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基礎:粘液腫状変化 myxoid change
軟部に発生する腫瘍には顕微鏡下で青白く淡明な基質が目立つものがあり、そのような所見をしばしば粘液(腫)状と表現しています。今回はこれについて少し解説してみます。
粘液腫状変化とは
細胞外において、ムコ多糖として知られる糖鎖glycosaminoglycanがコア蛋白質に多数結合したプロテオグリカンからなる複合体(図1)が過剰に蓄積した状態が粘液腫状変化(あるいは粘液変性)として認識される
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なお、ムコ多糖には非硫酸化物であるヒアルロン酸や硫酸化物であるコンドロイチン硫酸やへパラン硫酸などの種類がある
肉眼では光沢あるいは透明感のあるゼラチン状の変化であり粘稠性を示す保水性に富み水分含量が多いことから、MRI検査ではT2強調画像で強い高信号(白色)領域として認められる
組織学的にアルシアン青染色やコロイド鉄染色で陽性を示し、ヒアルロン酸をその成分として豊富に含む場合には、ヒアルロニダーゼ消化試験で染色性が消失する
元となる細胞外基質は線維芽細胞等の間葉系細胞(腫瘍細胞)から産生され、細胞外に分泌・放出されると考えられるが、時に細胞質内に蓄積したかの様に空胞状となって見られることがある(偽脂肪芽細胞 pseudolipoblast:図2)
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プロテオグリカンは組織に弾性を与え、外界からの物理的刺激を減弱させたり、局所での細胞の足掛かりや種々サイトカインの保持としての役割、アンチエイジングなどの作用があると考えられている
主な粘液腫状軟部腫瘍:良性
cutaneous myxoma (dermal myxoma, superficial angiomyxoma)
nerve sheath myxoma
ganglion
intramuscular myxoma
juxta-articular myxoma
cutaneous myxoid cyst (digital myxoma)
superficial acral fibromyxoma
deep angiomyxoma (aggressive angiomyxoma)
ossifying fibromyxoid tumor
主な粘液状軟部腫瘍:悪性
myxoid liposarcoma
myxofibrosarcoma
low-grade fibromyxoid sarcoma
myxoinflammatory fibroblastic sarcoma
extraskeletal myxoid chondrosarcoma
粘液腫状を示すことのある軟部腫瘍
neurofibroma (良性)
nodular fasciitis (良性)
neurothekeoma (良性)
lipoma (myxolipoma) (良性)
spindle cell/pleomorphic lipoma (良性)
dermatofibrosarcoma protuberans (中間)
solitary fibrous tumor (中間)
inflammatory myofibroblastic tumor (中間)
myoepithelioma (中間)
leiomyosarcoma (悪性)
synovial sarcoma (悪性)
malignant peripheral nerve sheath tumor (悪性)
dedifferentiated liposarcoma (悪性)
粘液線維肉腫myxofibrosarcomaについて
<概要>
代表的な粘液腫状軟部肉腫である
高齢者で特に男性の四肢の皮下に好発する
多くは灰白色調状でゼリー状の結節状病変(径数~10 cm程度)を形成する
筋膜や皮下脂肪の線維性隔壁に沿って進展する傾向がある
組織学的に粘液腫状基質を伴って多少とも異型性を示す紡錘形あるいは星芒状の腫瘍細胞が、種々の程度に多形細胞を伴って散在性かつ疎に分布し、分枝屈曲あるいは円弧状となった小・細血管周囲に腫瘍細胞が集積する傾向を示す
なお、粘液腫状領域の割合や細胞成分の多寡・粗密、異型性の程度は症例によって様々である
細胞の異型性・多形性の程度や核分裂像の頻度、壊死の有無、細胞密度などを指標にして、腫瘍の組織学的悪性度を低・中・高度の3段階に区分している(図3)
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腫瘍細胞に線維芽細胞・筋線維芽細胞以外の特定の細胞への分化は認められず、腫瘍に特異的な免疫染色上のマーカーも存在しないが、α-smooth muscle actinやCD34が陽性となる例が存在する
複雑で多彩な染色体異常が見られることが多いが、特徴的な遺伝子変異は認められない
外科的切除以外には目下有効な治療法はない
組織学的悪性度にかかわらず術後の局所再発率が高い
<備考>
粘液線維肉腫myofibrosarcomaの名称は、1970年代後半にスウェーデンの病理医 Lennart Angervallらによって初めて使用されたものであり、彼らは腫瘍細胞の形態学的特徴から線維芽細胞への分化を示す肉腫、すなわち線維肉腫の一亜型という認識であった(Acta Pathol Microbiol Scand [A] 85A, 127-140, 1977)
ところがちょうど同じ時期に米国AFIPのSharon WeissとFranz Enzingerが、腫瘍の50%以上が粘液腫状領域である悪性線維性組織球腫(MFH)を「粘液型MFH」の名称で発表し (Cancer 39: 1672-1685, 1977)、その名称が世界的にある程度普及した後になって、実は両腫瘍名が同じ形態の肉腫を指していることが判明したことに加え、「MFH」には組織球としての特徴はなく誤った命名法であることが指摘されたこともあわせ(「未分化多形肉腫」の記事を参照)、粘液型MFHの名称はその後使用されなくなったという経緯である
なお、Weissらが当初粘液型MFHの診断基準として用いた50%以上の粘液腫状領域に対して、その後にThomas Mentzelらが採用した10%以上という基準が今日の粘液線維肉腫でのコンセンサスとなってはいるが(Am J Surg Pathol 20: 391-405, 1996)、いずれにしろ標本上で面積を実際に計測して判定しているものではなく、実際は曖昧かつ観察者の主観によるところが大きい
標本を観察して腫瘍内に粘液腫状の領域が確実に存在するという判断をもって診断するというChristopher Fletcherの考えを適用するのが現実的と言える
稀な粘液状腫瘍: ALK-positive myxoid fibroblastic tumor of the vocal cord
主に成人(若年から中年)の喉頭・声帯において小型(径1cm程度)のポリープ状を呈する病変で、組織学的には粘膜上皮下において、豊富な粘液腫状基質を背景に紡錘形あるいは星芒状の間葉細胞が疎に分布するが、細胞の異型性は症例によって様々であり、中には腫大した濃染性の核、明瞭な核小体をもつ神経節様ないし横紋筋芽細胞様の細胞が見られる例もあるが、核分裂像は通常観察されず、壊死もない 軽度の慢性炎症細胞浸潤と繊細な毛細血管を伴い、免疫染色ではALKがびまん性かつ高度に陽性となる 時にactinも陽性となるが、desmin、myogenin、CD34、S-100、CKは陰性である 分子遺伝学的にTIMP3::ALK融合遺伝子が存在する 以前には頭頸部に生じた炎症性筋線維芽細胞腫の中に含めて報告されているが(Am J Surg Pathol 45: 1707-1719, 2021)、その独特の臨床病理学的・分子遺伝学的特徴から独立した疾患単位とみなすべきとの意見もある(Virchows Arch 481: 721-729, 2022)
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