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【無料記事】最後の給料は『マイナス』3000円! 地方雀荘メンバー光森諭さん

地方は首都圏と違って競争がゆるいと思われがちだが、常連客との馴れ合い、経営陣の意識の低さなど地方ならではの苦労もある。

有名国立大学に入ったが麻雀漬けで中退

光森さんは雪国の出身。
地元の高校を出て浪人後、地方の有名国立大学(旧帝大)に入学した。
ところが、いつしか麻雀にはまって、気が付けば授業にはほとんど出ず、留年を繰り返すことに。何とか専門課程に進んだものの、希望するゼミに入れなかったこともあって、とうとう大学を中退してしまった。その時、すでに26歳になっていた。

大学中退とはいうものの、頭はいいので、契約社員としての就職先がすぐに見つかった。ところが、そこでの仕事が思うようにいかなかった。

「採用されたときの成績が良かったので『能力が高い』と思われたのが失敗でした。基本的な仕事の内容もわからないまま、難しい頭脳労働を強いられる部署に配属され、対応できませんでした。会社自体の体質も古く、完全な年功序列。このまま正社員になっても給料は上がらないかなあ、それでも職があるだけましなのかなあと考えながら、毎日働いていました」

そんなとき、知り合いから「リニューアルオープンする雀荘のオープニングスタッフとしてやってみないか」という声がかかった。

「その雀荘では、ごくたまにセットやフリーを打っていたのですが、店のお楽しみ大会で優勝したこともあって居心地がよく、気に入っていましたから勤務先の契約を更新せず、雀荘で働くことに決めました」

 トップ賞をどんどん払う店員は超優良顧客

こうして光森さんはフリー雀荘「KT」(仮名)のリニューアル準備を手伝うことになった。

「会社では、『〇〇大学に入ったくらいだからこのくらいのことはできるだろう?』という扱いを受けていてプレッシャーもひどく、辛かったのですが、雀荘の仕事は気が楽でした。大学の話をする時も、『こいつ、〇〇大学に入ったのに今は麻雀屋で働いてるなんて、馬鹿だな』という扱いで、自分はヘラヘラしていたらよかったので」

その時の時給は1000円。
月25日の1日10~11時間勤務。ゲーム代はフルバックだが、トップ賞300円は取られた。
ゲームはすべてゲーム券を使って精算し、店員の収支は帳面で管理される。一応タイムカードを切っていたが、歩合制で給料が加算されるという形になっていた。

「歩合制と言っても適当ですよ。実際には、オーナーと店長とアルバイトが4人いて、月末に締めたらそこにある金を数えて、6人で分けました。すごい丼勘定だけど、がんばってゲーム代の収入が上がったら手取りも上がるので、やりがいがありましたよ」

しかし、ここで負担が大きかったのは店が集めるトップ賞だ。

「1か月にゲーム代300円の3人打ちとゲ―ム代400円の4人打ちを200ゲームずつ打ったとします。
3人打ちのトップは3回に1回としてざっと60回。4人打ちのトップは4回に1回として50回。
400ゲームのうちトップが110回あったら、トップ賞で33000円取られるんです。実際にはもうちょっと打つ回数もトップも多い。
トップを取れば取るほど損なのですが、トップを取らないともっと損。
ひどいシステムでしょ?」

フリー雀荘で「トップ賞」という名のもとにトップ者がゲーム代を余分に払うということは、割と一般的だ。しかし、ゲーム代300円でトップ賞も300円はかなり高い。

「それでも、その頃は手取りが20万円以上ありました。僕は麻雀強かったんだなーと思います。一度、オーナーがいない隙にみんなで、月間ゲーム数と、そこに自分たち店員が本走で入っている割合を調べたことがあるんです。4人打ちで1人入りなら25%、2人入りなら50%ですね。すると、3人打ちと4人打ちの全ゲーム数で、メンバーが本走に入っている割合が45%でした。もちろん、週1~2日しか来ないアルバイトも本走していましたけど、それでも僕たち5人がトップクラスの上客だったんです。しかもトップ賞も払うんですからすごい上客。
『僕たち麻雀強いから何とかなってるけど、ヤバイね』という話をしました。もちろん、その中でも勝ち組と負け組がはっきり分かれてましたけど」

光森さんは、酒と読書が大好き。

「通勤は電車で20分くらいでしたが、ずっと本を読んでいました。図書館が近くになくて、本は買って読むことにしていました。生活はかつかつだったけど、酒と本を減らすことは考えられませんでしたね。嫌なことがあっても、小説の世界にはすぐ入ることができます。そして家で酒を呑んで寝ると、次の日もまた頑張れました」

経営形態が変わって労働環境が激変

 麻雀が強いメンバーたちのボランティア精神に支えられてなんとかやっていた「KT」だが、店の運営に危機が訪れた。
ちょうど近くで大きなインフラ整備が行われることになったのを機に、地元の経済的有力者が、雀荘の経営に口出しするようになったのだ。

「急に来て、余剰金を6人で割るなんていう丼勘定はダメだ、と言われました。時給を設定し直してメンバーからもゲーム代をきっちり取る、と言い渡されて、うろたえるばかりでした。

僕たちが、丼勘定で『今月はうまくいったね』『今月はダメだったね』などと言いながら頑張ってきたのは、店がもっと成功したときのことを考えて希望を持っていたからです。
常連客でクセの強い人はやんわり出禁にして他の店を紹介して連れて行ったり、あまりにもマナーの悪い人は別卓で個人的に指導したり、店全体がちょっとずつでもよくなるように努力してきたんです。それなのに、急に口出ししてきたオッサンにオーナーが丸め込まれて、体制を変えようとしたので、嫌気がさしてしまいました。

新体制が試験的に導入された月、僕の収入はどうなったと思いますか?
今まで20万円くらい入っていた給料袋がすごく薄くて、中を開けたら

『▲3000円』

という紙が入っていたんです。

ゲーム代とトップ賞を全部払ったら、時給を超えてしまったんですね。
その月はオーナーへの不満と先行きの不安で精神的にもイライラしていたのか、単純に収支がマイナスでしたし。
財布からなけなしの3000円を出して店長に渡しながら『ああ、もうこの店はやめよう』と思いました」


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