「泣いた時におへそが膨らむ−臍ヘルニア 」
みなさま、こんにちは。すくナビ編集長の和田紀久です。
今回は“教えて!近大先生〜乳児編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。
今回のご質問は、2か月の男の子のお母様からいただきました。
「泣いた時におへそがピンポン球のように膨らみます。これ、でべそでしょうか?」
早速ですが結論です。
「これは臍ヘルニアですが、将来でべそになることがあります」となります。
こうお答えした理由を3つに分けて説明します。
1. 腹圧が上がった時に、おへその下にある筋膜の隙間を腸管が通り抜けておへその薄い皮膚の下に潜り込み、おへそを膨らませるのが臍(さい)ヘルニアです。
2. 成長して筋膜がしっかり閉じると起こらなくなります。
3. おへその膨らみが大きい場合、筋膜が閉じて腸管が潜り込まなくなった後も伸びてしまったおへその皮膚が残ることがあり、これが「でべそ」と呼ばれます。
1. 腹圧が上がった時に、おへその下にある筋膜の隙間を腸管が通り抜けておへその薄い皮膚の下に潜り込み、おへそを膨らませるのが臍(さい)ヘルニアです。
臍帯(臍の緒)の中には血管が通っていて、胎盤から酸素を含む血液を胎児のお腹の中の太い血管に運んでいます。だから、胎児や出生直後の新生児のお臍の下の筋膜にはそれら血管を通すために隙間が必ずあります。多くの赤ちゃんではこの隙間は大きなものではなく、泣いて腹圧がかかったからといって腹腔内の臓器が通り抜けることはありません。しかし、早産で生まれた赤ちゃんなど、一部の乳児では隙間が大きく、腹圧がかかった時に腸などの臓器が隙間を通り抜けておへその中に潜り込んでおへそを持ち上げてしまうのです(図1)。これは臍ヘルニアと言われます。
2. 成長して筋膜がしっかり閉じると起こらなくなります。
多くの場合、おへその膨らみは大きいものではなく、また、数か月で自然に筋膜が閉じて、おへそは膨らまなくなります。少ないですが幼児期や学童期まで臍ヘルニアが続き、手術が行われる例もあります。また、極めて稀に、おへそに入り込んだ腸管が筋膜の隙間に圧迫されて血流が悪くなり、むくんで腹腔内に戻らなくことが起こり得ます。これが嵌頓(かんとん)ヘルニアです(図2)。嵌頓しても多くは指で丁寧に押して、ヘルニアの内容をお腹の中に戻すことができますが、戻らなければ浮腫が進んで臓器血流が途絶し腸管の壊死を生じる可能性があります。そうなると腸管を切除する手術が必要になります。嵌頓ヘルニアは、むしろ筋膜の隙間が狭い時に起こりやすいといわれます。
3. おへその膨らみが大きい場合、筋膜が閉じて腸管が潜り込まなくなった後も伸びてしまったおへその皮膚が残ることがあり、これが「でべそ」と呼ばれます。
臍ヘルニアが大きく、膨らんでいた期間が長かった場合、筋膜が閉じて腸管が潜り込まなくなっても、引き伸ばされて余った皮膚が残ることがあります。これが俗に「でべそ」といわれる状態です(図3)。臍ヘルニアは「でべそ」ではなく、臍ヘルニアがあれば必ず「でべそ」になるわけでもありません。
「でべそ」が残っても見た目以外に問題はありませんが、通常自然に治ることはないため、気になるなら形成外科、あるいは小児外科で余った皮膚を切って縫い縮める手術が選択されます。
大きな臍ヘルニアの場合には「でべそ」になるのを防ぐ方法もあります。おへその窪みに綿球などを詰め込んで強く圧迫し絆創膏で固定するのです(図4)。昔は綿球ではなく「5円玉で押さえる」ことがあったそうです。ひいおばあちゃんが勧めてくると質問されるお母様もおられますが、硬い素材だと薄い皮膚を傷つけ、下手をするとお腹の中に感染が起こってしまう心配があるのでお勧めはできません。
圧迫に使用するのはドラッグストアで普通に売られている綿球と絆創膏ですが、数週間交換不要な防水性の大判のシールで覆うのも良いでしょう。医療機関では臍の圧迫専用のキットを使う場合もあります。また、ネット通販でも買える臍の圧迫専用の市販品もありますが、筆者に使用経験はありません。いずれにしてもテープ類を使用する以上はおへそ周囲の皮膚のかぶれは避けられません。赤みが強い場合は数日間固定をお休みするのが良いでしょう。圧迫をした方が良いのかどうか、どう圧迫すれば良いかなど、一度はお近くの小児科で相談してみて下さい。
ここまでの話で「泣いた時におへそがピンポン球のように膨らみます。これ、でべそでしょうか?」に対する回答が「これは臍ヘルニアですが、将来でべそになることがあります」となった理由をお分かり頂けたでしょうか。
ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
近畿大学病院小児科・思春期科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。
和田 紀久
参考文献:
黒田征加 4. 臍ヘルニア、臍肉芽種. 窪田昭男/奥山宏臣編、最新新生児外科学、234-237、ぱーそん書房(東京)、2019.