基礎:血管筋線維芽細胞腫 angiomyofibroblastoma
1992年に米国病理医Fletcherらによって初めて文献上記載された(Am J Surg Pathol 16: 373-382, 1992)、女性の外陰部に好発する比較的稀な良性腫瘍のまとめになります。なお、腫瘍の発生部位や病理組織学的な特徴から診断はさほど難しいものではありません。
定義
通常骨盤会陰部に発生し、この領域における特殊な間質細胞により構成される周囲との境界の明瞭な筋線維芽細胞性の良性腫瘍。
臨床上の特徴
生殖可能な世代(成人)の女性の外陰部皮下や膣壁に発生するが、稀に閉経後の女性や男性の精索・陰嚢にも生じることがある
臨床的にバルトリン腺嚢胞と誤認されていることがある
緩徐発育性の無痛性腫瘍であり、外陰の片側腫大や膨隆を主訴に受診することが多い
術後の局所再発はほとんど見られない
病理学的所見
周囲との境界の明瞭な小型(<径5cm)の弾性軟の結節状病変で、径10cmを超える例も稀ながら報告されている
辺縁部にはしばしば薄い線維性被膜を伴う
細胞成分の粗密があり、密な領域ではしばしば拡張した小型で薄壁性の血管を取り巻くように、類円形上皮様の腫瘍細胞の増殖が見られ、粗な領域では浮腫状あるいは粘液腫状の豊富な間質を背景に類円形ないし短紡錘形細胞がまばらに分布する
腫瘍細胞は濃染性の核と好酸性の細胞質を有し、時に2核や多核の細胞も見られるが、核分裂像はほとんど見出せず、壊死もない
上皮様腫瘍細胞が連結した小集団を形成し、あるいは胞巣状に散在し、時に短紡錘型細胞が緩やかな束状に配列する(核の柵状配列が見られることもある)
約1割の症例では腫瘍内に成熟脂肪細胞を混在する
間質は時に硝子化を示すこともあり、肥満細胞がしばしば散見される
免疫染色では、半数以上の症例でdesmin陽性・actin陰性のパターンを示すが、時にはactinが陽性となる例もある(CD34やS-100蛋白は通常陰性)
性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)受容体の発現が認められる
透過電顕所見として、細胞内には粗面小胞体や小型のミトコンドリア、中間系フィラメント、飲み込み小胞が認められ、細胞同士が未熟な接着装置を介して隣接しているが、平滑筋の特徴の一つである電子密斑紋(focal density)は認められない
分子遺伝学的特徴
10q26における微小欠失によるMTG1::CYP2E1融合遺伝子が高頻度に検出される
鑑別診断
深在性(侵襲性)血管粘液腫 deep (aggressive) angiomyxoma
富細胞性血管線維芽細胞腫 cellular angiofibroma
表在性(頸管膣)筋線維芽細胞腫 superficial (cervicovaginal)myofibroblastoma
平滑筋腫 leiomyoma
炎症性筋線維芽細胞性腫瘍 inflammatory myofibroblastic tumor
備考
本腫瘍の構成細胞は、desmin陽性・actin陰性の特殊な筋線維芽細胞の分化を示すことが特徴的であり、エストロゲン・プロゲステロン受容体の発現も合わせ、外陰部から膣、子宮頸部の上皮下に存在するとされる特殊な間質細胞にその起源があるものと、疾患の記載当初から想定されている。なお、鑑別診断の一つである表在性(頸管膣)筋線維芽細胞腫も同様の分化と起源がみなされており、同腫瘍が通常CD34陽性である点を除くと両者において共通する特徴が多いことに加え、MTG1:: CYP2E1融合遺伝子も検出されている例も存在することから、今日これらは同一の疾患スペクトラムに属する腫瘍であると考えられている(Mod Pathol 34: 2222-2228, 2021)。