本は果実! 4期絵本探究ゼミ
2023年 4期絵本探究ゼミ 第2回 振り返り 10月1日から
翻訳絵本チームの紹介
『あめだま』
ペク・ヒナ 作 長谷川義史 訳
ブロンズ新社 2018年
選書理由:韓国の絵本の訳が 関西弁になるのはなぜか
『あたまにつまった石』
キャロル・オーティス・ハーストオーテイス作
ジェイムス・スティブンソン 絵
千葉茂樹訳 光村教育図書
選書理由:翻訳者の千葉茂樹の訳が好きだから。どこが好きか検証したい。
『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン・作・絵 ほんだきんいちろう訳
篠崎書林 1976年
『おおきな木』
シェル・シルヴァスタイン・作・絵 村上春樹訳 あすなろ書房 2010年
原書と二人の翻訳者の訳を見比べてみたい。
以上チームメンバーの翻訳絵本紹介とその選書理由をあげた。
次は、私が選んだ翻訳絵本について述べる。詳しくは前のnoto
に記載している。
https://note.com/kind_yarrow69/n/ndea9d1b3c459
講義から
○課題の翻訳絵本に対する講師の講評
○翻訳者研究の例:灰島かり
竹内講師が参加した
灰島かり氏の朝日カルチゃーの絵本翻訳講座から入り、
灰島かり研究の成果を講義していただいた。
参考文献から
私は、特に参考文献の『絵本の事典』に注目した。
『絵本の事典』
中川素子 吉田新一 吉田光恵 佐藤博一
朝倉書店 2011年
山形県立図書館では、貸し出しはできないので、館内で読んだ。
これは、代表の編集者4名に加え、協力編集委員6名 執筆者112名でできた
熱意溢れる壮大な絵本の事典である。
そこから、「絵本のことば 翻訳」灰島かり pp474-483を読み、私も、戦後の代表翻訳者2名 瀬田貞二 石井桃子の作品を読んでみた。
『げんきなマドレーヌ』
ルドウイッヒ・ベーメルマンス 作・画 瀬田貞二訳 福音館書店 1972年
『おやすみなさいのほん』
マーガレット・ワイズ・ブラウンぶん ジャン・シャローえ いしいももこやく 福音館書店1962年
今回 私は、改めて2冊の絵本を手に取った。別な視点から読み直してみると 如実に訳者の違いが分かってくる
文字から言葉から 訳者の背景 価値観 当時の社会状況まで考察できることは 驚きであった。
私の考察 瀬田貞二&石井桃子
『三びきのこぶた』で翻訳を比べ(書影は許諾OKです。)
その前に、お二人の大まかなプロフィールも比べてみた。
瀬田貞二さんは、国文科卒で俳句の本の創刊や編集にも携わってこられた方だ。575の日本語の語感を大切にされてきたと推察される。
一方、石井桃子さんは、英文学科卒で 海外の図書館視察や交流を深めてきた。どちらにも、共通する点のひとつは 研究創作翻訳編集にとどまらず未来ある子どもたちのために文庫を開いて実践されているところである。
瀬田貞二 (1916―1979)
児童文学作家 翻訳家・児童文学研究者
国文科卒企画編集 俳句 翻訳・評論・創作
日本の民話の再話 瀬田文庫 63歳没
石井桃子(1907―2008)
児童文学作家 翻訳家 創作 企画編集
英文学科卒 日本昔話
『子どもと文学』瀬田貞二らと刊行
かつら文庫 101歳没
どちらの『三びきのこぶた』とも出版社は福音館書店
瀬田訳:1960年 580円ハード 縦書
2023年現在1100円
石井訳:1973年 250円ペーパーバック 横書
2023年現在 品切れ重版未定
表紙
瀬田訳:白の背景に躍動感の大きい三びきのこぶた一緒
絵は山田三郎
石井訳:赤紫の背景に三びきのこぶたが別々の道へ
絵は太田大八
導入
瀬田訳:むかし、あるところに、おかあさんぶたと
石井訳:むかし、一ぴきの めぶたが すんで・・
1番目
瀬田訳:どうか、そのわら、くださいな。いえを たてるんですから
石井訳:いえを つくるんです。どうぞ わたしに そのわらを ください
こぶたのことば
瀬田訳:だめ、だめ、だめ。めっそうもない
石井訳:いやだよ、いやだよ、そんなこと、とん とん とんでもないよ
おおかみのことば
瀬田訳:そいじゃ、ひとつ、ふうふうのふうで、この いえ、ふきとばし
ちまうぞ
石井訳:そんなら おれは、フッとふいて、プッとふいて このいえ ふ
きたおしちゃうぞ!
2番目の家の材料
瀬田訳:きの えだ
石井訳:ハリエニシダ
かぶ畑の場所
瀬田訳:ごんべさんの うら
石井訳:おひゃくしょうの スミスどんの いえの
りんごの木の場所
瀬田訳:こうえんの した
石井訳:メリやしきの くだものばたけ
鍋に落ちる場面
瀬田訳:ちょうど そのとき、なべの ふたを とったので、おおかみ、
どぼんと おちました。
石井訳:ぽいと なべの ふたを とったので、すぽん!
おおかみは、なべのなかに おちてしまいました。
私は、瀬田貞二訳の『三びきのこぶた』に慣れ親しんできた。石井桃子訳『三びきのこぶた』も とてもいいと思った。どちらも、文章にリズムがあり、心地よく物語の世界に没入できる。
瀬田貞二さんの訳は ごんべさんと日本の昔話に出てくるような名前を付けている。石井桃子さんの訳は、スミスどんというように外国の昔話風の名前をつけている。
また、二人とも 家を吹き飛ばす場面の訳が かなり工夫されていると思った。子どもたちが 言いやすいように翻訳されている。
原文で直訳すると、
こぶた「いや、いや、中には入れません。私のちいさなあごの毛にかけて
はいらないでください」
オオカミ「息を吹きかけて、息を吹きかけて、あなたの家をふきとばして
やるよ。」
この、こぶたの言葉は、英語特有の言い回しで
「あごのひげ一本だってダメ!いれてやらないよ。」
「あっかんべー」
「ドアは絶対に開けないよ」という意味のようです。それを、お二人とも 原文のリズム感を生かし 意味もしっかり伝わるような翻訳をされている。
耳できいた子どもたちは このリズムはずっと残るだろうと思った。
また、読んだ人も同じようにリズムがずっと残るだろうと思った。
私は、世の中に 『三びきのこぶた』の絵本が 数多くあることも知った。中には、残酷だからとおおかみを殺して食べないで、結末がみんな仲良しになるお話もあった。
今回は、図書館で読みたい絵本だけでなく 参考資料をじっくり読むことができた。絵本学会の発足や欧米だけでなくアジアの翻訳絵本が増えてきている状況なども知るようになった。毎年400冊以上翻訳されていることにも驚いた。その中で何冊の絵本に出会えるのだろう。
この絵本探究ゼミで学ぶ機会があるからこそ、そこで視点を広げることができるから 本が美味しい果実に思えるのだ。
課題 これから
私が 取り上げた『』三びきのこぶたはイギリスの昔話である。
ジェイコブスが、イギリスの語り継がれた昔話を本にしたのは、 今から130年以上前である。私は、昔の人の知恵で、残酷な話は 動物に例えていたとも考えられると思った。
我が家では、昔話が家で語られる機会は 少なくなってきている。
日本各地に、昔話はたくさんある。口承された昔話や民話が文字やCDになっているものもあるが、我が家の本棚にもあるが、最近手を触れずにいた。
果実は、一粒の種から、大地の養分・水・太陽の光、そして、人の手によって収穫され、人々にとって喜びの栄養になる。。
本も同様に、一つの思いからことばになり文字そして、本になって人に伝えられる。昔話の本も新しい本も、私と出会った大切な本である。
私は、先人の努力によって、今、本を読めることに感謝したい。そして、それを一人にとどめておくことなく、これからも 昔の人の愛と知恵のつまった耳から聞く昔話を語ったり、聞いたりできる場を作っていきたいと思った。