しょーもない、たられば。
〇〇「何を今更緊張しとんねん」
村山「自分達は良いよね、もう合格決まってんだから…」
大学の入試日。
〇〇と小西は総合型選抜で既に合格決めていて、私は遅れて一般入試に挑む。私は総合も推薦も取れるなんて最初から思ってなかったけど、実際2人が先に進路を確定させていることに焦りが無いと言えば嘘になる。
〇〇「なんやったら推薦取れててもおかしなかったし、普通に挑めば問題なく通るて」
村山「…問題が起きないとは限んないじゃん」
〇〇「そんなん、言い出したらきり無いやろ」
村山「そうだけどさ…」
自分でも珍しくナーバスになっているのが分かる。
わざわざ送ってくれた〇〇にも、ウザい絡み方をしてしまってる。
村山「…こんなことなら合格祈願でもしとくんだった…」
〇〇「意外やな、村山が神頼みするタイプとは思わんかったわ」
村山「…人事を尽くして天命を待つ…って言うじゃん」
〇〇「お前はもう十分人事はつくしとるやろ」
そういうの、ホントにサラッと言うよね。
〇〇「今更神に頼らなくてもなんとでもなるわ」
村山「……」
喜んで良いのか、いい加減だって怒るべきなのか。
村山「そもそも私がこんな緊張する羽目になってんの、〇〇のせいだから」
〇〇「はぁ?なんでやねん」
村山「そもそも、〇〇と出会ってなかったら、大学に入ろうなんて思ってもなかったし」
〇〇「決めたんはお前やろ!」
村山「……」
〇〇「…はぁ」
〇〇はわかりやすくため息をつくと、鞄の中をゴソゴソと漁る。
〇〇「ん」
村山「…なに?」
〇〇の手には一本のシャーペン。
〇〇「やる」
村山「…どゆこと?」
〇〇「お守りがわり」
村山「……」
とりあえず受け取っておく。
〇〇「神様仏様〇〇様」
村山「…しょーもな笑」
〇〇「……返せ」
村山「やぁだ笑」
さっさとシャーペンを鞄に放り込んで、タイミングよく停車したバスの席を立つ。
2人並んで、試験会場までの残り数分を歩く。
〇〇「雪ですっ転ぶなや」
村山「縁起悪いんだけど?」
〇〇「滑るとは言うとらん」
村山「今言った笑」
〇〇「…らしくなってきたな」
村山「……おかげさまで」
あっという間に会場に着く。
〇〇とはここまで。
〇〇「よし、行って来い」
村山「はいはい」
私は〇〇から離れ、会場へ。
少し迷って、けど、やっぱり決心して。
村山「…〇〇」
〇〇「ん?」
村山「…ありがと!」
〇〇は少し驚いて、けどすぐ笑って。
〇〇「どーいたしまして!」
試験は思ったよりずっとスムーズだった。
時折、手にしたシャーペンをしげしげと眺める余裕があるくらい。だから、合否の通知が来るのが楽しみなくらいだった。
もし合格通知が来たら、それをネタにお礼がてら〇〇に何か奢ってやってもいいかもしれない。
そんなことを能天気に妄想してた。
それから数日後、〇〇と小西が正式に付き合い始めたのを知るまでは。
別に想像もしてなかったわけじゃない。
周りからすれば、やっとか。そう思うくらい。
けど、やっぱり、心が苦しくなった。
〜〜〜〜〜
的野「美羽ってそのシャーペンだけちょっと趣味違うよね」
村山「そう?」
的野「他の文房具はそんなこだわってないのに、それだけ高級そうな感じ」
村山「……ちょっといいやつだから」
大学生になった今も、このペンを握る度ふと思う。
合格なんて待ってないで、このペンのお礼に…、いや、ずっと根気強く付き合ってくれたお礼にって呼び出して、自分の気持ちを素直に話していたら…。
そんなしょーもない、たらればを。