憧れ
シンプルな暮らし、丁寧な暮らし、ミニマリスト。
私の憧れている生き方である。
風のよく通る大きな窓のある家。
ナチュラルな雰囲気のテーブル、上には小さな一輪挿しがひとつ。
色を抑えたインテリア。
自然に優しい洗剤。
こだわりのコーヒーセット。挽きたての豆。
キッチンには瓶に入った調味料。
清潔なリネンの香り。
梅の時期には梅酒を作り、庭で採れた果物を砂糖で煮てジャムにする。
旬の魚を丁寧に捌き、お刺身や焼き魚にする。
こだわりの塩や醤油でシンプルにいただく。
なんて美しい生活。
近所のスーパーで梅を見つけた。
梅を漬けるくらいなら私にもできそうだ。
でもちょっと待って。梅、高くない?
梅買って氷砂糖買ってホワイトリカー買って大きめの瓶買うなら梅酒買った方がよくない?
よし、やめよう。これは余裕のある者だけが手を出してよいものに違いない。
自然に優しい洗剤。これなら買えるよ。
食器はきれいになるし、自然にも手にも優しいなんてよいことしかないじゃないか。
でもちょっと待って。弁当箱についている油が全然落ちない。冷凍焼売の油だよこれ。手強いやつ。アレじゃないと落ちないよ絶対。
そう、JOYだよ。手指の潤いを根こそぎ持っていくJOYだよ。
ああよかった。ストックが1本残っていた。
油汚れにはコイツがいないと始まらない。
優しい洗剤はコップでも洗おうかな。とりあえず置いておくよ。
今日の夕飯は素材の味を生かした献立にしてみる。
とうもろこし、甘くておいしい。パラリとかけたピンクソルトがおしゃれな気がする。
新鮮なきゅうりも浅漬けにしたら、パリポリと止まらないおいしさ。
ちょっとお高い絹ごし豆腐。豆の味が濃い。
おいしそうなカツオの刺身。たたきもいいけど、刺身もいいなあ。
ん?どうした我が子よ。足りない?そこにあるそうめん食べればいいじゃない。
え?肉?無いよ今日は。素材の味を楽しむ日だよ。
だからそれは明日の夜ご飯にするやつだってば。
もうわかったよ、うるさいなあ。焼いてくるよ。ご飯に乗せてくればいいのね。焼肉のタレかければいいんでしょう?
ちょっと待ってて。
ねえ、ちょっとひと口くれない?
なんか私も食べたくなってきた。焼くの私なんだからちょっとくれたっていいじゃない。
あ、うまい。焼肉のタレ最強。
もうだめだ、私にはできない。
結局焼肉のタレの濃い味を求めてしまった。
焼肉のタレが染み込んだご飯のうまさを知っている私が、素材の味を楽しむにはまだ早かったのかもしれない。
そして「丁寧な暮らし」なら、焼肉のタレは手作りするのだろう。
ああ、面倒くさいな。
これ多分「丁寧な暮らし」できないね。
やはり憧れは憧れで終わる方がよいのだとわかっただけで今回は良しとする。
今日の就寝のお供
「高木 道郎 海之怪 海釣り師たちが見た異界」
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