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「新型コロナの経口薬、実用化前に押さえておきたい2つのポイント」

TONOZUKAです。


新型コロナの経口薬、実用化前に押さえておきたい2つのポイント

以下引用

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口薬の実用化が近づいている。経口薬は、薬剤の価格が比較的安く、投与に人手や時間がかからず、大量製造しやすいことから、新型コロナ対策の切り札の一つとして期待されている。英国では、2021年11月、日米欧の主要国で初めて、米Merck社(日本ではMSD)の経口薬が承認された。米国でも、Merck社や米Pfizer社が、経口薬の緊急使用許可(EUA)に向けて動いている。国内でも、政府が2021年内の実用化を模索している。

 世界では現在、COVID-19関連で約200品目の低分子薬(点滴薬なども含む)が臨床試験中の段階だ。そのうち、現在までに、グローバルでの臨床試験で一定のエビデンスが確認された経口薬は、Merck社が米Ridgeback Biotherapeutics社と開発している「Lagevrio」(モルヌピラビル/molnupiravir)、Pfizer社が創製・開発している「Paxlovid」(PF-07321332・リトナビル)の2品目に限られる。いずれも、重症化リスクを有する軽症から中等症のCOVID-19の患者を対象に実施された臨床試験で、あらかじめ予定されていた中間解析が行われ、一定の有効性と安全性が示された。

SARSをきっかけに開発進んだ3CLプロテアーゼ阻害薬

まずは、2品目の作用機序や創製の経緯をみてみよう。

 Merck社がRidgeback Biotherapeutics社と開発中の「Lagevrio」(モルヌピラビル)は、体内で活性代謝物に変換された後、RNA依存性RNAポリメラーゼに核酸アナログとして取り込まれ、ウイルスの増殖を阻害するRNAポリメラーゼ阻害薬だ。Lagevrioはもともと、米Emory University傘下の非営利企業である米Drug Innovation Ventures(DRIVE)社において、インフルエンザウイルス感染症などRNAウイルスが引き起こす感染症を対象に創製され、開発されていた。COVID-19に対しては、Ridgeback Biotherapeutics社がDRIVE社から権利を導入し、その後、Merck社と提携して世界中で開発を進めている。

 Pfizer社が創製・開発している「Paxlovid」(PF-07321332・リトナビル)は、3CLプロテアーゼ阻害薬のPF-07321332に低用量のリトナビルを配合した薬剤だ。同社は2002年から2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を受け、以前からコロナウイルスを標的とした3CLプロテアーゼ阻害薬の研究を進めており、これまでの研究成果を踏まえて新たに設計されたのが、3CLプロテアーゼ阻害薬のPF-07321332だ。低用量のリトナビルは、PF-07321332の血中濃度を維持する目的で配合されている。

臨床試験の概要と中間解析の結果は

 では次に、2品目の臨床試験の概要と中間解析の結果について振り返ってみたい。

 「Lagevrio」(モルヌピラビル)については、2020年10月から、日本を含めたグローバルにおいて第3相臨床試験(MOVe-OUT試験)が実施された。同試験は、入院をしておらず、少なくとも1つの重症化リスクがある、発症から5日以内のCOVID-19の軽症から中等症の成人患者(目標:1550例)を対象に実施された、ランダム化二重盲検化プラセボ比較対照試験である。被験者を「Lagevrio」群とプラセボ群に割り付け、12時間に1回、5日間(計10回)経口投与するデザインで実施された。同試験はグローバルで実施されたが、被験者登録は、ラテンアメリカで55%、欧州で23%、アフリカで15%で行われている。

 2021年10月1日に発表された、中間解析の結果は次の通りだ。中間解析は、同試験に2021年8月5日までに登録された775例の被験者を対象にしたもの。「Lagevrio」群の被験者がランダム化から29日目までに入院あるいは死亡した割合は7.3%(28/385例、うち死亡は0例)だったのに対し、プラセボ群の被験者が29日目までに入院あるいは死亡した割合は14.1%(53/377例、うち死亡は8例)となり、「Lagevrio」の投与により、入院や死亡のリスクが約50%低下した(P=0.0012)。

 中間解析で確認された有害事象の発生率は、「Lagevrio」群で35%、プラセボ群で40%と同等だった。治療物関連の有害事象の発生率も、「Lagevrio」群で12%、プラセボ群で11%と同等だった。有害事象による投与中止は、「Lagevrio」群で1.3%、プラセボ群で3.4%と「Lagevrio」群でより少なかった。Merck社は、中間解析で肯定的な結果が出たとして、独立データモニタリング委員会による推奨や米食品医薬品局(FDA)との協議に基づき、同試験への被験者登録を中止した。

「Paxlovid」(PF-07321332・リトナビル)については、2021年7月から、日本を含むグローバルにおいて、第2/3相臨床試験(EPIC-HR試験)が実施された。同試験は、入院をしておらず、少なくとも1つの重症化リスクがあり、 発症から5日以内のCOVID-19の軽症から中等症の成人患者(目標:3000例)を対象に実施された、ランダム化二重盲検化プラセボ対照比較試験である。被験者を「Paxlovid」群とプラセボ群に割り付け、12時間に1回、5日間(計10回)経口投与するデザインで実施された。被験者登録は、米国で45%が行われた。

 2021年11月5日に発表された、中間解析の結果は次の通りだ。中間解析は、同試験に2021年9月29日までに登録された1219例の被験者を対象としたもの。発症から3日以内の「Paxlovid」群の被験者がランダム化後28日目までにCOVID-19関連で入院あるいは何らかの原因で死亡した割合は0.8%(3/389例、うち死亡は0例)だったのに対し、プラセボ群の被験者が28日後までに入院あるいは死亡した割合は7.0%(27/385例、うち死亡は7例)となり、発症から3日以内の被検者への「Paxlovid」投与により、COVID-19関連の入院や死亡のリスクが89%低下した(P<0.0001)。発症から5日以内の被験者においても同様の傾向が認められた。

 中間解析で確認された1881例の被験者における治療関連の有害事象の発生率は、「Paxlovid」群で19%、プラセボ群で21%と同程度で、大部分が軽度だった。そのうち重篤な有害事象は、「Paxlovid」群で1.7%、プラセボ群で6.6%と「Paxlovid」群で少なく、有害事象による投与中止も「Paxlovid」群で2.1%、プラセボ群で4.1%だった。Pfizer社は圧倒的な有効性が認められたとして、独立データモニタリング委員会による推奨とFDAとの協議に基づき、同試験への被験者登録を中止した。

臨床試験のデザインには「微妙な違い」も…

 その上で、これらの経口薬については、押さえておきたいポイントが2つある。

 1つ目は、「2品目の経口薬の有効性は比べられない」という点だ。一部では、それぞれの中間解析の結果を挙げた上で、有効性を比較する記事なども散見されている。しかし、そもそも2品目を直接比較する臨床試験が実施されたわけではない。それに加えて、臨床試験が実施された状況がそれぞれ異なることも見逃せない。2品目はいずれも、グローバルで臨床試験が実施されたという点では共通するが、臨床試験が開始された時期も、多くの被験者が組み入れられた国・地域も異なる。そのため、流行株の状況にも、被験者の国・地域の医療提供体制にも違いがあり、そういった観点からも、有効性を比較するのは適切でないというわけだ。

また、2品目の経口薬の臨床試験のデザインには違いも多い。例えば、どちらの臨床試験の主要評価項目にも、「入院または死亡した被験者の割合」が設定されていたが、「そのうち入院した被験者の定義には違いがあった」とある業界関係者は指摘する。具体的には、「Lagevrio」の臨床試験では、入院の理由を問うていないのに対し、「Paxlovid」の臨床試験では、COVID-19関連での入院に限っている。中間解析データが詳細まで公表されていないことから、実際、こうした定義の違いが有効性にどの程度影響しているかは定かではないが、「臨床試験での詳細な定義まで含めてきちんと評価することが重要だ」(業界関係者)。

 2つ目は、「現時点で2品目の経口薬の臨床での安全性のデータは限られている」ということだ。今回は「Lagevrio」の臨床試験でも「PAXLOVID」の臨床試験でも、中間解析で有効性が確認されたことを受け、前述の通りどちらの臨床試験も中止されている。COVID-19のパンデミックという緊急事態の中、あらかじめ予定されていた中間解析で有効性が示されたことを考えれば、臨床試験が中止されたこと自体はやむを得ないと言えるだろう。ただ、いずれの臨床試験でも、中間解析での安全性の解析対象は、数百例、千数百例にとどまっており、「緊急事態でなければ、有効性が示されたとしても、安全性を担保するため、何らかの形で臨床試験の継続を規制当局から指示される可能性が高い」(業界関係者)。

 今後、EUAなどを受けた国・地域で、大規模な投与が実施され、中間解析では認められていなかったまれな副作用が明らかになることも考えられる。その意味では、市販後に患者へ投与されたときの有害事象のデータを、どのように迅速に収集して専門家が評価し、医療現場へフィードバックするかが、問われることになるだろう。日本でも、岸田文雄首相が経口薬について、「2021年内の実用化を目指す」と表明するなど、政府は経口薬の活用に積極的な姿勢を示しているが、市販後の安全性データの収集・評価についても忘れずに求めていきたいところだ。

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