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欲しいのは551

工場で働いていたことがある。
ドライバーなどを使って製品を作っていた。
ものづくりは好きだ。
モクモクと進めれば、
いらん話をする必要もない。
自分のペースで頑張れるのもいい。


それでも製造数や納期の事もあるので、
数名で協力してする作業もあった。
ただ、そういう場合、誰と組むかで
作業効率はかなり左右される。


ある時、わたしと少し年上のパートさん、
そして実習生の女の子の3人で
お仕事をすることになった。
2人とも温厚な方で
わたしでも気を使わずに
入り込める雰囲気だった。


3人で作業は順調に進んだ。
なにも言わなくても、
次にしてほしいことを
2人は汲んで準備をしてくれたし、
わたしもできる限り効率よく製造した。
この3人最強や!


順調に進み、もうすぐで仕上がるという時、
治具のひとつが異音をたてた。
「あれ?天草さん、どうしましょ!」
パートさんは少し動揺していた。
その治具は稼働しているひとつしか
使えなかったからだ。


わたしはすぐに上司に伝えたが、
「これは油ささなあかんなぁ。」
との事。

どこかにあったな、
あの有名な油のスプレー。
あらゆる金属部分の
防錆・潤滑・清浄・防湿に最適なアレ。

棚を探してみたが、背の低いわたしには
上の棚が見えなかった。
パートさんは背の高い方だったので、
すっと来て一緒に探し始めてくれた。


「棚の上にあると思うんです、551。」
「あれですよね、551。」
「そうです、551です。」
「551、そこにありそう。ちょっと待ってくださいね。」


ガサゴソガサゴソ


「あっ!ありました!55…ろく…。」
「!!」


私たちが探していた、
あの有名な油のスプレーの名は
『KURE 5-56』

2人して連呼してたのは
かの有名な豚まんのお店だった。

 
「ぶふっ!!」
2人して吹き出して爆笑してしまった。
真面目に探していたから余計に
可笑しかった。

わたしたちがあまりにも笑っていたので、
実習生の子が「どうしましたか?」と
聞きにきた。

事の経緯を伝えると、
「日本語むずかしいね。」
と笑いながら、
「おいしいほうがいいね。」
と言っていた。

「そうだね〜。」
「おいしいの食べたいよね〜。」

もうすぐお昼休憩という頃に
3人は豚まんを思い浮かべながら
無事、出荷の準備までを完了させた。






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