
向いとらん。
サッカー部部長「なぁー!頼むよ!」
3年の春。
私は紆余曲折あって生徒会副会長なんていう、とうてい似合わない役職に就いている。
それもこれも現在会長を務めている〇〇の企みに乗った結果なわけだけど…。
〇〇「部費予算の向上〜?ずいぶん強く出よったな?」
部長「いやぁ〜部長として?後輩にいいとこ見せとけ?的な?」
小西「不純な動機やな…」
この日は今年度の部活動予算案会議に先駆けた、各部活動と生徒会の認識のすり合わせ…、要はこんぐらい予算降りる予定だけど異議あるなら申し立てて交渉してね、でも先生そんな暇じゃないから先に生徒同士で話して足切りしたり要点まとめておいてね…ということらしい。
〇〇「嘆願書…」
部長「な?わざわざこんな書類まで用意して偉いと思わないか?」
小西「…去年の部長も出してへんかった?」
〇〇「…的野、去年の議事録見てくれや」
部長「いやいやいやいやそこまでしなくても!な!?」
的野「……一言一句一緒かな。去年の嘆願書と」
〇〇「使い回しやないか!!」
小西「舐めとんのか!」
部長「いやぁ〜、ないよりマシかって」
〇〇「ない方がマシじゃ!そもそも去年言うたこと覚えとんのか!!成績残さんかい!去年1年間の成績どないなっとんねん!?」
サッカー部部長「え〜…全部初戦敗退?」
小西「なんでやねん!!ボロクソ言われてんから、そこはなにくそ負けてられるか的な意地見せぇ!」
部長「いやいや、だからよ?逆によ?ここで部費アップして?設備とか整えて?遠征とかで結束高めて?新入生ともチームワーク育む的な?」
〇〇「中嶋、サッカー部は去年と比べて今年の予算は?」
中嶋「え〜っと…微減だね」
部長「え!?あがるどころか下がる!?」
〇〇「理由は?」
中嶋「…部員2人減だから?」
小西「成績残せんのやったらせめて部員勧誘頑張りぃや…」
〇〇「ちなみに今部員何人おんの?」
部長「…新入生合わせて13人?」
小西「なんで疑問符付きやねん!」
〇〇「ギリギリすぎるやろ!そのうちコンバート必至やないか!」
部長「…大丈夫、もう俺がキーパーに転向したから…」
〇〇「悲しすぎるわ!!」
小西「というか3年がやったら来年またキーパーおらんやろ…」
部長「…あ」
〇〇・小西「気づいとらんかったんかい!!」
〇〇「なんでこの状態で部費向上出来ると思ってん!?」
部長「ワンチャンイケっかなって」
小西「ワンチャンもネコチャンもないわ…」
〇〇「お前の武器嘆願書1本やないか!」
的野「しかも使い回し…」
部長「ほら…さ、サステナブル」
小西「このままやとサッカー部が持続不可能になりそうやけど?」
部長「なぁ〜、小西。同じクラスのよしみでさ〜」
小西「その理屈やったら私30人以上のお願い叶えたらなあかんねんけど?」
〇〇「小西に頼むんがそもそも…。情に訴えて聞くとおもとんのか?」
部長「…ダメ元?」
〇〇「やろうなぁ笑」
小西「なに笑ろとんねんっ!」
〇〇「いでぇ!?グーパンやめろ!」
部長「…お前ら立場逆じゃね」
〇〇「俺はどっちでもよかってんけどな。小坂さんに頼まれたんじゃなぁ」
部長「そりゃ断れんな。つーかどうせ断られるなら俺も小坂前会長に断られたかったなー!お前らと違って優しそうじゃん!」
小西「あんたんとこの前部長、小坂さんにバッサリ切られとったで」
〇〇「うーん、ダメかな笑 って言われとったな」
部長「どっちにしてダメなんじゃねーか!なんとかなんねーの!?」
〇〇「お前なぁ、村山見習え。恥ずかしいと思わんのか?」
え、急に話振らないでよ。
部長「村山出すのは卑怯だろ〜」
〇〇「世界変えたきゃまず自分変えんかい!」
部長「ずりぃ…。村山は特殊ケースだろ」
〇〇「なんでやねん。努力すりゃ得られるもんが増えるっていうお手本やろがい」
村山「人を勝手にロールモデルにしないでよ…」
〇〇「ほれみい!2年の頭までしらすで鯛釣ろうとしてた女が今や横文字使いこなしてるんやぞ!!」
村山「ちょっと!!今関係ない!!」
〇〇「首!締まっとる!!死ぬ!!」
部長「村山…、お前は俺等側だと思ってたのに…」
村山「…一緒にしないで?」
小西「辛辣ゥ…!笑」
部長「ち…、ちくしょう…!」
〇〇「出直せ出直せ」
小西「お帰りはあちらやで」
部長「鬼夫婦が!」
〇〇・小西「誰が夫婦じゃ!!」
部長「来年は後輩が俺の敵を取ってくれるからな!!」
〇〇は立ち上がると、すぐ近くに座ってる正源司さんの頭を鷲掴む。
〇〇「うちの源司が相手になったるわ!!」
正源司「えぇ!?私ですか!?」
〇〇「もうその頃は俺らおらんねんから当たり前やろ!」
部長「覚えてろ!」
小西「捨て台詞まで小物やな…」
ピシャン!とドアを開けて出ていくサッカー部の部長。なんか怒涛の勢いだったな…。
〇〇「源司!嘆願書ちゃんと置いとけよ、来年もおんなじの持ってきたら突っ返したれ」
正源司「私あんな強く言えるかなぁ…」
〇〇「弱気ダメ!絶対!」
正源司「ちょっと!!髪乱れるんでやめて!!」
の割には嬉しそうにも見える…。
〜〜〜〜〜〜
噂好き達「やっぱ小西さんとでしょ」
噂好き達「いやいや、小西さんとはいっつも揉めてるじゃん」
噂好き達「仲いいからこそじゃん?」
噂好き達「いやいや、聞けば解るって。めちゃくちゃこえーよあの二人の喧嘩。口わりぃもんマジで」
噂好き達「書記と会計の任命権、生徒会長の権限だろ?的野か中嶋どっちかが本命じゃね?」
噂好き達「権限あるからって独断で決めてねーだろ。2人は村山と仲いいって話じゃん」
噂好き達「どう考えても正源司でしょ。わざわざクラスまで勧誘に言ったって」
噂好き達「中学生の時の先輩後輩だって聞いたけど?」
噂好き達「正源司が会長追っかけてきたって噂だぜ?」
噂好き達「いや普通に中高生の身でそれは無理があるだろ…」
春の陽気に当てられたのか、頭がお花畑になってる生徒も少なからずいる。気にしなくてもそういう噂は勝手に耳に入ってくるし…。
それだけなら別にいいんだけど…。
クラスメイトの名前も知らない人「村山って、生徒会長と付き合ってんの?」
村山「…ハァ?」
名前も知らない人「あぁ、いや、そういう噂聞くからさ…」
村山「…付き合ってないけど?」
なんか知らない人「あぁ、そうなんだ…。あのさ、じゃあ良かったらなんだけど、俺と付き合っ」
村山「嫌」
知らない人「えっ」
村山「嫌」
誰?「あっ…、そう…」
こういうのは本当に面倒。
派手髪だった頃は目も合わせなかったくせに。
〜〜〜〜〜
村山「…で、これはどういう賄賂?」
〇〇「人聞き悪いな!!」
放課後。
時間あるか?と〇〇に言われて着いてきてみたら、何故かクレープを奢ってくれる。
村山「いや裏あるでしょ。絶対」
〇〇「信用がないのう」
…信用はしてる。
ただ意味なくプレゼントとか奢りとかするキャラじゃないことも確信してる。
〇〇「お礼とお詫び」
村山「…なんの?」
〇〇「…生徒会入ってくれた礼と、今後もそこそこな頻度でお前をロールモデルにすることの詫び」
村山「……」
〇〇「そんな目で見んなや!」
村山「…何の宣言なのそれ」
〇〇「しゃあないやろ、今んとこ俺が個人で達成してる実績は、お前の成績向上態度軟化生徒会役員入りくらいやねんから」
村山「人を自分の成果物にしないでよ」
〇〇「俺が今後1年間でなんにも完遂できへんかった場合、大学の面接でも就活の面接でもお前の話擦り倒すことになるからよろしくな笑」
村山「…クレープ1個でそこまでされんの私?笑」
〇〇「そうならへんためにも、頑張って力を貸してくれたまへ」
村山「はいはい…笑」
クレープを食べつつ、帰り道。
ひとつ気になって聞いてみる。
村山「…もしなんか実績あげたら、私のこと話すのやめんの?」
〇〇「はぁ?そん時はお前の事は頼れる仲間枠で話すに決まっとるやろ」
村山「……結局話すんじゃん笑」
〇〇「覚悟せい。もう乗りかかった船やぞ」
村山「やっぱクレープ1個じゃ安かったか笑」
〇〇「それは今後の頑張り次第やな」
ふと、なんとなく。
話題の種として。
村山「…〇〇って彼女作んないの?」
〇〇「…お前嫌味かなんかか?」
村山「違うって笑 結局小坂さんには告白しなかったし、みんな会長は誰が本命なのかって噂してるから…」
〇〇「みんな好きよな、そういう話」
村山「…役員のみんな、モテるから色々噂が立つんだって」
〇〇「ほんま、お前らようモテるよな。まぁ、気持ちはわからんでもないけど」
何故か、ちょっとドキッとする。
村山「……うかうかしてると気になる子にはみんな彼氏できちゃうかもよ」
〇〇「そん時ゃそん時やな。俺の器じゃなかったってだけや」
村山「……かっこつけ」
〇〇「やかましわ」
村山「…私も結構モテるんだけど」
〇〇「何やねんその宣言は笑 知っとるわそんなこと」
びっくりして、私は立ち止まってしまう。
村山「…知ってんの?」
〇〇「風の噂でな。けんもほろろらしいやんけ」
村山「……」
〇〇「まぁ、無理にするもんでもないわな」
〇〇はふと、笑う。
〇〇「なーんか俺らこの先もこんなことばっか言ってそうやな笑」
そういうの、お互いに向いとらんよな。
なんて言って笑う。
村山「一緒にしないでくれる?笑」
〇〇「辛辣ゥ!」
村山「…まぁ、ピンとこないっていうか。…正直煩わしいと思うときもある」
〇〇「っぽいなぁ笑 まぁ俺は告白なんかされたことないけどな!!!」
村山「…かわいそう笑」
〇〇「変な同情すんな!笑」
村山「ま、焦る理由もないか」
〇〇「そういうことやな」
もし、誰かさんが一言言ってくれれば、
こんなことばっか言うことも、
煩わしい思いもしなくて済むんだけど?
お互い、向いとらん同士でさ。