喫茶チャイティーヨPOPUP! 親愛なるBuddies.前編
〇〇「こんばんは」
美青「〇〇さん!」
チャイティーヨの営業終わり、僕はBuddiesへとやって来ていた。
〇〇「美青ちゃん、元気そうだね」
美青「はい、元気です!」
受付カウンターに立っているのは美青ちゃん。
チャイティーヨ同様、Buddiesもこの春から新たなスタッフが2名加入した。
瞳月「あ、〇〇さん」
〇〇「瞳月ちゃん、こんばんは」
瞳月「こんばんは。打ち合わせですよね?」
瞳月ちゃんがスタジオの方から、トレンチを持って戻って来る。瞳月ちゃんも美青ちゃん同様春から加入したスタッフ。2人は天ちゃん夏鈴ちゃんの後輩で、僕の母校でもある東高の2年生。
〇〇「うん、店長さん呼んでもらえる?」
瞳月「はい、ちょっと待っててください」
受付の横を抜けて、バックヤードへ入っていく瞳月ちゃんを見送る。
美青「イベント営業のオファー、受けてくれたんですよね?」
〇〇「うん、なんか一部スタッフさんが推薦してくれたらしくて笑」
美青「天さんと夏鈴さんがすごい勢いで店長に話してました笑」
〇〇「ありがたいよね笑」
少し前までの僕ならたぶん、恥ずかしさとか申し訳無さとかで茶化したり謙遜したりしてただろうな。
でも今は素直に受け取って、喜ぼうと思う。
〇〇「美青ちゃんも最近は緊張せずに話してくれるようになったよね」
美青「すいません、最初はすごい緊張しちゃって…」
〇〇「いやいや、別にいいんだよ。先輩の先輩なんか誰だって緊張するって」
???「おう、お疲れ」
バックヤードから瞳月ちゃんと店長さんが出てくる。店長さんは眼鏡をかけてるちょっと顔の大きい男の人。かなり背が高いので、小柄な瞳月ちゃんとの身長差がエグい。
〇〇「お世話になります」
店長「さっそくだけど、設備確認しとくか」
〇〇「お願いします。瞳月ちゃん、ありがとう。美青ちゃんもまた後でね」
瞳月「はい、どういたしまして」
美青「いってらっしゃい」
二人に手を振って、店長の後を追う。
ちょうど受付カウンターの裏、キッチンへ。
〇〇「こんなちゃんとしたキッチンあるんですね」
店長「昔はフードもそこそこやってたんだよ。今は料理まともにできる奴いねーからやってないけど」
〇〇「そうだったんですね」
店長「ここでやるようなバンドマンなんて、どいつもこいつもビンボー人ばっかだから飯ぐらい安く食わしてやるかって」
〇〇「おぉ…」
店長「まぁ、過去の話だけど」
キッチンはバックヤード、受付カウンター、ライブホールとそれぞれ繋がっている。
店長「冷蔵庫はドリンク詰まってるところ以外は自由に使ってくれてよし。冷凍庫は空いてるから氷とか必要なら詰め込んでくれればいい」
〇〇「わかりました」
ちらりとホールの方を見ると、漏れ聞こえてくるライブの音と、バーカウンターに立つ天ちゃんと夏鈴ちゃん。いつからこっちに気づいていたんだろう。
夏鈴ちゃんはじっとこっちに視線を送っている。
〇〇「……」
なんとなく声をかけるのをためらって、小さく手を振る。
夏鈴「……」
夏鈴ちゃんは気恥ずかしいのか一瞬目を逸らして、小さく手を振る。そんな様子に気付いたのか、隣の天ちゃんも振り返ると、僕に気づいてブンブンと手を振ってくれる。
店長「お前ら仲いいよなぁ」
〇〇「だと嬉しいですけど」
僕らはそのままバーカウンターへ。
〇〇「必要十分ですね」
一通りの設備は揃ってる。
あとは僕の頑張り次第だろう。
〇〇「2人共推薦してくれてありがとね」
天「え!?」
夏鈴「なんですか!?」
あ、ライブの音にかき消されるわ。
〇〇「ありがとね!」
天「なんかよくわかんないですけど、どういたしまして!」
夏鈴「?」
夏鈴ちゃんも何のことかわかってなさそうだけど、まぁいいか。
〇〇「じゃあ帰るね!お疲れ様!」
天「え!?帰るんですか!?」
夏鈴「……」
え、そりゃ帰るよ。
夏鈴「……待っててくれないんですか?」
え…、まだしばらく働くんでしょ?
2人は大学生になったし、22時以降も働けるようになったわけだし。
天「……2人と帰る気じゃない?」
夏鈴「あぁ…、そういう」
〇〇「なんて?」
店長「お前ら仕事しろ」
天夏鈴「はい!」
シャッとホールの方へ向き直る2人。
店長「じゃあ、おつかれさん」
〇〇「はい、お疲れ様です」
ホールから出てキッチンに。
ちらりとバーカウンターを見る。天ちゃんと夏鈴ちゃんはこっちを見ていて、目が合うと、
天夏鈴(べー!)
今時あっかんべーとは…。
今度何か埋め合わせをしないと…。
キッチンを抜け、受付へ戻る。
店長「お疲れ、変わるから上がんな」
瞳月「はい、お疲れ様です」
美青「お疲れ様です」
2人はカウンターからバックヤードにはけていく。
店長「悪いんだけど駅まで送ってやってくれる?」
〇〇「もちろん」
あー、2人と帰るつもりってのはそういうことか。
帰りのタイミングを合わせる意図があったわけじゃないけど、結果的にはそういう感じになるね。
入口近くで待機しつつ、思案。
初めてのゲストシフト。
舞台はライブハウス。ダンスイベントだし、シチュエーションとしてはクラブに近いのかな。
スタートからしばらくはBGMを流して自由にフロアで踊ってよしな感じ。途中で東高、南美のコラボダンスステージ。の構成だそうな。どんなお酒を提供するのがベターなのか、ベストなのか。
これまでに作ってきたカクテルを乗せるにしても、今回のためのカクテルはやはり用意したい。
以前は人をイメージして作ったものがほとんど。でも今回はBuddiesをイメージして作ることになる。いろんな人が出入りするこの場所にふさわしいカクテルってどういうものだろう。
お話を頂いてからずっと考えてるけど、未だ取っ掛かりを掴めないでいる。
近々お師匠を訪ねるべきだろうか。
しかし、いつまでも甘えてていいものだろうか。
そんなの、正解なんてないんだろうけど。
瞳月「すいません。お待たせしました」
美青「ありがとうございます」
〇〇「どういたしまして。ちょうど帰るところだったから気にしないで」
Buddiesを出て、駅へ向かう。
瞳月「お腹すいた…」
美青「確かに…」
道すがら、2人はため息を付きながら言う。
〇〇「帰ったら用意されてるの?」
瞳月「バイトの時は大体カップラーメンとかチンするだけで食べれるのを用意してもらってます」
美青「家族と御飯の時間ズレますからね〜」
〇〇「そうなんだ…。よかったら駅前で何か食べる?奢るけど」
瞳月「えっ!?」
美青「いいんですか!?」
〇〇「えっ、いいよ」
すごい、リアクションが若い。気がする。
〇〇「何か食べたいものある?」
瞳月・美青「ラーメン!」
〇〇「あ、はい」
普段カップラーメンだけど、ラーメンでいいんだ。
いや、まあ、全然別物なのはわかるけれど。
〇〇「じゃあ行こうか」
駅前から少し離れて、とあるラーメン屋に。
〇〇「来たことあるかな?」
瞳月「この辺まだ来たこと全然なくて」
美青「未開拓です!」
思ったよりガチ勢の匂いがする。
〇〇「普段からよくラーメン食べるの?」
瞳月「そうですね、美青と一緒の時はラーメンのこと多いです」
美青「元々瞳月がすごいラーメン好きで、一緒に行ってる間に私もハマってって感じで」
〇〇「なるほど」
美青「〇〇さんはここよく来るんですか?」
〇〇「普段は仕事終わりに賄い食べるから、そんなにしょっちゅうってわけじゃないけど、バイト前とか、飲みに行った帰りとかに来ちゃうかも。ポイントカードもう3枚目だし」
瞳月「ポイントカードとかあるんですね」
〇〇「5回来店ごとに丼物かギョーザかからあげが無料になるよ」
美青「へぇ〜、私も作ろうかな…」
〇〇「食べて気に入ったら、帰りに作ってもらうといいよ」
店員「お待たせしました〜」
瞳月「めっちゃドロドロ!」
〇〇「レンゲ立つよ」
美青「わっ、すごい!」
反応が初々しい…。
〇〇「じゃあ、食べよう」
瞳月・美青「いただきまーす!」
2人は食べだすと、ちょっと驚くぐらい黙々とラーメンをすする。最近の若い女の子はなんやかんやワイワイとお話しながら食べるものだと思っていたよ。
まぁ、伸びたり冷めたりするし、美味しく食べようという気概なのかもしれない。
〜〜〜〜〜〜
瞳月・美青「ごちそうさまでしたー!」
ポイントカードを手に、頭を下げる2人。
〇〇「どういたしまして」
結局2人共替え玉までしっかり食べて、こっちとしては気持ちのいい食べっぷりに奢り甲斐があるというもの。
瞳月「普段は豚骨が多いんですけど、鶏白湯もいいですね」
美青「ドロドロ系も初体験でしたけど、美味しかったです!」
〇〇「それはよかった」
駅へ向かいながら、僕はふと気になったことを聞いてみる。
〇〇「2人は元々ダンスやってたの?」
瞳月「私は中学からダンス部でした」
美青「私は高校からです」
〇〇「へぇ、なにかきっかけがあって?」
美青「オープンスクールで部活見学をした時に、たまたまダンス部のパフォーマンスを観たんです…」
〇〇「それでやってみようって?」
美青「…はい」
瞳月「…正確にはそこで踊ってる、とある先輩に憧れてやろ笑」
美青「別にわざわざそこまで言わなくても!」
〇〇「そんなすごい目を引く人がいたの?」
美青「…はい」
恥ずかしそうに頷く美青ちゃん。
美青「カッコよくてスタイル良くてダンスもうまくてかわいくて」
〇〇「早口」
瞳月「ただの由衣さんファンやん笑」
由衣さん。
由衣さん?
〇〇「えっ、あの、由衣さんってBuddiesでバイトしてた!?」
美青「はい。えっと…、天さん夏鈴さんの一個上なんで、〇〇さんの一つ下の学年の小林由依さんです」
〇〇「そっかぁ…、あの由衣ちゃんかぁ…」
瞳月「ピンときませんでした?」
〇〇「いや…僕ダンス部の活動ちゃんと見たの、去年の差し入れした日がはじめてだったから…」
カッコいいとか、スタイルがいいとか、かわいいとか、言われれば確かに納得なんだけど、ダンスパフォーマンスについては全然知らなかったな…。
瞳月「じゃあ、私達はここで」
美青「ありがとうございました!」
いつの間にか駅についていて、2人は改札へ。
〇〇「どういたしまして、きをつけてね」
2人の姿がホームに消えるまで見送って、僕も家に向かって歩き出す。
高1ですぐチャイティーヨでバイトを始めて、慣れてきた高2の頃、軽音部に入った。最初は一人で練習したりが中心だったけど、サポートに入ることになって、練習のために初めてBuddiesに。
由衣ちゃんは当時高1。同じくダンス部で、クラスメイトの渡邉理佐ちゃんと一緒にBuddiesでバイトをし始めたばかりの新人スタッフだった。
2人共美人で同じ学校だったし、僕がサポートに入ったチャラい先輩達はよく2人にちょっかいかけようとして玉砕してた覚えがある。
懐かしい。
僕の高校生活最後のライブの日、2人は用事があってシフトに入っていなかった。最後だから見たかったっていう由衣ちゃんに僕はあの日、天ちゃんと夏鈴ちゃんに言ったように、すぐまた機会はあるでしょって、言った気がする。実際はその日から僕は1年以上Buddiesに顔を出さなかった。
また顔を出すようになった頃には、既に2人は高校を卒業しているし、バイトも退職していて、その後の事は聞いていない。
南美にいるって話も聞いたことないし、もちろん北大にも入ってきていない。
何故聞こうとしなかったのか。
特に理由があるわけじゃないけど、突然顔も見せなくなった僕に、そんな資格はないとも思う。
…また、なんか卑屈になってる気がする。
きちんと謝りたいけれど、それもなんというか今更な気もするんだ。2人がそんな事を気にしているのかも分からないし。
…やめよ。
卑屈になって、自分は可哀想なやつなんだ、だからしょうがないんだ。
そんな思考に意味はない。
そういう自分はやめるって決めたろ。
然るべき時が来れば、自ずと向き合うことになる。
今は今やるべきことに集中しよう。
〜〜〜〜〜
〇〇「う〜ん…」
飛鳥「わかりやすく悩んでるじゃん」
翌日、チャイティーヨでの勤務中。
手が空くたびに色々考えてはみてるんだけど、これという解は出ていない。うんうん唸ってる僕を見かねて、飛鳥さんが声をかけてくれる。
〇〇「なかなかこれっていう案が出てこなくて…」
飛鳥「ふ〜ん…。まいまいんとこは相談行ったの?」
〇〇「いえ…、いつまでも甘えっぱなしなのもいかがなもんかなと思いまして…」
飛鳥「…気概は買うけどね」
〇〇「はい?」
飛鳥「いや、私も過保護か…。なんでもない、がんばりな」
〇〇「はい…?」
それだけ言うと、飛鳥さんはいつものスペースへ。
ひかる「どうかしました?」
テーブルからバッシングした食器を手に、ひかるがカウンターに戻ってくる。
〇〇「うーん。何と言ったものか…」
ひかる「?」
〇〇「人間関係ってやっぱ難しいよね」
ひかる「私が言うのもなんですけど、考えすぎじゃないですか?笑」
僕の抽象的な言葉にも笑って対応してくれるひかる。ありがたい後輩だね、ホント。
???「こんばんは〜」
お店のドアが開いて、花を抱えた女の子が入ってくる。
〇〇「彩ちゃん、こんばんは。お花ありがとう」
彩「どういたしまして〜」
彩ちゃんはフラワーショップ小川というお花屋さんの娘さん。去年の特別営業の際、ドリンク試作のためにお花やハーブを買うため偶々訪れたのをきっかけに、今年からチャイティーヨに飾る用のお花と、料理やドリンクに使うハーブをお願いしていて、彩ちゃんは定期的にこうやってチャイティーヨに配達にも来てくれている。
〇〇「美波さん、彩ちゃん来ましたよ」
キッチンを覗き込んで、アルノと洗い物をしている美波さんに声を掛ける。
美波「えっ、ホント!?」
大急ぎで手を拭いて、ホールへ出る美波さん。
美波「あ〜や!」
彩「あ、梅澤さん、こんばんは」
美波「ありがとう〜!重くなかった?」
彩「大丈夫です!」
彩ちゃんから花を受け取る美波さん。
美波さんは妹感溢れる彩ちゃんが大のお気に入りで、たまに遭遇するとそれはもう可愛がっている。
アルノ「すごいデレデレですね」
〇〇「可愛くて仕方ないんだろうね」
ひかる「気持ちはわかりますけどね〜」
ひかるほどじゃないけど小柄な彩ちゃんは、いかにも看板娘って感じでお店でも可愛がられていることだろう。
彩「あ、〇〇さん。今日から少しミント増やしてます。そろそろ必要だろうってお父さんが」
〇〇「ありがとう、もうそんな時期かぁ」
受け取った袋には色々なハーブ。
そこからミントを少し取り出す。
〇〇「あいかわらず質がいいなぁ。ピッカピカ」
彩「特別良いところ持ってきました!」
ニコニコ笑顔でそう言われると、美波さんの気持ちもよくわかるよ。まぁ〜かわいい。
アルノ「……」
ひかる「……」
〇〇「…なにもそんな目で見なくても」
美波さんにもおんなじ顔しなさいよ。
〇〇「美波さん、さっそくですけど少しもらってもいいですか?」
美波「もちろん。さっそくモヒート始めるの?」
〇〇「次の夜喫茶から始めれたらと思うので、ひかるに教えようかなと」
美波「なるほどね。ミントシロップも仕込んでおこうか?」
〇〇「いいんですか?」
美波「もちろん。今日は最後まで入るし、アルノにも教えとくね」
〇〇「ありがとうございます」
美波「どういたしまして。 あ〜や!何か飲んで帰る?」
彩「ん〜。じゃあ、クリームソーダお願いしていいですか!」
美波「はーい、クリームソーダね!」
これは気合を入れて作らんと。
飛鳥「…この店、甘やかしがお家芸になってる気がすんな」
ぼそっとつぶやく飛鳥さんの言葉に、少しギクリとする。僕も他人事ではない。
〜〜〜〜〜
〇〇「よし、じゃあやろっか」
ひかる「お願いします!」
飛鳥「気合い入ってんなぁ…」
営業終了後、美波さんとアルノに賄いを作ってもらってる間に、ひかるにモヒートの作り方を教え中。
飛鳥さんはカウンターに座って見学。
〇〇「グラスは厚めのタンブラーを使うよ」
極々普通の縦長のグラス。
ただ、普段ジントニックなどに使っている物にくらべると厚めの作りになってる。
〇〇「ここにシロップとライムジュース。ライムが無くなったらレモンで代用するけど、その場合は一応お客さんにアナウンスしてね」
ひかる「了解です」
〇〇「ここにミントを入れます。個人的にはこれでもか!くらい入ってるほうが美味しいけど…」
ちらりと飛鳥さんに視線を送ると、何も言うでも無く、ジッとこっちを見ている。
〇〇「コストのこともあるからほどほどにね…」
ひかる「笑」
こくこくと頷く飛鳥さん。
〇〇「ここでミントの葉を潰すために、これを使います」
僕は金属製の棒を手に取る。
〇〇「ペストルって言って、これでミントを軽く潰します」
先端が樹脂になっているので、グラスに直接突っ込んでも傷つきにくくなっている。とはいえ、うすはりのグラスだと割れるかもしれないので、モヒートに関しては厚めのものを使ってる。グラスの回転が追いつかない場合は、シェイカーの中でここまで作業してから、うすはりのグラスに移すオペレーションになる。まぁ、その辺は追々でいいかな。
ひかる「そんなにしっかり潰すって感じではないんですね?」
〇〇「うん、苦みとかでちゃうからほどほどで。ここでラムを入れて、クラッシュアイスをたっぷり」
僕はバースプーンを手に取る。
〇〇「この段階で一度しっかり混ぜるよ」
カシャカシャと、氷が音を立てるくらいしっかりステア。
〇〇「あとはソーダを注いで、軽くステアしたら…」
軽くミントを手に取り、パン!と叩く。
〇〇「これを乗っけて、ドライレモン飾って、ストロー刺して…完成!」
ひかる「おぉ〜」
〇〇「流石にジントニックとかと比べると工程多いけど、そこまで難しいものじゃないから、ひかるならすぐ出来ると思うよ」
ひかる「おぉ、評価してもらってる…」
〇〇「すぐ僕より上手くなるんじゃない?」
ひかる「いやいやいやいや…」
飛鳥「喜び方のクセがすごいな」
〇〇「よし、とりあえずあと2杯分作ってみよう」
ひかる「はい!」
美波「飛鳥さーん、配膳手伝ってくださーい」
飛鳥「はいはい」
僕らの後ろを通ってキッチンへ向かう飛鳥さん。
それを見送って、僕等は再びモヒート作り。
ひかる「こんなもんですかね?」
〇〇「うん、いい感じ。氷とラム入れて混ぜよう」
ひかる「普段のステアとは違いますね〜」
〇〇「そうだね、縦に混ぜるイメージかも」
バースプーンをスムーズに使うひかる。
〇〇「随分慣れたね、バースプーン」
ひかる「頂いたやつでめっちゃ練習しましたから」
先月のキャンプ辺りから、ひかるは本格的にバースプーンを使ったステアを練習し始めたので、家でも出来るよう、僕は自前のスプーンを1本ひかるにプレンゼントした。
ひかる「家で水飲む時も、氷入れてステアしてますよ笑」
〇〇「熱心だなぁ笑」
元々自分からバーテンダー業務をやりたいと言い出したくらいだから、モチベーションも高いんだろう。
〇〇「そろそろ自分のバースプーン買ってもいいんじゃない? ずっとお下がりってのもアレだし」
ひかる「あ〜、自分の買って、頂いたやつお返ししたほうが良いですか?」
〇〇「ん? いや、それは全然構わないけど。自分で使いやすいもの選んだほうが、愛着とか色々湧くかなって」
ひかる「…じゃあ大丈夫です。もう十分愛着ありますし。初めて頂いたものなんで、あれじゃないとなんか落ち着かない気がします」
ちょっと照れくさそうに、そう言いながらひかるはソーダを注いで、軽くステア。
〇〇「ふーん、そういうもの?」
ひかる「そういうものなんです笑」
パン!とミント叩いてグラスに飾る。
ドライレモンとストローも忘れず添えて、
ひかる「出来ました!」
〇〇「うん、上出来だと思う。ひかるが作ったのは僕と飛鳥さんで飲むよ。僕のは美波さんに飲んでもらおう」
美波「はーい、ご飯でーす」
アルノ「食べましょ〜」
飛鳥「〇〇、これ」
〇〇「ありがとうございます」
ひかる「なんですか、それ」
飛鳥さんから受け取った瓶を、ひかるが覗き込む。
〇〇「ミントシロップだよ。ミントの色が悪くなってきたら、痛む前にシロップにして日持ちするようにするんだ」
ひかる「へぇ~」
〇〇「アルノとひかるはまだお酒飲めないから、これでミントソーダ作るね。ノンアルコールで作るモヒートみたいなもんだから」
ひかる「嬉しい〜。いつも作っても飲めないんで…」
〇〇「味見もできないのさみしいよね笑」
カトラリーを準備してもらってる間に、サクサクとシロップをソーダで割り、モヒート同様ミントとドライレモンを飾る。
飛鳥「はい、手を合わせてください」
パチン!と柏手。
飛鳥「頂きます」
一同「頂きます!」
僕と飛鳥さんはさっそくモヒートを。
飛鳥「いいんじゃない?」
〇〇「うん、僕も美味しいと思います」
ひかる「やった」
十分お客さんに提供できるレベルの仕上がり。
〇〇「次の夜喫茶営業はひかるもモヒート作ってみよう」
ひかる「頑張ります!」
アルノ「……」
めちゃくちゃアルノが視線を飛ばしてくる。
〇〇「…ミントシロップ、良く出来てたよ」
アルノ「ですよね!上手に出来てますよね!」
なんだろう、素直に褒めると負けた気になるのは。
あと、ドヤり過ぎだよ。
飛鳥「ジャークチキンうま!」
美波「モヒート練習するって聞いて、すぐ鶏肉漬けちゃいました笑」
〇〇「流石過ぎますね。相性バッチリ」
チーズとバケットも添えられてて、ジャークチキンサンドにしても最高すぎる。
美波「それで、モヒートもいいけど新作は大丈夫?」
〇〇「正直煮詰まりまくりです…。発想の転換が必要かもしれません。とりあえず黒糖焼酎をコールドブリュー珈琲で割るのは一つ決めたんですけど…」
これはチャイティーヨのスタッフとしてのカクテル。もう一つ、Buddiesで提供するのにおあつらえむきなものも作りたい。
ひかる「じゃあ明日はちょうど気分転換になるんじゃないですか?」
〇〇「……転換したいのは気分じゃなくて発想なんだけど?」
アルノ「絶対!やってもらいますからね!」
〇〇「あのね、無茶ぶりにもほどがあるよ?」
アルノ「普段散々人をどんくさい扱いしてるんだから、逃げようたってそうはいきませんからね!」
〇〇「…不安だなぁ」
なんだったら新作カクテルより不安だよ…。
〜〜〜〜〜〜
天・ひかる「アッハッハッハ笑」
笑い転げる天ちゃん。
膝から崩れ落ちるひかる。
夏鈴「ふっ…ふふっ、ふふふ……笑」
堪らえようとして全くこらえきれず、口元を覆いながら吹き出し続ける夏鈴ちゃん。
アルノ「ほら!自分だってどんくさいじゃないですか!」
鬼の首でも取ったかのようなアルノ。
〇〇「君らね…、ひどいよ」
スタジオの床に倒れ込む僕。
天「だって…顔、必死過ぎて…笑」
ひかる「なんか…操り人形みたいで…笑」
〇〇「笑い過ぎだよ」
夏鈴「私…ふふっ、私、笑ってないです…ふふっ」
〇〇「なんだその優しい嘘は。逆に辛いよ」
アルノ「先輩もどんくさいの仲間入りですよ」
〇〇「一緒にしないでほしい…」
翌日、僕等はチャイティーヨの営業終了後、Buddiesの広いブースに集合していた。
今回のイベントではまず3曲、東高のダンス部と南美生によるコラボパフォーマンス。その後1曲東高ダンス部によるパフォーマンス。最後に南美生による歌とダンスのパフォーマンス。というプログラムになっていて、南美はアルノがボーカルを務め、天ちゃん達がバックで踊る構成なんだけど…。
アルノ「先輩、男性パート歌ってください」
〇〇「は?」
天「パートないとこ、じっとしてるのもアレだし踊ってもらえば?」
〇〇「は…?」
という軽いノリで無茶ぶりを食らってしまった。とんでもないことを軽々しく言わないで欲しい。
〇〇「ダンス未経験だよ? 無理に決まってるじゃん…」
天「でもさっきまでバーテンダーしてた人が、急にステージで歌ったり踊ったりしてたらかっこよくないですか!?」
〇〇「いや、そりゃ出来たらカッコいいけどさ…」
天「じゃあやりましょうよ!」
キラキラ。
流石スパイダーマンにドハマリするタイプの女子。ヒロイズム全開だ…。
ひかる「私達で出来るだけフォローしますから」
夏鈴「…出来たら、楽しいと思います」
〇〇「う…」
こういう時、NOと言えない日本人です。
アルノ「どんくさい先輩でも、ちゃんと助けてあげますよ!」
〇〇「君にだけは言われたくない!」
アルノ「なんで〜!?」
ほんっとに君にだけは言われたくない!
カクテル制作に、歌にダンス?
ホント不安だ…。こんなことで本当にイベント当日、無事に走り切れるのかな…。
親愛なるBuddies.前編 END…。
〜〜〜〜〜〜
ライナーノーツ
すいません。一万文字でも予定の半分くらいまでしか内容進みませんでした…。
実験的に前編後編の2部構成にしてみます。
あんまり長いと、ちょっとした合間時間とかに読みづらいかなーって思ってる人なので…。
群像劇っぽくなってきたなという気持ちと、
もう本編終わったあとなんですけど?の気持ち。
次回は後編。
宜しくお願いします。
次のお話
シリーズ
シリーズ本編