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父の一言

それはまだ
父が元気で
わたくしが勤めていた頃の話。

「くだらんッ!!!」

その一言で
観ていた音楽番組やバラエティはスイッチを切られた。

彼と一緒にTVを見るのは
彼がOKを出した番組のみで
殆どがNHK。

動物番組やニュースは、それなりに面白かったけれど

わたくしはやっぱり
「くだらない」番組が観たかった。

けれど、彼の顔色を見ながら
観るのは、妙な緊張感を伴って・・・そんな父が好きだったのが
「歌舞伎」。

で、それ程に好きならと
ある年の父の誕生日

わたくし、歌舞伎のチケットを2枚ゲットしたのだった。

席は花道のすぐ横。

いい席をおさえるのに
わたくしなりに頑張った。

「お前、そんなん買ったんか」
って、部長に驚かれながら、実際歌舞伎って高いよなあ~~なんて思いながら、父の誕生日のプレゼントにって、渡したのさ。

まあ、
「ありがとう」なんて
当然なくて。

いつもの如く
「そうか」って言われただけでさ

それでも、わたくしは
「これだけのことをできる自分になれた」って、自己満足バリバリ。

今思えばちょっと・・・だけど

(ほんとにさ
プレゼントやったからって、一人前なんて、とんだ勘違いだったことに
気が付くのは、もっとずっと後の事。)

まあそんな風だった。

で、その2枚のチケットは
父と母の2人にって気持ちだったんだけど

母は

「私は、歌舞伎、あんまり好きじゃないのよ。
貴方が行けば??」

え?

父と一緒に???

えーーーーーッ???

・・・でもせっかくの高いチケット
勿体ないしな。

そして2人で出かけたんだ。
出かける事になったんだ。

初めての観劇で、わたくしはキョロキョロ。

「まずはパンフレットを手に入れるんだ」

「そうなの?」

席について、演目が始まって
すぐにわたくしは夢中になった。

歌舞伎なんて古臭い
何が面白いんだろうと思ってた自分を恥じた。

な~~んてPOPなんだ!!
日本ってPOPだ!!

「面白い!!!」

全てが終わって
余韻でぼーーっとしながら
帰り道
暗い夜道を
歩いた。

父も
わたくしも
あまり喋らずに
歩いていたら

父が

「・・・席が良かったから、
良く見えたな。」

なんだか
泣きそうになった。

あの
暗い帰り道

思い出すたび
切ないような嬉しいような複雑な気持になる。

わたくしの遠い
父の
大事な思い出。




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