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ラヴ・レター(チャプター1序章)
遠距離やっていた頃、まだ携帯なんてこんな状態じゃなかった頃。
付き合っていた相手が毎日手紙をくれた。
決して文系って訳でもないし、むしろその辺ぶっ壊れていた相手だったけど。
家族に反対されていたから、その手紙を破って捨てられていたこともある。だけど、時には日に3通。
最終的に、1年間の内に、その手紙の山は、段ボールに2箱程になった。
別れてからも捨てられなかった。
いつも最初にkazoo、ちゃんと食べているかって書かれていた。
実家にいるんだから食ってるよ。そう思いながらいっつもべそべそ泣いた。その書き出しで。
こいつと別れたら、きっと私は結婚もしないだろうし、子供も作らないだろうなあって思って、結局その通りになった。
意地張っていたのかなあとも思うけど、あれは私にとって、本物の恋愛であり結婚というものだったんだなあと思ったりする。
別れて6年程過ぎた後、突然、思い立って、その手紙を捨てた。全部。
ひょっとしたら、とっておいた方が良かったのかもしれない。
何せ、私の生涯の華だったんだもんね。
だけど、捨てた。
段ボールが詰まっていたスペースが空いて、母から「すっきりしたね」って言われた。
細かくちぎって破いたラブ・レターの山の事、時々思い出す。金釘流の下手な文字で「kazoo、ちゃんと食べてるか」って書かれていたあの便箋のこと思い出す。
相手の男が、幸せになっていて欲しいと言うと、「綺麗ごとすぎる」って友人からは言われたけれど、でも、あの下手なラブレターをきちんと受け止める女性と普通に幸せになっていてほしいって本気で思う。
多分、もう、町で会っても判らないんだろうな。
そんなもんだよな。
あれから随分時間が流れて、ああ、きっと私はあのラブレターをもらう自分に恋していたんだなあって思ったりするよ。
チャプター1
あの頃の事を思い出すと、なぜか微笑みがこぼれる。
決して楽しいことばかりじゃなかったのにね。
いや、むしろその最中は、結構苦しかったよね。
それでも、思い出すと微笑んでしまうのは、私の脳内で、「物語化」されてしまっているからかしら?
だとしても、16年にわたるあの会社での日々は、最終的に私に微笑みをくれたのだ。
そのことを、「幸せ」だと思う。
いつも行く小さな、でもちょっと不思議なテイストの、こ洒落た雑貨店だった。
入ってすぐの所には、凝った形のアンティーク、文字盤の数字が変わっている時計が、小さな箱型のディスプレイ棚の中に、行儀よく並べられている。
その一つを手に取りながら、わたくしは「あ~~、欲しいなあ~~」と、思わず声に出していた。
でも、そんなに簡単に買えるような値段じゃない。
「あ~~欲しいなあ~~~。」
「・・・海ちゃん、似合うのにね。」
「でしょう??」
時計と靴はお洒落の最終、そして最強ポイント。
この時計さえ手に入れば、今着ているY'sの白いブラウスに映えて、私のお洒落度数も2,3度は軽くUPするのに。
「海ちゃん、どうですか?」
店員の郁さんが聞く。
「う~~ん。今、仕事していないから、お金ないんだ~~。」
「あら、そうなの?」
「うん。前の会社、辞めちゃったから。」
以前勤めていた会社は、きちんとした会社だった。
とてもきちんとした会社。
制服があって、行事もきちんと。
6月30日には、従業員全員に水無月が配られる・・・そんな会社。
だけど、3年勤めて私はうんざりしていた。
私のボスである恩田さんが、社長の愛人であったこと。
別にそれは恩田さんの人生。
かまやしないんだけれど、社長の奥さんが会社に来るというたびに、情緒不安定になる恩田さんが、面倒くさかった。
「ちょっと!お茶の用意は出来ているの??」
ヒステリック恩田さん。
奥さんが帰れば、落ち着いて、
「・・・ちょっと私も厳しく言いすぎたかもしれないけど、でも貴方には会社のいろんなこと、早くみんな覚えて欲しいから・・・」
それは、恩田さんの取り扱い説明書を、早く覚えてってことだよね?
・・・めんどくさいなあ。
自分の気持ち位、自分でちゃんと面倒みてほしい。
そんな風に思ったのは、その頃の私が自分史上、最高の恋をしていたからだった。
私自身が私の気持ちを安定させるのに必死なのに、その上に貴方の面倒まで?
冗談じゃないわよ。
とにかく、この会社を辞めようと決めたんだ。
社長の所へ退職願を持って行くと、社長は目を丸くして
「恩田さんは、君が辞めたいと思っている事、知っているのかね?」と言った。
「いえ、まだ言っていないんですけど。
退職する日にちが決まってから、きちんと報告した方がいいのかなと思いまして・・・。」
「そりゃ、いかん。君、そりゃいかんよ。」
そう言って、社長は恩田さんを呼んだ。
ニコニコと社長室にやってきた恩田さんは、私がいるのを見ると怪訝な顔をした。
社長が「八木君が、辞めたいって言っているんだが」と言うと、みるみるうちに彼女は「ヒロイン」に変身した。
「私が至らなかった?」
「妹のように、可愛がっていたつもりだったのに。」
「せめて、もう1年。」
NO!NO!NO!NO!!!
恩田さん、悪いけれど、貴方の取り扱い説明書に、注意書きを加えていく作業をこれから1年続けていくなんて、真っ平。
だから、「社会人」の私は、にっこり微笑みながら言った。
「恩田さんには、報告するの本当に心苦しかったんです。
本当に妹以上に可愛がってもらいましたから。
・・・でも、ちょっと家庭の事情で・・・すみません。勝手なことを言って。」
「無事」退職した日、私は本当に可愛がってくれた、営業のおじさんや、現場のおじさん達に頭を下げまくって、門を出た後、大きく大きく深呼吸をした。
「自由だーーーー!!!」
もう、二度とこの門をくぐることはない。
やったね!。
ああ、なんて清々しいんだろう。
もう一度大きく深呼吸をして、私はニヤニヤ顔を普通顔にしようとした。
ちぇっ!
顔が戻らないや。
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