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住み込み打ち子あっさじーんさん

この記事は過去の近代麻雀記事を編集したもので、11月6日発売予定の書籍「ルポ麻雀に狂った人たち」に収録予定です

 
あっさじーんという人がいる。麻雀が大好きで、天鳳では鳳凰卓で打つ実力の持ち主だが、お金の管理などが苦手な中年男性。

特に何をしているというわけでもない。ただ毎日、「お金がない」と言いながら麻雀をやめられなくて、ほそぼそと仕事をしながらフリーやセットを打ち続けているだけだ。しかし、その行動が、なぜか何とも言えずおもしろい。


あっさじーんさんはこんな人

 

あっさじーんさんは神奈川県出身。小学生の時は進学塾の日能研に通い、中学受験をして有名な中高一貫の男子校に入学した。
大学はとにかく男女共学のところに行きたくて有名私立大学の国際学部に入ったものの、入ったとたんにやる気をなくしてすぐに勝手に退学届を提出してしまった。その時点で実家を追い出された。

その後はいろいろな仕事を転々としながら暮らしていた。30歳のときにアニメの『咲』を見たことがきっかけでネット麻雀を始め、どんどんのめり込んでいった。当時はマンションの夜間警備員の仕事をしていたが、ずっと携帯電話で麻雀をしていたという。

麻雀は大好きで、ネット麻雀の天鳳では鳳凰卓を打つ実力者なのだが、リアルの麻雀では挙動不審な動きが多い。打っている最中、自分の手番で急に勝手にあたふたと慌て出し、「あ、いや、こりゃ」「すみません、すみません」と言いながら長考したりする。同卓している側は何を謝罪されているのかわからないまま、待つことしかできない。そして、そんなに時間を使って長考しながら打っているのに、ノーテンリーチやチョンボが人並み外れて多い。しかし、本人全く悪気がなく、その都度その都度猛烈に反省してまた「すみません、すみません」と謝るせいか、あっさじーんさんを嫌う人はあまりいないようだ。

なんとも、不思議なキャラクターである。

 

名古屋の雀荘で住み込みの打ち子生活

 そんなあっさじーんがSNSで麻雀界隈のみんなの注目を集める出来事があった。高田まさひろさんという人が経営する名古屋の雀荘で住み込みの打ち子として働いたことだ。 

当時のあっさじーんさんは、老人ホームの夜勤の仕事していたのだがクビになり、経済的に苦しくなってしまった。

「消費者金融でお金を借りていて、その限度額いっぱいのところまで来ていました。家賃の心配までしないといけない状況だったんですけど、名古屋の雀荘で住み込みの店員を募集していると聞いて応募しました」

店員と言ってもいわゆる打ち子、すなわち「裏メンバー」。普通の店員のように掃除やドリンクのサービスはしないで、ただ麻雀を打つだけの仕事だ。
 麻雀だけは腕に覚えがあるあっさじーんさんは、店舗の2階の部屋に寝泊まりしながら、プレイボールで働き始めた。その部屋はほとんど物置のような状態で窓にはカーテンもなく、夜に電気を付けたら外から丸見え。
 プライバシーはまったくない状況だったが、とにかく毎日麻雀を打っていればいいという生活は、向いていたようだ。

しかし、その間も麻雀は勝ったり負けたり、休みの日や空いた時間は他の店舗に麻雀を打ちに行ってしまい、なかなか借金が減らない。

借金の利息を返すために新しく借金をすることをくり返す、いわゆる「天井張り付き」になって有名な消費者金融ではいよいよ借りられなくなったので、「店舗に来た人にしか貸さない」という特殊な店で借りることにした。

「その店舗が東京にあったので、名古屋から一番安い夜行バスに乗って東京に借金しに行きました。何とか10万円くらい借りたんですけど、それを持って東京の系列店の『プレイボール』に麻雀を打ちに行ってしまいました。そこで天鳳位のヨーテル君にばったり会って、『名古屋で働いてるはずなのになぜここに?』と言われたんですけど、ごまかしました。あ、そこでの麻雀は負けました」

せっかく交通費を使って金を借りても、帰宅するときにはもう目減りしている。これでは経済状態がよくならなくても当然だ。

そんな生活は2か月しか続かず、雀荘「プレイボール」自体が閉店することになり、あっさじーんさんは関東に戻ることになった。

最後の夜は当然のように名古屋でフリー雀荘で打ち、夜行バスで東京に降り立った時の所持金は数百円だった。

宿を提供してくれた人の財産を売ったお金で麻雀

 

東京に戻ってきてからは、三鷹の雀荘「遊図」に直行。経営者の澤田さんにしばらくお世話になっていた。澤田さんが倉庫として使っていた一室に寝泊まりして、「遊図」で働いたりしていたが、その澤田さんに対して恩を仇で返すようなことをしてしまう。

「そこに置いてあった麻雀卓を売ってほしいと澤田さんに言われたので、ヤフオクに出したらすぐに売れました。アモスコング3台で30万円くらいです。そのことを澤田さんに報告しないで、お金を使ってしまいました。澤田さんは売ったお金の一部を僕の生活費としてくれるつもりだったと思うんですけど」

それはとんでもない裏切りで、訴えられても文句は言えない。しかし、そんな大事件のことすら淡々と話すあっさじーんさん。

「札束を封筒に入れておいて麻雀を打つための原資として少しずつ借りました。麻雀は勝ったり負けたりで、ある日、その袋に手を入れてもお金がありませんでした。『あっ! 盗まれた!』と声が出ましたけど自分で使っただけでした

麻雀の原資として拝借するなら、勝った時にはきちんと袋に戻しておかなくてはならないが、それができない。勝った分は借金の返済や生活費に使ってしまい、また新たに原資を借りることを繰り返していたらなくなるのは当たり前だ。麻雀はそこそこ打てるのに、そういう計算はまったく苦手らしい。しかも、残金がゼロになるまで気付かないというのもあきれる。

 結局その後、ほそぼそと遊図で働きながら月1万円ずつ、約2年かけて完済した。

その後、以前の職歴を生かしてまた老人ホームの夜勤を2つ掛け持ちして働いていたのだが、2021年の3月に、あっさじーんさんを大ピンチが襲った。夜勤の仕事が1つ、なくなったのだ。

「何かを始めないと、と思っていたら、ある麻雀の女流プロから、『ウーバーイーツか女性用の風俗店がいいんじゃない?』とアドバイスをもらいました。風俗のほうは女性向けのデリヘルとかで、指名があったらすぐに稼げるということでした。

とにかくその時点での貯金はゼロ。むしろ借金は残っている状態で、すぐに週3万円の収入が欲しいが、風俗店で指名をもらえるかどうかは心もとない。

「その女流プロに、『僕が女風(じょふう)に行ったら指名してくれますか?』と聞いたら『ふざけたこと言わないで』と完全拒否されました。調べてみると、ごく一部のトップの人しか稼げないみたいなので、あきらめました。わりと自信はあるんですけど」

結局、「ウーバーイーツ」に登録。「バイクは持っているので、できると思いました。スマホで登録したら何の審査もなく採用になり、専用のバッグを買ってやり始めました」

 

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