べっちょない。
夜も更けてきて、そろそろ寝るかとベッドに入るとスマホが鳴る。
〇〇「ん〜?」
小西からLINEが入ってる。
添付された写真を開く。
なんじゃそのポーズ。
隣は村山か。こんな時間まで仲ええなぁ。
まぁ、返事は明日でええか…。
と、既読無視して目を閉じる。
数秒してピコンピコンとLINEの通知が飛んでくる。
明日でお願いしやす。
また数秒後、ピコンピコンどころではない勢いで、通知音が鳴り続ける。
〇〇「…怖」
それでも頑なに無視していると、今度は電話の着信音が鳴り響く。なんやねん。
〇〇「…はい」
小西「ちょっとー!なんで既読無視すんねん!?」
〇〇「えぇ…、俺もう寝んねん…」
小西「…もう寝るってことは、今暇ってことやんな?」
〇〇「…人の話聞いてる?」
睡眠をとるのは立派な予定やで?
小西「あんさぁ…」
〇〇「ん〜?」
小西「…終電逃したから迎えに来てほしいな♡」
〇〇「あ?今何時やと思っとんねん」
小西「え、終電はないけど何時やっけ…。あれ、私スマホどこやった!?」
村山「いや、今電話に使ってるから笑」
小西「ホンマや!笑」
酔っとんのか?
〇〇「自分らのうっかりで逃したんやろ?タクシーでも拾ったら?」
小西「可愛い彼女が困っとるのに冷たない!?」
〇〇「いや、眠いし…。こんな寝ぼけた状態で運転とか危ないやん?」
小西「はぁ〜?迎えに来てくれたらちゅーしたろうと思ったのに!」
〇〇「……」
小西「みぅ〜さんもしたるって言うてんで!」
村山「言ってないから笑」
お前らね、人をなんやと思っとるんや?
たかだかちゅーのためにわざわざ起きて着替えて車転がして迎えに行くとでも?
〜〜〜〜〜
村山「ごめん、わざわざ」
〇〇「大丈夫、気にすんな」
小西は助手席に座ってすぐのうちは、妙なテンションではしゃいでいたが、直に寝落ちした。
村山「寝るトコだったんでしょ?」
〇〇「まぁな〜」
眠気覚ましのガムを噛みつつ、返事をする。
村山「よくあんの?」
〇〇「ん、なにが?」
村山「こういうこと」
〇〇「よくはない。極稀。村山と夜遊びしてる時ぐらいか…?」
後部座席。
バックミラー越しに見る村山は、ふっと視線を窓の外に向ける。
村山「私のせいだったか」
〇〇「お前のおかげに訂正しといてくれ」
村山「?」
〇〇「時間忘れてはしゃぐぐらい楽しく過ごせてるって事やろ」
村山「良いように言う笑」
〇〇「なんでも捉え方次第やろ笑」
村山は窓の外に向けていた視線を、こちらに向ける。チラチラとバックミラー越しに目が合う。
村山「…仲良くやってんの?」
〇〇「ん?小西から聞いてんちゃうん?」
村山「まぁ、多少は?」
〇〇「ほならそのまま受け取っといてくれ」
村山「……わがまま言いすぎやし、生意気な態度ばっかりとってまうし、そのうち愛想尽かされるかもしれん…!って言ってたけど?」
〇〇「…アホのいうこと真に受けてたら、お前もアホになるで」
村山「言ってること違うじゃん笑」
〇〇「時折ほんまにアホやねんコイツ。わけのわからん心配すんなっちゅうねん」
村山「あー、はいはい。わかったわかった」
〇〇「お前はどうなん?」
村山「……どうなんって?」
〇〇「何人かアタックして、玉砕したってやつの話は聞いてる」
村山「知ってんじゃん笑」
〇〇「風の噂ってやつよ」
村山「なんかこう…、ピンとこないと言うか…」
〇〇「まぁ、無理にするもんでも無いわな」
村山「……なに、心配してくれてんの?笑」
〇〇「ハァ!?」
村山「なんかめっちゃ気使われてる感じする笑」
〇〇「してへんわ!モテるやつにはモテるやつなりに気苦労もあるやろってだけや」
村山「それを気使ってるって言うんでしょ笑」
〇〇「……なんかお前ら似てるもん。雰囲気というか感性というか趣味嗜好というか。だからモテるのはわかんねん。そんでアホなこと考えて変に拗らせへんかなとしんぱ…」
村山「心配してんじゃん笑」
〇〇「…あぁ、はいはい。わかりましたわかりました。そんな対応まで似んでええねん!」
村山「そんな似てる?」
〇〇「そっくりやそっくり!」
村山「……じゃあなんで」
そこまで言って黙る村山。
〇〇「ん?」
村山「…なんもない笑」
笑って、また窓の外へ視線を向ける。
村山「この辺でいいよ、もうすぐそこだから」
〇〇「……大丈夫か?」
村山「大丈夫だって笑」
車を路肩に停めると、村山は後部座席から降りる。
村山「あ、忘れてた」
〇〇「ん、スマホでも忘れたか?」
車内を覗き込む村山に振り返る。
村山「ちゅー。する?」
〇〇「……寝言は寝て言え!」
村山「ウケる笑」
〇〇「ちゅーとか気安く言うなや!」
村山「照れ方がキモい…笑」
〇〇「帰れ帰れ!」
村山「はぁ〜、おもしろ」
〇〇「クソして寝ろ!!」
村山「はいはい笑」
ひとしきり笑って、
村山「…じゃーね」
〇〇「気ぃつけてな」
村山「ありがと…」
姿が見えなくなるまで見送ってから発車。
〇〇「…で。お前はいつまでそうしてんの?」
パチ。と小西が目を開けた。
不満げな顔でこちらに視線を送ってくる。
小西「…いつから気づいとったん?」
〇〇「仲良くやってんの?あたりから?」
小西「ほぼ全部やん……!」
〇〇「…アホっていう度ピクピクしてたし」
小西「…アホっていう方がアホなんや」
〇〇「子供か! んで、なんで寝たふり?」
小西「……浮気調査や」
〇〇「なんやそれ」
ふぃっと外へ視線を向ける小西。
小西「…っていうか今私の家向かってない?」
〇〇「そらそうやろ」
小西「……こういう時はしれっと連れて帰るんちゃうん?」
〇〇「酔っ払いをうやむやで持ち帰ったりせんわ」
小西「……」
〇〇「…もしかしてそのための寝たふりか!?」
小西「……」
否定も肯定もなし。そっぽを向いているので表情はわからんが、やや耳が赤い気もする。
〇〇「…アホやなぁ」
小西「…うっさい」
ほどなくして、小西の家前に到着。
〇〇「ほれ、着いたで」
小西「……あんがとう」
〇〇「へいへい」
助手席から降りようとする小西に声をかける。
〇〇「ちょい」
小西「ん?」
俺は自分の頬をペシペシと人差し指で指す。
〇〇「忘れもんやで」
小西「……そんなんは覚えとんねんな」
すっと近寄って、ちょっとだけ触れるような。
そんなご褒美。
〇〇「……」
小西「…やらしといて何驚いてるん」
〇〇「いや、妙に素直やなと…」
小西は一瞬不服そうにしたが、すぐにニヤッと笑う。
〇〇「ん?」
助手席に改めて乗り込み、俺の頭をがしりと掴む。
〇〇「なになに」
頬に再び触れる感覚。
までは良かったが。
〇〇「痛い痛い痛い痛い!!」
凄い勢いで吸われた。
〇〇「蚊か!!」
小西「アハハ!!笑」
笑いながら車を降りる小西。
去り際にすっと顔だけ覗かせる。
小西「……ほなまた」
〇〇「…はいはい、またな」
去っていく小西を見送って、俺は帰り道を行く。
また明日…。
〜〜〜〜〜〜
清水「……どうしたの、それ」
翌日、頬に貼った絆創膏を指差す清水。
〇〇「季節外れの蚊や……」