なんでもええねん。
〇〇「帰ってもやることないとか言いつつ…」
小西「アンタが行く言うたんやろ」
正月、俺達は小西の地元、神戸にいる。
〇〇「まぁそうなんやが…」
小西「やったらぐちぐち言いなや」
〇〇「へいへい」
港町らしく、海に面した商業施設で買ったポテりこを手に対岸のランドマークを眺める小西。
〇〇「…なんやノスタルジーにでも浸っとんのか?」
小西「デリカシーって分かる?」
〇〇「質問に質問で返せって誰かに習ったんか?」
小西「ふん。…ほんま中学生の頃はよう来とってん」
〇〇「ま、友達がバイトしてるくらいやしな」
小西「…アナザースカイってやつ」
〇〇「……アナザースカイは第二の故郷やろ。どっちか言うたら東京の方やないか?」
小西「……ファーストスカイの間違いや」
〇〇「……すまん、ボケなんかガチなんか分からんかったからツッコまれへんかったわ」
小西「……ボケに決まってるやろ!下手くそ!」
〇〇「…お前たまにぶっ飛んだ天然ボケかますよな。びっくりするわ。見かけによらずアホやんな」
小西「…新年早々寒中水泳しとく?」
ちょいちょいと海を指さす小西。
〇〇「死ぬわ!」
想像するだけで凍える。
小西「…で、なんで神戸?」
〇〇「……絶対馬鹿にするから言わん」
小西「まぁ言うてみぃや」
〇〇「……お前、俺東京おったら帰らんやん」
小西「…自意識過剰すぎん?笑」
〇〇「ほらそうなるやんけ!!」
わかっていたことだが癪である。
小西「別に帰りたなったら勝手に帰るし笑」
〇〇「はいはいはいはい!」
小西「……そんな気ぃ使わんでええねん」
〇〇「……あんな、そういう時はな、どう思っとってもありがとうやろ?」
小西「…恩着せがましいなぁ」
〇〇「…かわ」
可愛ないやつ!…と言おうとして、小西の方へ視線を向けると、小西はじっと俺の方を見ている。
いや!可愛いなコイツ!
どう考えても可愛いな!
小西「…なに」
〇〇「…何もない」
小西「なによ、なんか言おうとしたやん」
〇〇「してへん」
小西「はぁ?言うてみって」
〇〇「うっさいなぁ!可愛ないって言おうとしたけど、やっぱ可愛いって思ったから黙ったんや!」
小西「…はぁ?」
小西は一瞬驚いた顔をして、いつも通り悪態をつこうとして、
小西「…アホちゃう」
マフラーに顔を埋めるようにして隠すと、更にプイッとそっぽを向く。
〇〇「アホで結構です〜。彼女可愛い言うて何が悪いねん」
小西「……」
そっぽを向いたまま、ポテりこを齧る小西。
〇〇「…なんか言うことないんか?」
小西「……ん」
そっぽを向きは継続のまま、ポテりこを一本つまんでこっちに差し出す。
〇〇「……」
俺は無言でポテりこを咥え、一本をつまんで小西に差し出す。
〇〇「ん」
小西「……」
俺の声に反応して、こっちに向き直る。
少し迷ったように視線を彷徨わせて、意を決したのかマフラーを下げて、ポテりこを咥えた。
寒さのせいか、マフラーで暖まったせいか、心なしか顔が赤くなっているようにも見える。
なんというか、警戒心の強い猫に餌でもやってる感じがする。
〇〇「んぁ、やりひゃいことがある」
小西「んぁ?」
俺は小西の顔に、自分の顔を寄せる。
小西「っ!?」
急にやってきた俺に驚く小西。
俺は自分の咥えたポテりこの先端を、小西の咥えたポテりこの先端にゆっくりとくっつける。
小西「……」
〇〇「……」
少しの沈黙。
小西「………なにやってねん!!笑」
〇〇「なにって、シガ…ちゃうわ、ポテリッコキスやろ!笑」
小西「なんやねんそれ!!笑」
〇〇「ちょっと憧れるやろ!!俺らどっちも非喫煙者やし!!」
小西「中学生か!!笑」
〇〇「やってみたくなってんからしゃあないやろ!笑」
小西「しょうもな!!笑」
〇〇「しょうもない言いながら笑てるやんけ!笑」
小西「しょうもな過ぎて笑てんねん!笑」
お互い耳まで真っ赤にしながら笑う。
なんとなく分かった。
場所も内容もなんでもええねん。一緒ならしょうもないことでも、こうやってバカ笑いできる。
小西「はぁ〜あ、ほんま何やってんねん…笑」
〇〇「あー、笑った」
小西「…バカップルや思われるで」
〇〇「なんか間違っとるか?」
小西「……」
小西は何も言わず、俺の腕を抱く。
小西「もう行くで!めっちゃ見られとるし!」
〇〇「はいはい笑」
小西「はいは1回でええねん!」
ずいずいと進む小西に引っ張られるように、俺も歩き出す。
小西「…来年はそっちの地元やで」
〇〇「……なんで?」
小西「…アンタも私が東京おったら帰らへんねやろ」
〇〇「……そやな!」
小西「そこは自意識過剰ちゃうかってイジるとこやろ!!」
〇〇「おまっ!!腕の関節はそっちに曲がるように出来てへんぞ!!」
素直に言っても、ひねくれても腕を折られかねん。