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w√OCEAN覆面リレー小説 紅組5

「着いたよ」

私は弟に声をかける。彼はいつの間にか隣で眠ってしまっていた。
眠たい目をこすりながら聞く。

「ここどこ?」
「まあとりあえず中に入ればわかるからさ」

そう言って私たちは、目の前の建物の中へ入っていく。ドアがカランコロンと音を鳴らす。
外の造りはずいぶんと古いが、中は改装されたのか、それほど古さを感じさせなかった。
昔ながらの喫茶店。奥のサイフォンが目に留まる。

「いらっしゃい」

サイフォンから店主が顔をのぞかせた。店主の温かみのある声に導かれるようにして私たちは椅子に腰掛ける。
座るや否や、メニューを広げる。まあ初めから注文するものは決めていたんだけど。
私はその予め決めていたものを、弟の分とふたつ注文した。

注文したものがふたつ、私たちのテーブルに並ぶ。
透き通った空色の飲み物に乗せられた、丸いシルエットをしたアイスクリーム。そしてその上にちょこんと乗せられたさくらんぼ。全部が私の好きなものだ。昔から青色が好きだった。中でもいかにもという感じの青よりは、パステルがかった青色、まさに空色が好きなのだ。そしてその上のバニラアイスと空色の飲み物が私の大のお気に入りだった。

「どうしてクリームソーダを注文したの?」「この透き通った青から見る景色が好きなんだ〜」

弟はグラスを持ち上げて、顔に近づけた。

私は幼いころから空の向こう側、もっと奥の世界をのぞいてみたかった。自分の知らない世界に広がるものを想像してはワクワクしていた。きっとそこは宇宙なのかもしれないが、私たちは宇宙を簡単にのぞくことはできない。

でも、この空色の飲み物を通してならいつもと違う景色や世界を見ることができる。透き通った青色から見える景色が好きなのだ。そうすることで自分の知らない空の向こう側を知ることができるような気がしていた。

「きれいだね」
「でしょ、ずっと見てられる」

私たちはそれらを飲み干し、お会計を済ませ、店を出た。外は少しだけ明るさを取り戻していた。早く戻らなければ、両親にうるさく言われてしまう。特に今回は弟も一緒だ。火種をつくることは避けたい。

「さ、帰ろうか」

私たちは車に乗り込み、喫茶店を後にした。
道中、そういえばなんで家出したんだっけ、と考えていると弟が

「次ヤツが食卓に出てきたらどうする?」

と、聞いてきた。あぁそうか、とオレンジ色のソレが頭をよぎった。

「そのときはそのときでまた考えるよ」

またこうやって家出するのも少し楽しいかも、なんてことを考えながら私は家へと車を走らせた。

僕の言葉が君の人生に入り込んだなら評価してくれ