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踊る La Vie en Rose.1回裏
村山「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
✕✕「なにを〜?」
いつもどおりマッサージチェアに座りながら、村山に答える。
村山「こないだ来た時に子供が一人でお風呂入ってたでしょ?」
✕✕「ん〜?」
そう言えば、風呂で泳いでる子供がいたな。
✕✕「それが〜?」
村山「ここでお母さんと待ち合わせしてたんだけどさ」
母親と2人で来てたのか、道理で1人なわけだ。
村山「頭にタオル乗っけて、粋だとかいなせだとか言ってたんだけど、あんたなんか変なこと教えてないよね?」
✕✕「……」
村山「……都合悪いとすぐ黙るの何とかしたら?」
✕✕「…俺は正しい風呂の浸かり方を教えただけだし」
村山「やっぱ教えてんじゃん。やめてよ、変なやつがいる風呂屋だと思われるから」
✕✕「後で恥をかかないようにしてやってんだろ?」
村山「マナーを教えるなとは言ってないでしょ。変な言い回しを教えるなって言ってんの」
✕✕「ヒュー…ヒュー」
村山「…口笛吹けてないから。何その古いごまかし方」
こういう時に備えて練習しておくんだった。
✕✕「……俺からも聞きたいことあんだけど」
村山「……なに?」
✕✕「お前、俺が奢りって置いてく200円。100円玉貯金でもしてんの?」
村山「……は?」
✕✕「この前お前が席外してる時に、子供がカウンターに入って遊んでたからよ、注意したんだよ」
まぁ、入ってみたい気持ちもわからんではない。
✕✕「そしたらレジの下んとこに、100円玉がぎっしり入った瓶が置いてあるってよ」
村山「……」
✕✕「ま、俺が渡したやつかも分からんし、そうだったとしてもあげたもんだからどう使おうがお前の自由だけどな」
俺は天を仰いで目を閉じる。
実際に飲み物にしようが、釣銭にしようが、貯金にしようが、村山の好きにすればいい。
ふっと、気配を感じて目を開ける。
目の前で村山が拳を振り上げていた。
✕✕「うぉっ!?」
反射的に首を傾けてかわすと、先程まで俺の顔面があった位置に、村山の握り拳がめり込む。
✕✕「…お前、俺じゃなかったら当たってるぞ」
村山「…当てるつもりでやってんだから当たり前じゃん」
✕✕「えぇ〜…」
村山「で、どうすんの?これ以上言及するならマジで記憶飛ばすくらい殴るけど」
✕✕「怖っ」
乾燥機の終わりを告げるアラームが鳴る。
俺はそそくさとマッサージチェアから飛び起きると、衣類の回収に向かう。
村山「ふんっ…」
村山は鼻を鳴らしてカウンターに突っ伏すように目を伏せた。 そんな顔真っ赤にしてまで怒ることか?
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