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「RSウイルス感染症になったらどうなるの?」

皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、令和6年度から編集メンバーに加わりました永谷奈央です。よろしくお願いします。
 
今回は“教えて!近大先生〜感染症編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問は…「RSウイルス感染症になったらどうなるの?」です。
答えは、
RSウイルス感染症は「2歳未満の子どもでは発症から1週間前後で呼吸がしんどくなり、乳児では哺乳もできなくなって入院が必要になることがある病気」です。

以前にRSウイルス感染症と気管支喘息の関連の記事を掲載しました。
                                                                                                                                                                                                                           今回はRSウイルス感染症に関して
①RSウイルスとは?
②RSウイルスに感染すると?症状は?
③どんな治療をするの?
④どうやって対策と予防をするの?
の4つに分けて詳しく説明していきたいと思います。
 
では順番に解説していきます!

①RSウイルスとは?

RSウイルスは感染者の鼻水や痰、触ったものなどに触れることが原因で感染します。初めての感染は2歳までにほぼ100%の乳幼児が経験します。毎年流行期があり過去に一度かかったことがあっても感染を繰り返します。流行の時期は冬から春にピークが来るとされていましたが、最近では秋や夏にもみられることもあります。診断には迅速キットを使用し、1歳未満の児は保険適応で検査ができます。

② RSウイルスに感染すると?症状の経過は?

RSウイルスに感染すると3~5日の潜伏期を経て発症します。発熱、鼻水、咳、のどの痛みなどの上気道の炎症から始まり、2~3日この症状が続きます。そのあと鼻水、痰などの分泌物が多くなり、痰が絡んだ咳、喘鳴(ゼーゼー)、呼吸の回数が増える、呼吸が浅くなる、肋骨の間がへこむ陥没呼吸などの下気道の炎症がみられるようになります。これらの症状はピークの時期に起こり、ピークは4~5日続き、哺乳不良なども出てくる場合があります。ピークを過ぎると、後は回復に向かいます。ピークの症状には個人差があり、入院が必要な場合もあります。1歳未満の約60%、2歳未満の約85%が入院で治療が必要となります。特に生後1か月程度の乳幼児では無呼吸発作を起こし致命的となることがあるため注意深く呼吸状態を観察することが必要です。生後6か月以内では気管支炎や細気管支炎あるいは肺炎、無気肺を合併することが多く、これも入院治療が必要となります。
ただし、これらの症状はある程度の月齢であっても、早産児、肺・気管支の形成異常がある児、先天的に心臓疾患がある児、免疫不全・代謝異常・神経筋疾患などの基礎疾患がある児、ダウン症児などでは症状が重症化する可能性があり特に注意が必要です。

③ どんな治療をするの?

特効薬はなく、対症療法が基本となります。
ⅰ)内服治療
  去痰剤、抗アレルギー剤などの内服をします。 

ⅱ)吸入薬
  去痰を促すものや、気管支を広げる吸入をすることがあります。 

ⅲ)呼吸補助
日中・夜間に血中酸素飽和度がさがり酸素投与が必要な児には鼻カニュラや酸素シャワーで酸素投与をします。感染が細い気管支におよぶと細気管支炎を起こします。症状がピークとなり痰が増えると、細気管支での酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、血中に二酸化炭素が溜まります。その場合は高流量鼻カニュラ(HFNC:High Flow Nasal Cannula)という機械を使用して肺での酸素と二酸化炭素の交換を助けます。この機械を用いると、加温と加湿ができるため空気の通り道が乾燥するのを防ぐこともできます。HFNCを使用しても無呼吸発作を繰り返す場合や、二酸化炭素の溜まりが増悪する場合は、気管内挿管による人工換気療法を行う場合もあります。   

④ どうやって対策と予防をするの?

家庭での予防対策としては、こどもたちが日常的に触れるおもちゃ・手すりなどをこまめにアルコールや塩素系の消毒剤などで消毒しましょう。流水・石鹸による手洗い、アルコール製剤などでの手指衛生も大切です。マスクが着用できる年齢であれば咳鼻の症状がある子がいる場所ではマスクをすることで予防できることもあります。重症化リスクのある児は条件を満たせば、保険適応で下に記載している抗体製剤を使用できます。

●「パリビズマブ(シナジス®)」…重症化リスクがあるとされている基礎疾患のある児に対して、重症化を防ぐために開発された抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体の注射製剤です。早産出生や心疾患があるなど、適応条件を満たす児は流行期の前から月に1回接種をすることが推奨されています。
●「ニルセビマブ(ベイフォータス®)」…重症化リスクがあるとされている基礎疾患のある児に対して2024年3月に承認された新しい抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体の注射製剤です。適応条件を満たす児は生後初めての流行期に1回接種することでおよそ半年間重症化を防げます。ニルセブマブは重症化リスクのない新生児、乳児にも投与できますが、その場合は健康保険が使えません。実は50万円近くするお薬なので、現実的ではありませんね。
一方で、2024年5月からRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®)の接種が可能になりました。24から36週の妊婦さんに1回接種してお母さんに抗体を作ってもらい、その抗体が胎盤を通じて胎児に移行することで出生後の赤ちゃんのRSウイルスによる下気道疾患を予防するものです。こちらは24から36週のほとんどの妊婦さんが適応になります。費用は自費で3万円前後かかりますが、赤ちゃんがRSウイルスにかかって辛い思いをしたり、通院したり入院したり、そのためにご家族が仕事を休むことを考えると接種して損はないと思います。また、費用の助成を行う自治体もあるので、お住まいの市町村などのHPを調べてみてください。
 なお、このワクチンの接種を受けたお母さんから出生した赤ちゃんに抗RSウイルス抗体の注射を投与した場合の副作用については、現時点では明らかではありません。

ここまでのお話で、「RSウイルス感染症になったらどうなるの?」についておわかりいただけましたでしょうか。ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
 
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。
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参考文献:
1)    RSウイルス感染症×パリビズマブ DATA BOOK
2)    健康ぷらざ 日本医師会 No.501
3)    厚生労働省 RSウイルス感染症Q&A
4)    ベイフォータス医薬品情報 
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00071367
5)    シナジス医薬品情報
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00061251
6)    アブリスボ医薬品情報 
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00071224


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