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こいこうこいは。
〇〇「…ん?」
控室で作業中、夏鈴ちゃんがふらりとやって来た。それだけならたまにあることだが、今日はじっと俺の顔を見ている。
〇〇「どした…?」
よく見てみると前髪が短くなって、眉が出ている。
夏鈴「……」
けど、それ自分から言うことはしてこない。
褒めて欲しいモードの中でも、上級編の自分で気づいた上で褒めて欲しい状態だ。
〇〇「……」
素直に前髪切ってオン眉にしたんやね〜。
可愛いね〜。でもいいのだけど、それで満足してしまうのも志が低い気がする。
なんの志だよって話やが。
〇〇「……夏鈴ちゃん?」
夏鈴「うん」
〇〇「……今日も寒いね」
夏鈴「……うん」
〇〇「…それでどうかした?」
ピクッと夏鈴ちゃんの眉根が寄る。
夏鈴「……わかんない?」
〇〇「……」
夏鈴「…ホントに?」
〇〇「……う〜ん」
夏鈴「……」
ジワジワと夏鈴ちゃんが膨れてくる。
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夏鈴「ん!」
自分の前髪と眉のあたりを指差す夏鈴ちゃん。
なんだかその様子が凄く子供っぽくて、俺は吹き出してしまう。
夏鈴「えっ、なに…」
〇〇「…ごめんごめん、わかってるよ。前髪切ってオン眉にしたんよね笑」
夏鈴「…じゃあ、なんで」
〇〇「ごめん、ちょっと意地悪したくなった笑」
夏鈴「…ムカつく」
ぽすぽすと俺の肩に猫パンチを浴びせる夏鈴ちゃん。そんな様子も拗ねた子供。
〇〇「ごめんって」
夏鈴「許さない…」
許しを請う俺から、プイッと視線をそらす。
いちいち反応が可愛いもんである。
〇〇「ほんと、そういう可愛い反応されると意地悪したくなるもんなんよ」
夏鈴「……意味わかんない」
可愛いと言われて、悪いはしないけど、今日褒めて欲しいのはそこじゃない。
そういうことなんだろう。
全部好きも嬉しいけど、具体的に褒めて欲しい。
そう言うときもある。
〇〇「かわいいよ、前髪もオン眉も」
夏鈴「……笑」
夏鈴ちゃんは満足そうに笑うと、急に俺の髪をぐちゃぐちゃと掻き回す。
〇〇「ちょっとー」
夏鈴「…意地悪のお返し」
それだけ言うと、夏鈴ちゃんはスタスタ歩いて控室を出ていく。
乱れた髪を適当に直す。
後で洗面台で整えればいいか…。
夏鈴「…〇〇さん」
〇〇「ん…?」
控室の入口から夏鈴ちゃんが覗き込んでいる。
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〇〇「なーに?」
夏鈴「……なんもないっ」
今度こそサッと顔を引っ込めて、行ってしまう。
褒めて褒めて!とわんこのようにやってくるけど、満足したらにゃんこのようにふらっとどっかに行ってしまう。
まぁ、満足してくれたならそれでイイんだけど。