見出し画像

酒と蕎麦と労働の日記 -蕎麦の話

幼少期に高松に住んでたこともあり基本うどん党だけど(一説によると香川県民1人あたりの年間うどん消費量は200玉弱らしい)、6~7年ほど前に旨い蕎麦を食べる機会が続きそれを機にすっかり蕎麦の虜になった。

その頃、前職の仕事の出張時に行ったのが静岡県島田市の「宮本」、先代時代の丹波篠山「ろあん松田」、今では月に1度は必ず通っている東京新宿区の「らすとらあだ」に初めてうかがったのも同じ時期だった気がする。

自分が好きなのは手挽きのいわゆる田舎蕎麦、蕎麦粉のグリーンな香りがフレッシュに鼻腔を抜けるようなもの。らすとらあだでよく出していただく、新蕎麦で手挽きのむせかえるような香り高い蕎麦がたまらない。さらに手狩り+天日干しだったりするとなおさら(通常はコンバインで刈り。とはいえ今時のコンバイン刈りは風味を守る技術がとっても進んでるらしい)。そんな極上の蕎麦のことを『緑の五本指』と評するのがマイ最上級褒め表現なのだけど、周りにはモラル的にアカンと止められているので、極上に当たると小さい声で「み、み、緑の五本指なんだな...」とニヤニヤ早口でつぶやいている(NIPPS育ち)


地方の名店と呼ばれる店に、間をあけていくと味が変わっていたり、評判のわりにお味が普通...ということもある。挽き方打ち方の技術はもちろん天候や湿度にも左右される蕎麦、お子さんや弟子に継いだ瞬間に味が変わってしまったり。過去にミシュランをとった鎌倉の某店の蕎麦はその日その日の天候でだいぶ味が違った。食べるこちら側の体調もあるだろう。

代変わりでいうと、(今ももちろん美味しいけれど)先代の蕎麦が好きだった「ろあん松田」なんかは、もうあの味は食べられないのかな~と思っていたところ今年の夏に旅の道中通りがかった京都久美浜で先代が再び「ろあん」名で店を開けてらっしゃると聞き喜び勇んで行ったらば、懐かしいあの美味しさでとてもうれしかった。独特のあのみずみずしさ、尊かったなぁ。

都心の蕎麦の名店などはその時々のタイミングでベストのそばを農家から仕入れることができるものの、田舎の蕎麦屋だとつきあいの深い同じ農家から仕入れを続けることも少なくない。農協の絡みなどもあるかもしれない。農家の方も高齢化や土地の変化が進み、そばの実のクオリティが下がったり安定しないという事態も起きたりする。
そうなっても田舎特有の血縁地縁のつきあいもあってなかなか仕入れ先を変えることもできず、蕎麦屋の味が変わっていくこともあるらしい。仕入れ先を変えるのも一因で店自体を移転したという蕎麦屋にも今年の頭に行った。そういうTHEテロワールなところも蕎麦の魅力だけど。

私のインスタ等をフォローしてる方におかれましては、「こいつのらすとらあだ投稿は見飽きたわい」とお思いでしょうが、最近「ら」以外にも通うお蕎麦屋さんができました。もともとらすとらあだを教えてくださったのは、私が20代の頃からいろいろ美味しいものを教えてくださり、わたくしめのコラムの編集もしていただいたこともある食のメンター、元小学館で今はフリーの編集者の稲垣伸寿さん。らすとらあだに住んでるんじゃないかレベルで開業直後からずっと通われている。

昨今いろんな食べログレビュアーやグルメハンター()がいるけれど、別に食べログ高得点の店に行きたいわけでもオシャレなガストロノミーに行きたいわけでもなく(そもそも私は胃が貧弱で洋のコースは完食できない)、自分好みの味や佇まいの行きたいお店となると稲垣さんの行動をマネしまくるに限る。そんな稲垣さんに今夏、連れていってもらったのが、大江戸線の中井駅そばの「green glass」だった。

店主の関根さんのご出身は静岡。まずは静岡おでんの蕎麦前と静岡の銘酒を楽しむ。私も数年間だけ静岡に住んでいたので、酒を飲みながらかつて住んでた場所をぼんやり思うのってなんとセンチになりいい酒のアテ。1時間ほど経つと、怒涛の勢いでいろんな産地の数種の蕎麦がでてくる。変わり蕎麦やあたたかい蕎麦のバリエーションも多くとても楽しい。

ベストな状態で蕎麦を楽しんで欲しい、とのことで店主の関根さんは、蕎麦を茹で始める前に「お手洗いに行くならいまですよ」と教えてくださる。酔っ払いにはありがたい配慮だ。あ~今夜も旨い蕎麦が食べたいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?