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出張喫茶チャイティーヨ 夏フェスに行こう! その1

〇〇「今日は本当にありがとうございました」

Buddiesでのイベント前、新作カクテルの味を見てもらうために、お師匠である麻衣さんのお店に伺った時のこと、

深川「どういたしまして。…〇〇」
〇〇「はい?」
深川「ななみんから、夏フェスへの出店オファー来てるよね?」
〇〇「はい。えーと、ななみさんのいる会社の本社が主導で進めてるらしいですね。それで出店候補を支店にも募ってて、奈々未さんがチャイティーヨを推してくださったとか」
深川「うん。私にも個人的にオファーが来ててね」
〇〇「そうなんですね!すごい!」
深川「…ただお店としてじゃなくて、私個人にバーテンダーとしてのオファーなんだ」
〇〇「…?」
深川「ごめん、わかりにくいね笑」

麻衣さんは笑って詳細を教えてくれる。

深川「夏フェスには協賛の企業がいくつもあって、そのうちの一つにウィスキーをメイン扱ってる会社があって、そこのブースに立ってくれないかってオファーなの」
〇〇「なるほど…」
深川「そこで提供するのはハイボールでね。一応オリジナルのハイボールも出すんだけど、普段の営業とはかなり違って来るからどうしようかなって」

麻衣さんのお店はかなり落ち着いたBAR。
フェスでハイボールを出すとなると、落ち着いた接客や雰囲気よりも、明るさや提供速度を求められることは想像に難くない。

深川「でもね、受けることにした」
〇〇「…理由、聞いてもいいですか?」
深川「…〇〇も頑張ってるから」
〇〇「……」
深川「出来るかどうかとか、それが今後の自分にプラスになるのかとか、一旦そういうのは置いといて、期待された自分を信じて、精一杯やってみる。
…負けてられないなって、そう思ったから」
〇〇「…こっそり聞いたことがあるんです。麻衣さんは飛鳥さん達と働いてた頃、どんな人だったんですかって」
深川「え…」
〇〇「わざわざ聞かなくても、今〇〇の思ってるまんま。なんにも変わってないよって」

そう言われたら、まぁそうなんだろうなって。
納得してしまう。

〇〇「ここ最近ずっと考えてたんです。変わるものがあって、変わらないものもきっとあるって。
お仕事とか、みんなとの関係性とか、考え方とか、変わったことはたくさんあると思うんです。
けど、麻衣さんがお優しいのは今も昔も変わらないんだろうなって。それが妙に説得力があるというか、納得してしまって、なんか安心しました」

だから、これも変わらない。

〇〇「麻衣さんはずっと僕のお師匠です。何があっても。何処に行っても。例え僕か麻衣さんがバーテンダーじゃなくなったとしても。飛鳥さんや奈々未さんとずっと仲間なように。麻衣さんがそれを許してくれる限り、僕は自分の事を貴女の弟子だって思ってますよ」
深川「……そっかぁ」
〇〇「はい、そうですよ」
深川「…夏フェス、頑張ろうね」
〇〇「はい、頑張りましょう!」


〜〜〜〜〜〜

???「〇〇さーん!」
〇〇「…?」

夏フェス出店が近づくある日、チャイティーヨ出勤前に買い物をするべく乃木駅まで出てきたら、不意にどこかから声をかけられる。

???「こっちです、こっち!」
〇〇「…美青ちゃんか!」

道路の反対側、背の高い大人っぽい格好の女性がこっちに手を振っている。普段は制服姿をみることが多かったから、その人が私服姿の美青ちゃんだとなかなか気づけなかった。

〇〇「私服大人っぽくて一瞬わかんなかったよ」
美青「えっ、そうですか!?」
〇〇「うん、普段は制服だからさ」
美青「確かに、私服で会うことあんまりないですもんね」

夏休みに突入して、学生達も私服で街を歩く時間が増えたのだろう。普段は制服姿の子達が多い乃木駅周辺も色とりどりの服装が目に付く。
 
美青「〇〇さん、サングラスかけるんですね」
〇〇「この時期ぐらいだけどね。眩しくって」
美青「似合ってます。カッコいいですね!」
〇〇「ありがとう。大体皆からはチャラいって怒られるよ笑」
美青「そうなんですか笑」

美青ちゃんは楽しそうに笑う。

〇〇「美青ちゃんはバイト?」
美青「はい。けどまだ時間あるんで少しブラブラしようかなって。〇〇さんは?」
〇〇「ちょうど話題に出たけど、今度長めに車を運転することになりそうだから、運転用のサングラス買おうかなって」
美青「そうなんですね!…よかったらついて行ってもいいですか?」
〇〇「もちろん。興味あるの?」
美青「はい!でもきっかけがないとなかなか買いに行く機会ないなって思ってたんです」
〇〇「たしかに…。じゃあ行こっか」
美青「はい!」

僕らは駅からほど近い眼鏡屋さんへ向かう。

〇〇「美青ちゃんは夏休み何か予定あるの?」
美青「う〜ん…。一応友達と遊ぼうって言ってますけど、そんなに大きなイベントは今のところないですね〜。〇〇さんは何かあるんですか?」
〇〇「僕個人じゃないけど、チャイティーヨで夏フェスに出店するよ」
美青「へ〜!ビッグイベント!」
〇〇「そうだね、初めての経験だからドキドキ。そのうちのチャイティーヨのSNSでもお知らせするけど、その間3日〜4日お休みするから気をつけてね」
美青「はーい」

そうこうする内に、眼鏡屋さんに到着。
サングラスを外して店内に入ると、店員さんが僕に気づいて会釈してくれる。

美青「…常連!」
〇〇「いやいや、前回来た時質問攻めしたから覚えてもらってるだけだから笑」

サングラスのコーナーにつくと、さっそく物色。

〇〇「どういうのが良いとかある?」
美青「〇〇さんは目星つけてるんですか?」
〇〇「僕はね〜」

ざっと見て、僕はそのうちの一つを手に取る。

〇〇「今持ってるのが四角いフレームにブラウンのレンズだから、今回は丸いフレームにグレーのレンズかなって」

実際かけてみて、美青ちゃんに見せてみる。

〇〇「どう?」
美青「似合ってます!」
〇〇「全肯定してくれる笑」
美青「ホントに似合ってますって笑」
〇〇「ありがとう。美青ちゃんもかけてみる?」 

サングラスを外して、渡す。

美青「ありがとうございます…。どうですか?」 
〇〇「えっ!いいよ!カッコいい!」
美青「似合ってます?」
〇〇「鏡みてみ」

直ぐ側にある鏡を指差すと、美青ちゃんはいろんな角度を確認してる。

美青「あ〜、いいかも」
〇〇「美青ちゃん、服装とか髪型とかメイクで随分印象変わるね」
美青「そうですか?」
〇〇「うん。普段の制服姿は可愛い感じだけど、メイクして私服だとかっこいい感じする」
美青「……どっちの方が好きですか?」
〇〇「どっちも好きだよ」
美青「…ふふ」

美青ちゃんは照れくさそうに笑う。

美青「じゃあどっちも頑張らないと」
〇〇「そうだね、頑張って笑」
美青「なんか軽くないですか〜?笑」
〇〇「そんなことないって笑」

僕らはくすくすとそんなじゃれ合いをして笑う。

美青「私、これにします!」
〇〇「いいね、ホント似合ってるから」
美青「……お揃いにします?」
〇〇「…ありだね」
美青「ホントですか!?」
〇〇「美青ちゃんが良ければ」
美青「もちろん!」
〇〇「僕、こういうの初めてだな」
美青「そうなんですか?」
〇〇「うん。人とおそろいの物って持ったことないんだよね。精々制服くらいかな」
美青「へぇ〜…」
〇〇「意外?」
美青「別にそういうわけじゃないんですけど…」 

美青ちゃんはあたふたとスマホを取り出す。

美青「写真撮りましょう!」
〇〇「別にいいけど…?」

僕らは同じデザインのサングラスをかけて、並んで写真を撮る。

美青「ありがとうございます!」
〇〇「じゃあケースも選んでお会計しよ」

それぞれサングラスをしまうケースを選んで、店員さんにお会計をお願いする。

美青「そう言えばお値段全然見てませんでした…」
〇〇「いいよ、プレゼント」
美青「えっ!?」
〇〇「買い物付き合ってくれたお礼」
美青「悪いですそんな」
〇〇「ダンスの面倒もみてもらったし、由依ちゃんのこととかも教えてもらったしね」
美青「…いいんですか?」
〇〇「年上には甘えときなさい」
美青「…ありがとうございます」

お店を出ると、サングラスの入ったショッピングバッグを軽く掲げて、笑顔の美青ちゃん。

美青「本当にありがとうございます。大事にしますね」
〇〇「どういたしまして。…ぜひどんどんかけてね。その方が嬉しいし」
美青「はい、そうします!」

僕らは駅へ向かって歩き出す。

〇〇「なんかさ、こういうの嬉しいね」
美青「?」

つい口に出た言葉に、美青ちゃんが首をかしげる。

〇〇「あぁ、ごめんね。僕一人っ子だからさ、なんか仲いい妹とかいたらこんな風にワイワイ買い物行ったりするのかなぁって」
美青「……それは、プラスに捉えていいんですか?」
〇〇「…? うん、一緒にいて楽しいってことで」
美青「…じゃあ、よかったです」
〇〇「うん?」

駅前まで来て、ここからは道が別れる。

〇〇「じゃあ、バイト頑張ってね」
美青「ありがとうございます笑」
〇〇「夏休み、たくさん楽しめるといいね」
美青「はい! ……あの」
〇〇「ん?」
美青「……いえ、なんでもないです!〇〇さんも夏フェス営業頑張ってください!」
〇〇「? うん、ありがとう」
美青「じゃあ、お疲れ様です!ありがとうございました!」
〇〇「はーい、いってらっしゃい!」

美青ちゃんが見えなくなるまで見送って、僕もチャイティーヨへ歩き出す。
うーん、よくないこと言っちゃったかな。
色々気になるお別れになってしまった。
いきなり妹みたいとか言い出したのがよくなかったかな?人間関係難しくて不安…。


〜〜〜〜〜


〇〇「っていうことがありまして…」

夏フェスへ向かうチャイティーヨ号車内。
新しいサングラスに気づいた助手席の飛鳥さんに、購入した日のことを軽く相談してみる。

飛鳥「ふーん」

あ、ふーんだ。

飛鳥「で?」
〇〇「え…、でって。なんか悪いこと言ったかなと」
飛鳥「さぁね。そんなのその子にしか分からないでしょ」
〇〇「…まぁ、そうなんですけど」
飛鳥「気になるなら、帰ってから聞いてみれば?」 
〇〇「ごもっとも…」
飛鳥「はいはい、運転集中しな」
〇〇「はーい」

夏フェス会場までは片道約2時間半。
行きは僕が1時間半。飛鳥さんが1時間。
帰りは逆に僕が1時間。飛鳥さんが1時間半の予定。

〇〇「…暑くなりそうですね」

早くも日差しが明るい空。
これから午後に向かって、ますます気温も上がってくるだろう。

飛鳥「そのために色々対策はしてきてるでしょ」
〇〇「そうなんですけど…」

暑いのは正直あんまり得意じゃない…。

〇〇「アルノ、日焼け止め塗ってる!?」
アルノ「塗ってますよ!」
ひかる「もうお母さん…」
アルノ「他の人にも聞いてくださいよー!」
〇〇「みんなは塗ってるから大丈夫」
美波「そこは信頼されてるんだ笑」
さくら「なんでかアルノちゃんには心配性になっちゃうんですよね笑」
飛鳥「…過保護卒業すんじゃなかった?」
〇〇「うっ……」


〜〜〜〜〜

飛鳥「はい、着きましたよ」
一同「ありがとうございまーす」

今日から3日間お世話になるホテルに到着。

飛鳥「チェックインまで時間あるから、荷物預けて機材会場まで運ぶよ」
一同「はーい」

僕らは荷物をフロントへ運ぶと、手続きだけ済ませせて、機材や物資を搬入するため会場へ向かう。
今回の出店で僕らに割り振られたブースは、テーブル席も備えられた広めのスペース。

飛鳥「個人的な意見でしかないけど、うちはコーヒースタンドじゃなくて喫茶だからゆっくり座るスペースは欲しい」

という飛鳥さんの言い分が通って、うちはテイクアウトとイートインの二刀流で営業することが決定。
慣れない野外営業だけど、人数もいるし、なんとかなる!はず…。

飛鳥「ミーティング通り、基本はドリンクに〇〇とひかる。キッチンに梅とえんちゃん。私とアルノがホール業務。外が忙しい時はえんちゃん、ひかるに出て貰う形で」
一同「了解です!」

僕らはブースの設備や、当日の器具の配置場所、オペレーションなどを確認。今回は喫茶メニューもアルコールメニューも店舗営業に比べれば縮小。とはいえ、シェイクが必要なカクテルメニューと、ドリップコーヒーが重なり続けると、飛鳥さんにヘルプに入ってもらうことになるかもしれない。僕の今回の目標は、可能な限り飛鳥さんにホール業務に専念してもらえるように回すことだな。

美波「そっちはどう?」
〇〇「一通り確認はオッケーです」
ひかる「あとは実際やってみないと、ですね」
美波「だね」

そんなことを話していると、ブース前に人の気配。

奈々未「お疲れ様」
〇〇「おっ、奈々未さん!」

顔を上げると、今回僕らをここへ招いてくれた方。
そしてその後ろに見知らぬ美人が立っている。

???「こんにちは」
〇〇「こんにちは…」
美波「白石さーん!!」

さっきまでそこにいたはずの美波さんが、いつの間にかブースの裏から表に移動していた。

白石「梅ちゃん久しぶりー!」
さくら「白石さん!」
白石「うわー!久しぶりー!元気!?」

美波さんやさくらさんがすごい勢いで飛び出して行って、ワイキャイしている。

ひかる「お知り合いなんですか?」
〇〇「うーん、僕はわかんないけど、なんとなく今察しがついてる」
奈々未「お察しの通り、私と飛鳥の同期だよ」
〇〇「やっぱり」

久しぶりだけど、恐ろしい会社だ。

飛鳥「始まってた」
白石「飛鳥〜!久しぶり〜!」
飛鳥「あ〜…」
白石「可愛いねぇ〜!相変わらず〜!」

髪をわしゃわしゃ撫でたり、頬をツンツンされたりとやりたい放題されているけど、

〇〇「飛鳥さんが猫可愛がりされてるのに拒否してない…!」
奈々未「飛鳥はしーちゃん大好きだからねぇ」
〇〇「しーちゃんさんですか?」
ひかる「ちゃんさん笑」
奈々未「白石麻衣ね笑 元々梅もしーちゃんに憧れて入社してるから、嬉しいんだろうね」
〇〇「そうなんですね…。あ、麻衣さん2人目」
奈々未「実は後輩にもう一人眞衣がいるよ笑 漢字は違うけど。しーちゃんは広告塔と言うか、あの頃の会社の顔の1人だったのは間違いないね」 
白石「ななみーん!写真撮ろ!」 
奈々未「はいはい笑 ごめん、ちょっと行ってくるね」
〇〇「はい、いってらっしゃい」 
アルノ「珍しいくらい皆さんはしゃいでますね」

飛鳥さんと一緒にホール作業を確認していたアルノが、ブース前まで戻ってきた。

〇〇「確かに」
ひかる「なんか美人なのに気さくっていうか、気取らない人ですね」
〇〇「確かに」
アルノ「…聞いてます?」
〇〇「聞いてます〜」

これまで何人も同じ会社の方達と会ってきたけれど、たぶんこの人はまた一つ特別というか、それこそ会社の顔なんて言われるに足る人なんだろうって、なんとなく皆さんの顔を見て思う。

〇〇「そういう人がいるって、幸せなことなんだよきっと…」
ひかる「なーんか急に黄昏モード」
アルノ「どうせまた何処かの女の人のこと考えてるんだよきっと」
〇〇「…君らさ、もうちょっとこうなんかないんかね。気遣いというかさ〜」
ひかる「先輩が言います?それ」
アルノ「ホントに先輩だけには言われたくない」

なんかいつの間にかこっちが責められる形になってる?

飛鳥「3人とも、ちょっと来て」
〇〇「はい!」

飛鳥さんに呼ばれ、僕らはブースから出て皆さんの元へ。 

飛鳥「こいつが〇〇。オープニングからのスタッフ。次期副責任者」
〇〇「〇〇です!よろしくお願いします!」
白石「おぉ、元気だ。はじめまして、白石麻衣です。話はななみんから色々聞いてるよ」
〇〇「ええ!?」
奈々未「まぁ、別に悪いことは言ってないから笑」

じゃあ、一体何を言ってるっていうんだろう。

飛鳥「で、後ろの2人が森田ひかると中西アルノ」
白石「えー!二人とも可愛いね!」
ひかる・アルノ「あ、ありがとうございます」

2人が素直にただお礼言ってる。
ひかるなんかそういう時、大体茶化したりふざけたりするのに。
美人に褒められると人はこうなるのか。

飛鳥「しーさん達はこの後どうすんの?」
白石「すぐ近くにまいまいの参加するブースがあるから、そっちに挨拶に行くよ」
飛鳥「そっか…。〇〇!」
〇〇「はい!」
飛鳥「〇〇も挨拶行くんでしょ?着いてったら?」
〇〇「え!?」
白石「おっ、行こ行こ!」
〇〇「え!?」
奈々未「こうなると着いてきたほうが早いよ」
〇〇「え!?」
美波「相変わらずノリが良いですね笑」
白石「なんか楽しくなってきちゃった笑」

勢いが凄まじくてついていけてないんですけど。

白石「よーし、出発!」
奈々未「はいはい。〇〇行くよ」
〇〇「あ、はい!行ってきます!」

流されるまま、とりあえずお二人に同行する。

白石「〇〇くんはまいまいのお弟子なんでしょ?」
〇〇「あ、はい!色々良くして頂いてます」
白石「まいまいがバーテンダーは正直驚いたなぁ」
奈々未「お店来たら意外としっくりくるよ。まいまいに話聞いてもらいたくて通ってる常連さんも結構いるしね」
白石「そう言われると確かに、BARのマスターらしい聞き上手な感じは向いてるのかも」
奈々未「女性のバーテンダーさんがいるってことで、来店しやすいんだろうね。早い時間帯は若い女の子のお客さんも多いよ」
白石「それはある。今回私が推薦したバーテンダーの子がいるお店はスタッフ全員女の子なんだよね」
奈々未「そうなんだ?」
白石「うん。まぁそこは可愛い子ばっかりだから男性のお客さんも多いけどね笑」

ううーん。盛り上がっている。
コミニケーション能力なくてどうすればいい。

白石「…緊張してる?」 
〇〇「あっ、はい。ちょっとだけ笑」
奈々未「珍しいじゃん。あ、私や飛鳥と同期だから?」
白石「? なんか関係あるの?」
奈々未「かしこまってるんじゃない? 〇〇は飛鳥大尊敬だから笑」
〇〇「なーんか言い方に含みがありますね〜」
奈々未「年下とはすぐ仲良くなるくせに」
白石「ふ〜む…年下好きなの?」
〇〇「ちょっとー!奈々未さんの言い方のせいで変な方向に誤解されてるんですけど!」
奈々未「でも事実じゃん?」
〇〇「まったく…。白石さんと話してる飛鳥さん達見ると、皆さんにとって白石さんはちょっと特別なのかなぁって」
白石「別にそんなことないよ笑」 
奈々未「別にそうだったとしても、〇〇がかしこまることじゃないでしょ」 
白石「ななみんー?」
奈々未「ごめんごめん。ご覧の通りお茶目なお姉さんだから仲良くしてあげて笑」

確かに、言葉や立ちふるまいから、楽しいことが大好きな人なんだろうってわかる。そういう所もこの人が好かれてる理由なんだろう。

〇〇「お気遣いありがとうございます笑」
白石「どういたしまして笑 改めてよろしくね〇〇くん」
〇〇「〇〇で大丈夫ですよ」
白石「そっか。じゃあ私も…と言いたいところだけどまいまいと被っちゃうね〜」
〇〇「…じゃあ、奈々美さんと飛鳥さんにならって、しーさん呼びさせていただきますね」
白石「うん、じゃあそれで笑」

そんな風にやり取りしていると、非常に目立つブースに到着。看板にはHIGHBALL BARの文字。

白石「まいまーい!!」
深川「まいやーん!!」

ブースの裏手にいた麻衣さんを見つけたしーさんが、すごい勢いでかけていく。

〇〇「白石さんはいつもああいう感じなんですか?」
奈々未「普段から近い感じだけど、今日は久しぶりの再会が多くてハイだね笑」
深川「2人もお疲れ様」
〇〇「お疲れ様です」
奈々未「お疲れ」

後に続く僕らに気づいた麻衣さんが、声をかけてくれる。

深川「準備は順調?」
〇〇「はい。一通り済みまして、飛鳥さんもブースの中確認したら挨拶いらっしゃると思います」
深川「そっか、こっちも一段落」
白石「あ、そうだ。ついでだから私が推薦したバーテンダーの子も紹介するね!ちょっと待ってて!」

白石さんはブースの中へ。

〇〇「バーテンダーさん、何人かいらっしゃるんですか?」
深川「うん。私とまいやん推薦の子と、もう一人の3人で営業するよ。推薦の子はさっき挨拶したけど可愛い子だった。3人目の方は明日と明後日で違う人が来るんだよね?」
奈々未「そう。本当は1人どうしても来て欲しい有名な人がいて、その人に2日間お願いする予定だったんだけど、明日までインドでゲストシフトらしくて」
〇〇「インド!?」
奈々未「うん。で、明後日の朝帰国してそのままこっち来てくれるらしいけど」
〇〇「そのまま!?タフですね…」
奈々未「ほんとにね笑 だから初日は臨時で来てくれるバーテンダーさんと、明後日はその有名な人と。3人編成だね」
〇〇「なるほど…」
白石「おまたせ!」

ブースから白石さんが女性を1人連れて戻ってくる。
なんとなく視線を向ける。
そこに立っている人は、確かに、見覚えのある人。
つい最近、よく思い出していた人。
なんなら、ついさっきも。

そういう人がいるって、幸せなことなんだよきっと…
それは例えば美青ちゃんにとって。
きっとひかるを含めたダンス部のみんなにとって。
尊敬する、大切な人。

〇〇「…由依ちゃん?」
???「えっ…」

僕はサングラスを取って、髪をざっと後ろに流す。

???「え…、〇〇さんですか…?」
〇〇「やっぱ由依ちゃんだよね!?」
由依「なにしてるんですかこんな所で!?」

やっぱりそうだ。
大人っぽくなってるけど、確かに由依ちゃんだ。

由依「…私が知らない間に夏フェス呼ばれるようなギタリストになってました?」
〇〇「なってないよ…」
奈々未「えーっと…?」 
〇〇「あ、あ、あ、すいません…。どこから説明したものか…」

ふっと、気づく。
今、すぐにでも、知らせなきゃいけない。

〇〇「すいませんちょっと待っててください!」

僕は返事もまたずに踵を返して走り出す。
目的地はすぐそこ。

ひかる「あれ、早いですね」

テーブル席回りを確認していたのだろう。
ひかるがすぐに僕に気づく。

〇〇「ひかる…」
ひかる「はい?」

息切れしながら、
僕は今そこであったことを伝える。

〇〇「由依ちゃんがいる」
ひかる「……え?」
〇〇「いこ、案内するから」

僕はまた踵を返して走る。
ひかるは何も言わずついてきた。
そして、

ひかる「由依さーーん!!!」
由依「ひかる!?」

飛びつくように由依ちゃんに抱きつくひかる。
驚いたけど、それを受け入れる由依ちゃん。
感動的な場面なんだけど、僕は全力ダッシュ2本を炎天下で行ってボロボロのドロドロ…。

奈々未「で、結局?」
〇〇「……すいませ……ちょっ……しゃべ…」
奈々未「…チャイティーヨのブースでちょっと座らせてもらおっか。立ち話もなんだし」

あ…、ひかる連れてくるんじゃなくてみんなを連れていけばよかったのか…。


〜〜〜〜〜〜

〇〇「…という感じですけど」

チャイティーヨのテーブル席に集まって、まずは由依ちゃんと僕がなぜ知り合いなのか。それから、由依ちゃんにチャイティーヨのこと、麻衣さんの事を説明し終える。

由依「なるほど…」
〇〇「まさかひかるが言ってた、バーテンダーやってるダンス部の先輩が由依ちゃんとは思ってもみなかったな…」
由依「私もひかるがバイトしてる喫茶店が、〇〇さんと同じバイト先とは思いませんでした」

2人でひかるに視線を送る。

ひかる「いや、そんな顔されても困るんですけども…」

まぁ、確かにひかるにどうこう言うのは筋違いな気もする。

〇〇「でもすごいね。まだ卒業から2年経ってないでしょ。それでもうこんなイベント呼ばれるなんて」
由依「まだバーテンダーとして働き出して1年くらいです。私は白石さんが推薦してくれたそうなんですけど、理由は教えてくれないんですよね」
白石「ごめんね〜。選考理由は明かすとうちも基準満たしてるんですけどって物言いが来るから話せないんだよね…」

白石さんが申し訳無さそうに言う。

由依「らしいです」
〇〇「そうなんだ…。でも選考理由はあるってことだから、きっとすごいことなんだよ」
由依「…そうですね」

なんとも言えない表情の由依ちゃん。
きっと思うところがあるんだろう。

〇〇「…飛鳥さん」
飛鳥「ん?」
〇〇「ブースの設営とかはもう終わりですよね?」
飛鳥「まぁね。後はみんな自由でいいよ。ホテル戻ってもいいし、前夜祭で稼働してる所もあるから見て回ってもいいし」
〇〇「…由依ちゃんはこの後時間ある?」
由依「はい。深川さんと明日の確認も済ましたし…」

麻衣さんと軽くうなづき合う由依ちゃん。

〇〇「よかったら、ひかる連れて会場まわってくれない?」
ひかる「えっ!?」
〇〇「話したいこと、色々あるでしょ?」
ひかる「は、はい…。いいんですか?」
〇〇「もちろん。由依ちゃんが良ければだけど」
由依「行こっか?」
ひかる「は、はい!行きます!行きたいです!」

由依ちゃんは笑って立ち上がると、麻衣さんに軽く頭を下げる。

由依「改めて、明日からよろしくお願いします」
深川「うん、こちらこそよろしくね」
由依「じゃあ、失礼します」
ひかる「失礼します!」

2人を見送って、僕は奈々未さんと白石さんへ向き直る。

〇〇「奈々未さん達はこの後は?」
奈々未「会場うろうろするよ」
白石「お仕事半分、自由時間半分って感じ」
〇〇「よかったら、飛鳥さん達もご一緒なさっては?」
白石「おっ!いいね!いこ!」 
美波「いいんですか!?」
奈々未「一応仕事なんだけど…?笑」
白石「まぁまぁ笑 さくちゃんもいこ!」
さくら「じゃあ…お付き合いします笑」

盛り上がる皆を横目に、飛鳥さんがこっちに近づいてくる。

飛鳥「変な気遣いしちゃってさ〜」

むにっと僕の頰をつねる。

〇〇「いたいいたい」

ぱっと手を離すと、飛鳥さんは皆さんの元へ。

飛鳥「まぁ、部下が気を使ってくれてるから行くか〜」
美波「やった!」
白石「そうこなくっちゃ」
飛鳥「で、あんたはどうすんの?」 
〇〇「僕は〜…アルノのおもりしておくのでお気遣いなく」
アルノ「言い方!」
飛鳥「あっそ。気が済んだら直接ホテル戻って」
〇〇「了解です」
飛鳥「それじゃ、お疲れ」
〇〇「いってらっしゃーい」

手を振って飛鳥さん達を見送る。

アルノ「…良かったんですか?」
〇〇「…ごめん、付き合わせて」

僕が謝るのを見たアルノは、それはもうニヤニヤヘラヘラし始める。

アルノ「しょうがない先輩ですね〜」

あ…。しまったな。

アルノ「寂しい先輩に付き合ってあげますよ。私、優しいんで」

あー。謝るんじゃなかった。

アルノ「もう〜私ぐらいですよ〜。先輩に何時でも付き合ってあげるのなんて」

なんかムカつくな…。

アルノ「寂しがりなくせに、素直になれないんですね〜」
〇〇「…生意気な」

アルノのほっぺたをむにっとつまんでやる。

アルノ「ひょっと〜!」
〇〇「まったく…。ちゃんと帽子かぶりな〜」

首に引っ掛けたままのサファリハットを、ふかーく被せてやる。

アルノ「…前見えないんですけど?」
〇〇「お似合いだよ!笑」

ありがたい後輩だなぁって。
いつもいつも。
キラキラ光ってて、眩しいくらい。
本人には口が裂けても言わないけど。

アルノ「あ…」

アルノは帽子を被り直すと、どこか遠くへ視線を送る。僕もその理由にすぐ気づく。

〇〇「始まったみたいだね」
アルノ「ですね〜」

遠くから聞こえる音楽。何処かのステージで演奏が始まったんだろう。前夜祭の幕開けだ。
アルノが不意に僕の手を取って歩き出す。

アルノ「じゃあ、行きましょ!」
〇〇「…はいはい」
アルノ「お腹すきました。何か食べ物の屋台開いてるとこありますかね〜」
〇〇「しょうがない。先輩が好きなもの奢ってやろう!」
アルノ「やった!なにがいいかな〜」

なんだか懐かしさが込み上げてくる。
前夜祭を満喫するべく、僕らは歩き出した。


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ライナーノーツ

さて、夏フェス回。
色んな所に散らした前振りを少しずつ回収していっております。お話の風呂敷を畳んでいく感じ。
まいやんとゆいぽんの登場というか、設定はずっと前、それこそチャイティーヨ本編を書いてるうちから存在していて、結局本編で書くことはなかったのですが、アラカルトでの登場は本編Epilogueを書いてる時点で決定してました。

次回は後編…になるのかはたまた中編になるのか…。
書いてみるまでわかりませんね。
よろしくお願いします。


前のお話。

次のお話

シリーズ

シリーズ本編


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