臨時職員になったんですけど、役所勤めは全く向いてないと思いました。任期満了して退所したときに自分に何ができるだろうと考えました。その時に『あれ?そういえば俺麻雀強かったよな』と思っちゃったんですよね。市役所で働いてる間もたまに松山のフリー雀荘に行ってて結構勝ってて、バイトも受からないし俺にはもう麻雀しかないぞ、と。思い立ったら行動は速いのですぐに通ってた地元のピン東南のお店の面接を受けました。」
麻雀が強いからと言って、雀荘の店員として使えるとは限らないのが、この世界の難しいところ。
「いざ雀荘の仕事をやってみたら、コミュニケーション能力が低すぎるし、仕事出来な過ぎて上司からはパワハラされるわで数ヶ月でクビになっちゃいましたね。ただ地元でメンバー業に慣れたら東京に出て新宿の東風戦で働こうと思ってたので。落ち込む間もなくすぐ上京しようと思いました。簡単に諦めない、打たれ強いのは自分の良いところではあります。その当時地方で天鳳をやっていて高段者になった人達が、何人も東京に出てきてたんです。保坂さんもその一人ですし、今Mリーガーをされてる渋川難波プロや、初代天鳳凰位のASAPINさん等たくさんの人が東京に集まってきてましたね。」
そしてまるさんは単身上京することになる。
「天鳳や先程のlivetube関連での知り合いが何人かいたので、東京のピン東雀荘界隈の事もある程度教えて貰えました。3店舗のグループ店のFグループがゲーム代フルバックで働きやすいと聞いたので電話して面接を受けに行ったら採用になりました。寮がある店なのですぐに入れました、とりあえず住む場所だけは確保できましたね。」
こうして、まるさんの東京でのメンバー生活が始まった。
とにかく一人前のメンバーになりたい!先輩とトラブル続きの下積み時代
「東京に出てきて働き始めるとき、人それぞれにいろんな目標があると思いますけど、僕は新宿で一番のピン東メンバーになりたいと当時思ってましたね、ただその前にとにかく一人前に仕事ができるようになりたいとも思ってました。」
まるさんはとにかく向上心が旺盛。「人とのコミュニケーションが苦手」という自己評価を前提に、それを克服するべく努力を続けた。
「自分は真面目に働くという姿勢はあるんですが、我が強くて人の話を聞かないのでそれが原因で上司と揉める事が多かったです。まずはFグループの新宿店で働いて、その後中野店に異動になりました。ただ中野店で先輩スタッフと揉めてしまい、中野店で働くことができなくなってしまったんですね。麻雀の成績がよかったら、系列店で強者が集まるD店で働けるんです。堀内正人さんがちょうど働いていたと思います。僕は麻雀の成績ではD店に行けるレベルだったと思うんですけど、D店に人が足りているのでまた新宿店に戻りました。名前は元々知ってましたが、保坂さんと会ったのもその頃でした。僕はD店に入れないことが正直不満で、『もっと頑張りたい』『麻雀強い人と会ってみたい』という気持ちを持っていました。だから保坂さんの紹介でFグループをやめて歌舞伎町一番街にあるP店に入る事にしたんですね。」
まるさんは、P店でも必死に仕事を頑張った。
「P店での麻雀の成績は、メンバーの中で真ん中よりは上くらいだったかなと思います。入店当初の同僚だった保坂さんは新宿で一番強いんじゃないかと思うくらい麻雀の成績が良くて、自分の目標でした。イケメンで女の子にはモテるし、遊びのギャンブルは強いしで、少年ジャンプの主人公みたいな感じでした。P店では真面目な部分を買われて責任者もやらせて貰った時期もあったのですが、同僚との仕事面のコミュニケーション能力も低く、接客ではミスするわ、果ては麻雀は勝てなくなるわで最終的に自分から平スタッフに降格をお願いしました。簡単にいうと挫折したということです。」
頑張って働くも、周囲からの評価は低いまるさん。最終的に上司と上手くいかなくなり、数年間働いたP店を去ることとなる。
「P店を辞めたタイミングで以前働いていたFグループのD店で働くことになりました。Fグループのマネージャーが、自分のことを評価してくれて最初からD店で働けました。P店の責任者を辞めてから麻雀の調子も戻っていて毎日天鳳の牌譜を見て勉強していたのでこの頃は純黒の成績でしたね。」
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