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私設Mリーグダービー⑥ 渡辺太と打ってきた!【文・平岡陽明】

醍醐と大介について


ドラフト会議が終わり、あとは開幕を待つばかり。


開幕が待ちきれない私は、日向藍子のYouTube「麻雀するしない」を観ていた。

その中のコーナー「麻雀の匠」で、醍醐の回をすべて観るためだ。


今季の私のチームでMリーグ新規加入選手は醍醐のみ。

(あとのメンバーは松ヶ瀬、瑞原、堀)

私はチームオーナーとして、醍醐の麻雀観を把握しておく必要があったのだ。


「麻雀の匠」は、醍醐以外の3名のプロが大音量のヘッドフォンをして対局に臨む。そして醍醐は、1打ずつ考えていることを日向に説明しながら半荘を打つ。

控えめに言っても、めちゃくちゃ勉強になる動画シリーズで、この企画を思いついた人は天才じゃないかと思う。


醍醐の回を観終えて思った。

「やっぱり醍醐はめちゃくちゃ強ぇーわ。見る目あんな、俺」


これでうちのチームの地力は安泰だ。

あとは風が吹くのを願うのみ。


となると、気になるのは他チームの動向である。

いちばん気になるのは、やはり新規加入選手を3名も編成してきた「チーム・タクシー貴」だろう。(鈴木大介、渡辺太、菅原、瀬戸熊)


私はとりあえず、大介の最強戦の検討配信を観てみた。

5年連続でファイナルステージ進出を決めた半荘を、大介が梶本琢程さんと一緒に振り返っているものだ。


大介は思っていた以上に「雀鬼流」の打ち手だった。

はっきり言って、めちゃくちゃ強い可能性がある。


私の解釈では、雀鬼流の強みは、ツカないときにツキを持ってくる思想(技法)があることだ。そして一度ツキだすと、そのツキをなかなか手放さない。


ツキを引き寄せたり、持続させるためには、放銃を厭わない。むしろ大介は「この局は放銃で終わりたかった」としばしば口にする。手を曲げるとツキが逃げていくからだ。


大介はほかにも「字牌単騎のリーチはしない」「モロひっかけのリーチもしない」と宣言していた。雀鬼流の教えをMリーグでも守るというのだ。


圧巻は、この半荘で同卓した元Mリーガーの沢崎の敗因分析。大介は言った。

「北単騎でリーチして、伸びのある手にフタをしてしまったのが敗因ではないか」

沢崎はその北単騎をアガったのだが、その後、勢いに恵まれず大介に敗れた。


雀鬼流って、やっぱり強いのかも……。

私が大好きな解説の土田浩翔も雀鬼流だし(大介と同じく破門組らしいけど。なんで破門になったんだろう?)


雀鬼流の打ち筋が気になった私は、大介の著書『麻雀強者の流儀』を取り寄せて読んでみた。前書きに、いきなりこうある。


「現在流行りの期待値に特化した頭でっかちな麻雀打ちには負ける気がしません」


そして本編を開いてすぐに、こう出てくる。


「リーチ一発目に相手の現物じゃない牌を押せるかどうか、フリーで勝つ道はそこしかないくらいに私は考えています」


これはほとんどのMリーガーに対するアンチテーゼだ。

というよりも、「現代麻雀」に対する宣戦布告である。


大介がどれだけポイントを叩けるのか。

楽しみしかない。早く始まってくれMリーグ。


太と同卓しようとしたら……

渡辺太

次の私の興味は、ドリブンズの渡辺太に絞られた。


新規参入のなかで、もっとも秘密のベールに包まれた選手だ。

おそらく大介の言う「期待値に特化した麻雀」なんだろう、くらいの情報しか私にはなかった。それすら間違っている可能性がある。


だがあのドリブンズが三顧の礼をもって迎えた選手だ。編入された最高位戦のリーグ戦でも、いきなりトップを疾走している。弱いはずがない。


噂をかき集めた限りでは、ひょっとしてMリーグは途轍もないモンスターを召喚してしまったのではないか、という予感もうっすらある。


そんなことを考えていたある日、五反田の雀荘に太がゲストで来ることを知った。


「まぁ〜じゃんNext」というノーレートの店だ。

豪華なプロゲストを連日招いている店で、とても雰囲気がよく、私も以前にお邪魔したことがあった。


勝負事は先手必勝である。「いっちょう俺が太をやっつけて、タクシー貴のチームの出鼻を挫いてくるか」そんな思惑を抱いて、私は太がゲストに来る日に店を訪れた。


太の来店は16時。同卓希望は抽選だから、その10分前に店についた。


「さて、ライバルは何人くらいか……」と店内を見回して驚いた。

なんと、デジタル高見がいたのだ。

ひとりだけ場違いな高級スーツに身を包み、店の奥で皮肉げな目を光らせている。


「来てたの?」と私は尋ねた。「ええ」「仕事は?」「抜けてきました」


こいつ、ほんとにコンサル会社に勤めているのだろうか。八百屋のおやじじゃねぇんだから。


「太が目当て?」「はい。彼はボクが持ってない物をすべて持っている選手なんで、この目で確かめておこうと思って」


「あなたが持ってないものって何?」

人生勝ち組の高見がそんなことを言うのが不思議で、尋ねてみた。


「じつはボクは親に医者になれと言われて育ちました。でもなれませんでした。それがダメならせめて東大に行けと言われましたが、入れませんでした。天鳳位も目指しましたが八段止まりでした。ドリブンズのサポーターも、マルコが首になったことで脱会してしまいました」


なるほど。太は東大を中退して、医大に入り直して卒業した、現役の医師で、天鳳位を3回も獲った。そしてドリブンズのメンバーである。たしかに高見が持ってないものをすべて持っている。


デジタル高見が負け組の気持ちを味わっている様子を見るのは、たいへん爽快だった。

しかし彼は、いかなるときも、しもじもの民を見下すことを忘れない。


「平岡さんも同卓希望ですか……。もし万が一、僕と太と同卓することがあっても、場を荒らさないでくださいね。お願いしますよ」


初戦の抽選が始まった。私も高見も、抽選が外れてがっくり。


ほかの外れた客たちと卓を囲む。みんな「ノーレートで楽しもう」「太と囲んでみたい」というお客さんたちばかりなので、マナーもいいし上手だ。ルールは完全Mリーグルールである。


隣で打つ太が気になる。先ほどちらっと見た限りでは、森の奥にある湖のような静けさを湛(たた)えた、物腰の柔らかな人柄だった。


二回戦目の抽選が始まった。私と高見は「5」卓を引き同卓が決まった。

あとはそこに太が来てくれれば……と思っていたら。


キタ〜〜〜!!!


太が私の下家に座り、みんなにぺこんと頭をさげる。

「よろしくお願いします。最高位戦の渡辺太と申します」


うんうん、知ってるよ。キミ、天才なんだってね。

僕はスカウト兼オーナーだから視察にきたんだよ。知らんと思うけど。


私は冗談まじりに言った。「プロ、僕の下家に座ったのが運の尽きですね。一牌も鳴けないと思っておいた方がいいですよ」。これに対し太は「僕、めっちゃ鳴きますよ」と宣言。こりゃ面白い。


こうして私の人生初のMリーガーとの対決が始まった。


よーし、まじで鳴かせんぞ、と意気込んで臨んだ東1局。

私は早速、北家の太に2つ鳴かせてしまった。


3索ポン。次に5索ポン。ドラは字牌だった。


「ん? 食いタンか、トイトイかな……」


そこへ対面さんの親リーが入った。

すかさず南家の高見が追いかける。


いきなり2軒リーチを受けて、私はオリ。


2つ鳴いている太はキツかろうと思っていたら、

なんと次巡に親がツモ切った7ピンに「ポン!」の声をかけた。

そして9ピンを切る。


まじ? 2軒リーチを受けてんのに、親の現物を鳴いて3フーロ?

タンヤオトイトイか? 

点パネしなきゃ3900止まりだぞ。

赤入りで満貫かな?


ていうか、私だったら絶対に鳴かない。

安牌が77ピンと2つできたので、とりあえずそれで凌ぐだろう。

7ピンの壁で9ピンもかなり安全度は高い。

そのあいだに横移動でもしてくれたらラッキーだ。


緊迫したツモ切りが続く。

3者のめくり合いを制したのは太だった。

「ツモ」。静かに置かれたのは8万だった。


開けられた手牌を見て驚いた。

「300・500です」

なんと、食いタンのみの5−8万待ちだった。


アマチュア3人は衝撃を受けた。


「開局からこれをやってくるのか……。Mリーグでもこれをやるのか……」


あの7ピンを鳴いて、親を含む2軒リーチを潰しにいくMリーガーは誰だろう?

私の感覚だと、コバゴーと園田がまっさきに思い浮かんだ。

あとは大介。たろうもやるか?


押しの強い寿人や優は、案外ケースバイケースな気がする。

というか、そもそも開局から1000点の食いタン仕掛けはしないだろう。


その後も太は積極的に動いた。役牌がトイツであれば、ほとんど一鳴きしているイメージだった。半荘を通じての副露率は、体感35〜40%くらいあった気がする。(上家の私がザルだから鳴きを増やした訳ではあるまい、と信じたい)


私はなかなかのバカヅキだった。

デジタル高見から手なりのダマテンで12000を討ち取り、東場の親番を迎えた。


ドラは中。

私が42000点持ちで、太が32000点持ち。


太がカン3万チー。8ピンをポン。

「食いタンか? あるいはドラの中を抱えているか?」


終盤、私は索子のメンホン・白を張った。またダマで12000だ。

待ちは1−4索。ション牌の中を切れば聴牌だ。


私は太の2副露をちらりと見た。


「あれは、ただの食いタンかもしれない……」


東1局の300・500の残像があった。

あとは中が暗刻のパターンだってある。


そーっと中を切ると、太から「ロン、8000」の声。

普通にバックだった。


(あーあ、やっちまった。太に勝って一生自慢しようと思ってたのに……)


デジタル高見が、信じられない生き物を見るような目で私の顔を覗き込んでくる。はいはい、暴牌ですよ。手に溺れたんですよ。でもね、高見さん。男は女と手牌に惚れるために生きてるんだよ。惚れたが悪いか!


その後は淡々と局が進んだ。

南3局の私の親番でも手は入らなかった。

「だめか……」

そう思っていた9巡目、太が何気なく切った6ピンに、高見が「ロン」の声をかけた。タンヤオ、三色、ー盃口、ドラ2のカン6ピン待ち。12000。


(高見、ナイスぅぅぅぅぅ!!!)


これで私はトップを獲ったのだった。

完全に腕である。


太と写真を撮ってもらい、店を出たところで高見に怒られた。

「なにしてんすか! あんな中を切る奴、どこにいます?」


「ごめん……。でも俺トップだし」

「あんなの完全に棚からぼた餅じゃないですか! 僕の12000のアシストのお陰でしょ」

「人聞きの悪いこというなよ。ま、そう熱くならずに。で、太の麻雀どう思った?」

「強いです。鳴いても振らなかったでしょ?」

「あー、そうかも」

「しかもアマチュア相手なのに、チラ見で完全に3人の手出しツモ切りを見てましたもんね」

「なんでわかる?」

「ずっと太の視線を見てたんで。ま、あのクラスなら当然でしょうけど」


近くの喫茶店に入ると、高見が言った。「だけど、太に接したことがある人で、太のこと嫌いになる人は、一人もいないでしょうね」「うん。俺も惚れかけた」


太は物静かな神童が、そのまま大人になってしまったような人だった。

まごうことなき天才なのに、謙虚で、腰が低くて、礼儀正しくて、物腰が柔らかで。そんなところは、すこし将棋の藤井聡太を連想させる。どちらも神の子だろう。

 

じつはこの日、店には私が普段よく行く雀荘の常連さんたちが2人も来ていた。

みんな麻雀とMリーグが大好きで、太と打てると聞き、駆けつけたのだった。

 

同卓できた人は、私と同じようにガッツポーズして喜んでいた。できなかった人も、キラキラの笑顔で太と一緒に写真に収まっていた。いいオジサンが、である。

 

インターバルのあいだに、彼らと「ああだ、こうだ」とMリーグの話題で盛り上がって思った。やはり私は、麻雀にのめりこんでしまう人たちが好きだ。

 

彼ら、彼女らは、面白いことが大好きで、できれば楽しいことしかしたくなく、目の前の愉楽に弱い。

 

一面からみれば社会不適合者であろうが、面白いことは、とことん楽しむ。そこへ一直線に向かうことを、恬(てん)として恥じない。そこに自由人としての面目躍如がある。

 

この「フリーダム志向」こそが、麻雀好きに通底する精神だろう。

 

それは渡辺太さんのようなスーパーエリートにも、街場の雀荘の雀キチにも、私のような下手の横好きにも、通じるものだと信じたい。

 

茶湯が盛んだった戦国時代、茶室をくぐれば天下人も乞食も境はなかった。これと同じで、ひとたび卓を囲めばプロもアマもない。上手いも下手もない。楽しんだもの勝ちである。邪念なく、牌の伸びや勝負を楽しむ者こそ、本当の「勝者」だろう。

 

そんなことを想う一夕となったのは、太さんのような、人間としても雀士としても「本物」と卓を囲めたからだ。


それにしても、太は本当に神のような人だった。

あの高慢ちきな高見まで一瞬でファンにしてしまうのだから、感化力は半端じゃない。Mリーグが始まり、その人柄が広く知れ渡ったら、太ブームが巻き起こるんじゃなかろうか。

 

私も一発でファンになった。

 

本当ならフトシ応援団の旗振り役でもつとめたいところだが、今季はタクシー貴のチームの選手なので、あまり活躍されては困る。

 

太よ、今年はそこそこ頑張れ!!

 

来季はドラフト1位の挨拶に行かせてもらうぞ!!!

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ピークアウト、むこうぶち、追憶のM、因幡はねるのハネマン麻雀、など盛りだくさん。

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