記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

阿部智里の八咫烏シリーズに触れて1<『望月の烏まで読了』>


八咫烏シリーズが面白すぎる!


ここ10数年の間、小説をほとんど読まないできた私。なのにこの数ヶ月どっぷり浸かった小説がある。それは阿部千智の八咫烏シリーズ。
あまりの面白さに2回、3回と読み直した。
 
一番の面白さは作者の周到な罠である。
大概まんまとハマってしまう。
読み返すと、なるほどここにさりげなく入れている一文が後々のこのキャラクターの本音に繋がるのか、と思わずやられたと思い知らさる。恐るべきはその伏線のさりげなさと数の多さ、その必然性である。
時にその伏線は発行本を跨いで登場する時もままある。
恐るべし阿部千智。
 
この手の小説は時に策を弄するあまり独りよがりになりがちだが、そこは天才阿部千智。
キャラクターの描写や深層心理にブレがない。セリフ一つとってもこのキャラクターならそう言うと納得させられる。長丁場のシリーズなのに本当にすごいと思う。
 
巷にはこの八咫烏シリーズを考察するブログやXが溢れている。どれを読んでも楽しい。そして、読ませる力量が素晴らしいものばかり。読んでいるうちに私のつたない妄想を書き留めたくなった。八咫烏歴数ヶ月という新参者に楽しい考察ができるか不安だけど楽しみながら綴っていけたらと思う。
 
以下ここからは壮大にネタバレです。何ならネタバレしかないです。望月まで読んだ人、もしくは途中でも先を知りたい人のみ対象のnoteです。ご了承ください。
ネタバレを踏みたくない人はどうぞそのまま、そっとこのnoteを閉じてくださいね。それはないじゃない! と私の妄想に不愉快になっても許してね。
 

奈月彦は蘇る! (私の妄想ですよ)


 
まず真っ先に書きたいのは奈月彦は必ず生き還る! 再生する! (と思う)
奈月彦はエジプト神話に出てくるオシリスと妙に被る。オシリスは穀物の神として、エジプトの王として民の絶大な支持を得ていたがそれに嫉妬した弟のセトに殺される。その際遺体はバラバラにされた。それを拾い集めた妻イシスによりオシリスは復活したとも言われている。その後、成長した息子のホルスが父の仇を討ち王位も奪還した。
この神の死と復活は神話において冬枯れた植物が春には新たに芽生えてくるアポトーシスの象徴とも見られ、オシリスは別名植物神とも言われている。ちなみに小麦の栽培やパン、ワインの作り方を教えるという料理通でもあった。
 
奈月彦とかなり共通点が多い。奈月彦も料理好き、植物を操り結界の綻びを直す、優秀な子供がいる。身内に殺められる。バラバラにされた遺体。これらから奈月彦も復活すると断言するのにはロジックが弱いのは十分承知だが、奈月彦&雪哉が大好きな私としては、なんとしても復活して欲しい。そのためこの神話を阿部先生が参考にしてると勝手に信じる事にした。
 
奈月彦が細胞レベルでじわじわと来る復活の日のために過ごしている間、イシスとしての浜木綿は側にいて再生をしている奈月彦の魂を支えている気がする。
英雄と志帆がまるで音沙汰ないのも亡くなった奈月彦との絡みで新たな物語がそこにあるからではー
そしていつか復活する奈月彦は真の金烏として全ての記憶も取り戻すと思う。
 

雪哉と雪斎、あるいは博陸侯について

 
雪哉はなぜ雪斎となったか。
それは奈月彦が復活するまで山内を守り、貴族に好きなように政をさせないため。
そのために、四家に悟られないよう心を閉ざし来たる日のためだけに生きてきたし、山内のためにあらゆる策を講じた。

雪哉はいつ奈月彦の死とその後再生されるストーリーを知ったか?


 これを導くための伏線探しはそんなに苦労しなかった。
すみと桜を語る文章でも、作者はあたかもあせびと若宮のエピソードだろうとミスリードさせつつその実、すみと若宮のエピソードだったというギミックがあった。大天狗のマンションでベッドに倒れ込む雪哉。寝入ったところに訃報の電話がくる。そのすぐ後、雨の紫陽花の中で奈月彦と思われる人物が「どうして」と一言だけ呟くシーンがあるが、普通だったらその後の描写で同じシーンがある奈月彦と藤波のやりとりだと思うかもしれないが、私は夢枕に立った瀕死の奈月彦を見た雪哉が、思わずつぶやいた一言だと感じた。その後きっと奈月彦が自分がもう死ぬこと、死んだ後のことを雪哉に伝えたのではと思う。
 
夢に出た奈月彦は雪哉に「私は一度死ぬ。でもそれは肉体の死であってこの魂は山内のために必ず復活させよう。ただ、今の四家に皇后と姫を託せない。必ず逃し守って欲しい。」的なことを言ったと信じたい。
 
ただ遺言の一件があるまでは雪哉の頭の中でその夢のシーンはモヤがかかっていたのではと推測。何度も「何か大事なことを見落としている気がする」と思ったのはこの夢のシーンがはっきり思い出せなかったからでは?
 

雪哉は覚悟を決めた


雨に打たれながら庭を彷徨うように歩いている雪哉に声をかけた姫宮。その顔を凝視した後、その瞳の中に夢に出た奈月彦を鮮やかに見いだした雪哉。すべてを思い出した。その後に「私と、逃げては下さいませんか」と言ったのはこれから待ち受ける紫苑の宮の過酷な境遇が分かるだけに平凡な八咫烏として生きていく選択肢を選んで欲しかったに違いない。選ばないと分かっていても彼女を守りたくて言わずにはいられなかった雪哉。紫苑の宮も全てを理解した上でそれを拒否。その姿に雪哉も決心を固め、自分を鼓舞するように高笑いしたのでは。その後の振り切りはあまりに鮮やかだった。何をすべきか何を捨て去るか全て把握していたのだろう。
 
雪哉はこの命尽き、体朽ち果て、魂の最後の一片が消えて無くなるまで奈月彦に捧げると誓った身。何があっても奈月彦のために突き進む。奈月彦も決して自分を裏切らないと雪哉に予言していた。その言葉は真実だと思う。
敦房と同じように雪哉も美しい言い訳を身に纏った偽りの忠誠だったのでは、と言う解釈もあるだろうが、私の知る雪哉は敦房のようなうつけ者ではない。

敦房と雪哉の決定的な違い

敦房は自己矛盾に対して目を背けてきた。己の欲望の虜であったのにそれを忠誠という欺瞞の言葉で隠していた。でも雪哉は仮に己の中にそれを見つけた時それをよしとはしない。もし間違った方向に突き進む自分に気が付いたら、衝撃を受けながらも己を軌道修正できる能力と天賦の俯瞰力を持っているはず。それが雪哉だ。
そして敦房と違い、一度だって自分の欲のために忠誠を利用したこともない。

奈月彦はどのように滅びる山内を救うか


パターン1
滅び行く山内を人間界にも依存しない新たな異空間に奈月彦は移動させる。いわゆるパラレルワールドとして。新山内では奈月彦は新たな山神となり山内のために未来永劫守っていく。玉依姫は浜木綿だろう。
 
パターン2
再生された奈月彦の身体から蔓がのび、植物が生まれ、水が湧き出て土やありとあらゆる自然が新たに生まれる。奈月彦自身が新山内となるのでは。山内は滅び新山内が奈月彦から誕生する。奈月彦の魂からできた新山内は豊かな国となるはず。
 
新たな山内での雪哉
山内が平和なうちは金烏が生まれる必要もなくなる。雪哉はゼロから作られる山内にいつか再び誕生するだろうが中央に行くこともなく、本人が心から望んでいた垂氷の雪哉としてその人生をまっとうに歩み終える気がする。(ただの腕白で家族に愛され愛し、垂氷で一生を過ごす雪哉。想像しただけ泣けてくる)
同じ北領であるから、茂さんともいつか知り合いになるだろう。共に奈月彦のために戦ってきたことは思い出せないだろうが妙に気の合う友人となり、友情を深めていくだろう。(再び泣ける!)
 
新たな山内でまた貴族のような大きな権力を持つ階級が存在してくるかもしれない。外敵も現れるかもしれない。それらの存在が山内に危機をもたらすとき、再び金烏は誕生してくるだろう。奈月彦の記憶をもった新たな金烏は奈月彦そのものでもあるはず。また雪哉と再会して欲しい。

澄生と雪斎

 
澄生と雪斎の対立は、長束と奈月彦の擬似的対立構造と同じでは。
長束は『主は烏を選ばない』で敵対した立場と思われていた時、金烏を支えることが山内の安寧につながることになるならそれを望むと、いかにも裏があるような言い方をしつつ本音を語っていた。澄生も博陸侯が山内のため身を粉にして働いていると信じています、と暗に本当にそうであればいいのにというニュアンスで語っているが、長束と同じで、ところどころ本当を語っていると思う
搾取するだけの貴族社会を変えたい澄生と、貴族を心底軽蔑している雪斎。本来なら接点が多い上、ともに奈月彦という大切な存在を貴族達の我欲のため暗殺されている。
 
「雪哉は覚悟を決めました。ここでグズグズしていたら出遅れてしまいますぞ」と路近は言った(緑羽最後の方)。これは対立構造ではなく、覚悟を決めた雪哉と共に私たちも覚悟を決めようという共闘の言葉に聞こえる。澄生も戦うとは言っているが倒す相手は博陸侯とは言ってない。

長文になってしまったので続きは後日!

思いついたこと書き殴っていたら長文になってしまった!
だれも読んでくれないかもしれないけど、自分用メモとして記しておきます。
でもまだ書きたいことがいっぱいある。本を読んでいて後悔したこと、コミカライズについて、闇落ちした雪斎について、などなど。
後日また続きを書きます!

#阿部智里
#八咫烏
#雪哉
#ネタバレ
#烏は主を選ばない


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?