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基礎:異型性(atypia/atypism)について
細胞には核と細胞質が存在します
正常細胞と比較すると腫瘍細胞は多少ともそれらにおいて形に違いが見られるのですが、その違いを私どもの業界では通常「異型性(atypia/atypism)」と呼んでいます
病理学の教科書には「正常細胞との乖離性」を指す用語として記載されており、その程度が著しいほど、「細胞の顔つきがよくない・悪い」と表現され、より悪性度の高い腫瘍を暗に意味しているものと考えています
では、なぜそのような形の違いが起こるのでしょうか
腫瘍細胞は遺伝子の変異の結果で生じる異常な細胞と今日では解釈されています
遺伝子の変異はタンパク質の質的・量的変化をもたらし、その結果細胞の形状やサイズに変化が起こると考えると理解しやすいでしょう
実際核や細胞質には極めて多くの種類のタンパク質が存在しており、時間と共にそれらの量や構造、分布などが刻々と変化しています
中にはタンパク質同士が結合したり、干渉しあったり、あるいは別の蛋白を分解に導いたりするものもあります
そのようなタンパク質の挙動は本来精緻に調節されているはずなのですが、腫瘍細胞ではそれが多少とも狂っているという訳です
さて、細胞に見られる異型性には以下のような内容・種類があります
核の大小不同
核の腫大
核の濃染性(H-E染色でより濃く染色される)
大型の核小体
核の形状不整
粗大なクロマチン
核の極性の乱れ(核の存在する位置の乱れ・不均衡)
核膜の肥厚
これらのうちいくつかは同時に認められることも少なくなく、その程度も腫瘍の種類や症例の違いによって様々です
組織標本の観察者(病理医)はこのような異型性の程度が強いか軽いのかによって、腫瘍の悪性度を判定しています
例えば、大腸に発生したポリープの実態(本質)が、良性腫瘍である腺腫(adenoma)なのかそれとも悪性腫瘍である腺癌(adenocarcinoma)なのかは、病変組織の腫瘍細胞に見られる異型性の程度の違いで通常区別されているのです(→病理組織検査・診断)
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なお、異型性という用語は個々の細胞に見られる所見(細胞異型と表現される)でもありますが、細胞がまとまり集団となった構築・構造上においても、正常構造との逸脱という意味で用いられる場合もあり、「構造異型」と呼ばれていて、悪性腫瘍(がん)ではその両方が認められることが一般的です
これらに加えて、腫瘍細胞の増殖能(スピード)を反映する核分裂像(分裂段階にある細胞を顕微鏡下で認識できる特徴)の頻度や異常核分裂像(下図)の有無も、その腫瘍の振舞い(生物学的態度とも表現される)を反映する指標として日常的に利用されています
特に前者は一般に強拡大10視野(10HPFsと表記)の面積あたり(最近では1 mm2での計測も用いられます)に認められる個数として評価され、その値が大きいほど腫瘍の増殖(発育)スピードが早いことを意味すると考えられます
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そのほかにも腫瘍の生物学的態度を反映しうる形の特徴として、多形性や腫瘍壊死の有無などがありますが、それらの解説は別の機会に行いたいと思います