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ピアス。

こちらのシリーズで書こうと思って、結局カットしたエピソードを供養がてら更新。
時期的には
“来る日と皆様と。“〜“透明少女と僕と。”
の間くらい。


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飛鳥「ホントにいいの?せっかく埋まってきたのに」
〇〇「はい、やっちゃってください」

僕は久方ぶりの儀式にやや緊張している。
過去に七回経験していることではあるが、人にやってもらうとなると勝手が違うものだ。

さくら「うぅ…、緊張する」

僕の近くに立つさくらさんは、その手にピアッサーを握っている。

さくら「人のピアス開けるなんて初めてだから…」
〇〇「あの、ホントに無理なら言ってくださいね? 僕のワガママなんで…」

高校入学から卒業までに7つ開けたピアス。
ちょっとしたきっかけで、僕はその全てを破棄して、1年以上ピアスをつけていなかった。
最初の頃に開けた穴は、まだ少しその存在を残しているものの、最後の方に開けた左のロブあたりはすっかり塞がっている。
ライブが近づくにあたって、僕は気合を入れる意味合いで、そこに新たにピアスを開けることにした。

さくら「えぇ…、でも梅澤さんも飛鳥さんもやるんですよね…?」
美波「まぁ…、〇〇からお願いなんて珍しいから」
飛鳥「部下のお願い聞いてやるのもオーナーの務めかなって」
さくら「じゃあ私だけやらないのも…」

自分でパッパと開けてしまってもいいのだけど、より気合が入るかとスタッフのお三方に空けていただけないか、気安くお願いしてしまったのだけど…。

さくら「う…」
〇〇「なんか、虐めてる気分になってきました…」
飛鳥「どっちかって言うと〇〇が虐められてる方なんだけどな。受けるダメージ的に」
〇〇「耳に穴開けるイジメは苛烈すぎる…」

ちょっと罪悪感が湧いてきたので、改めて。

〇〇「あの、さくらさん、ホントに無理しないでくださいね。自分でも空けれますから」
さくら「…やる! やるよ!」

自分に言い聞かせるように、改めてピアッサーを握ると、僕の耳にあてがう。

さくら「い、いくよ!?」
〇〇「ど、どうぞ」
さくら「…いくよ?」
〇〇「…はい」
さくら「…い、いくからね?」
〇〇「お、お願いします」
さくら「…ほんとに行くよ!?」
〇〇「…はい!」
さくら「…ごめん!」

バチン!

〇〇「ふぅ…」
美波「とんでもない焦らしだった笑」
飛鳥「逆に怖い笑」
さくら「ごめん〜…」
〇〇「いやいや、こちらこそ無理言ってすいません」

なんとも言えない手応えに、さくらさんはいぃ〜と表情を強張らせている。

美波「よし…、次は私か」

新たなピアッサーを手に、
美波さんがこちらに近づく。

美波「でもクールタイム置いても別にいいんじゃないの? 無理に一度に開けなくても…」
〇〇「個別に管理するのが面倒くさくて…」
飛鳥「変な所でズボラと言うか、極端なんだよな…。ピアス全部捨てたり、丸坊主にしたり…」
〇〇「…ほんとおっしゃる通りです笑」

ほんとに極端だなって、思う。
思い立ったが吉日!な生き方です。

美波「…よし、一思いに楽にして上げるからね!」
〇〇「えっ、こわいこわい」
飛鳥「息の根を止めようしてる笑」
さくら「なんか違う気がする笑」
美波「ちょっと!笑って手元狂うでしょ!」
〇〇「いやいやいやこわいこわい」
美波「だから笑わせないで!」

耳にあてがわれたピアッサーが凄いプルプルしてるのが伝わって怖さを増長させる。

〇〇「一回深呼吸しましょ?」
美波「そうだね、一回落ち着こう」
〇〇「飛鳥さんも笑わせないでくださいよ!」
飛鳥「わかったわかった」

ふぅ、と一呼吸。

美波「…いくよ?」 
〇〇「お願いします」
美波「…えい!」

掛け声可愛いな。
バチン!

〇〇「ありがとうございます」
美波「確かに人に空けるのは緊張する」
さくら「ですよね〜」 
〇〇「すいません、ほんと」  

あんま気軽に頼むものじゃなかったな。冷静に考えてみれば、身体に穴空ける手伝いだもんなぁ。

飛鳥「さて、サクッと終わらすか」

続いて飛鳥さんがピアッサーを手に。
迷いなく、耳にあてがう。

〇〇「お願いします」
飛鳥「ん」

バチン!

美波「はや笑」
さくら「すごい〜…」
飛鳥「7個も空けてたやつに、今更遠慮いらないでしょ」
〇〇「まぁごもっともですね笑」


僕は携帯のインカメラで耳元を確認する。
ピアッサーにもとから付いているシンプルなピアスが並ぶ。

〇〇「どうせならさっさと普通のピアスつけたくなりますね〜」
飛鳥「ほら、可愛げもクソもない。騒いでやるだけ損でしょ」
美波「空いた側より、空けた方が大騒ぎしてた笑」
さくら「ほんとですよ〜」
〇〇「すいません笑」

まったくもって空け甲斐のない耳だ。

〇〇「ありがとうございます。気合い入りました。ライブ本番も頑張ります」
飛鳥「はいはい。来年スタッフが増えたら穴も増やす気?」
〇〇「あ〜、その時はさすがに右耳ですかね。軟骨に空けさせるのはさすがにアレなんで…」
飛鳥「そもそも新人に空けさせようとするな」
美波「ピアス穴空けさせてくる先輩怖すぎ笑」
さくら「大丈夫?そんなに空けて…」
飛鳥「だから7つも空けてた奴の心配しても今更だって」

そんな会話を聞きながら、ピアスに触れる。
証、なんていうとあれだけど、形から入るのは昔からの習慣というか、習性なんだな。

〇〇「ホール、安定したらピアスも選んでもらっていいですか?」
飛鳥「…それぞれの穴に別々の女が選んだピアスつけんの?」
美波「ちょっとチャラいんじゃない?笑」
さくら「デザインもバラバラになっちゃうよ?笑」

あ〜、確かに…。

〇〇「まぁ、オシャレより願掛けみたいなもんなんで…」
飛鳥「…バイト中はわきまえなよ?」
〇〇「TPOは考えますよ!」

勢い任せに再度空けたピアス。
昔の記憶を塗り替えるように、新しい自分を始めるきっかけの一つとして。願掛けと、気合い入れも兼ねてのちょっとした儀式。この日は深く考えてなかったけど、次の日から色んな人にツッコまれることになるのはココだけの話。


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Xで先行して公開した、
本編内ではカットしたエピソード。
癖がなぁ、出過ぎているよなぁ…。
ピアス空けてもらうシチュエーションは比較的湿度高いイメージなんですけど、あんまり湿り出ないように書いたつもりです…。
でも好きな人は好きですよね?
けどちょっと全体的なチャイティーヨの雰囲気にそぐわない気もするし、そこまで昔に立ち返らなくても…。という気もするし、癖も出過ぎている気がしてカットしました。うーん、あったほうがよかったのか、なくてよかったのかはわかりません。









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