喫茶チャイティーヨの休日 キャンプに行こう!
〇〇「おー、ついに納車されたんですね」
飛鳥「色々手入れが必要だったから、結局時間かかったなぁ」
チャイティーヨの敷地内、元々は搬入業者の車なんかを一時的に止めるように用意されていた駐車スペース。とはいえ、いざ営業を始めると仕入れはほとんど自分達で行うことになって、実質宝の持ち腐れになっていた。
昨年末頃から始めた教習所通い。僕と飛鳥さんは時間をやりくりして、この春遂に免許を取得。
せっかく取るなら車を決めて、モチベーションをあげたい。という飛鳥さんは早いうちから社用車としてこの車を探し回っていたらしい。
駐車スペースに停まっているレトロなバスのような見た目をしたその車は、随分と前に生産が終了していて、その可愛くて個性的なデザインでかなり人気の車種らしい。
飛鳥「でもそのおかげで純正よりかなり快適になったから良しとするか」
〇〇「8人も乗れるなら、スタッフ全員乗せてもまだ席がありますね」
飛鳥「その分でかいし、練習もしないとね」
〇〇「たしかに」
飛鳥「そんなわけだから、そろそろ例の件、具体的に決めようかなって」
〇〇「おっ、いいですね。…それと運転の練習ってなんか関係あるんです?」
飛鳥「ちょっと遠出するのもありかなって」
〇〇「賛成ですけど、時間厳しくないですか?」
飛鳥「今年はゴールデンウィークのどっかでお休み作る」
チャイティーヨがある乃木駅近辺は学生街。
またはそんな学生をメインのお客層に据えたお店、オフィスが大多数。よって訪れる多くのお客さんが学校帰り、部活帰り、仕事帰り。
そんなわけで年末年始、ゴールデンウィーク、お盆といった帰省や旅行のシーズンはやや客足が鈍い。
以前からこういった時期の営業は色々考えさせられることが多かったのだけど、
〇〇「思い切って閉めちゃうと」
飛鳥「今後も定例になるかはまだわかんないけどね。オープンしてしばらくはお店のこと知ってもらうためにも、極力変則的な営業は避けてたけど」
〇〇「皆さん来る前にSNSとかチェックしてくれるようになりましたしね」
昨今のソーシャルメディア普及率は凄まじい。
飛鳥「今後は姉妹店のこともあるし、臨時休業や変則営業も増えるかもしれないから、少しずつやって行こうかなって」
〇〇「ですね」
〜〜〜〜〜〜
天「ふ〜、落ち着く」
カウンター席に腰かけた天ちゃんがティーカップを傾けて、大きく息をつく。
〇〇「最近天ちゃんお茶好きだよね」
ひかる「ジャスミンティーよく飲んでるイメージ」
カウンター内でカップやグラスを洗い、それをひかるに拭き上げてもらいながら、僕らは最近の天ちゃんの嗜好について話す。
天「そうそう、マイブーム。楊貴妃も美味しい!」
昨年に行ったイベント営業で、ドリンク開発を行った際に出来上がったブレンドティー、楊貴妃ブレンドは今現在、グランドメニューに採用され珈琲以外の選択肢としてオススメしている。
気に入ってもらえてなにより。
夏鈴「…なんかその言い方だと楊貴妃入ってるみたい」
天ちゃんの隣に腰掛ける夏鈴ちゃんは、いつものようにブレンド珈琲を。
ひかる「楊貴妃入りのお茶って何笑」
〇〇「考え方によっては怖いよね」
天「ちなみに何で楊貴妃なんですか?」
〇〇「理由はいくつかあるんだけど、一つはライチを使ってるから」
天「…なんか関係あるんですか?」
〇〇「好きだったらしいよ楊貴妃が。そんで皇帝が8日8晩かけて彼女の下に運ばせたとか」
天「へぇ〜」
ひかる「〇〇さんってなんか色々物知りですよね」
夏鈴「そういえば赤点取ったとか補習だとかって話聞いたことないかも…」
天「えっ、あんなにピアスバチバチでロン毛だったのに!?」
〇〇「設楽先生、身だしなみとかバイトとかは何も言わないけど、言わせないためにも出席と成績は人並み以上に気をつけろって方針だったからね〜」
世の中なめられたら終わりなんだよ!
誰にも見縊らせんな!ってすげぇ言われたな。
あながち冗談で言ってたわけじゃないんだなって、後々気づく。
ひかる「ピアスバチバチでロン毛の先輩も見たかったな〜」
天「前のスマホに写真入ってるから、今度送ってあげようか?」
ひかる「えっ、ほしいほしい」
〇〇「よくもまぁ、本人を前に堂々と…」
アルノ「先輩!」
〇〇「ん?」
トースターなどが置いてある作業スペースで、アルノが僕を呼ぶ。
〇〇「どした?」
アルノ「これの使い方、教えてください」
アルノが手にしているのはトーチバーナー。
〇〇「まだやったことなかったっけ」
アルノ「ないです」
〇〇「ここを回すとガスが出るから」
つまみをくるりと回すと、シューとガスの噴出音。
〇〇「この状態でこのトリガーを引くと」
ボッとバーナーが点火される。
アルノ「っ!」
〇〇「いや、びっくりしすぎでしょ」
何回も見てるはずだよ、君。
僕は手元に置いてあるナイフを手に取り、その刃を炙る。
〇〇「こうやってナイフ温めて…」
一度ナイフを置いて、バーナーのつまみを操作。
〇〇「キチンとガスを止めて、火が消えたのを確認してから」
まな板の上に置かれたショコラテリーヌを2つ分カット。
〇〇「ゴムベラでお皿に乗せてくれる?」
アルノ「はい」
ナイフを洗ってもとに戻すと、アルノもお皿にテリーヌを乗せ終える。
アルノ「後は生クリームですよね」
〇〇「そう。乗せすぎ、乗せなさすぎ、どっちも気をつけてね」
ややぎこちないけど、キチンとクリームを乗せて、アルノはお皿を手にカウンター内を移動。
アルノ「お待たせ〜」
天「ありがとう〜」
夏鈴「ありがとう」
この春からアルノは、ひかる、天ちゃん、夏鈴ちゃんら元ダンス部の3人と同じく乃木南美術大学に入学。舞台系の講義や実技で一緒になるらしく、以前よりずっと交流が増え、仲良くなっている。
アルノは高校時代、僕のせいもあって、放って置くと孤立しがちだったので、仲良くしてくれる友だちが増えて、僕としてはホッとしている。まぁ、何様と言うか、過保護なのは自覚があるので絶対本人らには言わないけど。絶対イジられるし。
飛鳥「〇〇」
〇〇「はい」
キッチンから飛鳥さんが出てくる。僕もそちらに移動して、キッチン前で話す。
飛鳥「えんちゃんもお休み取れそうってさ」
〇〇「お、よかった。これで全員参加できますね」
飛鳥「ん。お知らせの更新もよろしく」
〇〇「了解です」
チャイティーヨのSNSは、基本的に僕と美波さんが管理している。お店の変則的な営業時間や、お席の空き状況などのインフォメーションは僕が。
新メニューや期間限定メニューの登場、夜喫茶のイベント内容などは美波さんが写真つきで更新する。
ただ、そのうち美波さんが姉妹店に専念し始めたら、その辺の更新を僕がやるか後輩2人のどちらかに任せなくてはならない。そのあたりも少しずつ考えないとな。
〇〇「さてさて…」
カウンターに戻ってきて、僕はスマホを取り出す。
ひかる「なんかありました?」
〇〇「あぁ、懇親会の日取り決定。お休みしますってお知らせ更新しないとねって」
ひかる「楽しみです」
アルノ「場所も決まってるんですよね?」
〇〇「うん。2人も改めて親御さんに許可取っといてね」
ひかる・アルノ「はーい」
天「懇親会?」
カウンターに座る天ちゃんが反応する。
〇〇「うん、新体制になってもうすぐ一ヶ月だしね。そろそろかなって」
僕はお知らせの文面を打ち込みつつ答える。
〇〇「そんなわけだからゴールデンウィークの頭の方で、火曜日と通常の水曜定休で、チャイティーヨは連休頂きますので、ご足労ありませんように」
天「はーい」
夏鈴「連休なんですね。どこか行くんですか?」
〇〇「うん、バーベキューとキャンプ」
シン…。と一瞬周囲が静かになる。
どうかしたかな?と僕は携帯から視線を上げる。
一人を除いてその場にいる皆が、一様に“あーあ…”という顔をしている。その除いた一人は、もうキラキラという擬音が聞こえてきそうなほど目を輝かせていた。
天「楽しそう〜!!」
あっ、と思って周囲を見回すと、みんな全く目を合わせてくれなくなった。
〇〇「あっ…」
天「いい〜な〜!」
あっ…。
天「楽しそうだなぁ〜!!」
あぁっ…。
天「ゴールデンウィークまだ予定決まってないしな〜!」
あぁ〜…。
ちらりと飛鳥さんの方を見る。
飛鳥「約1分…。思ったよりは耐えた方か…」
アルノ「飛鳥さんって意外に先輩に甘いですよね笑」
あっ、馬鹿馬鹿。
いつの間にか飛鳥さんの方へ避難していたアルノが茶化す。
飛鳥「…へぇ。じゃあアルノが助けてやる? 私は別に構わないけど?」
アルノ「ぅっ…、すいません」
秒で言い負かされてる。
アルノが天ちゃんを止められるとは思わないし、飛鳥さんに口喧嘩でかないっこないんだからおやめなさいよ。
飛鳥さんはこっちに視線を送ると、小さく頷く。
すいません。
と心で謝って、僕は天ちゃんに向き合う。
〇〇「…天ちゃんも来る?」
天「いいんですか!?」
夏鈴「…白々しいなぁ」
天「なんか言った?」
夏鈴「別に何も…」
ぷいっとそっぽを向いたまま、夏鈴ちゃんは珈琲カップを傾ける。
〇〇「良かったら夏鈴ちゃんもどう?」
夏鈴「…いいんですか?」
驚いたようにこちらを見る夏鈴ちゃん。
〇〇「社用車で行くんだけど、8人乗れるからさ」
ここまで来たら車載人数まで乗せたって、そんな変わらんでしょう。
〇〇「一泊するかどうかはお任せするよ。行きは乗せていって、日帰りするなら近くからバスも出てるみたいだし」
夏鈴「…行きたいです」
天ちゃんがにやにやと夏鈴ちゃんの肘を小突く。
夏鈴ちゃんはちょっとムッとしながら、軽く払う。
高校時代から変わらない、微笑ましい小競り合い。
〇〇「ん。じゃあまた後で詳細送るね。一泊する場合は親御さんにも話ししておいてね」
天「はーい」
夏鈴「はい」
〜〜〜〜〜〜
美波「なるほどね、別に問題ないんじゃない?」
〇〇「すいません、どうも断りづらくって…」
終業後、賄いを食べてアルノとひかるが退勤した後、僕は美波さんに経緯を説明した。
美波「部屋割りはアルノとひかるの部屋に入ってもらえば、少し手狭だけどなんとかなるでしょ」
〇〇「あの…最悪僕はリビングスペースでもいいので…」
飛鳥・美波「それはダメ」
〇〇「…ですか」
飛鳥さんが隣のカウンター席から身体をこちらに向ける。
飛鳥「参加させるのは別に構わないけど、あくまで参加者だから。ゲストでもないし、スタッフでもない。そこはちゃんと区別すること。あとついでだからいくつか言っておくことがある」
飛鳥さんは指折り数えつつ、
飛鳥「まず諸々の費用を計上して、2人の参加費を算出したら請求すること。〇〇のポケットマネーである程度負担してやることには口出ししないけど、全額負担するようなことはしないように」
〇〇「了解です」
飛鳥「学生の身分だし、ハメ外しすぎたりしそうになったらちゃんと〇〇が責任を持って止めること」
〇〇「先輩としてその辺はきちんとします」
飛鳥「私としては常連に得があることは悪いこととは思わない。けど一部の常連を依怙贔屓してると思われたくないし、お店の経営としても不健全だから、今回の事は基本口外しないこと、そしてさせないこと」
〇〇「徹底します。させます」
飛鳥「ん。以上」
飛鳥さんは正面に向き直る。
飛鳥「ま、アルノとひかるのための会だし、2人も友達いる方が楽しいでしょ」
美波「なんやかんや言ってるけど、結局優しいんだよね笑」
〇〇「ですね笑」
飛鳥「なんかどいつもこいつも厳しくしてほしいらしいな?」
〇〇「そ、そんなことないですよ?」
美波「…昼間にもなんかあった?」
〇〇「アルノがちょっと調子こいちゃって…」
美波「あ〜…」
飛鳥「さっさと片付けしないと無賃残業になるけど?」
〇〇・美波「すぐ片付けまーす!」
〜〜〜〜〜
それから数日は飛鳥さんのお達し通り、参加費を算出したり、食材やドリンクの量を美波さんと相談したり、当日の移動ルートを飛鳥さんと相談したりとしてる内に過ぎ去っていき…。
〇〇「シートベルトしましたか?」
一同「しました!」
〇〇「忘れ物ないですか?」
一同「ないです!」
〇〇「じゃあ出発しまーす」
キャンプ当日、全員がチャイティーヨに集合して、社用車に乗り込む。
行きは僕が前半の運転を担当。途中のサービスエリアで休憩を挟み、そこからキャンプ場までは飛鳥さんが運転してくれる手筈になっている。
チャイティーヨの敷地を飛び出し、いよいよ僕らの一泊二日の旅が始まった。
天「なんかワクワクしてきた!」
夏鈴「早くない?」
ひかる「なんかダンス部でバス移動してる時思い出さない?」
天「あっ、わかる!」
夏鈴「なんかそう言われるとそんな気もしてきた…」
ひかる「そんな時間経ってるわけじゃないけどなんか懐かしいな〜」
最後列のシートには天ちゃん、夏鈴ちゃん、ひかるが座っている。特に天ちゃんは元気いっぱいで運転席まで声がよく通る。
アルノ「酔い止め飲んでたほうがいいですかね?」
美波「遅くない?」
アルノ「え、そうなんですか?」
さくら「乗る30分から1時間前には飲んでおいたほうがいいよ」
アルノ「え〜っと…」
美波「…一応飲んでおいたら? アルノ、なんか直ぐ酔いそうだし」
アルノ「えっ!?」
さくら「うん…、私もそう思うな」
アルノ「え〜、ちょっと!先輩せいで私絶対皆にどんくさい子だと思われてますよ!」
〇〇「僕が言わなくても、君がどんくさいのはバレてるよ!」
アルノ「えぇ〜!?」
2列目のシートにはさくらさん、美波さん、アルノが乗っている。出発早々アルノはバタバタ。
〇〇「なーんでちゃんと備えてこないかな。薬はあるんだよね?お水は持ってる?」
アルノ「持ってますよ!」
〇〇「なら今のうちに飲んどきなよ。水こぼさないようにね?」
飛鳥「過保護出てんぞ」
〇〇「ぅっ…」
いけないいけない。
ウザい先輩になってしまう所だった。
美波「なんか後輩への対応まで飛鳥さん化してきてない?笑 自分では強めにあたってる感出してても周りからみたらだだ甘い感じ笑」
さくら「確かに笑」
ひそひそ会話のつもりなんだろうけど、すぐ後ろだからなぁ。
〇〇「聞こえてますけど?」
さくら「リアクションまで似てきてる気がします笑」
美波「ほんとそれ笑」
飛鳥「間接的に私のこともディスってるだろ?」
美波「滅相もない笑」
さくら「そんなつもりは笑」
飛鳥「まったく…」
運転席に僕。助手席に飛鳥さん。
交代のことも考えると、この布陣がベターだろう。
飛鳥「で、どう? 積載人数限界まで乗せるのは初だし、違和感ある?」
〇〇「いや、思ったより快適ですよチャイティーヨ号」
飛鳥「…何その名前」
〇〇「いや、いつまでも社用車って呼び方はどうかなって思いまして」
飛鳥「そのまんますぎない?」
〇〇「わかりやすくてよくないですか?」
飛鳥「別にいいけど…」
〇〇「ステアリングが大きいのと、位置が普通の車より下なんで、それだけはやっぱ慣れが必要ですね」
飛鳥「マジでバスって感じ」
〇〇「ホントそんなイメージですね」
飛鳥「くれぐれも安全運転でよろしく」
〇〇「承知してます」
全体的に大きく長い車体なので、
狭い所、低い所は注意が必要だけど、そこまで扱いづらい感じはない。
けど、普段使いするには色々面倒な車なことは間違いないなと思う。
〇〇「狭い立駐なんかにはとてもじゃないけど停めれないですね」
飛鳥「まーねー。でかいし、スライドドアでもないしね」
〇〇「ドア全開で開くから、乗り降りとか荷物の上げ下ろしなんかはすごいスムーズですけどね」
飛鳥「なんでもいいとこ取りってわけには行かないもんだ」
〇〇「おっしゃる通りで」
これといったトラブルもなく、僕らは順調に移動を終え、途中のサービスエリアで運転を交代。
そして。
天「到着〜!!」
僕らは目的地であるキャンプ場、その宿泊施設であるロッジに到着。
〇〇「綺麗ですね」
美波「うん、手入れも行き届いてるし、結構穴場だと思う」
飛鳥「はいはい、取り敢えず荷物搬入するよ」
一同「はーい」
まずはドリンクや食材をキッチンへ運び込む。
天「ひろーい!」
夏鈴「天ちゃん、キッチンこっち」
ひかる「探検始まっちゃう笑」
2階建てのロッジは、1階にキッチンとお風呂、トイレ、部屋が一つ。キッチンのすぐ側にはガラス戸があり、そこからテラスを経由して庭のバーベキュースペースへ出られるようになっている。
〇〇「動線最高ですね〜」
美波「ね!キッチンで調理してすぐバーベキューコンロまで持っていけるの」
アルノ「動線…」
さくら「ある意味職業病だよね笑」
飛鳥「はい、食材入れたら自分の荷物を部屋に放り込んでここに集合ね」
一同「はーい」
飛鳥「〇〇」
〇〇「はい?」
飛鳥「2階には立入禁止」
〇〇「承知しております」
飛鳥「ん」
ならばよし、と飛鳥さん達は2階へ登っていく。
僕も1階の自分の部屋へ荷物を置きに行く。
1階はツインルーム。2階はトリプル仕様になっていて、ツインにエキストラベッドが用意されてるらしい。アルノとひかるの部屋に天ちゃんと夏鈴ちゃんも寝泊まりするので、その部屋だけはちょっと手狭になりそう。僕はお一人様なので、持て余すくらいのスペースだ。
適当に荷物をおいて、キッチンへ戻る。
お昼はカレーとバーベキュー。とはいえだらだらと続いて夕飯兼用になるだろうというのが僕と美波さんの見解。火を起こしたり、ご飯を炊いたりする屋外版と、カレー調理と食材の下ごしらえをする屋内版に分かれて作業になる。
さくらさん、美波さん、アルノは屋内。
ひかる、天ちゃん、夏鈴ちゃんは屋外。
僕と飛鳥さんが流動的に動くことになる予定。
とりあえず、調理に必要な器具類がどれくらい揃ってるのか確認しておくかな。
〜〜〜〜〜
ひかる「こうですか?」
〇〇「うん、うまいうまい」
調理も順調に進み、
そろそろ食べ始められるぞという頃、
僕とひかるはテラスで皆のドリンクを準備中。
〇〇「後はスムーズに出来るよう練習あるのみ」
ひかる「むむむ…」
ちょうどいい機会なので、ゆくゆくはバーテンダー業務をしてみたいというひかるに、バースプーンを使ったステアをやらせてみている。
〇〇「顔が怖いよ笑」
ひかる「集中しちゃうとつい…笑」
真剣なのはいいけど、お客さんの前で作るのが前提だから、そのへんも意識しないとね。なまじ顔立ちが整いまくっている子なので、真剣すぎると迫力が凄いんだ。
ひかる「何かコツみたいなのってあるんですか?」
〇〇「コツかぁ。中指と薬指が一番大事かな。この2本でバースプーンを持って、背の部分をグラスに押し当てながら回すと、スプーンが一緒に回るから…」
くるくるとバースプーン自体が回転する。
ひかる「うーん、見てる分にはそんなに難しく見えないんですけど…」
〇〇「そう見せないのがカッコいいわけですよ」
ひかる「確かに〜!」
なんかこう、素直に尊敬の念を感じると嬉しくもあり恥ずかしくもあり…。
先輩してるなぁ自分って感じがする。
〇〇「そういえば、ひかるはなんでバーテンダーやってみたいって思ったの?」
ひかる「卒業したダンス部の先輩が、今はバーテンダーやってるんですよ。それで元々興味はあって…。そんな時に去年のビストロチャイティーヨで実際に〇〇さんがバーテンダーやってるのみて良いなぁ、カッコイイなぁと思って」
〇〇「なるほど、実際見るのがあの日が初めてだったんだね」
ひかる「はい。それで自分もやってみたいなぁと思った次第でして」
〇〇「よかった〜、カッコ悪いとこ見せてたらせっかく興味持ったのにやっぱいいやってなるトコだったね」
ひかる「いやいや、そんなことはないですよ笑」
〇〇「その先輩は乃木駅周辺で働いてるの?」
ひかる「いえ、東京の…神保町だっかな?のあたりらしいです」
〇〇「そっかぁ、なら気軽にポンって行けるわけじゃないね」
ひかる「そうなんですよ。機会があったらぜひ行きたいと思ってるんですけど」
〇〇「東京に行くときは是非お邪魔したいね」
ひかる「ですね笑」
天「お肉焼けますよー!!」
〇〇「はーい。よし、ドリンク運ぼうか」
ひかる「了解です」
トレイにドリンクやカップなどを乗せて、テラスを降りる。
ひかる「美味しそう〜!」
コンロには牛や豚はもちろん、鶏肉がドカンと乗っかっている。
〇〇「豪快ですねー!」
美波「設備がしっかりしてるから、お肉も塊で焼いてカットしたりしやすいんだよね」
夏鈴「……」
〇〇「すごい、夏鈴ちゃんがワクワクしてる!」
夏鈴「えっ、そんな顔に出てます…?」
〇〇「うん、かなり」
夏鈴「なんかいやだ〜…」
顔を隠すように手で覆う夏鈴ちゃん。
〇〇「別にいいでしょ笑 天ちゃん見てみなよ」
天「あ〜!こんなん絶対美味しいやつ〜!!」
夏鈴「……そうですね」
ひかる「納得早い笑」
ちらりとアルノの方を見てみる。
なんかぼ〜っとお肉の焼き上がりを眺めてる。
と思ったらお肉の焼き加減が気になるのか、じわぁ〜とコンロに近寄っていき…
アルノ「あつっ」
ピュッと下がる。
さくら「〇〇顔っ…笑」
〇〇「あぁ、すいませんつい」
美波「言いたいことあるなら言えばいいのに笑」
〇〇「いいえ。我慢します。ついついお小言いいたくなってしまう…」
なんでコンロにそんな近づくのさ!
危ないでしょ!火傷したらどうすんの!
トングがあるんだから、
掴んでから焼き加減見ればいいでしょ!
〇〇「オカンじゃないんだから…」
アルノ「何か言いました?」
〇〇「何も言ってません」
アルノ「絶対悪口言ってる〜!」
〇〇「言ってません〜」
飛鳥「はいはい、乾杯するよ」
各々ドリンクを手に、飛鳥さんに注目する。
飛鳥「はい、みんなお疲れ様。今回はチャイティーヨの新しい仲間達との親睦会です。特別にお友達の常連2人も参加してくれてます」
天「どうも〜」
夏鈴「すいません…」
飛鳥「まぁ、仲良く楽しく過ごせればいいなと思います。ただし、羽目を外しすぎるようなら容赦なく注意するのでそのつもりで。あと未成年、酒飲むなよ!以上!乾杯!」
一同「乾杯!」
天「いただきまーす!」
〇〇「はいどうぞ」
早速お肉をつつき始める天ちゃん。
天「最高〜!」
美波「〇〇、鶏肉カットしてくれる?」
〇〇「お任せください」
さくら「ご飯もカレーもあるからね」
飛鳥「〆にちっちゃいカレー控えてるの最高」
〇〇「めっちゃわかります!」
夏鈴「どういう文化…?」
〇〇「大人になればわかるよ…。ちっちゃいカレーの偉大さが…」
ひかる「おおげさ笑」
ワイワイと食事が進む中、飛鳥さんが思い出したように皆へ話し出す。
飛鳥「そうそう、忘れてた。姉妹店のことで少し話しておきたいことがあるんだった。梅〜」
美波「はーい」
美波さんは炭火に焚べてあるダッチオーブンから、お肉の塊をいくつか取り出す。それをお皿に乗せると、ポテトサラダとキャロットラペ、マスタードを添える。更に、網に乗った特に大きなソーセージもお皿に並べると、そちらにはザワークラウトとマスタードを添える。
美波「えっと、来年オープン予定のチャイティーヨ姉妹店では、シャルキュトリーを自家製にしたいと思ってます」
アルノ「シャルキュトリーって…」
〇〇「お肉の加工品だね。ハムとかベーコンとかソーセージとかパテとか」
美波「キッチンに燻製器やオーブンを備えた工房を併設して、自家製のシャルキュトリーを生産。提供する料理に使って、安定して増産ができるようになったらお客さんに買って帰ってもらえるような仕組みも作って、チャイティーヨにも卸せたら嬉しいなって…」
飛鳥「梅はこだわり強いからね、チャイティーヨで出す料理とかにも使えるようになればなってさ」
もうそんなところまで考えてるんだ。
飛鳥「まぁ、まだまだ課題は多いけど、試作品たちの感想、食べて梅に教えてやって」
美波「よろしくお願いします!」
試作品が置かれたテーブルに集まる一同。
梅「プティサレのロティです。スパイスやハーブでマリネした豚肉をローストした料理で、そのままでもマスタードをつけても美味しく食べれます」
天「めっちゃいいニオイします!」
梅「お花屋さんのハーブ、すごいクオリティが良くって。使わずにはいられなかったよ笑」
〇〇「あー!彩ちゃんとこですね」
去年、イベントで提供するドリンクを試作する際、ハーブやドライフラワーの類を求めて、遅い時間までやっているお花屋さんを訪れたのだけど、そのお店は質の良いハーブも色々取り扱っていて、結構なお世話になった。今年から正式にチャイティーヨと取引をするようになって、お店に飾る花や、フレッシュなハーブ類を卸してもらっている。
彩ちゃんはそこの娘さん。お店の看板娘で、時々お花を届けてくれたりしている可愛い女の子だ。
名字は小川だったかな?
美波「ソーセージはディルとケッパー」
飛鳥「ソーセージにビールとか、最高でしかない」
〇〇「もうすでに文字面が旨い」
さくら「いいまわしが独特だなぁ笑」
梅「どうぞ、召し上がってください!」
一同「いただきまーす!」
ここからはもうそれはそれは飲めや騒げやで、ビールはもちろん、赤ワインのボトルが空いたり、食べ疲れたらバドミントンが始まったり、と思ったらまた食べだしたり、踊ってみたり、歌ってみたり。
僕と飛鳥さんによるちっちゃいカレーサミットが開催されたりといった混沌具合であった。
乃木駅から徒歩6分ほど。
カウンター5席、2名がけテーブル席2つ、
4名がけテーブル席1つ。
毎週水曜定休日。
喫茶チャイティーヨ
本日スタッフ研修によりお休みさせて頂きます。
明日は定休日ですので、次回の営業は木曜日のカフェタイムからとなります。
悪しからずご了承くださいませ。
キャンプに行こう! END…。
---------
ライナーノーツ。
単発短編と言ったがありゃ嘘だよ!!!
次回はキャンプ後編だよ!!!
アンケートご協力ありがとうございました。
なかなか面白い推移で楽しかったです。
次回もよろしくお願いします。
次のお話
もしこの夜、
一緒に過ごしてくれるのが飛鳥さんなら
もしこの夜、
一緒に過ごしてくれるのが夏鈴ちゃんなら
アラカルトシリーズ
シリーズ本編