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実践:未分化(多形)肉腫について

軟部に発生する肉腫として「未分化多形肉腫」をプロトタイプの様にイメージする人、今でも少なくないと思います
今回はこの腫瘍を概要を説明していきたいと思います


定義

今日利用可能な種々の解析手法(例えば免疫染色や遺伝子解析など)を用いても明確な分化の方向を見出せない肉腫であり、多様な低分化ないし未分化な腫瘍で構成される腫瘍グループ(群)とみなされている
言い換えれば、徹底的な病理学的検索・調査によっても特定のタイプに分類できなかった肉腫の寄せ集めとも言える
ただし、特定の肉腫が脱分化したもの(例えば脱分化型脂肪肉腫)は除くことになっている(WHO腫瘍組織分類骨軟部腫瘍第4・5版参照)

組織分類

組織形態に基づき、以下の4亜型に分類される

  • 多形型(かつての多形型悪性線維性組織球腫に相当)

  • 紡錘形細胞型(いわゆる線維肉腫に相当)

  • 円形細胞型(ただし、Ewing肉腫などの特徴的な遺伝子異常を持つものは除外される)

  • 類上皮型

臨床的特徴

あらゆる年齢かつ身体の至る場所に発生する
その頻度は稀であるが、脂肪肉腫、平滑筋肉腫についで多いタイプの肉腫という報告がある
中でも多形型は高齢者に多く、円形細胞型は若年に多い
なお、他の腫瘍に対する治療として放射線を照射した後に発生する肉腫(post-irradiation sarcoma)の中の主なタイプ(約25% )とも言われている
高悪性度の肉腫であり、広範切除術の対象となる
効果が期待される特定の薬物治療はない
予後については、5年生存率が約76%と最近報告されている(Trans Cancer Res 11:678-688, 2022)

病理組織学的特徴

WHO腫瘍組織分類等の成書・文献を参照のこと
多少とも多形細胞を伴った異型細胞の増殖から構成される腫瘍であるが、しばしば炎症細胞を混じ、核分裂像が容易に観察され、壊死を伴うことも少なくない
免疫染色では、特定のマーカーの発現を認めないものの、部分的・局所的なαSMAやケラチン、CD34の発現は慣習的に許容範囲とされている
なお、組織形態上鑑別することのできない脱分化型肉腫と区別するためには、想定される腫瘍でのマーカーが陰性となることを確認しなければならない(例えば脱分化型脂肪肉腫で陽性となるMDM2やCDK4が陰性であることを確認する)

遺伝子異常

複雑かつ多彩な染色体・遺伝子異常が存在するとされ、中でも、VGLL3やYAP1、CCNE1、CDKN2A/B、PTEN、RB1、TP53、PRDM10の異常は繰り返し検出されているが、いずれも本腫瘍に特異的なものではなく、診断に応用可能な遺伝子異常は目下知られていない

歴史的経緯

本肉腫の疾患概念には歴史的変遷が存在している

1960年代に米国病理医のStoutらが提唱した悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma, MFH)の概念は、専ら光学顕微鏡及び電子顕微鏡観察による形態学的所見により打ち立てられたものであり、今日でも花むしろ様(storiform pattern)として知られる独特の配列パターンに特徴づけられる多形性肉腫に対して用いられたのである(Cancer 17: 1445-1155, 1964)

当時の培養実験では腫瘍細胞に貪食能や遊走能が観察されたとされ、それらの機能を持つ組織球がその起源と推定されたことから「組織球腫」という名称が使用されたわけであるが、花むしろ様の細胞配列は線維芽細胞などの間葉系細胞を培養する過程で普通に見られる所見であって特別なものではなく、その後の研究で腫瘍細胞に貪食能を含む組織球としての機能も認められないことが判明している

ところが1970年代の後半になり、米国AFIPのWeissとEnzingerにより、MFHが成人で最も高頻度(軟部悪性腫瘍の約25%)に見られる肉腫のタイプであることが報告(Cancer 41: 2250-2266, 1978)されたことをきっかけにこの名称が世界的に普及し、軟部肉腫の代表として知られる様になった
その後、Weissらによる詳細な形態学的解析により、MFHが多形型、粘液型、炎症型、巨細胞型の4亜型に組織分類されることも認識されるようになったのである

花むしろ様構造を示すMFH(Weissらの論文より)

一方、平滑筋肉腫や脂肪肉腫などの他の肉腫において、いわゆるMFHと極めて類似している組織像が少なからず観察されることが1980年代半ばから度々指摘されるようになり、そこにMFHの疾患としての独立性に大きく疑念を投げかけたのが英国病理医のFletcherである(Am J Surg Pathol 16: 213-228, 1992)

彼は従来MFHと診断された症例を免疫染色も加えてさらに詳細に解析することで、それらの多く(87%)を別の腫瘍に分類することが可能であったと報告し、狭義のMFHに相当する残りのものは多様な未分化肉腫の集団に過ぎないのだと主張した

この様な経緯から本来誤用でもあったMFHの名称を用いることが一部の研究者・病理医により敬遠される様になり、それに代わって腫瘍の本質を素直に表現した未分化多形肉腫(undifferentiated pleomorphic sarcoma, UPS)の名称が登場した
その名付け親でもあるFletcherが米国ボストンに異動してまもなくWHO腫瘍組織分類第3版(2002)の編纂を主導する立場となった関係もあり、その名称が次第に世界に広がったという訳である
なお、当時本腫瘍がそれまでのMFHと同様に線維組織球性腫瘍の範疇に含まれて扱われていたのは、極端な方針転換がもたらす影響を配慮したためなのかもしれない実際、この経過において整形外科医等の関係者に混乱が生じたことは言うまでもなく、 MFHとUPSの関係について臨床現場に理解が進むのには時間を要した

この様な業界の動きを押しとどめることはできずに、軟部腫瘍のバイブル的な成書であるAFIPの腫瘍病理アトラス第4版(2014)及びEnzinger&Weissの軟部腫瘍第6版(2014)でも共にUPSの名称を採用することとなり、それらの改版後もその名称のまま現在に至っている

なお、この様な歴史的経緯の間に、かつて粘液型MFHと称された腫瘍はその多くが以前にスェーデンの病理医Angerwallらが線維肉腫の一亜型として紹介していた粘液線維肉腫myxofibrosarcoma(Acta Pathol Microbiol Scand A 85A: 127-140, 1977)に該当するものと解釈されるようになり、今日では専らこの名称が用いられる様になっている(「基礎:粘液腫状変化 myxoid change」の記事参照)

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