「CLS」ってなに?
皆さん、こんにちは。今回のすくナビ担当はCLSの上田です。
今回はいつもと少し趣向を変えて、病院で働く職種のお話で、“教えて!近大先生~CLS編”です。
今回のご質問です。
「7歳の女の子です。今度、心臓の手術を受けるために入院します。病院にCLSさんという方がいると聞きましたが、どんなことをしてくれるのですか?」
順番にお話ししていきましょう。
「CLS」は、Child Life Specialist(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)の略称です。医師や看護師のように、小児医療現場で働く職種のひとつです。
病院で、子どもに何かしらの頑張りどころや困りごとがあるとき、
一緒に相談をしたり作戦を立てたりして、もうちょっとうまくいくようにお手伝いする人。子どもたちには、例えば、そんなふうに案内しています。
では、「CLS」について、3つに分けて、お話ししましょう。
① 「CLS」が生まれたわけ
医療にかかる子どもの人権に、目が向けられるようになってきたためです。
② 「CLS」のおしごと
子どもが病院で体験することについて、子どもの目線で手助けをします。
③ 「CLS」になるには
専門課程のある北米の大学や大学院を卒業し、認定試験に合格します。
① 「CLS」が生まれたわけ
近年、医療は目覚ましい発展を遂げています。
以前なら生きられなかったような子どもも、医療の助けによって、長く生きられるようになってきました。
一方で、過酷な治療が強いられ、心に傷を負う子どもも増えてきました。
時を同じくして、国連は、世界中すべての子どもがもつ人権について定め、
遊ぶ権利、教育を受ける権利、参加する権利など、様々な子どもの権利を認めました。
ひと昔前は、我慢して大人に従うのが良い子とされていましたが、
こうした社会情勢のなか、病院にいる子どもも、子どもにふさわしい方法で理解を促され、意見を言い、対応を求めることができ、
そうすることで、子どもなりに心の準備をして医療に臨むことができる、と考えられるようになってきました。
医療のなかで、そうした子どもの権利を護る存在として、CLSが生まれたのです。
② 「CLS」のおしごと
大まかに言いますと、次の通りです。
*子どもの必要性に応じた様々な遊び*
子どもは、遊びを通して、物事を学んだり、感情を整えたり、意思を伝えたりします。
ひとりひとりの必要性に応じて、そうした目的に沿った遊びを仕掛けます。
*医療体験に対する心の準備と対策*
病気そのものや治療の進め方を理解するとき、あるいは検査や処置を体験するとき、それぞれの子どもの発達や状況に応じて、その子に必要なだけの情報を整理して伝え、気持ちのうえでの準備と対策を行います。
*苦痛の緩和*
子どもの気持ちのためだけに、そこにいて、子どもに届く刺激や、子どもが向ける注意をコントロールすることで、頭のなかが、痛い!怖い!でいっぱいになってしまわないようにサポートします。
一例を紹介しましょう。
子どもの心臓カテーテル治療は、専用のお部屋で、麻酔をかけて行います。
大人は「寝ているだけ」と言いがちですが、眠りに辿り着くまでの不安や恐怖に耐えられない子どももいます。
こう感じる子どもがいるかもしれません。
家族から引き離され、大きな機械が勝手に動いたり、警告音が鳴ったりする部屋に連れて行かれる。知らない人に囲まれて、身包み剥がされて、身体じゅうにシールやテープを張り巡らされる。
子どもにとっては、痛そうな、怖そうなことが詰まっているのです。
CLSは、そんな子どもと、それぞれの背景や発達レベルに応じて、これからどんな体験をするのかを写真や模型を使って追いかけながら、ときに本物の酸素マスクやモニタシールを用いて予行演習をしたり、ときに嫌いなポイントを乗り切る作戦を練ったりしておきます。
そして当日、子どもが選んだ作戦に従って、DVDをスタンバイしてエレベータに乗ります。
治療室では、小児科医は心電図をチェックし、麻酔科医は麻酔器をセットし、看護師は物品を準備し、技師はモニタを操作するなかで、CLSは、ずっと子どものそばにいて、子どもが何を見ているか、何を聞いているか、何を感じているかを見守り、いま何をしているかを伝え、痛そうなものや怖そうなものが近づかないようにアレンジします。
子どもは、DVDを観たり、お話ししたりしながら過ごしていると、だんだん眠たくなってきて…、
そして、眠りに辿り着くのです。
病院では、医師、看護師、技師、療法士など、様々な医療を担う人たちが働いています。どの人も、うまく検査や治療を施して、子どもたちが少しでも気持ち良く過ごせるよう力を尽くしています。
それでも、医療環境のなかに置かれた子どもたちには、痛いことに腹が立ったり、分からないことを不安に思ったり、いつもと違う環境が嫌になったりと、様々な感情が湧いてきます。
そうしたときに、遊んだり喋ったりすることによって、子ども自身が苦痛や負担を減らせるよう手助けする人が、CLSです。
③「CLS」になるには
米国に本部を置くAssociation of Child Life Professionalsによって認められた専門課程を経て、認定を受ける必要があります。
日本人がCLSになるには、養成課程のある北米の大学や大学院に留学し、インターンとして病院で勤務したのち、認定試験に合格する、という流れが一般的です。
認定期間は5年です。その後は、定期的に試験に合格するか、研修に参加するかして、再認定を受けるようにしていきます。
病院が、子どもにとって少しでも痛くない、怖くない、楽しいものになるよう、CLSは他のスタッフと協力しながら、出来る限りのサポートをしたいと思います。
ここまでのお話で「Child Life Specialist(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)」という職種についてご理解いただけましたでしょうか。
近畿大学病院小児科・思春期科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。
参考資料:
元気になってねフェンディ—子ども病院のチャイルド・ライフ・スペシャリスト
大塚敦子 写真・文
小学館
医療を受ける子どもへの上手なかかわり方[第2版]
原田香奈、相吉恵、祖父江由紀子 編
日本看護協会出版会
子どもの権利条約(日本ユニセフ協会ウェブサイトより)
https://www.unicef.or.jp/crc/
Certified Child Life Specialist(Association of Child Life Professionalsウェブサイトより)
https://www.childlife.org/certification/become-certified