nice決断!
みなさん、おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡
「先月はお盆休みがあって嬉しかった。今月は明日からなんと3連休じゃん。さらに翌週も3連休じゃん。やったね。うれぴー。わーい。わーい!」
僕は嬉しさのあまり、部屋で一人四股を踏んでしまいました。
だけど出かける予定があるかと言えば、ございません。何の予定もございません。だからこそ逆に今から予定をぎっしり埋めることも可能ですし、その日の気分で出かける先を決めても良いのです。
過日。
僕が大好きな場所はみなさん、もうお分かりですよネ?
そうです、スーパーマーケットですョ。
買い物を済ませた僕は、店内を出ようとしたところ、隣のブースから声が聞こえてきました。
「秋の行楽シーズンです。ちょっとくらいご予算がオーバーしても参加されるべきかと存じます」
その問いかけに対し、「いいべや。1万くらい」という男性の声が聞こえたと同時に、「何を言ってるの。1万あったら由香の通っている、英会話とサッカースクール代が払えるんだから。やめてよ~」と迷い悲しげな女性の声も聞こえました。
隣のブースは大手旅行会社がデスクを構え、連日相談者が後を絶ちません。それくらいみなさん旅行が大好きなのであります。この2人も夫婦で、娘の由香ちゃんと3人で家族旅行に行きたくて相談に来たのだろうと推察。
僕はその場で立ち止まると、ギフトコーナーの商品を見ながら誰に送ろうかと、嘘の演技をしながら耳を傾けます。
「だからョ。年に1回の家族旅行なんだぞ。目先のお金に捉われるんじゃなくてョ、あと1万出すことで最高の想い出づくりができると考えてみてョ。そうしたら1万なんて安いもんだろ? なっ?」
夫が言いました。夫の口からまさか最高の想い出づくりという言葉が出るとは意外でした。夫は熱い男なのかも知れません。
「でもアナタの夏のボーナスが3万だったじゃない。てっきり10万は出ると思ってたから、それも響いているのョ」
奥さんが失望に近い声を上げた。奥さんは現実をよく見ている。流石だと僕は感じました。
「まあ過ぎたことを言ってもしょうがねえ。冬は大丈夫だと思う。だからョ、行こうぜ、旅行に。茨城に行こうゼ!」
一瞬、僕は吹き出しそうになりました。茨城県に旅行?
海のシーズンは終わっているし、有名な梅の季節でもない。紅葉シーズンにはまだ早いし、一体全体茨城県のどこへ旅行に行くのだろうか。僕は日本三大名瀑の袋田の滝と温泉くらいしか思いつかない。
これはますます気になってきた。僕はギフトコーナーの商品に目線を落としてはいますけど、全く見えておりません。
「旦那様のおっしゃる通りだと思います。10月の茨城の大自然と温泉を大いに満喫するには、奥様、今がご決断の時だと思います」
代理店の男性が夫の後押しをした。やはり僕の推測通り、10月の茨城旅行はそれくらいしか楽しみがないのだ。あとは新鮮な魚介類と納豆かな。
さあ奥さん、さあどうする? どうするのぅ~。
すると奥さんが、僕にギリギリ聞こえるくらいの声量で言った。
「と、とりあえず茨城はやめます。帰って娘ともう一度相談します」
僕は心の中で思った。奥さん、よく言った。nice決断!
やはり茨城に行くのなら夏の海か、2月に咲く梅の季節だと思いますョ。
「わりーね。じゃあ帰ろうか。ご苦労さん!」
夫婦は何事もなかったかのように、僕の前を通過していきました。
僕も帰ろうと歩き出し、何気なく対応した男性を横目で見てみた。
すると男性が、般若みたいな表情をして、パソコンの画面を睨んでいた。
アーメン!
せめてこの男性の苦労が報われるよう、僕は数冊の無料パンフレットを手に取ってから店内を後にしました。
【了】
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