喫茶チャイティーヨPOPUP! 親愛なるBuddies.中編
天「じゃあ、私達はシフトの時間なんで!」
夏鈴「…お疲れ様です」
〇〇「…はい、お疲れ様です」
僕はスタジオの床に仰向けになって、2人を見送る。
ここ数日、僕はカクテルの試作をストップして、歌とダンスに注力している。発想もなしに闇雲に試作しても、コストと時間がかかるばかりで前進しないので、少なくとも練習を重ねれば進歩があるダンスの練度を上げようという試み。
天ちゃんと夏鈴ちゃんはバイトのためにBuddiesに来るので、素直に甘えて練習に付き合ってもらっているけど、ひかるとアルノはチャイティーヨ終わりにわざわざ来てもらうのは申し訳なくて、付き合いを丁重にお断りしている。
…師匠に甘えるのを躊躇っているのと同じように、2人に甘えることにも躊躇っているのかもしれない。
不意にブースのドアが開く。
忘れ物でもしたかなと、そちらへ視線を向ける。
瞳月「お疲れ様です。…大丈夫ですか?」
美青「よかったら、少しお付き合いします」
瞳月ちゃんと美青ちゃんが、ブースを覗き込んでいた。
〇〇「あぁ、うん、大丈夫。…お願いします」
2人は顔を見合わせると、にこりと笑う。
〜〜〜〜〜〜
〇〇「…え、2人共これには参加しないよね?」
瞳月「はい、しないです」
〇〇「…じゃあなんでそんな振り完璧なの?」
美青「これぐらいなら何回か見たら…」
〇〇「あっ…。そうですか」
そりゃド素人の僕に踊れって言うくらいだから、そんな難しい振りではないんだろうけど…。
美青「が、頑張りましょう!」
瞳月「振り入れはほとんど出来てますし!」
〇〇「ありがとう…」
めちゃくちゃ気を使われている…。
瞳月「少し休憩しましょうか、ドリンク持ってきます」
〇〇「ごめんね〜」
ブースを出ていく瞳月ちゃん。
僕はその場に座り込んで、ため息とも深呼吸ともつかない空気を吐き出す。
美青「…ちょっと意外です」
隣にしゃがみ込んだ美青ちゃんが呟くように言う。
〇〇「ん? なにが?」
美青「〇〇さんも不得意なこと、あるんですね」
正直、しばらく意味が分からなかった。
〇〇「…そりゃあ、あるよ。というか得意なことの方が少ないよ?」
美青「えっ、そうなんですか?」
〇〇「うん」
美青ちゃんは驚いた顔して、うーんと思い出すように中空を眺める。
美青「料理もできるし、ギターもできるし、珈琲淹れたり、お酒作ったり、歌も歌えるし…勉強も出来るって、天さんが言ってたし…」
〇〇「逆に言うとそれができることの全部じゃないかな笑 運動はただ走るとか飛ぶとか単純なことなら人並みには出来るけど、スポーツはからっきしだよ。絵もヘタだし、ギター以外出来ないし」
美青「てっきり何でも卒なくこなす人だと思ってました…」
〇〇「ないない笑 どれも練習したから出来るようになったものばっかり。何でもやってみたらそれなりに出来ちゃう人っているけど、僕は真逆。何でもそれなりに練習しないと出来ないタイプ」
美青「…そうなんですね」
美青ちゃんは俯いて、少し沈黙した後、怖ず怖ずと切り出した。
美青「…嫌になりませんか?出来ないことを思い知ると言うか…、自覚するの」
たぶんだけど、美青ちゃんにとってこの質問をすること自体に、勇気が必要なことなんじゃないか。
漠然とそんな気がした。
〇〇「なるよ。その度凹むし、傷つく」
じゃあどうして?
そう思うだろうから、そのまま話を続ける。
〇〇「逃げたことがある。
全部嫌になって、何もかも放りだして。
でも助けてもらった。運がよかったなって思う。
そんな人が近くにいてくれたことが。そうやって助けられて、なんとかまた立ち上がった時に気づいたんだ。周りには思ってたよりずっとたくさん、僕を気にかけてくれる人が居たんだって。
そういう人達の想いに、今の僕が返せるものって何だろうってずっと考えてる。
今は期待に応えるのがその一つだと思うから、出来る限り頑張りたい。そうやって挑んで、受ける傷なら誇りに思えるし、そうやって凹むことも、僕が逃げずに戦ってる証だから」
ついつい暑苦しい語りをしてしまった。
〇〇「そうやって意気込み過ぎて肩に力入りまくりで、色々ぎこちなくなっちゃってるけどね。思ったより、僕は見栄っ張りでカッコつけみたい笑」
冗談めかして。
けど、偽りない本心で。
〇〇「答えになってるかわからないけど、それが僕が出来なくても挑む理由かな」
美青ちゃんは顔を上げる。
決して明るいとは言えないけど。
それでもはにかんだように笑う。
美青「…ありがとうございます」
〇〇「どういたしまして」
瞳月「お待たせです」
〇〇「ありがとう〜」
受け取ったスポドリをゴボゴボと飲むと、僕は立ち上がる。
〇〇「よし、ラスト1回、付き合ってくれる?」
瞳月・美青「はい!」
〜〜〜〜〜
ひかる「じゃあ、お先に休憩頂きますね」
〇〇「はーい、ごゆっくりどうぞ」
翌日、チャイティーヨでの勤務中。
ひかるは休憩。
飛鳥さんはバックヤードで在庫整理と発注。
アルノは美波さんからキッチンの指導を受けてる。
僕はカップを拭き終えて棚に戻すと、窓の外をなんとなく眺めたりして。
ふとカウンターに視線を戻すと、ずっとこっちを見ていたのか、カウンター席の和ちゃんと目が合う。
〇〇「どうかした?」
和「…何かお悩みですか?」
〇〇「えっ?」
和「なんかアンニュイな感じだったので」
〇〇「…ふふ」
和「ふふふ…」
僕らはどちらからとも無く笑う。
〇〇「なつかしい笑」
和「マネしちゃいました笑」
初めて和ちゃんがチャイティーヨに来た時。
突然の雨で、店の軒先で雨宿りする彼女を、オープン前にお店に招き入れた日のこと。
高校生になったばかりの和ちゃんは、美術部に入るか弓道部に入るか悩んでた。
そんな彼女の顔を見て、僕は今和ちゃんが言ったこととおんなじ事を言った。
〇〇「…わかっちゃう?」
和「わかりますよ、常連ですから」
ふふんと、どこか誇らしげに言う。
〇〇「流石です笑」
和「…聞くだけなら、私でも出来ると思いますよ?」
僕の周りは、ホント優しくて頼もしい後輩がいっぱいだなぁ。
〇〇「今…、2つのことに挑戦してる」
何が理由ってわけでもないんだけど、僕は自然と話し始めていた。
〇〇「一つは今度出るイベントで踊るダンス」
和「…〇〇さん、ダンス踊れるんですか?」
〇〇「踊れないから悩んでるんです〜」
和「あっ、なるほど笑」
〇〇「まぁ、そっちは優秀な先生方が着いてるから、なんとかなると思うんだけどね。」
ありがたい話。
〇〇「どっちかと言うと、もう一つの方が煮詰まっててね。そのイベントで出すカクテルが思いついてなくて…」
和「…ホントに聞くだけになりそう」
〇〇「いやいや、気にしないで。聞いてあげようって思ってくれただけでありがたいから笑」
そう言う優しさや気遣いにずっと助けられてる。
和「うーん…。ライブハウスをイメージって難しいですね」
〇〇「そうなんだよね…。日によって全然雰囲気も、来る人も違ってくるし…」
和「人だったら、推しカラーとかも出来そうなんですけどね」
〇〇「なるほど、推しカラーか…」
和「色んな色のクリームソーダを出すお店で、推しのカラーのクリームソーダと推しのアクスタ並べて撮るのとか、良く見かけますよね」
〇〇「あ〜!あるね。うちでもたまに見かける」
和「…って言っても、ライブハウスの推しカラーって、良くわかんないですよね」
〇〇「うーん。色んな人が出入りするからね〜」
和「やっぱり聞くだけになっちゃいました笑」
〇〇「なにがどうヒントになるかわからないからね。なんでも思いついたことは教えてくれると嬉しいよ。ありがとう」
和「どういたしまして笑」
ニコリと笑う和ちゃん。
少し心が軽くなる思い。
和「じゃあ、お会計お願いします」
〇〇「はーい」
レジを済ませて、入口ドアを開く。
ちょうどノーゲストだし、外までお見送り。
和「暑くなってきましたね…」
〇〇「だね」
梅雨が明けて、夏の到来がすぐそこまで来ている。
和「あ、また忘れる所だった」
〇〇「ん?」
和「星空の写真、ありがとうございました」
〇〇「…なんかもはや懐かしい笑」
和「ホントそうですよね笑 いつもその話しようとして他の話に夢中になっちゃって…」
〇〇「それだけ話したいことがあるってことなんじゃない?」
和「…そうかもしれません笑」
〇〇「なら、なんの問題もないよ。嬉しい限り」
和「…一緒にいなくても、頭に思い浮かんでくれることが嬉しいです」
〇〇「…その場にいなくても、あの人これ好きかな?とか、あぁ、綺麗だな、見せてあげたいなって思える相手がいることって素敵だよね」
和「はい。すごく素敵です…」
〇〇「また何あったら共有するよ。沢山、話しよ」
和「はい!私も沢山話したいです。また来ますから、付き合ってくださいね」
〇〇「もちろん。いつでもお待ちしてます」
和ちゃんを見送って、僕はドアに手をかける。
天「〇〇さーん!」
天ちゃんの声が聞こえて、僕はそちらへ視線を向ける。
〇〇「おや、お揃いで」
天「お疲れ様でーす」
夏鈴「お疲れ様です」
〇〇「ひかるももうすぐ休憩から戻ってくるよ」
天「ちょうどいいタイミング」
〇〇「?」
ドアを開いて、2人を中へ。
ひかる「お、いらっしゃい」
天「持ってきたよ」
ひかる「待ってました。あ、先輩は休憩どうぞ」
恭しくバックヤード方面へ誘導するような動きのひかる。何が何だか良く分からないけど、まぁありがたく頂こう。
〇〇「じゃあ、休憩もらいます」
天夏鈴ひかる「いってらっしゃーい」
なんとなく腑に落ちないままバックヤードの入口に向かうと、ちょうど在庫整理が終わったのか、飛鳥さんが出てくる。
〇〇「あ、お疲れ様です。和ちゃんが帰って、入れ替わりで天ちゃんと夏鈴ちゃんが来ました。オーダー待ちです」
飛鳥「ん」
〇〇「すいません、休憩頂きます」
飛鳥「はーい」
ロッカールームに入ると、僕は椅子に座って携帯を操作。休憩終了時間にアラームをセットして、机に突っ伏した。
そろそろ本気で焦らないと間に合わないかも。
それでもギリギリまで自分の力でなんとかしたい。
その意志だけは変わらないでいる。
意地っ張りだな。
〜〜〜〜〜
〇〇「ん…」
アラームの振動で目を覚ます。
伸びをしようとして、お客さんに貸し出すブランケットがかけられていることに気づく。
見守られてるんだって、わかる。
きっと言いたいことはたくさんあるだろうに。
それでも、見守ることに徹してくれているんだ。
ブランケットを畳んで片付けると、顔を洗ってホールへ戻る。
天「お、戻ってきた」
〇〇「ん? どうかした?」
天「これですよ、これ」
手に持ったスマホの画面を見せてくれる天ちゃん。
〇〇「うわ、懐かし」
そこにはピアスをバチバチに開けて、普段はまとめている髪をおろして、ギターを引く僕の姿。
〇〇「改めてみると怖」
夏鈴「確かに…」
目元は殆ど髪に隠れて見えないし、なんかめっちゃ笑ってるし。
〇〇「君、こんなやつとよく組んでたね」
アルノ「それ、今言います?」
指導が終わったのか、キッチンから出て来ていたアルノに声を掛ける。
〇〇「めちゃくちゃ怖いじゃん」
アルノ「いや、だから最初は距離取ってましたよ」
そうだったような、そうだったっけのような。
ひかる「ギャップすご笑」
こっちはなにがそんなに面白いのか。
天「夏鈴も絶対昔の〇〇さんの写真撮ってるくせに、撮ってないって嘘つくんですよ」
夏鈴「…撮ってない」
ぷいっとそっぽを向いて否定する夏鈴ちゃん。
天「絶対、嘘」
夏鈴「…嘘じゃない」
いつもの小競り合い。
天「あ、あと懐かしい動画も入ってて」
〇〇「懐かしい動画?」
天「はい、去年のダンス部の動画なんですけど…」
天ちゃんの言葉を遮るように、店のドアが開く。
お客「すいません、2名です」
〇〇「はーい、こんにちは。ひかる、案内お願い」
ひかる「はい!こちらどうぞ!」
〇〇「アルノ、お冷…」
大丈夫かな…。
アルノ「お冷くらい運べますよ!」
〇〇「あ…、そう?」
アルノ「もう、人をなんだと思ってるんですか」
むすっとしながらカウンターを出ていくアルノ。
天「よかったら、動画送っておきましょうか?」
〇〇「うん、僕も興味あるし、お願いしようかな」
天「はーい」
僕が顔を出さなかった頃のダンス部。
どんな感じだったんだろう。
仕事終わりにでも、ゆっくり見させてもらおう。
僕はオーダーが入ったときに備えて、カウンターの奥へ移動。いつの間にかキッチンから出て来ていた美波さんと目が合う。美波さんは不安なような、心配するかのような、そんな表情を浮かべていて。
〇〇「…どうかしましたか?」
美波「…ううん、なんでもないよ」
それだけ言って、キッチンへ引っ込んでいく。
僕は何も言えず、その背を見送った。
急がなくちゃ。
〜〜〜〜〜〜
飛鳥「じゃ、戸締まりよろしく」
〇〇「はい、お疲れ様です」
最後に飛鳥さんを見送って、僕はカウンターに突っ伏した。
今日は試作のためにダンスの練習はお休み。ということにした。実際はこんな焦っている状態じゃ、とても集中して踊ることなんてできそうにない。
とはいえ、これといった取っ掛かりも掴めていないので、試作が進むわけもない。
ただウジウジしていてもしょうがないので、天ちゃんから送られてきた動画でも観ようと携帯を取り出して操作する。
最初の動画を再生すると、ダンス部の面々は名前入りのビブスを身につけていて、すぐに誰が誰だかわかるようになっている。たぶんだけど、合わせて踊った映像を記録しておいて、後で確認できようにしてるんだろう。
瞳月ちゃんも美青ちゃんも居ないみたいだ。
1年生の加入前だったのか、それともメンバーに入っていないだけなのか。
そうやってビブスに書かれた文字を追う中で、目についた名前がある。
“小林由依”
たしかに、由依ちゃんだった。
ざっと見た感じ、理佐ちゃんの姿はない。
皆がポジションにつく。
夏鈴ちゃんが一人こちらを向いて立つフォーメーション。これは知ってる。
ベースのスラップが響くイントロ。
驚いたのは、夏鈴ちゃんと由依ちゃんが2人で踊るパートがあったこと。これはたぶん、僕が見学に行ったときにはなかったと思う。
由依ちゃんが卒業したから、そのパートがなくなったのか、それとも、いくつかあるパターンのうちの一つなのかはわからないけれど。
けれど、なんとなく、漠然とわかる気がした。
夏鈴ちゃんの表情から。
夏鈴ちゃんにとって、
ダンス部にとって、
由依ちゃんの存在がどういうものなのか。
映像が終わる。
僕はすぐに次の動画を再生した。
センターにひかるが立っている。
隣には瞳月ちゃん。
この曲もわかる。見学に行った時と同じはず。
違うのはひかるのすぐ後ろ。夏鈴ちゃんの横に由依ちゃんがいる。瞳月ちゃんがいるってことはもう1年生が入学してるってことになる。その頃には由依ちゃんは卒業しているはずだから、引退してからもOGとして顔を出していたのかもしれない。
ざっと見渡しても美青ちゃんの姿はない。それでも、こうやって由依ちゃんが顔を出してくれているならよかった。美青ちゃんは少しでも憧れの人と活動できたんだなって。そんな風に思った。
次の動画を見るまでは。
天ちゃんがセンターで、両隣にひかると夏鈴ちゃん。この曲は見学で見た最後の曲だ。
瞳月ちゃんもいて、最後尾の端っこに美青ちゃんがいるのに気がつく。
そうだ、ダンス歴が1年にも満たない内に美青ちゃんはレギュラーというのかはわからないけれど、こうやって参加できるようになったんだ。
凄いな。
そう思いながら、僕は視線を彷徨わせて気づく。
そこに由依ちゃんがいないことに。
一瞬、なんでだろうと悩んで、すぐ当たり前の事に気づく。彼女はもう卒業していて、ずっと、そこにいるわけじゃないってこと。
いやな想像をしてしまう。外れていて欲しい。
けど、もし、そうだったとしたら?
1年生と踊る機会があったのは、たまたまさっきの一曲だけだったとしたら?その一曲を最後に、由依ちゃんが顔を出せなくなったとしたら?
だれにだって、それぞれの生活がある。
卒業してしばらくは来れても、忙しくなって。
そんなの全然あり得ることだ。
けどもしそうだとしたら。
その一回こっきりのチャンスに、美青ちゃんはどれだけ想いを託しただろう。喉から手が出るほど欲しいチャンスだったんじゃないだろうか?
…嫌になりませんか?
出来ないことを思い知ると言うか…、自覚するの。
僕は思わず口元を手で覆った。
あの時、彼女が言った言葉。
きっとこの映像を撮影する時も、美青ちゃんはこの場にいたはずだ。きっとこの映像も何度も何度も繰り返し見たはずだ。大好きな憧れの人の最後ダンスだとしたら、尚更に。
その度、どんな思いだったろう。
どんな、思いで見つめていたんだろう。
そして今、どんな気持ちでダンスを続けているんだろう。僕は立ち上がって、すぐに荷物をまとめると、しっかり戸締まりを確認して、チャイティーヨを飛び出した。
話をしなきゃいけないと思う。
いや、それ以上に話がしたいと思った。
あの問いに込められた想いを知らなきゃいけない。
走って家に帰った僕は、携帯とイヤホン以外の荷物を部屋に放り込むと、近くの公園へ向かった。
耳にイヤホンをねじ込んで、携帯から音楽を流す。
僕は美青ちゃんの連絡先を知らない。
誰かに聞いてもよかったけど、それより先に覚悟を決めておかなくちゃいけないと思った。
今の気分にはあまり似つかわしくない明るい音楽がイヤホンから流れてくる。いや、今のような気分なときにこそ、必要な音楽かもしれない。
生半可な覚悟で挑まない。
どっちも本気の、全力の自分で挑むんだ。
まず、今の僕は、今の僕に出来ることをやる。
僕はひたすら踊った。
心の中で歌いながら。
携帯の充電が切れるまで。
空が白み始めるその時まで。
〜〜〜〜〜
さくら「…おつかれ?」
翌日、キッチンの洗い物を手伝っていると、隣のさくらさんから声をかけられた。
〇〇「…ちょっと朝まで頑張っちゃいました」
さくら「…そっか」
〇〇「でも講義中居眠りしちゃったんで、そこそこ睡眠自覚は確保できました笑」
さくら「……ホントは、あんまり世話焼いちゃダメって言われてるんだけど」
さくらさんはふと視線を上げる。
目線の先にはアルノ。彼女は鍋のカレーを一生懸命混ぜていて、僕らの視線には気づかない。
さくら「ずっと同じではいられないよね。人も、物も。変わってく。変わらなきゃいけない」
〇〇「……」
僕は黙って、続きを待つ。
さくら「飛鳥さんが、前のお仕事から卒業するってなった時、凄くさみしくて、悲しくて、辛かった。
今じゃなきゃダメなのかな?もう少し先でもいいんじゃないのかな?そんな事思った」
洗い物を続けながら、さくらさんはどこか昔を懐かしむように。
さくら「けどね。たくさんお世話になったから、せめて、飛鳥さんが安心して卒業できるように頑張ろうっておもった。自信が無くて、引っ込み思案で泣き虫な私だけど、少しずつでも変わっていかなきゃって。今の〇〇と同じだね。そうなれれば、きっと飛鳥さんも前だけ向いて進めるだろうって」
うん。同じだ。
安心させたい。
心配ない。
そう思って欲しい。
さくら「でも、ある時気づいちゃったんだ。飛鳥さんが卒業するって決めたのは、もう安心だって思ったからなんじゃないかって」
〇〇「え…」
さくら「もう自分がここに立っていなくても、やっていける。もう心配ない。そう思ったから卒業を決めたんじゃないかなって」
〇〇「……」
それは、つまり。
さくら「梅澤さんもそうなんじゃないかな? もうチャイティーヨは、飛鳥さんと〇〇と私達にまかせて大丈夫だって。そう思ったから、姉妹店の話を受けたんじゃないかな」
〇〇「…そっか。そうですね」
不安が残るなら、僕らだけに任せたりしない。
美波さんはそんな中途半端はしないだろう。
覚悟を持って挑む人だから。
さくら「だから、そんなに肩肘張らなくていいと思う。もちろん、頑張ることは素敵だし、いいことだと思うけど。無理する姿は、寧ろ心配になるよ」
〇〇「…ありがとうございます。そうですね…」
さくら「…人や物は変わってくけど、私は、変わらないものもあるって信じてる。思いとか、願いとか、そういった形の無いものの中には、ずっとずっと変わらずにあり続けるものもあるんじゃないかって」
〇〇「…そうですね。僕もそうだと信じたいです」
アルノ「…さくらさーん!そろそろいいですか?」
さくら「はーい、ちょっと見てみるね」
さくらさんと一緒に鍋を覗き込むアルノ。
もう、一緒にバンドを組んでるわけじゃない。
部活も、通ってる学校も違う。
先輩後輩と言っても、バイト先の、という間柄に変わった。あの頃とは歳も違うし。
けど、
相変わらず彼女はどんくさいし、
僕はそんな彼女に過保護だし。
相変わらず彼女は無糖のコーヒーは飲めないし、
僕はそんな彼女に何も言わずシュガースティックかガムシロップを渡してる。
彼女は相変わらず僕に対しては強気だし、
僕はそんな彼女を遠慮なくイジってる。
変わるものはあるけど、変わらないものもある。
そう信じるには、十分な根拠だと思う。
〜〜〜〜〜〜
天「なんか、もう普通に出来てて面白くない」
アルノ「歌も歌えてるし、つまんないです」
〇〇「ヒデェ笑」
夏鈴「…見てない間に絶対コソ練してる」
〇〇「まぁ、その通りなんだけど言い方…」
ひかる「頑張りましたねー!」
〇〇「ねぇ、君達もこれくらい素直に褒めれないわけ?」
天「自分だけいい子ぶってる!」
夏鈴「ズルい…」
ひかる「いやいや。別にズルいも何も無いでしょ」
〇〇「まったくだよ…。今日はこの辺しようか」
時計を見ると、
そろそろ天ちゃん達のシフトの時間だ。
天「もうそんな時間か〜」
夏鈴「……」
不服気な2人だが、それは僕に向けられても困る。
〇〇「瞳月ちゃんと美青ちゃん待つけど、アルノとひかるはどうする?」
アルノ「待ちますよ、もちろん」
ひかる「まぁ、お目付け役頼まれてますし…」
〇〇「お目付け役…?」
ハッと、天ちゃんと夏鈴ちゃんが出ていったブース入口に視線を向けると、2人は扉に付いている小さな窓からじ〜っとこちらを見ている。
〇〇「いや、怖!」
急にブゥン!とスタジオの床に置いていた携帯が震える。手に取ると、LINEが入っている。
天『見 張 っ て ま す よ』
〇〇「いや、だから怖いわ」
続けて夏鈴ちゃんからもLINEが入る。
しかも立て続けに。
夏鈴『 』
夏鈴『 』
夏鈴『 』
夏鈴『 』
夏鈴『 』
夏鈴『 』
〇〇「怖い怖い怖い怖い!なんか打って!?」
というか文字打たなくても送信できんの!?
窓に視線を戻すと、2人はニヤニヤ笑って去っていった。なんだったんだ、この時間。
〜〜〜〜〜〜
駅へ向かう帰り道。
ワイワイと楽しい雰囲気の中、
僕の思い込みかもしれないけれど、美青ちゃんの表情は冴えない気がする。
ひかる「じゃあ、お疲れ様です」
アルノ「お疲れ様です」
瞳月「お見送りありがとうございます」
〇〇「どういたしまして、お疲れ様」
美青「…ありがとうございました」
うん。
やっぱり、1日でも早いほうがいい気がする。
〇〇「美青ちゃん、何か忘れ物?」
美青「えっ……?」
一瞬、美青ちゃんは何のことか分からないみたいだったけど、すぐに察して、じわりと表情が歪む。
それを、隠すように顔を伏せて、
美青「…そうみたいです」
〇〇「ごめん、取りに戻るからみんなは先に帰っててくれる?」
ひかる「…じゃあ、私達は帰ろっか!」
アルノ「えっ」
瞳月「でも…」
ひかる「ほらほら、いこいこ」
2人の手を取って、ひかるが改札へ引っ張っていく。
何処かで見たような、そんなことはなかったような、そんな光景。
アルノ「じゃあお疲れ様でした!」
瞳月「お先に失礼します!美青も気をつけてな!」
美青「…うん!」
落ち着いたのか、顔を上げて手を振る美青ちゃん。
ひかる「お疲れ様でした〜」
自分達で歩き出した2人の手を離して、ひかるが振りむき、挨拶する。正面に向き直る寸前に、パチリとウィンク一つ残して。
なんて可愛くて洒落た後輩なんでしょう。
びっくりしちゃうよ。
3人がホームに消えるまで見送って、僕は美青ちゃんに声を掛ける。
〇〇「座ろっか」
美青「…はい」
駅前にあるバス停のベンチに向かって、僕らは並んで歩き出す。携帯が震えたので、確認すると、ひかるからLINEが入っている。
ひかる『貸し一つにしておきます! 可愛い後輩に感謝してくださいね!』
〇〇『めちゃくちゃ感謝してる』
ひかる『派遣されたお目付け役は、実は先輩の内通者だったのだ!かっこいい!ではまた明日!』
〇〇『ありがとう笑 また明日』
ホントに出来た後輩だなぁ。
そんなやり取りをしている間にベンチに到着。
僕は先に座って、美青ちゃんにも座るように促す。
美青「失礼します…」
隣に座る美青ちゃんの表情は暗い。
変に回りくどいのはやめて、単刀直入に行こう。
〇〇「去年のダンス部の練習動画、見せてもらったんだ」
美青「っ!」
美青ちゃんは驚いた様に顔を上げて、僕を見る。
〇〇「まだ由依ちゃんがいる頃の。夏鈴ちゃんがセンターの曲と、ひかるがセンターの曲」
美青「……じゃあ、その…、天さんがセンターの曲も?」
〇〇「…うん」
美青ちゃんはまた俯いてしまう。
けど、少しずつ、口を開く。
美青「…私達が入学してしばらくの間、由依さんがダンス部にちょくちょく顔を出してくれてたんです…」
一つ一つ、言葉を選ぶように。
〇〇「…嬉しかったです。憧れの人と、少しの間だけでも一緒に活動できるんだって…。色々教えてもらって。構ってもらって。幸せでした。
でも、時間が経つに連れて悲しくなってきて…。
いつまで続けられるんだろうって…。いつかこんな幸せな時間も終わっちゃうんだって…。
6月に入ってすぐぐらいですかね。
由依さんから、今月いっぱいで来れなくなるって、そう言われた時、こんな思いをするくらいなら、一緒に活動なんてしなければよかったって、そんな心にもない言葉がよぎったりして……」
胸が苦しくなる。
知らなければよかった。
知ってしまったから、別れが辛くなる。
でも、知り合ったからこそ、得た幸せもある。
どちらも、偽れない本心だ。
美青「…最後の記念で、入念に練習して、本気の一曲をやろうってなったんです…。一生懸命、練習しました。人生でも一番って言っていいくらい。本気で、無我夢中でやりました。けど…メンバーには選ばれませんでした」
少し驚くくらい、冷静に美青ちゃんはそう言う。
美青「心の何処かで分かってたんです…。入って2ヶ月程度の私が、先に1年みっちりやってきた先輩達や、中学からダンスやってる瞳月達みたいになれるわけないって…。センターに選ばれたひかるさんも、由依さんをすごく尊敬してて…。
だから、受け止めて、飲み込んで、由依さんを笑顔で送り出そうって決めたんです。一生懸命頑張ってる内に、ダンスも楽しいなって。由依さんが大好きで、大切にしてるダンス部に貢献できたらいいなって、そう思えたから…」
少しずつ、美青ちゃんが感情的になっていくのがわかる。由依ちゃんと踊れなかったことが、彼女を曇らせている原因だと思ってた。
けど、たぶんそれだけじゃないんだ。
美青「頑張って、頑張って、次の曲では端っこの方だけど、メンバーに選ばれて…。嬉しかった…。これで少しでも、ダンス部に貢献できるって、由依さんが残してくれたものを、受け継いでいけるって…、そう思うはずだったのに…!」
ぽたぽたと、雫が地面に落ちていく。
美青「私は…どうしてあと一曲早く選ばれなかったんだって思っちゃったんです…!あと、たった一曲早く選ばれていれば、由依さんと踊れたのにって…!
あと、たった一曲…。もしかしたら、あともう少し練習を頑張ってたら、選ばれたんじゃないのかって!あと1時間でも、寝る間を惜しんで練習してたら、選ばれてたんじゃないかって!そんなこと、あるわけないのに!」
ボロボロと零れる涙を拭うこともできず、感情的に叫ぶ美青ちゃん。
美青「私が選ばれることで選ばれなかった子だっているのに…!私はそんなことばっかり考えて、素直に喜ぶ事も出来なくて…!そんな自分がすごく嫌で…、そんな自分がここに立つ資格あるのかって…」
自己嫌悪。
自分で自分を認められなくて。
自分で自分を信用できなくなって。
美青「私、なんて嫌なやつなんだろって。こんなやつが選ばれるべきじゃ…」
〇〇「違うよ…」
口を挟まずには、いられなかった。
美青ちゃんはまだ止まらない涙を零しながら、こちらを見る。
〇〇「それが君の全てじゃないよ。
誰だって、苦しくて、悲しくて、どうにもならないくらい自分を嫌いになっちゃう時があるんだよ。
全部消えてなくなれって思うくらい、追い詰められちゃう時があるんだ。それは、自分一人じゃどうしようもないくらいに」
何もかも嫌になって逃げ出したあの日。
あの人に助けてもらった。
その恩を返したいって思った。
けど、その人は恩を送ってほしいって言う。
きっと、今日がその日なんだと思う。
あの人から受けた恩を。今日、今この瞬間に。
僕から美青ちゃんへ送ろう。
あの日、あの人から貰った恩は、きっと今日という日のために、この子へ贈るために、受け取った物なんだろう。
〇〇「だからいいんだ。君はもっと自分を許していいよ。君だけじゃないから。悲しさや苦しさに押しつぶされそうになって、泣き言や恨み言を言いたくなることは誰にだってある。でも、それは君の全てじゃない」
泣いてしまいそうだけど、情けない所は見せたくないから頑張って我慢しよう。
〇〇「美青ちゃんが自身が言ったことだよ。
一生懸命頑張ってる内に、ダンスも楽しいとおもうようになったって。由依ちゃんが大好きで、大切にしてるダンス部に貢献できたらいいなって。由依ちゃんが残してくれたものを、受け継いでいくって。そう思った美青ちゃんも、間違いなく美青ちゃんだから、悪いことばかりを引き受けることない」
これだけははっきりと言える。
「君は嫌なヤツなんかじゃないよ。
君が尊敬する人みたいに、ストイックで、一生懸命で、カッコいいよ」
美青ちゃんはしばらく、じっと僕の顔を見て、
美青「いいんですかね…私。ダンス部に居て…」
〇〇「…僕の知ってる由依ちゃんなら、居て欲しいって、言うと思うな」
居てもいい。
じゃなくて。
居て欲しいって。
美青ちゃんは天を仰いで深く深呼吸すると、にっこり笑った。
私「私もそう思います」
話せてよかった。
ほんの少しでも、心が軽くなってくれたなら。
〇〇「…僕ももうすぐ、尊敬する先輩を送り出さなきゃいけない」
話してもらった分、僕も話しておこう。
〇〇「その人が安心して、次の挑戦に集中できるように僕はみんなの期待に応えたいって思ったんだ」
美青「それが、挑戦する理由…でしたよね?」
〇〇「うん。前も言った通り、僕は何でも卒なくこなせる人間じゃないから、今も大絶賛ドタバタ中だけどね笑」
けど、無駄な力は抜けた気がする。
〇〇「もう一人の先輩がね、教えてくれたんだ。僕達は先輩達が安心して卒業できるようにしなきゃって思ってるけど、先輩達はもう安心だって思うから、卒業してくんだって。由依ちゃんも、そう思えたんじゃないかなって」
美青「…だったら、嬉しいですね」
〇〇「…これも受け売りなんだけど、関係性とか立場は時間と共に変わっていくけど、変わらないモノもあるって教えてもらったんだ。
願いとか想いとか、それこそ美青ちゃんが言う、由依ちゃんがダンス部に残してくれたものとか。
そう言う形のないものの中には、ずっとずっと変わらずにあり続けるものがあるって。
それはたぶん、僕や美青ちゃんみたいに、尊敬する人から受け取って、引き継いでく人がいるから。
そうやって引き継いだ僕らが、また次の人に引き継いでいくから残るんじゃないかなって思う。
そうやって引き継いでいけば、ずっとずっと変わらずにあり続けるって、僕は信じたい」
想いや願いを後進へ託していくこと。
恩を送り合うこと、送り続けること。
美青「…同じなんですね」
〇〇「そうだね。まぁ、尊敬する人を送り出す経験に関しては美青ちゃんのが先輩だけど笑」
美青「なんです、それ笑」
僕達は他愛ないことで笑い合う。
付き合いはまだまだ浅いけれど、僕達はこの日、確かに同じ志を持った仲間だった。
〜〜〜〜〜
改めて駅の改札まで美青ちゃんを送っていると、携帯が震えた。手にとって画面を確認すると、見慣れないアイコンからLINEが入っている。
瞳月『すいません、山下瞳月です。ひかる先輩にお願いして、LINEを教えてもらいました。
最近、美青が暗い顔してること多くて。
時々そういう時はあるんですけど、あんまり私には相談とかしてくれないんです。
同級生やからしにくい相談とかもあるんかもしれないんですけど、〇〇さんやったら素直に話してくれるかもって思って…。申し訳ないんですけど、時々気にしてもらえませんか?よろしくお願いしします。
ひかる先輩には無理言ってライン教えてもらったんで、怒らないであげてください』
〇〇「……」
美青「どうかしましたか?」
少し悩んで、僕は画面をそのまま美青ちゃんに見せることにした。文字を追う美青ちゃんは、申し訳なさそう表情を浮かべる。
〇〇「いい子だね」
美青「はい…。負けず嫌いで、気が強くて、短気で、時々口悪くて、運動音痴ですけど…」
すらすらでてくるな悪口。
美青「けど、ダンスが大好きで、ストイックで、面白くて、かわいくて。趣味とか好きなものとか、気が合うんです。一緒にいて、楽しいんです」
〇〇「…人に恵まれてるなって、よく思うんだ。
この人達がいて、本当に助けられてるって」
美青「私もです。尊敬する先輩達がいて、頼れる先輩達がいて、一緒にいて楽しい友達いて…」
〇〇「大事にしなきゃね」
美青「…はい!今日ゆっくり考えて、明日瞳月と話してみます! 今日はありがとうございました!」
〇〇「どういたしまして。あ、美青ちゃん、一つ聞いていいかな?」
美青「なんですか?」
〇〇「今、由依ちゃんがどうしてるのかって、知ってる?」
美青「はい。詳しいことまでは聞いてないんですけど、東京で理佐さんと一緒に働いてるって聞いてます。えーと、確か櫻ビルディングって所らしいです」
〇〇「櫻ビルディング?」
美青「はい。Buddiesのネオン看板と同じ櫻色だから、ゲン担ぎにちょうどいいって」
〇〇「Buddiesのネオン看板…」
美青「はい、入口にあるアレです」
〇〇「……あー、あー!なるほどね!」
そっか、櫻色か。
美青「お役に立てましたか?」
〇〇「うん!ありがとう!すっごく助かった!」
美青「ならよかったです笑」
美青ちゃんは改札に向かって歩き出す。
〇〇「じゃ、気を付けて」
美青「はい、ありがとうございます」
改札前で、くるりと振り返る。
美青「イベント、頑張りましょうね!」
〇〇「うん!頑張ろう!」
姿が見えなくなるまで見送って、僕は携帯を取り出す。瞳月ちゃんに返信しておこう。
〇〇『わざわざありがとう。
全然怒ったりしないよ。もしまだひかると一緒にいたら、伝えてくれてありがとうって、お礼を言っておいてくれる?
美青ちゃんと少しだけ話をしたよ。
明日、瞳月ちゃんとも話をしたいって言ってた。
きっと大丈夫だと思う』
僕は送信を確認して、大急ぎで走り出す。
息を切らしてたどり着いたのは、もちろんBuddies。入口で光るネオン看板を改めて確認する。
〇〇「ピンクじゃなくて、櫻色…か」
確かに、あの2人ならそう表現しても納得がいく気がする。だってオシャレなんだもんあの子達。
僕は少し悩んでスマホを取り出した。
とある文章を打って、送信。
そして再び走り出す。
そこら中の酒屋を片っ端から当たる覚悟だ。
また僕は挑む誰かの熱に浮かされて走り出した。
熱という風を受けなきゃ走り出せないのか?
いつか自分でお店を作る日が来たら、皮肉を込めて、風見鶏とでも名付けてやろうかな。
さぁ、ラストスパートだ。
時間はあまり残ってない。
走れ!
親愛なるBuddies.中編 END…
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ライナーノーツ
すいません。前編後編じゃなくて、前中後編になりました…。しかも中編が一万五千文字近い…。
しかし、どうしても書かなきゃいけないことが多くて…。このエピソードは外せない要素を詰め込みすぎました…。恩送り…。
次も絶対書いておかなきゃいけないことが色々ありますが、そんなに長くはならない…かも?
よろしくお願いします。
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