喫茶チャイティーヨの休日 キャンプの夜に、君の場合。
???「〇〇さん…」
〇〇「ん…」
???「〇〇さん…！」
〇〇「んん…」
目を開くと、ソファの背もたれから夏鈴ちゃんが、こちらを覗き込んでいる。お風呂上がりなんだろう、濡れた髪にタオルを被ってる。
〇〇「あ、ごめん。寝てた…？」
夏鈴「すいません、お待たせして…」
女性陣7人がお風呂に入るとなるとそれなりに時間がかかるのは想像に難くない。ふとリビングスペースのガラス戸を見ると、外はすっかり真っ暗だ。
バーベキューを終え、片付けを済ませて順にお風呂。という流れで、特に深く考えず最後でいいですよと答えたのだけど、さきにサッと入って、女性陣にゆっくり入ってもらったほうがよかったかもしれない。
夏鈴「おつかれさまです。私が最後なんで、ゆっくり入ってください」
〇〇「ありがと…」
それだけ言うと夏鈴ちゃんは階段を上って2階へ。
なんとなく残るシャンプーの香りに緊張してしまう。振り払うように部屋に戻って着替えや入浴具を持ってお風呂場へ。
〇〇「……」
当たり前なんだけど、ついさっきまで人が入ってたわけだからこう生暖かいというか、こう…。
やめよう…変態みたいだ。
気を取り直して僕はさっさとお風呂を済ませる。
あまり深く考えてはいけない。
髪を適当に拭きながら、部屋に戻る。
さっきまでうたた寝していたこともあって、しばらくは寝付けそうもない。
部屋を出て、冷蔵庫を覗く。
まだ数本、瓶ビールが残っている。
一本手に取り、栓を開けてテラスへ。
〇〇「お〜」
明かりが少ないからか、星が随分と明るく見える。
星に造詣が深いわけじゃないけど、人並みにはその美しさに感動を覚えるもんだ。
〇〇「和ちゃんや奈々未さん達にも送ろうかな」
携帯で、パシャパシャと星空を撮ってみる。
〇〇「…？」
ふと視線を感じて振り返る。
夏鈴「っ！」
ガラス戸の向こうに夏鈴ちゃんが立っている。
気づかれるとは思わなかったのか、目が合うとびっくりしたような表情になる。
僕は思わず笑ってしまいながら、手招きする。
夏鈴「…よくわかりましたね」
〇〇「なんか視線感じたから笑」
ガラス戸を開けて、横に並ぶ夏鈴ちゃん。
〇〇「星、綺麗だよ」
夏鈴「…すごい。スマホ持ってくればよかった」
〇〇「良かったら使う？」
僕は自分の携帯をカメラモードにして渡す。
〇〇「後で送るよ」
夏鈴「…ありがとうございます」
夏鈴ちゃんは受け取ると、空に向けながら色々設定を調整している。綺麗なものを見ている時、人はこういう顔をするんだなって、夏鈴ちゃんの整った横顔を見ながら思う。
僕も今、そんな顔をしていたりするのかな。
夏鈴「…なんですか」
気がつくと何枚か撮り終えたのか、僕の視線に気づいて夏鈴ちゃんはふいっとそっぽを向いた。
〇〇「ごめんごめん。ついね…」
返ってきた携帯をポケットにしまう。
〇〇「それで、どうしたの？ 眠れなかった？」
夏鈴「…髪乾かしてたら喉乾いたので、水飲もうかなって…」
強引に話を変えちゃったけど、特に言及することもなく、夏鈴ちゃんは答えてくれる。
夏鈴「2階に戻ろうとしたら、〇〇さんの部屋のドアが開いてたから…」
〇〇「心配して探してくれたの？」
夏鈴「別に心配ってわけじゃ…」
〇〇「ありがとね」
嬉しくなってついへらへらしてしまう。
夏鈴「もう〜…」
全然話を聞かない僕に、
夏鈴ちゃんはむすっとしてしまう。
優しい子なんだ。
急に応援してほしいなんて言う馬鹿な僕に、
恥ずかしくても頑張れって言ってくれる子だから。
友達のハチャメチャにも、呆れながら付き合ってあげる子だから。
ギターを再開して苦戦する僕を心配して、先生に相談してくれるような子だから。
本当に、優しい子なんだ。
恥ずかしがり屋だから、あんまりストレートに表に出さないってだけで。
照れくさいような、むくれたような、そんな表情。
〇〇「初めて会った時には、夏鈴ちゃんの表情からこんなに感情を読み取れるなんて思わなかったな」
夏鈴「…そんなに無表情でした？」
〇〇「ううん。多分、僕の思い込み」
隣の天ちゃんが本当にコロコロと表情の変わる子だったから。感情を臆面もなく表現できる子だったから。隣の夏鈴ちゃんに、そんなイメージを持ってたのかもしれない。
〇〇「夏鈴ちゃんは、あまり言葉で表現するのは得意じゃないよね？それでも一生懸命色々話してくれるから、僕も一生懸命受け取ろうって思うよ」
夏鈴「…私も、最初に〇〇さんに会った時、こんな風に話したりできるようになるなんて思いませんでした。…ピアス、バチバチだし、髪ムダに長いし…」
〇〇「そりゃそうだよ笑 怖いよね普通に笑」
夏鈴「でも天ちゃんもアルノちゃんも普通に接してたじゃないですか…」
〇〇「天ちゃんは特殊なケースでしょ笑 あんだけ人の距離詰めるの上手い子他に知らないよ笑」
夏鈴「…じゃあ、アルノちゃんは？」
〇〇「アルノは…たぶん僕が褒めまくったから笑」
ちょっと恥ずかしい話。
〇〇「軽音部に入部してきたら、まず何が出来るかとか、何がしたいかって話をするんだけど、アルノはその時点で凄い歌うまかったんだよね。それでまぁ、すごいすごいうまいうまい言い続けてたら、なんかこいつチョロいなって思われたのかも」
夏鈴「……」
夏鈴ちゃんは遠くを見つめてて、顔にかかる髪で表情は伺いしれない。
〇〇「けど、今の僕なら話しやすいんじゃない？ボロボロになって、ベコンベコンに凹んでカッコ悪いけど、バチバチに決めてる時よりはとっつきやすくなったと思う笑」
夏鈴「…別にカッコ悪いなんて思わないですよ」
夏鈴ちゃんは少し怒ったような声で言う。
夏鈴「いいじゃないですか。傷ついてても、凹んでても…。誰だってピカピカの新品でなんて居られないし、傷とか、凹みだって味っていうか…」
僕は静かに夏鈴ちゃんの言葉を持つ。
夏鈴「少しぐらい粗がある方が、人間って感じがします…」
〇〇「…そうだね」
出来るものなら、悲しみや苦しみ、そういうものと無縁で居てほしい。屈託なく、いつも楽しく、元気に過ごして欲しい。
その無邪気さや素直さを損なうことなく。
けど、無理なんだろうなって、思う。
だからこそ、チャイティーヨにいる間くらいは。
この手の届く範囲で、お手伝いできることがあるなら、迷わず手を差し伸べていきたいな。そう思う。
自分が傷ついた分、誰かに優しくできるかは分からないけど、傷ついた分、誰かの傷を理解してあげられたらなと思う。
それが僕の味で、粗で、人間味、だといいな。
〇〇「素敵な感性だなって思うよ」
夏鈴「……もしかして馬鹿にしてます？」
〇〇「してないよ！笑」
夏鈴「なら良いんですけど笑」
僕達は笑い合って。
少し間をおいて、
夏鈴「今日はすいませんでした…」
〇〇「どうしたの急に」
夏鈴「その…元々は天ちゃんのわがままですけど、私もノコノコついてきちゃったし…」
〇〇「ノコノコって笑」
夏鈴「え〜…なんか間違ってます？」
〇〇「わかんないけど、なんか違う気がする笑」
夏鈴「え〜？…」
〇〇「いいよ、そんなの気にしなくて笑
寧ろ誘って良かったなって思ってるから。
すごく楽しかったし」
めちゃくちゃ騒いで、笑って。
〇〇「夏鈴ちゃんは？楽しめた？」
夏鈴「…はい。楽しかったです」
〇〇「だったらなんも問題なし」
夏鈴「…後輩に甘くないですか？」
〇〇「…たしかに、割と甘やかし気味かもね笑」
夏鈴ちゃんは、また遠くに視線を送る。
夏鈴「…だから天ちゃんのワガママも聞いてあげるんですか？」
〇〇「うーん…。ワガママって言っても可愛いんもんだしね」
夏鈴「…ひかるを呼び捨てするようになったのも、甘やかしですか？」
〇〇「…まぁ、そのくらいはね」
夏鈴「…アルノちゃんこと、いつも目で追ってるのも、過保護なのもですか？」
〇〇「……どんくさい子だからね。ちょっと心配になるっていうか」
夏鈴「……」
〇〇「夏鈴ちゃん？」
なんだか不安になって、僕は手に持った瓶をテーブルに置いて、夏鈴ちゃんの顔を覗き込む。
夏鈴「……」
〇〇「……」
まっすぐ。
お互いに。
読み取れない表情で。
ただ僕らは目を合わせて。
何を話すでもなく。
そんな時間がどれくらい続いただろう。
夏鈴「……ピアス跡、結構残るんですね」
不意に夏鈴ちゃんが口を開いた。
〇〇「そうだね…。こっちは結構残ってるよ」
右耳辺りをみやすいように夏鈴ちゃんに近づける。
〇〇「触るとはっきりわかるんだ。多分、最初の方空けた所はずっとこんな感じかも」
新品みたいにピカピカにはならないけど、これも僕の傷で、凹みで、味だと思うことにしよう。
夏鈴「そうなんですね…」
多分、なんの気なしに、僕が触るとわかるって言ったからだと思うんだけど。
夏鈴ちゃんがすっと僕の耳に触れる。
〇〇「っ！？」
なんだか、ものすごくくすぐったくて僕は夏鈴ちゃんから離れる。
夏鈴「びっくりした」
〇〇「いや、さわると思わなかったから…」
夏鈴「…さわったらわかるって、〇〇さんが言ったんじゃないですか」
〇〇「そうなんだけど…、なんでまださわろうとしてるの？」
夏鈴「だって気になるじゃないですか…」
〇〇「いやいいよ、気にしなくて」
夏鈴「…私、好奇心強いんです。さわられると思わなかったからびっくりしたんじゃないですか？さわられるって分かってたら大丈夫ですよきっと」
〇〇「なんか言いくるめようとしてない？」
夏鈴「そんなことないです。…ほら、早く」
〇〇「うーん…、ちょっとだけだよ？」
自分で言ってて、何言ってるんだ。
ってなってるよ、僕は。
そっと夏鈴ちゃんが耳に触れる。
夏鈴「あー…、確かに」
〇〇「ﾋｰ…」
夏鈴「なんですかその反応…笑」
〇〇「なんか、くすぐったいんだか何なんだか…」
夏鈴「なんか面白い…笑」
〇〇「もういいでしょー…。ｲｨｰ……!」
夏鈴「笑」
どうしても身体が逃げる僕。
追ってくる夏鈴ちゃん。
テラスに備え付けられた手すりまで逃げた結果、最終的にしゃがみ込むまで追い詰められる。
〇〇「ちょっとー、傍からみたらイジメ…ｴｰ…!」
夏鈴「そんなに苦手なら触らせなきゃいいのに…笑」
口元を押さえて大笑いする夏鈴ちゃん。
〇〇「苦手かどうかもわかんないよ、人に耳触られるなんてことないんだからさ…」
よろよろ立ち上がる僕。
夏鈴「……じゃあどうして触らせてくれたんですか？」
〇〇「え…、触りたがってたから？」
真意を掴みかねて、僕はなんとなくな答えを返す。
夏鈴「…じゃあ触りたがったら、誰にでも触らせるんですか？」
〇〇「…いやいや、それはないよ」
夏鈴「じゃあ天ちゃんだったら？」
〇〇「…夏鈴ちゃん？」
夏鈴「…ひかるだったら？アルノちゃんだったら？」
〇〇「……」
いつの間にか表情すら見えないくらい俯いて、
夏鈴「…最近そんなことばっかり考えちゃう」
俯いたまま、夏鈴ちゃんは絞り出すように話を続ける。
夏鈴「嫌だな…。こんな事言いたくないのに…」
〇〇「…夏鈴ちゃん」
夏鈴「ごめんなさい…」
すっと踵を返して、ロッジに戻ろうとする夏鈴ちゃん。僕は反射的にその腕を掴んで引き止めてしまう。
〇〇「……」
夏鈴「……」
気の利いたことを言うべきなんだと思う。
けど、何も言えない。
夏鈴「……私が後輩だから、気にかけてくれるんですか？」
振り向くこともなく、腕を振り払うでもなく、
夏鈴「後輩だから…、話すの下手なのに、待ってくれるんですか？」
そのまま、夏鈴ちゃんは話す。
夏鈴「後輩だから…、頑張るよって言ってくれたんですか？」
…私は、こうやって私も一生懸命頑張るから、それを見た人にも、自分も一生懸命頑張ろうって思ってもらえたらいいなって思います。
はっきり覚えてる。
ダンス部で、何故ダンスを踊るのかって聞いた時、夏鈴ちゃんから聞いた言葉。
素敵だなって思った。
そして、僕も実際に彼女が踊る姿を見て、表現を見て、頑張ろうって本当に思えた。
夏鈴「…じゃあ同級生だったら？…先輩だったら？」
掴んだままの腕から、強張りが伝わってくる。
夏鈴「Buddiesのスタッフじゃなかったら？ ただのチャイティーヨのお客さんだったら…？」
こんな風に接してくれたか？
そう言いたいんだろう。
〇〇「…違うよ」
言わなきゃ。
伝えなきゃ。
〇〇「後輩とか先輩とか関係ないよ」
ちゃんと言葉にして。
表現しなくちゃ。
伝わらないこともある。
〇〇「夏鈴ちゃんが、夏鈴ちゃんだからだよ」
強張りが消えていくのがわかる。
〇〇「ごめんね」
大丈夫だとわかるから、腕を離す。
〇〇「夏鈴ちゃんをもっと知りたい。知れば知るほど、まだ見たことない夏鈴ちゃんがいるから…」
僕もやっぱり、言葉で伝えるのは得意じゃない。
〇〇「うまく言えないけど…、僕はもっと夏鈴ちゃんを見てたい。だから、夏鈴ちゃんにこういう風に接してるんだと思うよ」
夏鈴「……」
沈黙。
でも苦痛には思わない。
夏鈴ちゃんと僕には、必要な時間だから。
夏鈴「……」
ゆっくり夏鈴ちゃんがこちらに振り返る。
夏鈴「最後に一つだけ、聞いていいですか？」
〇〇「うん…」
夏鈴「…私のこと、そういう風に見れますか？」
気づかないふりをしてたわけじゃない。
ただそういう風に意識したことはなかった。
〇〇「…見ちゃうよ。見ちゃうに決まってる」
それが一番正直な気持ち。
人によく思われたいなと思ってた。
嫌われるのが怖かったから。
人に好かれるのは怖いなと思ってた。
裏切ってしまうかもって。
中途半端な距離感でふわふわとしていたかった。
近すぎると見たくないものも、
見せたくないものも、
はっきり見えてしまいそうだったから。
けど。
〇〇「自分がそんなふうに思ってもらえるなんて、考えたことなかったから…」
それも、正直な気持ち。
夏鈴「…わかりました」
すっと、一歩夏鈴ちゃんがこちらに近づく。
ちょっとだけ背伸びして、髪が僕の方に触れて、続けて柔らかい感触が頬に触れる。
夏鈴「…これで、そういう風に思われてるって、自覚できますか」
また俯いて、夏鈴ちゃんが言う。
〇〇「……はい」
僕はもうそれしか言えず。
夏鈴「…っ！」
パッと夏鈴ちゃんは踵を返して、ロッジのガラス戸に向かう。
〇〇「あっ…」
半分ロッジの中に入った状態で、夏鈴ちゃんはこちらに向き直る。よく見るとびっくりするくらい真っ赤な夏鈴ちゃんは、もごもごと何か言おうとして、
夏鈴「…おやすみなさい」
とだけ言うとあっという間に2階へ上がっていった。
〇〇「……」
僕は暫く立ち尽くした後、膝から崩れ落ち、ふらふらと立ち上がった後、ロッジの中に戻り、ベッドに倒れ込むと、しばらく身悶えし続けた。
〜〜〜〜〜
翌日、荷物を片付け、朝ごはんを軽く済ませて、昼頃に僕らはチャイティーヨ号に乗り込んだ。
僕と夏鈴ちゃんは目が合うたび、お互い視線をそらすという奇妙な行動を取っていたため、皆は訝しんでいたけどなんとか誤魔化している間に、車内は僕と飛鳥さん以外静かに寝息を立て始めた。
飛鳥「流石にはしゃぎ疲れたか」
〇〇「ですかね…」
飛鳥「……あんま聞かないほうが良い？」
〇〇「…そうしてくれると助かります。まだ整理がついてなくて」
飛鳥「ま、私も過保護は控えないとね」
〇〇「なんです、それ？」
飛鳥「なんでもなーい」
飛鳥さんはどこからか板ガムを取り出して、包みを剥がすと僕の口元に持ってきてくれる。
〇〇「ありがとうございます」
ありがたく口で受け取って噛む。
飛鳥「眠気覚ましがてら、ちょっと仕事の話して良い？」
〇〇「勿論」
飛鳥「〇〇が卒業して正社員になったら、副責任者を任せたいと思ってる」
〇〇「…副店長、的なことですかね？」
飛鳥「うん。今は便宜上梅がやってくれてるんだけど、特にこれって仕事があるわけじゃなくて、私が姉妹店の関係で留守にしなきゃいけない時とか、代表として対応してほしいなって感じ」
〇〇「…お引き受けします」
飛鳥「ありがと…。えんちゃんにも話はしたんだけど、〇〇のほうが良いと思いますってさ。お家のお手伝いもあるから、負担大きいしね」
〇〇「ですね」
飛鳥「直近の事も少し話しとくか。今、オファーが2件来てる。一つは〇〇個人に。もひとつはチャイティーヨに」
〇〇「僕個人にも、ですか？」
飛鳥「うん。Buddiesで東高のダンス部や、ダンス部OG含めた南美の生徒とかも参加してダンスイベントやるんだってさ。そこでクラブみたいにバーカン立てたいから、そこでドリンク作る人欲しいって」
〇〇「それに僕、ですか？」
飛鳥「なんでも一部スタッフから強い推薦があって。らしい」
〇〇「なるほど笑」
バックミラー越しに、ちらりと最後方のシートを見る。たぶんその一部スタッフの2人は仲良く寝息を立てている。
飛鳥「もう一つは奈々未の会社が企画してる夏フェスへの出店オファー」
〇〇「おぉ」
飛鳥「本社は東京にあって、そっちがメインで動かしてる企画なんだけど、各支社に良いところないかって案を募ってるんだって。それで奈々未がうちを推してくれたみたい」
〇〇「なるほど」
飛鳥「今まではまず近隣の人達にチャイティーヨを知ってもらうためにも、極力特殊な形態での営業オファーは受けてこなかったけど、姉妹店も出来るし、こういうのも受けていこうかなって思ってるんだけど…」
〇〇「やれることはやってみましょうよ」
飛鳥「…だな」
うん。とうなづいて、飛鳥さんはこっちを見る。
飛鳥「〇〇はどう？まだ日取りは確定してないけど、受ける気はある？」
〇〇「はい、やりたいです。営業、大変になっちゃうかも知れないですけど…」
僕に加えて、南美の生徒にもオファーがかかるならひかるやアルノにもお声がかかるかもしれない。
飛鳥「まぁ、その時は〇〇がライブで休んでた時みたいに、えんちゃんにヘルプ頼むなりなんなり考えるから気にしなくてよし」
〇〇「ありがとうございます」
飛鳥「一応言っとくけど、店の名前背負って出てもらうから半端は許さん」
〇〇「了解です笑」
飛鳥「まぁ、今んトコはこんなもんかな」
〇〇「また一歩新しい領域に入ってきたって感じがしますね」
飛鳥「まぁ〜ね」
そんなこんなを話ている内に、僕らは無事チャイティーヨへ帰還。
天「ありがとうございましたー！！」
夏鈴「お世話になりました」
ひかる「終わっちゃったな〜」
アルノ「帰るのめんどくさい…」
〇〇「はいはい、気をつけてね」
飛鳥「〇〇、駅まで送ってやんな」
〇〇「あっ、はい。じゃあ、お疲れ様です」
飛鳥「ん、また明日」
美波「お疲れ〜」
さくら「お疲れ様」
〇〇「お先に失礼します」
天ちゃん、ひかるが先頭。
その後ろにアルノ。
最後尾に僕と夏鈴ちゃんが続く。
夏鈴「……」
〇〇「……」
ひかる「…うーん」
天「どうかした？」
ひかる「いや〜…」
アルノ「なんか忘れ物？」
ひかる「いやいや、そうじゃないけど」
前を行く3人が何かを話してる。
けど、それはそうとしてこっちはこっちで色々考えないといけなくて…。いやいけないわけじゃなくて。
そんなことを考えてると、あっという間に駅についてしまう。
〇〇「じゃあ、お疲れ様」
ひかる「…天ちゃん、アルノちゃん、私達は先に行ってよう」
天「えっ？なんで？」
ひかる「いいから。ほらほら」
アルノ「えっ？えっ？」
ぐいぐいとひかるが2人を押していく。
先に改札を通らせると、こちらに振り返る。
ひかる「夏鈴ちゃん、しっかりね」
夏鈴「う…」
それだけ言うと、ひかるは改札を抜けていく。
天「えー、結局なに！？」
アルノ「？？？」
ひかる「はいはい、ホームで待ってようね」
あっという間に改札からは見えなくなる。
〇〇「えーと…」
夏鈴「……」
困惑していると、急に手を握られる。
夏鈴「……1年以上会わずに待てたから、忍耐はあると思うんです」
ちらりと視線を送ると、夏鈴ちゃんはまっすぐ前を向いていて、
夏鈴「…でも、たぶん、独占欲は強いかもしれないから、覚悟しててください…。好きになってもらえるように、色々…考えるんで」
僕の返事もまたず、夏鈴ちゃんは手を離すと改札を抜ける。
〇〇「夏鈴ちゃん！」
夏鈴「…？」
振り返った夏鈴ちゃんに、何を言えば良いのかわからなくて、けど、何か言いたくて。
〇〇「…またね」
夏鈴「…はい。またね」
手を振って、ホームへと消える背中を見送って、僕も歩き出す。色々有りすぎる2日間だった。
とはいえ、いつまでもふにゃふにゃとしてはいられないと気合を入れなおす。カッコ悪い姿は見せられない。
忙しくなるぞ！
乃木駅から徒歩6分ほど。
カウンター5席、2名がけテーブル席2つ、
4名がけテーブル席1つ。
毎週水曜定休日。
喫茶チャイティーヨ
連休ありがとうございました。
明日はランチタイムお休み頂きまして、
カフェタイムから営業開始致します。
皆様のご来店を心よりお待ちしております。
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ライナーノーツ。
今回はキャンプの夜、夏鈴ちゃんが一緒に過ごしてくれたら…のストーリー。
Xの方でアンケート取りまして、投票数の多かった子で書こうかな！といった感じです。
最初は全員分書こうかな…とか思っていたのですけど、マジで時間かかりすぎるよなぁと成りまして、アンケートで相談した次第です。
やはり多いのは飛鳥ちゃんでしたが、夏鈴ちゃんが次点という感じ。ひかるちゃんと10％以上差がつきましたね。
うーん、推しであればあるほど書きやすい気持ちと書きづらい気持ちがまぜまぜ。
飛鳥さんの場合
次のお話
前のお話
シリーズ
シリーズ本編