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#9.5 嫉妬の権利


今にして思えば、最初に“それ”が姿を表したのは、去年のSHOWROOMにさくらさんが来てくれたときだったんだと思う。

その日、写真集のプロモーションを控えていたさくらさんは、少し前の時間に配信していた私とさっちゃんのSHOWROOMに来てくれた。

その時は嬉しくてビックリして、ただただ私はテンパっていたんだけど、〇〇さんは凄く嬉しそうにしながらも、テキパキとハッシュタグの書かれたスケッチブックをさくらさんに渡したり、さくらさんはスマホを振る〇〇さんを見てすぐに写真を撮るんだって察したり、なんというかお互いの信頼関係がそこから見えてきて。
その瞬間はなんとも思っていなかったはずなんだけど、日が経つにつれ、その時が“それ”を感じた最初のタイミングだったんだとわかる。

“それ”が明確に輪郭を現したのは、今年に入ってから。

初期の頃はぎこちなかった〇〇さんとアルノが、いつの間にかお互いに遠慮なくイジり合うようになった。それ自体はいいことなのに、そのきっかけがわからなくてモヤモヤした。

35thシングルの選抜発表の後、さっちゃんとペアで撮影とインタビューの仕事が入った。 
さっちゃんはあんまりそういうのは顔に出さないタイプだけど、撮影の途中からなにか吹っ切れた顔をしてた。〇〇さんは当たり障りのない話をしたっていう。2人だけの秘密みたいでモヤモヤした。

ある日の選抜仕事の日、山下さんが話してるの聞いた。〇〇さんが乃木中の収録終了後にわざわざ会いに来たって。久しぶりだったからメロメロにしといたって、冗談めかして言ってたけれど、〇〇さんももう少しハッキリそういうの良くないですって言ってくれればいいのにってモヤモヤした。

5期生の中で、比較的〇〇さんに送迎してもらう機会は多い方だと思う。けど、一番多いのは頭一つ抜けててれぱん。個人のレギュラー、藝大との兼ね合いとか色々あるから、それはわかってる。
普段はふざけあった会話も良くしてるけど、てれぱんは頭もいいし、最年長だし、〇〇さんとは時々、どこか大人な会話をしてる気がする。まとめ役とかはさっちゃんに頼む事が多いけど、たぶん精神的な所で〇〇さんはてれぱんを最年長として扱ってると思う。
何も言われてないのに、このままてれぱんが忙しくなったら、先輩達みたいに個人の専属マネージャーがつくことになって、そこに〇〇さんがえらばれるんじゃないかって、勝手に想像してモヤモヤした。

乃木のので私がMCを担当する月に、遥香さんがゲスト出演してくれる日があった。
〇〇さんは山下さんの卒業のことで、少し話がしたいからって、その日は遥香さんのお迎えに行った。遥香さんが落ち込み気味なのは見ててわかったから、放っておけないのはよく分かる。実際、収録現場であった遥香さんはここ最近では一番元気そうだったし、悲しい顔は見たくないから、良かったと思う。収録も楽しくお話できた。
次の現場が一緒だったから、〇〇さんに一緒に送ってもらう車内で、私と遥香さんはこそこそと〇〇さんの話をした。
〇〇さんは“なんでこそこそ話?”と気になったようだったけど、遥香さんに“ガールズトークだから男子禁制”と楽しそうに言われてしまって、肩をすくめた。信号で停車すると、〇〇さんはカーオーディオの音量を少し上げる。
“私達の話が聞こえないように気を使ってるんだよ”って遥香さんが楽しそうに、何処か誇らしげに言う。“気の使い方、独特だよね”って。
次の現場につくまで、〇〇さんに叱られた話、大きい声を出す時、丁寧な口調になる理由。色々と話を聞かせてもらった。遥香さんが元気そうで、楽しそうで嬉しかったし、〇〇さんのこと色々聞けて嬉しかった。
はずなのに。
やっぱり、なんだかモヤモヤした。


ある日の雑誌の撮影で、控室に待機していると飛鳥さんが顔を出してくれた日があった。
メンバーは皆驚いたけど、それ以上に皆喜んで、短い時間だけど、少しだけお話して、飛鳥さんは帰り際“〇〇いないね”と言った。
一応LINEは飛ばしたけど、未読のまま。
“見当はつくから”と飛鳥さんは控室を出ていって、それでもLINEは未読のまま。
気になって控室を出ると、〇〇さんと飛鳥さんは並んで外へ向かってて。
2人はその場でLINEを交換して、飛鳥さんは“仕事終わりに連絡して”といい置いて去っていった。その夜、どんな会話があったかは聞けずにいる。自分にそんな権利はないし。

けど、やっぱりモヤモヤした。

~~~~~~

五百城:「あれー?誰か私の水知らん?」
小川:「知らないよ〜」
五百城:「キャップしかない」
奥田:「?」
川崎:「さっきお菓子コーナーのとこに持って行ってなかった?」
五百城:「あっ、そうかも!行ってくる!」
冨里:「私もいこ〜」
井上:「あ〜、ゴミ捨て場の決戦もっかいみたいな〜」
岡本:「最近ずっと言ってる笑」
中西:「観に行けばいいじゃん?」
井上:「もうすぐ入場者特典が変わるからそれまで我慢してんの!」
菅原「あぁそういうのもやってるんだ」
井上:「5弾までは決まってるから、最低でもあと4回は観る!」
岡本:「めっちゃ観るじゃん笑」
中西:「もっかいどころじゃなかった笑」
井上:「でも凄い好評だから公開日数増えて、更に特典が追加される可能性も…」
菅原:「オタ活充実してるなぁ…」 
池田:♪〜(鼻歌落書き中)

12th Birthday Liveが目前に迫って、5期生も全員集合するタイミングが増えてる。
同期と一緒に過ごしている間はこのモヤモヤをいったん忘れて過ごせてる気がする。
本当はこのモヤモヤをどうにかしたいけれど、どうすればいいかわからないまま、日々の忙しさで紛らわせる日々。
今回のバスラは去年とは違う。1.2期生が卒業して、今年は新体制を改めてファンのみんなに見せる場。そして、私個人としても大きな挑戦の場。

不安はある。

できるだろうか。
私でいいんだろうか。

考え出すとキリがないくらい、色んな感情が噴出してくる。本当はセンターに選ばれた時みたいに○○さんと話がしたいけど、弱音を吐いたら○○さんは心配してしまうかもしれない。

期待に応えたい。
任せてもらえたことがうれしいから。

期待を裏切りたくない。
荷が重かったと思われるのが怖いから。

池田:「-------」
〇〇:「-------」

視界の端で、てれぱんと○○さんと話してるのが見える。

池田:「------ー」
〇〇:「-------------」
池田:「----------------」

何を話してるかまでは聞こえないけど、さっきまで難しい顔をしていたのに今は笑顔。

〇〇:「--------------」
池田:「-------」

軽く手を振り合って、○○さんは控室を出ていく。また、モヤモヤする。

菅原:「最近、そういう顔するときあるよね」

隣に座るさっちゃんに言われ、ハッとする。

井上:「……ごめん」
菅原:「いやいや、何が笑」
井上:「う~ん…自分でもよくわかってないんだよね。なんでこうなっちゃうのか」
中西:「忙しいから疲れてるのかと思った」

反対側で荷物を整理しながらアルノが言う。

井上:「忙しいことは忙しいけど…」
中西:「まぁそれは逆に燃えるか。和の場合」
菅原:「確かに」
井上:「…二人には私がどう見えてるわけ?」
中西・菅原「負けず嫌い」
井上:「今はそうでもないじゃん~!」
菅原:「まぁ初期ほどではないけどね」
中西:「まぁ靴脱げたからもっかい走らせてくださいって、言ってたほどではなくなってるか」
井上:「もぉー忘れてよ。そんな前のこと~」

恥ずかしくなって机に突っ伏す。
自分達だってフライングしそうになってたり、めっちゃ遅かったりしたじゃん…。

五百城:「ただいま~」
冨里:「お水あったよ~」
中西:「私もなにか食べようかな~」

隣でアルノが立ち上がる音。

中西:「なんか取ってきてあげようか?」
井上:「…遠慮しておきます」
中西:「和もおかひなくらいポジティブになればいいのに」

ちらりとおかひなに眼をやると、何かにツボったのか大笑いしている。

井上:「…そんなポテトもつければいいのにみたいに言われても…。自分は出来んの?」
中西:「無理―」

手でバッテンを作りながら控室を出ていく。

井上:「自分にできないこと人に言わないでー」
菅原:「和はあんまり考え込むより、行動するほうが向いてる気がするけど」
井上:「そりゃゴールが決まってればそこに向かって一生懸命走るけど、目的地が決まってないのに走ってもどこにもたどり着かないよ…」
菅原:「なるほど…そういう困り方をしてると…」
井上:「何かやってる間は考えないで済むんだけど、なにもしてないとなんかぐるぐるモヤモヤしちゃうんだよね…」
菅原:「さっきまで元気だったのは、オタクトークしてたから考えないで済んだわけだ」
井上:「そういうこと~」

出来る物ならライブまでにこのモヤモヤをどうにかしたいのに、モヤモヤの正体がつかめないでいる。出来る物ならライブまでにこの不安をどうにかしたいのに、○○さんと話すこと自体が不安になってしまっている。

井上:「どうしよ…」

控室のドアが開く音がして、皆が一瞬そっちをみる。ドアの向こうには○○さんとアルノがいる。
けどすぐに○○さんが扉を閉めた。

○○「--------!」
奥田:「何を言ってるかはわかんないけどヒートアップしてる笑」
小川:「そういえば○○さんっておっきい声出すとき口調変わるなんでなんだろう」
五百城:「わかる!関西弁出るならわかるけど、そうじゃなくてなんか優しい口調なるやんな!」
井上:「…大きい声出すときにいつものしゃべり方だと、相手怖がらせるかもしれないからだって」

ザっ!と、一斉にみんなの視線がこちらに向いて、ちょっと怖い。

井上:「う…」
岡本:「和って、○○さんのこと詳しいよね」
一ノ瀬:「あ、わかる!乃木中の時も○○さんがバナナマンさん好きって話してた!」
井上:「…別に詳しくない。遥香さんから聞いただけだし…」

○○さんのことなんて、全然わかんないよ。
自分のこと、ほとんど話してくれないし。
4期の先輩達とは仲いいみたいだけど、私達は未だに苗字呼びだし。
全然距離が縮まってる気がしないよ。
またドアを開くと、そんな話をしている最中だったからか、みんなが一斉に注目する。

〇〇:「こわっ」

○○さんとアルノが一緒に入ってくる。
二人とも口の中に何か入ってるみたい。
仲良しかよ。

岡本:「最近〇〇さんとアルノ、仲いいですよね?」

それ聞いちゃうんだ。

〇〇:「…そう?」
中西:「…さぁ?」

特に気にした様子もなく、顔を見合わせる二人。

中西:「それならパンのがよっぽど仲良くない?」

皆が視線を向けると、テレパンはふっふっふとでもいいそうな表情で腕を組んだ。

池田:「私は皆より〇〇さんとの付き合いが長いからさぁ」
〇〇:「述べ30分も変わらんやろ」
池田:「ひど〜い」

腕を組んだまま体を左右によじるてれぱん。

〇〇:「池田、時々その動きするよな」
池田:「ダメでした?」
〇〇:「いや、面白可愛いからいいと思う」
池田:「じゃあドンドンします」
〇〇:「ドンドンはせんでいい。何事にも適切な量がある」

二人は時々、自然とそんな掛け合いをする。さっきもきっと自然と会話が始まったんだろうな。
30分って言うけど、送迎してる時間も考えたら、ホントにみんなより長い付き合いなんじゃないかな。

また、モヤモヤ。

△△:「〇〇さん、3期の集合が遅れそうなので、先にスタッフ打ち合わせ済ませましょうかって」
〇〇:「了解です」

ノックと共にライブスタッフさんが入って来て、○○さんに声ををかける。

〇〇:「ごめん菅原、先に出るから後よろしく。なにかあったらスマホ鳴らして」
菅原:「はい!わかりました!」
池田:「またさっちゃんに頼んでる〜。最年長私なのに〜」
〇〇:「はいはい。皆もいつでも出れるように準備はしといてね」
一同:「はーい」

ちらりと○○さんはこちらを見たけれど、私は行ってらっしゃいの一言さえ言えず、ただ出ていくのを見つめることしかできなかった。

そんな自分に、またモヤモヤする。

〜〜〜〜〜〜

〇〇:「ごめん、井上。ちょっと予定変更。今日は俺が送迎するから」
井上:「あ…、はい」

今日の予定は終了。他のメンバーも帰宅したり、次の仕事へ向かったりとパタパタし始める。
私は今日の仕事はこれで終わりだったので、元々の予定では別のマネージャーさんに送ってもらって帰る予定だったけど、○○さんがおくってくれることになったみたい。
いつもなら相談に乗ってもらういい機会…なんだけど、最近はうまく話せなくて八つ当たりみたいなっちゃうからちょっと気まずい。

〇〇:「…井上、良かったら助手席乗ってくれないか」
井上:「…いいんですか?」
〇〇:「もちろん」

普段、○○さんは助手席にメンバーを乗せない。乗せる時はどうしても人数の関係で助手席を使わなくてはいけないときだけ。その時でも、すごく申し訳なさそうにしてる。

〇〇:「どうぞ、お嬢様」

おどけてそう言う○○さんは、自分でやってて照れ臭そうで。

井上:「…似合ってないですよ笑」
〇〇:「知ってる笑」

運転席と助手席で、距離はすごく近いのに、なんだか全然そんな気がしないくらい、なにもかもぎこちない。

〇〇:「急にごめんな。どうしても話したいことがあって…今回のバスラ、井上には結構頑張ってもらうことになってるでしょ?ちょっと負担大きいよな」

いきなり、核心に踏み込まれてしまって、思わず体が強張る。
やっぱり、自分には荷が重かったのかな。
がんばろうって思っているけど、やっぱりキツそうに見えてたかな。

期待に応えたいのに。

この人に言わせるくらいなら、自分で言った方がマシかな。

井上:「私…頼りないですか? 私、最初に構成もらって、これだけ任せてもらえること、不安でしたけど、同じくらい嬉しかったです…」

ヤバい。泣いちゃいそう。

井上:「先輩達と比べて、経験も実力も全然足りないのはわかってます。でも、センターに選ばれたあの日、〇〇さんが“井上なら大丈夫”って言ってくれたから、今回もきっと大丈夫って…頑張ろうって…」

声が震える。
もっと、わかってました。大丈夫です。
そんな風に言いたいのに。
当たり前ですよね。
そういいたいのに。

井上:「もし不安になったら、〇〇さんに素直に相談しようって、そうすればまたきっと大丈夫だよって言ってもらえるから。そうしたら、私また頑張れるから…」

本当はこんなこと言いたくない。
私は、この人が期待してくれたように、センターにふさわしい井上和になって、堂々としていたいのに。

井上:「でも、ふと、思っちゃったんです。もし、“井上には荷が重かった”っておもわれたらどうしようって…。そう思ったら、相談するのも、弱音吐くのも、怖くなって…。素直に〇〇さんと話すことも出来なくなって…、態度悪くて…ごめんなさい…」

こんな弱い自分は見せたくなかった。 
この人の言葉があったから、自分は変わるために頑張れた。
ちゃんと少しずつでも、“センター井上和”になって行ってるよって伝えたいのに。

井上:「〇〇さんが期待してくれたから、私センターも頑張れた。そこに経つのに相応しい私に変わるために、懸命にやればいいって。けど、もし、〇〇さんの期待を裏切っちゃったら、私、また私を嫌いになりそうで…」

期待された分、任された分、相応しい自分でこの人と向き合いたかった。
裏切りたくない、失望されたくない、相応しくない自分を見せたくなかった。

井上:「私、いつも自分のことでいっぱいいっぱいで、ごめんなさい…。頼りなくて、ごめんなさい…」 
〇〇:「井上…」

いつの間にか、車は止まっていて、そんなことにすら気づけないくらい、いっぱいいっぱいで。

〇〇:「井上、ごめんな。もっと早く話をすればよかったね。
最初に構成聞いた時、井上の負担の大きさが気になった。でも、俺が心配だったのは、井上に務まるかどうかじゃなくて、頑張りすぎてオーバーワークにならないか、責任を背負いすぎて自分を追い詰めないか。…で、ソレを進言するか少し悩んだ。…けど言えなかった。根拠も何もなく、井上ならやれるって思ったから」 
井上:「…っ!」

その言葉に、反射的に顔を上げて、○○さんの顔を見た。ほとんど涙で滲んで見えなかったけど、優しい顔をしてる気がする。

〇〇:「そんで、俺自身が、なにより、このリストをやり切る井上和が見たいって思ったんだよね。ステージに立って、この高いハードルを越えて、キラキラ光る井上の姿を想像したら、胸が踊った。これが、井上和だぞって。これから必ず、これからの乃木坂を象徴するメンバーになる子だぞ!って言いたかったんだ」
井上:「…っ」

たくさん言いたいことがあるのに。言葉にできなくて、私はただ口を開けては閉じてを繰り返した。

〇〇:「幼稚かな?でも言いたかったんだ…。あ…。 どや、うちの井上和すごいやろってもっと言いたかってん」

私にハンカチを手渡しながら、照れ臭そうに○○さんはそう言った。
大好きな漫画のセリフ。
ハンカチを受け取って、しばらくそれに顔をうずめる。
今は泣く所じゃない。
今は喜ぶところだ。

ずっと欲しかった言葉。

私は、この人に期待されたい。
これからもずっと期待され続けたい。
隣で、井上ならできるって期待されたい。

私は、この人に応えたい。
これからもずっと応え続けたい。
隣で、任せてくださいって応えたい。

だから、ここで宣言しよう。
覚悟を決めて、この道を進もう。
これはその決意表明なんだ。

そう思ったら、自然と笑顔になれた。

井上:「言ってくださいよ。孫の代まで自慢できるアイドルになりますから」

○○さんはそれを聞いて、思い切り笑って。少しだけ泣いた。

あぁ、分かった。
私はずっとうらやましかったんだ。

私も、先輩達みたいに○○さんと一緒に泣いたり笑ったり悩んだりしたかったんだ。

〜〜〜〜〜〜


〇〇:「はい〜、着きました…」
井上:「ありがとうございます…」

お互い、泣いて笑って疲れてしまった。

〇〇:「なんか懐かしい」
井上:「?」
〇〇:「遠藤…、サクが入ってすぐの頃、よく泣いててさ。一度一緒にこんなふうに泣いて、笑ってしたことあって。それ思い出した」

そう。
それがうらやましくて、嫉妬してた。

大好きな先輩達で、尊敬する先輩達で、そのうえ、私達よりずっと長い付き合いで。

心のどこかで、かないっこないって、諦めてた。

どんなに頑張ったところで、そんな関係に追いつけっこないって。

井上:「…じゃあ、やっと、私達もそれくらいの仲になったってことですね」
〇〇:「確かに…。俺、もう少し俺らしく皆と接しようと思うよ。期待も称賛も心配も口に出していくから、覚悟しておいてくれよ」
井上:「…望むところです」

でも、もう決めたから。
助手席から出て、車内をのぞき込む。

井上:「ライブ、期待に応えられたらなにか奢ってください」
〇〇:「それこそ望むところですよ」

まずは最初の一歩。

井上:「お疲れです」
〇〇:「お疲れ」

離れていく車を見送りながら、決意を新たにする。

覚悟していてください。
これから私は、
貴方が褒めたくてしょうがなくなるような、
感動して泣かずにはいられないような、
魅力的過ぎて悩んでしまうような、
そんな存在になります。

先輩も、同期も、これからやってくる後輩にも、引け目を感じたりしません。
敵うかどうかなんて関係ない。
時間だって関係ない。
私は私だし、貴方は5期生のマネージャーなんだし。

目的地が決まったら、あとは全力で走るだけだ。
全力で突っ走ってやる。
私の懸命さが、貴方の心を打つように。

そのために、まずバスラに全力で挑む。
全身全霊、やりきってみせる。

これからもきっとモヤモヤはやってくるだろうけど、もういい。もう負けてやるつもりはない。

だって私は、すごく負けず嫌いだから。

きっと誰よりも、貴方を夢中にさせる存在になってやる。


嫉妬の権利 END…

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