「中学3年の息子は試験前になると下痢をします。これって腸の病気ですか?」
みなさん、こんにちは。今回のすくナビの担当は小児の消化器疾患が専門の虫明聡太郎です。
今回は中学3年生の男の子のお母さんからのご質問です。
今回のご質問です。
「以前から試験前などにお腹が痛くなって下痢をすることが多かったのですが、中3になってその頻度が多くなり心配です。何か腸の病気ではないでしょうか」
以前からお腹が痛くなったり下痢をしやすい傾向があったのですね。それが中学3年生になってさらによく起こるようになったのは、心理的な緊張やストレスがお腹の症状に現れやすい体質なのかもしれませんね。
こうした体質的なお腹の病気を過敏性腸症候群と呼びます。腸の主な働きは、消化、吸収、そして運動(ぜん動)です。過敏性腸症候群では、心理的なストレスや環境の変化によって腸の動きが不安定になることで、腹痛や下痢、時には便秘が起こってしまうのです。
ただし、腸の病気には他にいろいろなものがありますので、過敏性腸症候群と決めつけて他の病気を見逃すことのないようにしなければなりません。中には、大腸の内視鏡検査が必要な病気もあります。内視鏡検査では潰瘍性大腸炎やクローン病、好酸球性消化管疾患、あるいはポリープなどの有無を調べます。
★ 内視鏡検査をしなければいけないのですか?
いいえ。内視鏡検査は中学生でも原則として前の日に入院して、腸の中をきれいにするために下剤の入った水をたくさん飲んでもらう必要がありますし、通常は点滴から鎮静剤を入れて軽い麻酔状態で安全に検査をしなくてはなりませんので入院が必要になります。また、この検査自体がストレスになってしまうことも考えられます。ですから、初めから“内視鏡検査をしましょう”ということにはなりませんので安心してください。
しかし、内視鏡検査が必要な病気かどうかを判断するために、次のようなことをチェックします。
・これまで、便に血が混じったことはありませんか?
・体重は減っていませんか?
・微熱はありませんか?
・お尻(肛門)の痛みやおできはありませんか?
・口内炎ができやすいことはありませんか?
・関節痛はありませんか?
これらの症状が一つでもあれば、念のために内視鏡検査が必要かもしれません。上で述べたような慢性の消化器疾患があるかもしれないからです。また、このような症状がなくても血液検査で貧血や炎症反応があると注意が必要です。
腹痛や下痢以外に当てはまる症状がなく、血液検査でも明らかな異常がなければ、過敏性腸症候群の可能性を考えます。
★ 過敏性腸症候群は治せますか。
はい、症状をコントロールすることは可能です。ちゃんとお薬もあります。あとで、お薬についての説明をしますが、そのまえにご理解いただきたい大事なことがあります。それは、息子さんの腹痛や下痢は、精神的なことが原因ではないということです。もちろん、「痛くなったらどうしよう」とか、「また痛くなりそうだ」と思うことで症状が出たり悪化したりはします。でも、それは息子さんの「気持ちが弱いから」とか、「我慢やがんばる気持ちが足りないから」とかが原因で起こるわけではないのです。
お腹(腸)の動きはお天気のように、常に変動しています。また、腸の動きが速すぎても詰まって動きにくくなっても痛みや不快感を感じるものです。
手足は自分の意思で動かせますが、腸は自分の意思で動きを制御できません。“自律神経”という、自分の意思とは無関係に食べた物を消化、吸収して、便にして出すまでをやってくれる神経によってコントロールされているのです。そして、動きの速さやリズムが狂うと痛みのシグナルが発信されるのです。そして、下痢になりやすいタイプでは腸の動きが速くなりがちで、そうすると小腸で食べ物の消化と吸収が間に合わずに大腸に流れ込んでしまって便が緩くなってしまうのです。
つまり、この過敏性腸症候群は、体質的な腸の自律神経の不安定性を原因とするお腹の病気であって、精神的なことに原因がある病気ではない、ということです。
不安定だということは、調子が悪い時もあれば、いい時もあるということです。このことを理解して自分のおなかとうまく付き合っていく感覚が大切です。
★ お薬について教えてください。
作用の仕方によって、いくつかの種類の薬があります。一つは小腸の中を通過する食物の水分量を調節して、ゆっくり消化吸収して大腸までとどけるポリカルボフィルカルシウムという薬です。この薬は、硬い便は軟らかめに、ゆるい便は硬めにしてくれます。二つ目はラモセトロン塩酸塩という薬で、これは腸の神経に働きかけて大腸の動きや水の分泌の異常を抑えます。これらは基本的に毎日内服して症状の安定化を図ります。腸内細菌製剤(整腸剤)を合わせて使うこともしばしば有効です。これらのお薬は約束通りきっちり内服して、続けることが肝心です。
また、急な腹痛に対しては、抗コリン剤やロペラミド塩酸塩など、腸の過剰な動きや水の分泌を抑える即効性のある薬(いわゆる腹痛の頓服)を使うことがあります。
こうしたそれぞれの薬を使って、自分に合ったお腹との付き合い方を見つけていってもらいましょう。
ここまでお話で過敏性腸症候群という病気についてご理解いただけたでしょうか。
近畿大学病院小児科・思春期科ではこどもの栄養や腸の病気を専門としている医師の外来も行っています。かかりつけの先生から専門外来を進められた方は近畿大学病院小児科・思春期科を受診してください。
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虫明聡太郎