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「コロナ禍でも東京マラソンを実施する意義は何か」

TONOZUKAです。


コロナ禍でも東京マラソンを実施する意義は何か

以下引用

今週の日曜日(2022年3月6日)、東京マラソンが3年ぶりに「復活」する(注)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、この2年近くは様々なリアルイベントが中止や延期に追い込まれてきた。東京マラソンも例に漏れず、一般市民が参加するスポーツのイベントとしては国内最大級であるからこその苦悩もあった。医療提供体制の逼迫度が高まる中で、不要不急のスポーツイベントを実施する意義があるのか。東京マラソン財団で経営企画室長を務める酒井謙介氏に話を伺い、ランナーの1人として考えた。

(注)大会開催1カ月前以降に、行政機関から緊急事態措置等によるイベントの開催自粛要請が発せられた場合、大会を中止すると大会要項に書かれている。
まず、この記事はある程度バイアスがかかっていることを最初に示すのがフェアだろう。私は、ランニング愛好家だ。これまでにフルマラソンの大会に10回以上出場しており、いわゆるサブフォー(4時間以内に完走するランナー)にもなれた。ランニングを通じて友人の枠も広がり、私の人生を豊かにする上で欠かせない存在となっている。だからこそ、東京マラソンはぜひ復活してほしいと願ってきた。3万8000人のランナーが走る東京マラソンは日本最大の規模を誇る。その象徴的な大会が復活すれば、中止を余儀なくされてきた他の大会も、再開する機運が高まると期待している。

 ただ、世の中の大多数の考えは、自分とは異なることも自覚している。そもそもマラソン大会を実施すること自体、はた迷惑とお怒りの方もいるだろう。天下の公道を半日近くも占領するので、公共交通機関にも多大な影響を与える。ましてや、今はコロナ禍だ。2022年に入ってからオミクロン株による感染拡大が広がり、いまだに1日当たりの新規感染者は東京都で1万1794人、全国で6万8836人となっている(2月25日時点の7日間平均)。グラフ上は感染のピークが過ぎたように見えるが、重症患者や死亡者は今後も増える可能性が高い。医療提供体制は、依然としてひっ迫している。

 こうした状況下、批判的な人から「オマエら遊んでいる場合か?」と詰められたら、市民ランナーは首をうなだれるしかない。競技に真剣に取り組んではいるが、あくまでも趣味の延長でしかない。生活がかかっているプロのアスリートとは同列に考えるべきではない。それでも私は、東京マラソンは2022年3月に開催してほしいと心から願っている。それはランナーとしてのエゴだけではない。大げさに感じるかもしれないが、日本中が蝕まれている「ゼロリスク症候群」を解消する一大転機になると期待しているからだ。

2万円以上支払っても走る価値があるのか
東京マラソン財団で感染症対策を指揮する酒井氏は、正直に胸の内を打ち明ける。「このような状況でもやるのかというご批判は、財団にも直接届いている。一方で、よく決断してくれたと評価する声も少なくない。(2020年3月1日に開催した)2020大会は、東京オリンピックの日本代表の選考も兼ねていたので、エリートランナーだけで実施した。その後2年間、我々は一般の市民ランナーも参加する形での復活を目指してきた。ボランティアを含めたくさんの人が関わる大会なので、リスクをゼロにすることはできない。ならば、科学的な根拠に基づいて対策を徹底するしかないと考えた」。実際、東京マラソンは感染症の専門家の助言を受け、かなり入念な対策が施されている。

 対策はスタート前から始まっている。全てのランナーは、レースの10日前から必ず毎日、体温や体調などをスマートフォンのアプリで入力することが義務づけられている。1日でも欠けたら出場が不可となる厳しいものだ。さらに大会3日前(72時間前)から前日までに、東京マラソン財団が指定するPCR検査を有料(6800円)で受けることも義務づけられている。

 仮に検査で陽性となれば、無症状でも参加は認められない。その代わり、参加料(1万6500円)は全額返金され、2023年大会に参加する権利が与えられる。PCR検査をクリアしても、大会当日37.5度以上の体温がある人は参加ができない。要するに、感染者もしくはその疑いのある人は徹底的に排除される仕組みとなっている。

 マラソン大会で最も密になるスタート地点でも、対策に抜かりはない。今回はランナーの定員を3万8000人から2万5000人へと3割以上も減らし、走力に応じて12のブロックに分けてスタートする。スタートする時間も3回に分けるウェーブ方式を、東京マラソンとしては初めて導入した。目的は、「スタート地点でのフィジカルディスタンスを1人当たり1平方メートル以上確保するため」(酒井氏)。言うまでもなく、ランナーは走る直前までマスクの着用が義務づけられており、会話も控えなければならない。マスクを着用して周囲との距離を取っていれば、感染するリスクは満員電車の中より低いと言えるだろう(そもそもスタート地点に集まっている人は、PCR検査で陰性だった人のみだ)。
走っている最中はマスクを付ける必要はないが、ゴールしたらすぐに着用できるように携帯することが求められている。給水スポットも人が集まりやすいが、ゼッケン番号の末尾番号で指定されたテーブルでのみ給水できる。給食も切ったバナナではなく、あめやようかんなど個包装されたものに変更された。

 感染症対策は、ゴールしてからも続く。フィニッシュ後はすぐにマスクを着用し、完走メダルは自分でピックアップする。走り終わった後は仲間と一緒に写真撮影したいものだが、今回はすぐに帰宅するように求められている。多くのランナーは、フィニッシャーローブを身にまとい帰宅することになる。さらに、大会から2週間後の3月20日まで体調管理アプリの入力が求められている(陸連のガイダンス通り)。データがきちんと集まれば、大会を通じてクラスターが発生しなかったかどうかが一目瞭然となる。

 つまり2万5000人のランナーは大会参加料金(1万6800円)とPCR検査費用(6800円)を負担するだけなく(合計2万3600円)、3週間以上も体温や体調を報告しなければならない。さらに7500人のボランティアも、体調管理アプリへの入力が求められている。延べ3万2000人を超える関係者がコストと手間をかけて、大会を成功させようとしている。

熱量を持った人たちが協力すれば開催できる

 「たかがマラソンのために、そこまでやるの?」と冷たいツッコミが入りそうだ。ご指摘はごもっとも。マラソンに興味のない人なら、全く馬鹿げていると首をすくめるかもしれない。だが、ランニング愛好家からすれば、その価値がある大会なのだ。東京マラソンは新宿、浅草、銀座、東京タワーなど都内の名所を巡り、フラットなコースなので自己ベストが出やすい大会でもある。例年であれば、沿道に切れ目のない応援も続く(今回は道路上の応援は自粛するように求められている)。ランナーの思いもそれぞれで、「がんを克服した暁にレースに臨む人だっている」(酒井氏)。ボランティアの方々も多くはランナーで、自分は参加できないが大会の成功に尽力してくれる。

 視点を変えれば、別の効果も見えてくる。繰り返しになるが、東京マラソンはボランティアを含め3万人規模の人が集うリアルイベントだ。それだけたくさんの人が、大会を成功させるための熱量を持っている証とも言える。そしてこの「パッケージ」は、別のイベントにも当てはめることができるはずだ。
例えば、毎年10万人近くが集うフジロックフェスティバルは国内最大の野外音楽イベントだ。この2年間は開催が中止されたり、規模が縮小されたりしているが、元の盛り上がりを待望しているファンも多い。ならばアーティストだけでなく、観客も体調管理アプリを活用したり、事前にPCR検査を受けたりすればいい。条件をクリアした人だけが参加すれば、観客数を極端に制限することも、酒類の販売を自粛する必要もないはずだ。フジロックを復活させたい関係者の熱量があれば、それは十分に可能なはずだ。

 COVID-19パンデミックが始まってから、私たちは実に様々なことを我慢してきた。卒業式や入学式で、我が子の晴れ姿を見ることもできない親がいる。母校が甲子園や花園に出場できても応援に駆けつけられない人もいる。こうした「悲劇」は日本全国で今日も続いている。楽しみにしているイベントは人それぞれだが、準備の一環として体調を管理したり検査を受けたりすることに、もはや大きな抵抗はないのではないか。ワクチンの接種証明や、自治体が提供している無料のPCR検査なども組み合わせれば、追加でお金をかけなくてもリスクを十分に抑えられる。これは感染症の専門家も指摘していることだ。

ゼロリスク症候群への処方箋に

 新型コロナウイルスに感染した人は国内だけでも469万人、死亡者も2万2000人を超える。ウイルスの全容は未だ不明であり、今後どのような変異株が現れるかは誰にも分からない。それでも、私たちにはこれまでの2年間で積み上げてきたデータと経験がある。リスクはゼロにすることはできないから、科学的な根拠に基づいてリスクを管理するしかない。ゼロリスク症候群から抜け出さないと、この国はおかしなことになると私は真剣に心配している。

 話をマラソンに戻そう。ランニングに興味のない人の眼には、マラソン大会は無意味なものに映るだろう。それでも全国で数万人規模の感染者が出ている最中の2022年3月6日に、クラスターを発生させずに3万人規模の大規模イベントを成功させることができたとしたら、それは今後に生きるエビデンスになるはずだ。





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