「学校検尿のたびに受診を指示されるのですが、腎臓の病気でしょうか?」
皆様こんにちは!今回のすくナビの担当は、腎臓疾患担当の森本優一です!
今回は“教えて!近大先生~尿検査編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。
今回のご質問です。
「小学生の長男が学校検尿のたびに受診を指示されるのですが、かかりつけの小児科で検査しても『問題ないので様子を見ましょう』と言われます。腎臓の病気ではないのでしょうか?」
尿検査で何度も異常があると言われると「腎臓の病気かも」と心配になりますよね。
早速ですが、結論からいうと、
「検尿異常」=「何らかの腎臓の病気」かというと、そうでもありません。しかし、受診して詳しい検査を行うことはとても大事です。
ここからはこの回答をもとに、検尿異常について項目に分けて解説していきます。
「学校検尿」では1次・2 次検尿とも、定性検査(試験紙を用いた簡便な検査)で尿蛋白・潜血・尿糖のチェックを行います。
1. 尿蛋白
健康なお子さんの尿にもごく微量のたんぱく質が含まれますが、一定量以上のたんぱく質が排泄されることをたんぱく尿といいます。
蛋白尿だけが陽性の場合、最も多いのは起立性蛋白尿です。
起立性蛋白尿(運動後蛋白尿、生理的蛋白尿)とは、立位、運動などの刺激によって尿中に蛋白が出現することで、健康な人の10人に1人くらいに見られます。これは、安静にしていると消失するので、朝一番の早朝第一尿(安静時の尿)には尿蛋白が出現しません。これは生理的なもので、腎臓の働きが悪化する可能性はなく、生活の制限の必要もありません。検査の前日に激しい運動を行うと運動性蛋白尿が出現して翌朝の検尿に影響が出る可能性があります。このため、検査前日は夜間に及ぶ部活動などの激しい運動は控え、就眠直前にトイレに行って完全に排尿するようにします。
また、風邪をひいた後、ストレスや疲労、睡眠不足、水分不足などでも蛋白尿が見られることがあります。水分摂取量が少ない場合、脱水の場合など尿が濃くなることで、検尿で異常となることがあります。特に、早朝尿の場合は夜間に水分を摂取しないため濃くなりやすいです。1日を通した尿蛋白の量は少なく、腎臓が悪くなる心配はありません。
男の子の場合は、尿を取る時に精液が混じると、精漿に含まれるタンパク質やタンパク分解酵素の影響が出てしまう可能性があります。
女の子の場合は、膣の分泌物などのおりものが出やすい方では、尿検査でおりものの成分が検出されることがあります。こうした影響を少しでも防ぐため、出始めの尿は捨て、途中の尿(中間尿)を尿カップに入れるという取り方をしましょう。
こういった蛋白尿は一時的なもので、多くは2回目の検尿では陰性になります。早朝尿でも持続して蛋白が見られる場合は、治療が必要な病気がないか確認し経過観察をしていく必要があります。
2. 尿潜血
尿の潜血反応は尿中の赤血球が壊れて出たヘモグロビンを試験紙で調べる方法です。肉眼ではわからないくらいの微量な血液が混じっていても陽性となる検査です。ビタミンCを摂取することで、本当は潜血反応が陽性なのに陰性の結果がでてしまう(偽陰性)ことがあります。そのため、検査の前日にはビタミン剤などのサプリメントや、ビタミンの含まれるジュースは避けるようにしましょう。
女の子の場合は、月経時に検尿を行うと、経血が尿に混入して高率に尿潜血が陽性になります。このため、可能であれば学校に相談して検尿を延期してください。小・中学生では 10 日~ 2 週間後、高校生では 1 ~ 3 週間後が妥当とされています。
尿潜血のみが陽性の場合、100人に2人くらいの方で慢性糸球体腎炎など疾患が見つかります。必要に応じて検査、診断を行い、治療を始めます。
3. 尿糖
学校検尿で尿糖を確認する目的は、糖尿病のお子さんを早期発見する事です。しかし、尿糖が陽性であったら糖尿病というわけではありません。尿に糖が出やすい体質の子、すなわち腎臓のブドウ糖排泄閾値の低いお子さんがいます。その大部分は病気ではなく、腎性糖尿と呼ばれています。腎性糖尿は、家族性にみられことが多く、尿糖の再吸収に問題があるために、正常の血糖値でも尿糖を認めます。したがって、尿糖陽性者が糖尿病なのか、あるいは腎性糖尿なのかを鑑別するために血糖検査が必要です。腎性糖尿では常に血糖値は正常ですが、糖尿病では血糖値が上昇しています。お子さんの尿糖検査で発見される無症状の糖尿病の大部分は 2 型糖尿病です。しかし、一部にはゆるやかに発症する 1 型糖尿病や急激に発症する 1 型糖尿病が偶然に学校検尿の時期に発見されるケースもあります。
まとめると、「検尿異常」=「何らかの腎臓の病気」かというと、そうでもありません。詳しい検査の結果、問題のないことも多いです。
しかし、腎臓病は、症状として現れることが少なく、気が付いた時には既に障害が進行していたということも珍しくありません。学校検尿で見つけようとしている慢性腎炎を含む糸球体疾患は、かつては、透析や腎移植を必要とする末期腎不全の原因の 80% 以上を占めていました。しかし、学校検尿が制度化されて日本全国で施行されて以降、確実にその割合は減少し、現在は 10% 以下です。このように、学校検尿はたくさんの隠れた腎臓病のお子さんを見つけています。病気がある可能性は低くても、検尿異常を指摘された場合は、受診して詳しい検査を受けることが非常に重要です。
かかりつけの先生から詳しい検査を勧められた方や、検尿異常について直接相談したいという方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、このブログを読んだ感想などがあれば、コメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
1) 学校検尿のすべて 令和2年度改訂. 日本学校保健会
2) 小児の検尿マニュアル 学校検尿・3歳児検尿にかかわるすべての人のために. 日本小児腎臓病学会
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