【ディスクのない時代のディスクレビュー】#01 Pinkerton / weezer (1996)
1996年リリース、weezerの2ndアルバム。
筆者所有のものは日本盤ですが、ロッキング・オン宮嵜さんのライナーノーツは紛失してしまいました。インナースリーブはマットな質感の紙で、中面のスタジオセッションの写真はクレジットを見るとSpike Jonze(バンドのPVをいくつか監督)撮影とあります。
サウンド的には1stアルバムのキメ細い整然とした音ではなく、荒々しく生っぽいライブ感ある録音・ミックスとなっており、歌詞はソングライターRiversの私小説的な独白が中心となっています。
日本で人気の高いアルバムになった
日本盤の帯コメントには「泣き虫パワーポップの最高峰」とアオリ文句がついていますが、カラっと明るいThe Cars直系の1stアルバムとは裏腹に非常に暗いアルバムでセールスも1stほどは振るわなかったようですが、下記のような理由から日本では非常に人気の高いアルバムとなりました。
・ジャケが安藤(歌川)広重「蒲原 夜之雪」の引用
・日本人の女の子からのファンレターをテーマにした曲(M5)がある
・リーダーのRIvers Cuomoが何故か日本で異常にモテた
などがあり、実際3つ目の件に関してはRiversは日本の雑誌インタビューでもファンの女の子とのアレコレを赤裸々に語っております。
Rivers「で、僕はそれまでの何日間か、かなりイラついていたんだ。だって毎晩部屋には15人も女の子がいるのに、実際には何も起きなかったんだからね。(中略)「この中の何人かは自分とセックスしたいんじゃないか?」とは思っていたんだけど(笑)自分でも実際の行動に移せなくてさ。(筆者所有の SNOOZER #003(リトルモア 1997年10月)より引用)
音楽雑誌のインタビューでもはや居酒屋トークの様相を呈していますが、アメリカの片田舎に育ったヘヴィ・メタル・ナードが異国の地でいざモテてしまうと、このように自制が効かなくなってしまうものなんでしょうか。
この時期の来日公演MCでもRiversは突然日本語で下ネタ(自主規制)を発し、あまりの脈絡のなさにオーディエンスは頭上に「???」マークを浮かび上がらせていました。そしてこの後バンドは、このアルバムのセールス不振、親友でもあるベーシストMatt Sharpの脱退(=サイド・プロジェクトであったバンドThe Rentalsへの専念)などがありしばしの沈黙期に入ります。バンドは以後もベーシスト交代が続き、安定しない時期が続きます。
このアルバムについて知らなかった3つのこと
今回noteにレビューを書くにあたり、このアルバムについて改めてジャケ裏のクレジットを読み込んで、海外版Wikipediaなどネットの記事も調べたところ、いくつか知らなかった(勘違いしていた)ことがありました。
1:「ピンカートン」とは何か
『蝶々夫人』(ちょうちょうふじん、Madama Butterfly, マダマ・バタフライ)とは、プッチーニによって作曲された2幕もののオペラである。(中略)長崎を舞台に、没落藩士令嬢の蝶々さんとアメリカ海軍士官ピンカートンとの恋愛の悲劇を描く。(Wikipediaより引用)
アルバムタイトルにも関わらず、思い切り重要なことをスルーしたままずっと聴いていました。Wikipediaの説明からも分かる通り、"海軍士官Pinkerton"はRivers本人の投影であり、"Madama Butterfly"は彼が求めた理想の女性の幻想であることは明らかです。そしてこれは特定の女性ではなく、あくまでイマジナリーな「概念としての女性」であるところがRiversの「こじらせ」に拍車をかけ、今後の彼の性格により暗い影を落とすことになります。このアルバムは「結局僕が思う女性なんてドコにもいやしないんだ、チクショウ」感に満ちた一枚とも言えます。
2:録音がTarbox Road Studiosだと勘違いしていた
これは、エンジニアにDave Fridmannがクレジットされていたことや、ドラムの音の質感が彼のサウンドメイクに非常に似ていると思っていたことからの思い込みでしたが、Tarboxは97年設立なのでこのアルバムより後であり、エンジニアも複数名がクレジットされており、録音も複数の場所で行われています。
3:"Songs from the Black Hole"というアルバムの存在
Songs from the Black Hole is an unfinished album by American rock band Weezer recorded between 1994 and 1996.
訳:Songs from the Black Holeはアメリカのロックバンドweezerが94-96年に録音していた未完のアルバムである
(Wikipediaより引用)
1stアルバムの後に計画していたロック・オペラアルバムの構想があったがお蔵入りになっていたことを初めて知りました。YouTubeを探せば音源もアップされています。"I Just Threw Out the Love of My Dreams" and "Devotion"など一部の曲はシングルのB面になり、"Tired of Sex" ",Getchoo","No Other One"は再録されPinkertonに収録されました。お蔵入りになった理由としては、足の手術のリハビリなどを経て精神的にも落ち込み、どんどん内省的・自己告白的になっていくRiversのソングライティングと作ろうとしているアルバムの雰囲気がマッチしなくなった結果のようです。
オペラ「蝶々夫人」のコンセプトをアルバムに持ってきたのはこの没アルバムからの名残でコンセプトアルバム的な側面をどこかに残したかったのかもしれませんね。
筆者所有のアルバムは学生時代からの何度かの引越しなどを経てケースが割れていますが今でも大好きなアルバムです。なお、ギターやベースをコピーされる方は半音下げチューニングですのでご注意ください。
補足:1996年にリリースされたその他のアルバム(Wikipedia調べ)
日本も海外も結構音楽的な転換期ですね。
・Hey Man / MR.BIG
・Odelay / BECK
・second toughest in the infants / UNDERWORLD
・Tigermilk / Belle and Sebastian
・Endtroducing...../DJ SHADOW
・Roots / Sepultura
・SWEET 19 BLUES / 安室奈美恵
・バンザイ / ウルフルズ
・Young Love / サザンオールスターズ
・LONG SEASON / フィッシュマンズ