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The Show Must Go On

ずっとずっと昔。
人々の中から、特殊な異能を持つ者たちが現れた。
10%しか使われていない人間の脳の、残り90%の部分を発揮することによって発現したものとされたそれはSPECと名付けられ、その能力者達はSPEC HOLDERと呼ばれた。SPEC HOLDERは貴重な人的資源として、国家や結社の暗躍によって秘匿された。
より多くのSPEC HOLDERを有することこそ、世界の覇権を握ることだと。まだ世界はそんな事も知らず、水面下で行われる争いに気づかずにいた。

しかし、
その因子は気づかれぬまま世界へと広がっていた。
発光する赤子。その誕生ニュース。
少しずつ、しかし確かに増える異能を持った人々。
持ち得た力を振るい、秩序を乱すものが現れだした超常黎明期。
対抗するように立ち上がる者達も現れる。

ヒーロー。

彼らに最初に取り入ったのはマスメディア。とりわけTVはいち早く彼らの活躍を報道し、それを見た企業は彼らのスポンサーを買って出て、企業ロゴをコスチュームに乗せて広告塔とした。
ヒーローは企業に所属し、職業としてのヒーローが生まれ、その活躍は日夜テレビで放送され世間を賑わせた。いつの間にか、異能を持つ人々は人類の新たなステージに立つもの、“NEXT”と呼ばれた。

時は流れ、次第にその因子が世界を覆う頃、
実に世界人口の8割が異能を持つ超常全盛期。
もはや異能は誰しもがもつ“個性”とされ、国や教育にも当たり前のものとして組み込まれた。
ヒーロー育成の教育機関も普及、ヒーローは自身の事務所を立ち上げ、若き才を見出し、育て、独立し、また新たな才を見出した。


そして、時は流れ、今現在。


超常は衰退期を迎えていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜



???『あと15分後には開演時間だ。大丈夫なのか?』

スーツのヘルメットに仕込まれた無線機から、クライアントの声が聞こえる。

???「問題ありません、万事順調です」
???「本当ですか!?」

腕の中で驚いたように問う女性。

???「ええ、乗り心地は良くはないでしょうが、良い速度が出てるでしょう?」

摩天楼の隙間を縫うように飛ぶ我々。
交通ルールを守る気のない追跡車も、こちらを追うので手一杯なのだろう、攻撃らしい攻撃は飛んでこない。

???「早すぎて怖いんですけど!」
???「昨今、中々出来ない体験ですよ。生身で空を飛ぶのは」

異能全盛期の頃は、形こそ様々なれど、生身で空を飛べる人間は少なくなかったそうだ。まぁ、私の場合は飛ぶというより、浮くといったほうが正しいかもしれないが。

???「とはいえ会場までついてこられるのは面倒なので、そろそろ諦めてもらいましょう」
???「どうするんですか!?」
???「まずは快適な乗り物に移ります。ドク!」
ドク『聞こえていますよ』
???「今はどのあたりだ?」
ドク『次の交差点で合流します』

視線を先に向けると、見慣れた黒い車が交差点を曲がってこちらと同じルートに入る。

???「見えた。速度を維持したままルーフを開けてくれ。直接乗り込む」
ドク『承知しました』
???「少し揺れます。しっかり捕まっててください」
???「え、え〜!?」

絶叫を置いてけぼりにして、車に向けて降下する。
徐々に速度を調整して、ルーフから直接後部座席に着席。流石のドクお手製スーパーカーも、空中からの直接着席の衝撃は殺しきれずフラフラと車体を揺らす。

???「どうぞこちらに」
???「あ…ありがとうございます」

抱き抱えた女性を隣の席に座らせ、メットのバイザーを上げる。

???「いいタイミングだドク。時間は?」
ドク「あと10分ほどですね」
???「十分だな。5分で戻る」
???「あの、フリーランサーさん!」

ルーフから体を出そうと動き出すと、女性が声をかけてくる。

フリーランサー「フリーランサーで結構。このまま車に乗っていてください」
???「大丈夫ですか?」
フリーランサー「問題ありませんよ。また5分後にお会いしましょう“アイドル”」

バイザーを下ろして、ルーフから飛び出す。
道路に着地すると、すぐに追跡車が向かってくる。

追跡者「どけ、ヒーロー!」
フリーランサー「すまないが時間がない」

迫る車に手をかざす。

温度調整。

端的に言えば、持ち得た異能はそう呼べる。
熱を奪い、奪った熱を放出する。
生身では精々、
冷めた飯をホカホカにする。
アイスを食べ終わるまで溶けずにキープする。
程度。
しかし衰退する超常に対し、科学は絶えず進歩し続けた。今なお前線に立ち続ける数少ないヒーローの多くはサポートアイテムの恩恵を受け、能力を底上げしている。私もまた然り。

車の推進力さえ消し去る勢いで空気ごと熱を奪う。
凍結。追跡車は見事に芸術的な氷像と化す。
スーツの背中から余剰に奪った熱が蒸気となって勢いよく排出される。それ乗っていて背のマントがたなびく。

フリーランサー「素晴らしいスーツだドク!」
ドク『ありがとうございます。しかしこちらは問題が発生しました』
フリーランサー「どうした?」
ドク『中継映像を送ります』

メット内のインフォメーションウィンドウに映像が映る。

フリーランサー「文字通り壁か」

会場へのメインストリート。
そこに壁が生えている。
恐らくはコンクリートを生み出すか、変化させる異能者の仕業だろう。

追跡者「ヒーロー!」

氷漬けの車内からなんとか顔だけのぞかせる男。

追跡者「どうせお前も能力衰退者だろ!力が無くなる前に稼いでおかないといずれ後悔するぞ!」
フリーランサー「今するくらいなら、いずれするほうがマシだな! 悪いが時間がないんで失礼する!」

三度浮遊。
空を飛ぶ異能ではなく、温度を調整して気圧差を生み出して浮いたり落ちたりする。

フリーランサー「今行く。速度はそのまま」
ドク『承知しました』

体制を整え、空気抵抗を減らし、更に加速。
車を追い抜き、壁を確認。

フリーランサー「ここまでおあつらえ向きなシチュエーションもそうはないな」

遥か昔。
TVで人気の特撮ヒーロー達がいた。
彼らは人間の自由を守るために戦った。
姿形、能力は様々だが、多くの戦士達が共通の技を有していた。

推進力はそのまま、
くるりと体制を変えて、これでもかというくらいハッキリとした飛び蹴りのポーズを取る。

フリーランサー「ライダーキック!」

更に気圧差を高めて風の後押しを受け加速。

フリーランサー「更に向こうへ! Plus Ultra!!」

超常全盛期。
著名なヒーロー育成機関において掲げられた校訓。
ラテン語で更なる前進を意味する言葉。
いい言葉だ。
壁を超えるこういう時にこそ相応しい。

壁を蹴り砕く、というよりも蹴り貫いて道を作る。
浮遊しながら体勢を立て直すと、視界の端に男が映る。反射的に逃げようとするその姿から追跡者の一員だと分かる。すぐに取り押さえ、拘束。

フリーランサー「フリーパスです。どうぞアイドル」

次の瞬間には車がコンクリートのゲートを走り抜けていく。

アイドル『フリーランサーさん!』
フリーランサー「フリーランサーで結構」
遥香『私、遥香っていいます!賀喜遥香です!またお会いしましょう!』
フリーランサー「ええ、いつでもまたのご依頼をお待ちしています。いいライブを」
遠ざかる車を見送ると、足元の男が吠える。

コンクリ使い「…アイドルのお守りは楽しいか、ヒーロー」
フリーランサー「あぁ、楽しいね」

迷いなく即答できる。

フリーランサー「知ってるか? アイドルは誰かを笑顔にする仕事らしい。なら我々ヒーローはそうやって生まれた笑顔を守らなければな」
コンクリ使い「非効率的なエネルギー回収のためにか?」
フリーランサー「人が人生を謳歌するためにだ」
コンクリ使い「…ご苦労なことだ」
フリーランサー「まさか労ってもらえるとはおもわなかったな。名残惜しいがお迎えが来たぞ」    

やってきた警官隊に追跡者を引き渡す。

フリーランサー「ドク。彼女を送り届けたらポイントBで合流だ」
ドク『承知しました』

ふわりと浮遊し、摩天楼の天辺に降り立つ。
少し先に見える大型ドームに光が灯るのが見える。

クライアント『無事に会場入りした。感謝する。報酬は指定の口座に入金した』
フリーランサー「ありがとうございます。またのご依頼をお待ちしています」

彼女はグループアイドルとのことだったので、最初から出番があるかはわからないが、光ついたということはつつがなく開始できたということだろう。





超常衰退期。
世界人口の8割が能力を失い無個性となり、残る2割の多くが年を経るにつれて能力を失っていく時代。
そんな衰退の時代でも科学は絶えず進歩し、とある画期的な発明がなされる。

人間の感情からエネルギーを生み出す機関。

恒久的なエネルギー不足に差した光明。
人が人らしく生きるだけでエネルギーが生み出される仕組みに世界は沸いた。
多くの国で、より多くのエネルギーを生み出すためのエンタメ施策が打ち出された。シンガー、ダンサー、コメディアン、アクター、アーティスト。それらの養成機関が次々と生まれ、そこから輩出された人材は丁重に扱われた。こと日本においてはアイドルに力が入れられている。

しかしながらこの画期的な発明にも、面倒な問題を引き起こす要素があった。
人の持つプラスの感情である喜や楽よりも、マイナスの感情である怒や哀の方が得られるエネルギーの効率が良かったことである。
その差は、非人道的な行いが秘密裏に行われる程度には大きかった。
そんな行いが明るみに出れば当然大きな問題となる。そこに目をつけたのがヴィラン達。多くのヴィランは騒動を起こし、それによって世論のマイナス感情を引き出し、それによって得られるエネルギーを密売する流れに乗っていった。
そのターゲットとして最適だったのが、エンタメ業界。多くの人の注目が集まる人物、イベント、創作物が狙われた。プラスの感情が集まりやすいということは、ちょっとしたトラブルでも多くのマイナスの感情が生まれるということだ。
何万人も動員するようなライブステージにおいて、いかなる理由でも中止などとなれば、莫大なエネルギーが生まれ、ヴィラン達によって闇で売買されることになる。それは単純に金銭だけでなく、物理的な力を反社会的な勢力に渡すことと同義である。


どんな逆境にあっても、計画され、始まったものは最後までやり遂げなければならない。


ヒーロー達は、
遥か昔、エンタメの1つとして生まれ、
黎明期、TVで活躍が流れるエンタメとなり、
全盛期、エンタメを越えて日常となり、
衰退期、エンタメを守る存在となった。





The Show Must Go On  


END…




・フリーランサー
本名は小冷蓮司(こびえれんじ)。
能力は温度調整。生身で出来ることは、電子レンジと冷凍庫で代用できるレベル。
ヒーローとオールドムービー好きで、古今東西今昔問わず、様々なヒーローの活躍を見漁るのが趣味。
台詞がかった話口調もそのあたりが影響。
昨今のヒーローは芸能事務所などと契約して、そこに所属する人物や、参加するイベントなどの警護について安定したギャラをもらうのが主流となりつつあるが、頑なにフリーランスを貫いている。
能力の元ネタは半冷半燃と見せかけて第四波動。

・ドク
本名は博史郷(はくしごう)
無能力。
元はフリーランサーの父が経営するサポートアイテム開発企業に務めていたが、経営縮小の煽りをリストラ対象になっていたところを雇われた。
ドライバー兼、メカニック兼、お目付け役。
呼び名はもちろんバックトゥザフューチャーから。





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ライナーノーツ

SPEC、TIGER&BUNNY、僕のヒーローアカデミア、仮面ライダー、その他アメコミ諸々。
モンスターズ・インク。
さらにアイドル。
好きなのごった煮ヒーローもの。

乃木坂である必要ある?
しらない。


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