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若人からの誘い

みなさん、おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

過日。15時過ぎ。若人が僕のデスクに近寄って来た。
「た、TAKAYUKIさん、28日空いていますか?」
若人の目が真剣だ。一体全体何があったのだろうか。

「まだ分からん。どうした?」

若人は一つため息をついてから言った。
「実は…尻大さんが今月で退職することになったんです」

この一言で僕は全てを察知した。そして、心の中でこう思った。

「嗚呼…面倒くせー。超面倒くせー。尻大さんが今月で退職するから、28日に飲み会をしようという算段だ。しかも28日って、木曜日じゃん。せめて金曜日にしろよナ。ってか、俺は尻大さんとは違う部署だゾ」

「TAKAYUKIさん。参加してくれますよネ?」
若人が詰めてくる。
「ちょっと時間をくれ」
僕は書類に目を落として忙しいフリをした。
「分かりました。失礼します」
若人は去って行った。

とりあえず、僕は引き出しの中に常備してある目薬を取り出し、点眼をした。ティッシュペーパーがなかったので、ハンケチで目元を拭いた。


尻大さんは30代後半。入社して半年も経っていないはず。何度か一緒に仕事をした記憶がある。確か、元教員だったとか。尻大さんは大きく生え際が後退していて、中途採用の割には要領が良くなかったと誰かが言っていたのを思い出した。

数日後。僕のデスクにまた若人がやってきた。
「た、TAKAYUKIさん、28日参加してくれますよネ?」
若人が結論から喋り出した。社会人としては合格だ。だけど僕は他にも色々聞きたいことがあったのだ。

「僕は尻大さんを良く知らない。この先また一緒に仕事をする機会があるのであれば是非とも28日は参加したい。でも退職するんだろ? 入社して半年ももたずに退職するということは、単に仕事が覚えられなかったのか、それとも納得できる給料を貰えなかったのか、そのどちらかだ。そんな尻大さんをわざわざ飲み会を開いてまで送り出す必要がどこにあるの。そもそも本人が望んでいるの?」

僕の問いかけに、若人が黙ってしまった。唇を尖らしてそっぽを向いてしまった。きっと僕を説得するのは容易だと考えていたのだろう。そこにまさかのカウンターパンチを喰らった若人。見事にダウンをしてしまったのである。

「そ、それに29日の金曜日だったら、まだ可能性が………」

「それじゃあ、29日に変更します。それでいいですよネ?」
若人が立ち上がった。カウント8で立ち上がったのだ。

「いやいやいや。俺の都合じゃなくて、主役に聞かないと…」

「大丈夫です。29日にしますので。それでOKですね、TAKAYUKIさん!」

今度は若人のカウンターパンチを真正面から喰らってしまった僕はダウン。これは効いた。効いているゾ。

「ってか、単に君たちが飲み会の口実を作りたいだけなんだろ?」

僕はカウント7で立ち上がり、ファイティングポーズをとった。

すると若人が2度目のダウン。また唇を尖らせてそっぽを向いてしまったのである。そしてまた僕も心の中でこう思うのです。

「嗚呼…面倒くせー。超面倒くせー。ただでさえ忘年会の季節に突入するというのに、なんで半年も持たずに辞めていく尻大さんの為にわざわざ飲み会を開いて送り出すのか。失礼だけどそんな短期間で会社に貢献したのかい? 部署内の人気者だったのかい? 絶対に違うだろう。やはり飲み会の口実を作りたいだけなんだナ。舐めるナ、若人ョ!」

「わ、わかりました。また来ます」

若人が去って行った。

これでもう来ないだろう。僕は安堵した。

引き出しの中から目薬を取り出すと、点眼を行った。

またティッシュペーパーがないのでポケットからハンケチを取り出して目元を拭こうとした。が、ポケットを探るもハンケチが入っていなかった。忘れてしまったのだ。ツイてない。今日は仏滅かな?

「あの…よかったら使いますぅ?」

事務員の尻丸さんが、ティッシュペーパーの箱を持って立っていた。

「あ、ありがとう」

僕はティッシュペーパーで目元を拭きながら、デスクに戻って行く尻丸さんの尻を見続けた。それはとても素敵な尻だった。




【了】


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